カテゴリ:レクチャー( 84 )

Acinetobacter

感染症学会雑誌に耐性Acinetobacter baumanniiの肺炎の報告が
なされていた。MDRPのVAPで難渋することはあるが、まだAcinetobacterの
VAPには出会ったことがない。CRBSIでも注意すべき感染症の1つである。
SPACEの1つであるAcinetobacterについて勉強したことを記録しておく。

●Acinetobacter
Acinetobacter属はブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌で、
自然界の土壌や水系に存在する。病院だけでなく家庭の洗面台など
湿潤な室内環境から検出されるが、しばしば健常人の皮膚にも常在する。
人工呼吸器を使用している患者において肺炎、血管カテーテルを
挿入している患者において菌血症を起因することがあり、
手術部位感染、尿路感染、敗血症、髄膜炎、心内膜炎などの起因菌となる。
                Clin Microbiol Rev 1996;9:148-165.
e0156318_10213326.jpg
グラム染色では陰性球桿菌のように見えるのが特徴的である。
一見するとH.influenzaeに似ているのだろうか?

国内において、グラム陰性桿菌は22034 検体の血液培養で分離されており
その中の約1.6%がAcinetobacter spp.であった。
院内肺炎の起因菌としては、日本では0.7%と低率である。
しかし、アメリカではICU で発症した肺炎に対するAcinetobacter肺炎は
1975年では1.5%、1986年では4%、2003年には7.0%と上昇してきている。
nosocomial CRBSIの起因菌としては1%である。
                Clin Infect Dis. 2004 Aug 1;39(3):309-17
肺炎のリスクファクターとして、アルコール、喫煙、COPDが報告されている。
                Clin Infect Dis 1992;14:83―91
CR-BSIのリスクファクターとしては以下の表が挙げられる。
e0156318_1033217.jpg


●Acinetobacterに対する抗菌薬
 抗菌薬治療として、広域β―ラクタム抗菌薬、アミノ配糖体、フルオロキノロン、
 カルバペネム薬が使用されるが、多剤耐性菌が報告されている。
 欧米ではコリスチンの選択肢があるが日本にはない。
e0156318_10374261.jpg
 世界的にも院内の耐性率が上昇してきているのは明らかである。

●Acinetobacter耐性機構
 細胞壁に存在するporinのチャネルやエフラックスポンプの変化によって
 β ラクタマーゼ配合抗菌薬の耐性を生じたり、gyrA ・parC 遺伝子変化により
 標的の変異が生じてアミノ配糖体系抗菌薬の耐性を獲得などの
 報告がある。耐性獲得機序として伝達性プラスミド上のトランスポゾンが重要と
 いう報告もある。
                 N Engl J Med 2008;358:1271―81.
                 Clin Infect Dis 2006;42:692―9.

e0156318_10191174.jpg

by otowelt | 2010-06-05 10:26 | レクチャー

ノカルジア症(Nocardiosis)

個人的にはasteroidesではなくfarcinicaしか経験したことがない。
ここ最近何例か続けて目にしたので、改めてまとめてみたい。

●ノカルジア症とは
・ヒトに病原性をしめす放線菌には、嫌気性菌放線菌と
 好気性放線菌があり、前者にActinomyces、後者にNocardia,
 Rhodococcus, Tsukamurella, Gordoniaがある。これらの菌は
 抗酸性菌とよばれ、Mycobacteriumの特徴的な性質である抗酸性の
 染色性を示す。Corynebacteriumの一部も同じグループに属するが
 抗酸性の程度はそれぞれの菌種によって異なり、Mycobacteriumが
 一番強い染色性を示し、Nocardiaは部分的で弱い。
・経験的に放線菌症というのはActinomycesによるものを
 指すのが一般的である。(狭義の放線菌症)
・ノカルジアは放線菌目ノカルジア科に属する好気性
 グラム陽性桿菌で、土壌中に広く分布し弱抗酸性を有する。
・創傷部からの菌侵入による皮膚型、経気道感染による肺病変から
 血行性に全身播種する内臓型に分類され、慢性・亜急性の化膿性炎症を起こす。
・全身に播種しやすく、適切な治療を行っていても再燃や進行しやすいという
 特徴がある。内臓型は診断、診療の遅れによりその15~40%に
 血行性全身播種をきたすとされている。

●問題となるNocardia属
 N. asteroids
 N. farcinica
 N. nova
 N. brasiliensis
 N. otitidiscaviarium の5菌種である。
・ヒト感染を起こすものは30種類報告されている。
・感染する約64% が易感染性を有する症例である。
                      J Infect Dis 1976;134:286―9.

●ヒトにおけるノカルジア感染のリスクファクター
 ステロイド治療中 (64.5%) 
 COPD(23%)
 関節リウマチ
 Evan’s症候群
 臓器移植 (29%)
 HIV感染 (19%)
 アルコール (6.5%)        Respirology, 2007
e0156318_13285449.jpg
●ノカルジアの診断
・診断には感染局所からの菌の証明が重要であるが、
 常在菌ではないため喀痰からの菌の検出も重要な診断の根拠になる。
・Gram染色がもっとも有用な早期診断法である。
・発育速度が緩徐でコロニー形成までに2~4週間を要する。

●皮膚ノカルジア症
e0156318_13325789.jpg


●肺ノカルジア症の画像
e0156318_13311740.jpg
・肺ノカルジア症は画像上、非区域性の浸潤影を呈することが
 多いが、さまざまな陰影をとり得るため画像上の鑑別は困難。
・孤立性結節影、コンソリデーション、網状影、胸水貯留、
 上葉優位の空洞性陰影などがよくみられる。
        Clin Microbiol Rev1994;7:213.
        J Comput Assist Tomogr. 1995 Jan-Feb;19(1):52-5

・AIDS症例では、spiculated noduleや空洞性病変が多い。
        J Thorac Imaging. 2007 May;22(2):143-8.
・気管支鏡は診断に有用。TBBあるいはBALを行うべきである。
 診断がつかないケースでは、CTガイド下生検も報告がある。
        Radiology 1991; 180: 419–21.

●ノカルジア脳膿瘍
e0156318_1334653.jpg
 播種性ノカルジア症の約4割に脳膿瘍を合併するとの報告があり、
 脳膿瘍全体では1~2%と低率である。
                 Clin Neurol Neurosurg 2002;104:132―5.
                 Arch Pathol Lab Med 2003;127:224―6.


 他の脳膿瘍と異なり、ノカルジア脳膿瘍の死亡率は単発で33%
 多発で66%と高率である。
                 Neurosuegery1994;35:622―31.

●ノカルジアの治療
  ↓クリックすると拡大
e0156318_13294018.jpg
 イミペネムーアミカシンによるシナジー効果が確認されている。
             Antimicrob Agents Chemother 1983; 24:810-811.
 ST合剤が第一選択薬で、第二選択薬としてカルバペネム、
 テトラサイクリン、ペニシリン、アミノグリコシド、ニューキノロンなど
 が推奨されている。
            Curr Clin Top Infect Dis 1997;17:1―23.
 中枢性病変が有る場合は第3世代セフェムが使われるべき。
 しかし、asteroidesでしばしば耐性が報告されている。
            Antimicrob Agents Chemother 1993; 37:882-884.
 リネゾリド治療例の報告が1例ある。
            Ann Pharmacother 2007;41 (10) : 1694-9.

●治療期間
 6カ月未満で加療を中止した場合では高率に再燃をきたす。
 そのためノカルジア症では6~12ヶ月の長期治療が必要。
 特に中枢神経病変がある場合、免疫不全例は12ヵ月。
Harrison’s Principles of Internal Medicine. Volume 1. 16th edition. New York: McGraw Hill,2005; 934-37.文責"倉原優"

by otowelt | 2010-06-02 23:58 | レクチャー

成人パルボウイルスB19感染症

●概要
 ヒトパルボウイルスB19は、ウイルス性関節炎で最も多い疾患である。
 小児におけるヒトパルボウイルスB19感染症は皮疹が特異的であり、
 地域に集団発生するため診断しやすい。
 しかしながら、成人のヒトパルボウイルスB19感染症は、小児とは違い
 典型的皮疹を伴わないことが多く、風疹様の丘疹・紅斑、浸出性紅斑、紫斑、
 点状出血など多彩な症状があらわれる。
               臨床皮膚科2006;60(5):27―30.
e0156318_113944100.jpg
●症状
 成人におけるヒトパルボウイルスB19感染症は、多彩な臨床症状を呈し、
 合併症として赤芽球癆や血小板減少症、妊娠初期胎児水腫が知られている。
               Internal Medicine 2002;41(4):247―8.
               総合臨床2004;53(4):1611―5.

 ウイルスの直接的な赤血球系前駆細胞障害作用による症状と
 ウイルス感染に対する免疫学的反応に基づく症状とに分けられる。
 前者に溶血性貧血患者における一過性無形成発作、免疫不全における赤芽球癆、
 胎児水腫があてはまり、後者に伝染性紅斑、多関節炎、脳炎、
 ウイルス関連血球貪食症候群などが含まれる。

 発熱・倦怠感・頭痛などの感冒様症状のほか、関節痛、筋肉痛、蛋白尿など
 さまざまな症状、データ異常を示す。
 成人の散発例ではどの症状・所見が優位であるかによって誤診が多くなる。

 浮腫、関節痛、紅斑のうち少なくとも二つを示す成人患者において、
 かつ感染のリスクとして
 1)同居の小児が伝染性紅斑の診断を1 カ月以内にうけている
 2)伝染性紅斑が1 カ月以内に流行した学校保育園に勤務している
 3)同居の小児が1 カ月以内に伝染性紅斑が流行した学校か保育園に通っている
 のうち1つを満足する状態を条件として20 症例を選択して抗体価を測定した
 論文があるが、14 例(70%)でヒトパルボウイルスB19IgM 抗体陽性であった。
               Internal Medicine 2007;1975―8.

 四肢遠位部に浮腫性紅斑と紫斑を認めた場合、gloves and socks 症候群と呼ぶ。
               J Am Acad Dermatol 1990;23:850―4.
e0156318_11462341.jpg

●診断
 15歳~成人のヒトパルボウイルスB19 IgG抗体保有率は50%で、年齢とともに
 抗体保有率が高くなり60 歳以上では80%以上とされている。
               MMWR Morb Mortal Wkly Rep 1989;38:81-8, 93-7.
 診断としては、急性期7~10日でIgM抗体が陽性になるのでこれを利用する。
 IgM抗体は一度陽性になると2~6ヵ月持続する。
 一過性にリウマトイド因子陽性になることがあるが、リウマチではない。

e0156318_11473570.jpg

●治療
基本的にパルボウイルスB19に対しての治療の必要性はない。
重症例や遷延例では0.4g/kgの免疫グロブリンを5~10日使用することもある。

●予後
 成人ヒトパルボウイルスB19 感染症はおおむね予後は良好な疾患である。
文責"倉原優"

by otowelt | 2010-05-19 11:34 | レクチャー

多剤耐性緑膿菌(MDRP)

●多剤耐性緑膿菌の定義(感染症新法での「多剤耐性緑膿菌」の判定基準)
(1) イミペネムのMIC 16μg/ml以上
 または感受性ディスク (KB) の阻止円直径が13 mm以下
(2) アミカシンのMIC 32μg/ml以上
 または感受性ディスク (KB) の阻止円直径が14 mm以下
(3) シプロフロキサシンのMIC 4μg/ml以上
 または感受性ディスク (KB) の阻止円直径が15 mm以下


●MDRPの耐性機序
・カルバペネム耐性
 カルバペネム耐性については、メタロβラクタマーゼ(国内ではIMP-型が優勢)を
 産生するものと、細胞外膜上タンパクのD2ポーリンの減少による薬剤透過性減少
 によるものがある。このうち、前者はblaIMP-1耐性遺伝子が伝達性プラスミド
 によって運ばれており、菌種を超えて伝達されるので、厳重な隔離・感染予防策が
 必要となる。OprD(D2ポーリン)はイミペネムが細胞外膜を通過するチャネルで、
 この数が減少するという内因型の耐性メカニズムであるため、他の菌株に
 耐性が伝達されることはない。

 ※メタロβラクタマーゼ
 ・Amblerの分類ではClassCに属する
 ・活性中心にZnを持つ
 ・メルカプト化合物やEDTAで分解される
 ・アズトレオナム、ピペラシリンに感受性を示すことが多い
 ・プラスミド上に存在し、菌種を超えて伝播する
 ・遺伝子型の多くはIMP型である


・アミノグリコシド耐性
 アミカマイシンは、アミノグリコシドアセチル化酵素(AAC)による側鎖の
 修飾を受けて不活性化される。この耐性遺伝子もプラスミドによって伝達する。

・フルオロキノロン耐性
 フルオロキノロン耐性は、DNAジャーレースおよびトポイソメラーゼという
 DNA合成に関与しているタンパクをコードしている遺伝子(gyrA, parC)の
 QRDR:キノロン耐性決定領域の点突然変異によって耐性化する。
e0156318_190879.jpg
●MDRP院内感染の危険因子(J Hosp Infect 57: 112-118, 2004
              P値    OR
 イミペネム曝露     <0.001  44.8
 フルオロキノロン曝露   0.188  2.749
 60歳以上         0.374  10.01
 人工呼吸器       0.01   8.19
 COPD/気管支拡張症  0.182   2.96

●MDRPの種類
1.MBL産生型(メタロ型)
 MBLを産生するMDRPは、ほぼ全ての抗菌薬に耐性。
 また、バイオフィルム形成能が高く、環境中に長期間棲息する。

2.MBL非産生型(D2ポーリン減少型)
 第3世代セファロスポリンや、セファマイシンなどの効果が期待できる場合が
 ありますが、連用すると染色体性のAmpCが過剰産生されるようになり、
 抗菌活性が低下するといわれている。


●MDRPの治療
・コリスチン(ポリミキシンE)
 ポリペプチド系抗菌薬。
 ポリミキシンBは内服と局所投与のみでしか投与されず、国内注射用としては
 使用されていない。そのため海外から輸入しなければならない。
 A.baumanniiとともに、臨床における効果は7割程度と考えられている。
       Int J Antimicrob Agents. 28: 366-369, 2006.
       Expert Rev Anti Infect Ther. 4 : 601-618, 2006.

 コリスチンの吸入は、cystic fibrosisの患者においてはMDRP感染例で
 有用性がすでに確立されている。

 アメリカでは150mg製剤、ヨーロッパでは80mg製剤であるため
 コリスチンの論文に関しては、どこの論文なのかを注意して読む必要がある。


・ポリミキシンB
 コリスチンの姉妹薬のようなものである。
 コリスチンよりも副作用が重篤で、おもに局所治療薬であるため
 全身投与目的で使用されることは少ない。

・抗菌薬併用
 in vitro併用効果で相乗効果を示す菌株を最も多く認めた組み合わせは
 アミカシンとアズトレオナムだったという報告がある。
       Jap J Antibiotic,59 : 11-20, 2006.

・ブレイクポイント・チェッカーボード法
 96 穴マイクロプレートの各ウェルにブレイクポイントの濃度に合わせて
 調整された各抗菌薬が、色々な組み合わせで配置されており、
 微量液体希釈法と同様の手技で菌を接種して培養することによって、
 菌の発育を阻止できる抗菌薬の組み合わせを調べる方法。
 臨床的に重要な8 種類の抗菌薬について、相互の併用効果を1枚のプレートで
 調べることが可能である。
       Scand J Infect Dis. 38 : 268-272,2006.

●MDRPの感染対策
1. 標準予防策の徹底
 MDRPは主として接触感染により伝播する。
 拡大防止には標準予防策や接触予防策の徹底が必要である。
2. 隔離
 周囲への拡大を防止として患者を一箇所に集めるなどの対策が必要である。
3. 病棟のサーベイランス
 同じ病棟の患者を対象にスクリーニング培養を実施する。
4. 環境調査
 アウトブレークが認められた場合には、必要に応じて監視培養が有用となる事がある。
5. 抗菌薬の適正使用
 カルバペネムをはじめとする広域抗菌薬の適正使用を遵守する。文責"倉原優"

by otowelt | 2010-05-17 19:06 | レクチャー

肺類上皮血管内皮腫(pulmonary epithelioid hemangioendothelioma)

肺多発末梢病の変鑑別疾患としてよく挙げられるので、知っておきたい。

●概要
類上皮血管内皮腫(epithelioid hemangioendothelioma:EHE)が肺に発現
した場合、pulmonary epithelioid hemangioendothelioma(PEH)という。
元来intravascular bronchioloalveolar tumor(IVBAT)として提唱され
肺をはじめ、肝臓、骨などにも認められる稀な悪性度の低い腫瘍性疾患である。
1975年、Dail らにより、硝子化と血管内進展を特徴とする細気管支肺胞腫瘍が
新たにIVBATという名称で提唱され、後にこの腫瘍が血管内皮細胞由来で
あることが解明された。1982年にWeiss らにより血管から発生する
軟部組織の低悪性度の腫瘍がEHEとして提唱され、後に肺に発生したEHEと
IVBAT が同一疾患であると考えられた。一般に個々の腫瘍は直径0.3cm~2cm
程度の大きさで、中心部は硝子化し周辺部の腫瘍組織は肺胞壁をのKohn孔を
通して肺胞腔内に突出し肺胞腔内を充填するような像を認める。
Corrinらが電子顕微鏡下にWeibel-Palade body を見いだしたこと、
Weldon-Linne らが腫瘍細胞内に血管内皮細胞により合成される第VIII 因子
関連抗原を証明したことによって、本疾患は血管内皮細胞由来の腫瘍と考えられる。
                        Am J Pathol. 1975;78:6a-7a.
                        Cancer. 1982;50:970-981.
                        Cancer. 1983;51:452-464.
                        J Pathol 1979 ; 128 : 163―167.
                        Arch Pathol Lab Med1981 ; 165 : 174―179.


●疫学
年齢分布は15~74 歳、平均年齢41.2 歳と若年女性に多い傾向である。
様々な臓器に発生しうるが、肺と肝臓の報告例が多い。多臓器に発生することもある。
つまりは、血管内皮細胞の存在するところではどの臓器にも発生する可能性がある。

●症状
本邦のPEH は自覚症状が少なく、検診などで偶然に発見されることが多い。
72.9%が無症状にて発見されている。欧米での報告では息切れ、咳嗽、胸痛
といった有症状での発見の頻度が高くなっており、無症状での発症は
半数以下にとどまるとする報告もある。
                   Thorax 1999 ; 54 : 560―561.

●診断
肺病変の場合、気管支鏡での診断は困難であり、大部分の症例で開胸肺生検
もしくは胸腔鏡下肺生検が必要とされている。この理由として
本疾患では個々の結節の大きさが5~15 mm 程度と小さなものが多く
病変への到達が困難であることが考えられる。

●画像
画像的には多発性の辺縁がはっきりした腫瘤陰影を呈することが多く、
空洞や石灰化所見を認めることは少ない。
また腫瘤同士の癒合や索状構造で連絡して数珠状を呈することがあり
この所見は他の多発結節病変では認めることが少ない。
e0156318_8555053.jpg

●病理
本疾患の病理学的な特徴としては血管内皮細胞マーカーである
第VIII 因子関連抗原およびCD31、CD34 に陽性であることがあげられる。

●治療
確立された有効な治療法はない。完全切除可能で全身状態が良好な症例なら
外科的切除を行うが、一般的には対症療法で経過観察されていることが多い。

●予後
一般に進行は非常に緩徐であるものが多いが、
診断確定からの予後としては6 か月から10 年と症例により大きな差がある。
平均4.6 年という報告がある。
                 日呼吸会誌.2003;41:144-149.
                 Cancer 1983 ; 51 :452―464.

by otowelt | 2010-04-20 08:56 | レクチャー

原発性肺多形癌

●原発性肺多形癌とは
 ①低分化な非小細胞癌であり、紡錘細胞あるいは巨細胞
  10%以上の割合で含む腫瘍
 もしくは
 ②紡錘細胞と巨細胞のみからなる腫瘍
 臨床的特徴として、画像上末梢型の腫瘤影を呈することが多く
 腫瘍の増大速度が速く、胸膜や胸壁への浸潤が多い。

●原発性肺多形癌の疫学
 原発性肺多形癌は発症平均年齢はおおよそ65 歳で、
 男女比4.5:1 と高齢男性に多い。
 喫煙との因果関係があると言われている。

●原発性肺多形癌の症状
 喀血:49%、咳嗽:19~46%、胸痛・背部痛:14%
 発熱:3~5%、体重減少:3~12%
   Am J Surg Pathol 2008 ; 32 :1727―1735.
     Cancer1994 ; 73 : 2936―2945.


●画像所見
 多形癌の画像所見については、77%が上葉にみられている。
 腺癌細胞と巨細胞もしくは紡錐形細胞の混合の多形癌症例7例中6例が
 末梢の病変であった。また中心部の低吸収領域を認めていた例も多かった。
        Am J Roentgenol 2005 ; 185 : 120―125. 

●化学療法
 多形癌に対する化学療法は、抵抗性で予後不良とされている。
 手術検体を用いた肺多形癌の抗癌剤薬剤感受性を検討では、
 タキサン系の感受性が高いことが報告されている。
        肺癌2008 ; 48 : 106―111.

by otowelt | 2010-03-23 19:02 | レクチャー

侵襲性肺アスペルギルス症(Invasive Pulmonary Aspergillosis;IPA)

●侵襲性肺アスペルギルス症の概略
 侵襲性肺アスペルギルス症(Invasive Pulmonary Aspergillosis;IPA)は
 血液疾患や移植後などの免疫抑制状態や、肺の構造破壊のある患者で
 発症しやすいと報告されている。
              AJRCCM 2006 ; 173 : 707―717.
 アスペルギルスによる肺感染症が起こるケースの90%は、
 ①好中球<500μl
 ②生理的な量以上のステロイド治療
 ③そのほかの免疫抑制剤(シクロスポリン等)投与中
 の3項目のうち2 項目以上を満たす場合と記載されている。
          Harrison’s Principles of Internal Medicine 16th ed.
 IPAは、明らかな免疫抑制状態にない患者であっても
 特にCOPD をもつ症例で発症するとの指摘が近年増加してきている。
           Journal of postgraduate medicine 2003 ; 49 : 78―80.
           Clin Microbiol Infect 2005 ; 11 : 427―429.
           Can Respir J 2005 ; 12 : 199―204.

e0156318_2352848.jpg

●IPAのリスク
 ・遷延性好中球減少
 ・ステロイド治療中
 ・造血幹細胞移植レシピエント
 ・AIDS
 ・慢性肉芽腫症
                Med Mycol 2005; 43 Suppl 1:S247.
 固形癌患者ではアスペルギルス症を起こしにくいといわれている。
                Clin Infect Dis 2006; 43:577

●IPAの原因微生物
 Aspergillus fumigatus (56%)
 A. flavus (19%)
 A. terreus (16%)
 A. niger (8%)
 A. versicolor (1%)

●IPAの診断
e0156318_23595966.jpg


●IPAの画像所見
 IPA の典型的な画像所見としては、
 出血性梗塞と梗塞周囲の肺胞内出血が中央の浸潤影と周囲のスリガラス状陰影
 としてみられるHalo sign が有名。しかし、その一方で宿主の免疫状態などにより
 多彩な画像を呈することも知られている。
 具体的には、
 ・結節影94%(halo sign を伴うものが61%)
 ・浸潤影30%
 ・肺梗塞様の浸潤影27%
 ・空洞陰影20%
 ・Aircrescent sign 10%
            Chest 2002 ; 121 : 1988―1999.
 免疫状態に関連して、
 白血球数1,500/μl 以上で小葉から広がる肺炎類似像を呈し、
 白血球数1,500/μl 未満で結節影やhalo sign が主体となるとされている。
             Clin Infect Dis 2007 ; 44 : 373―379.
e0156318_2351382.jpg
●IPAの治療
・治療 (第一選択はボリコナゾール)
 ボリコナゾール 
  内服:1日目800mg分2 → 2日目以降400mg分2 
  注射:1日目6mg/kg 12時間ごと → 2日目以降 4mg/kg 12時間ごと
 アムホテリシンB 1.0~1.5mg/kg/日
 アムビゾーム 3.0~6.0mg/kg/日
 ミカファンギン150~300mg/日
・治療期間
 できれば10週間以上続けた上ですべての感染徴候が消失してから14日間


 IPA の治療薬としては、ボリコナゾールの優位性が示されている。
                NEJM 2002 ; 347 : 408―415.
e0156318_23552074.jpg
 日本における深在性真菌症の治療ガイドラインでは、VRCZを第一選択薬とし
 重症例・全身状態不良例ではキャンディン系+アゾール系、
 またはキャンディン系+ポリエン系の併用療法が考慮されるべきとされている。
                     深在性真菌症の診断・治療ガイドライン
文責"倉原優"

by otowelt | 2010-02-10 01:31 | レクチャー

癌性心膜炎

e0156318_2332246.jpg●癌性心膜炎
 癌性心膜炎は癌が心膜に浸潤もしくは播種した
 状態である。生存期間は6 ヵ月以内とされ、
 心タンポナーデ合併後の予後は
 きわめて不良である。

●癌性心膜炎の治療戦略
 心嚢穿刺ドレナージがすべてである。
 しかし一時的な心嚢穿刺ドレナージのみの場合、
 半数に心嚢液が再貯留するとされている。
            J Thorac Cardiovasc Surg.1996;112:637-643.
 再貯留を防ぐ目的で心膜開窓術や心膜癒着術が施行されることもある。
 心嚢穿刺ドレナージ後の癒着剤の心嚢腔内投与が臨床現場ではしばしば
 施行されているが、薬剤注入を行うか否かの明確な判断基準はない。
              Int J Cardiol. 1987;16:155-160.
 癒着剤は、テトラサイクリン、ブレオマイシン、ドキシサイクリン、シスプラチン
 マイトマイシンC、thiotepa などが報告されている。
 しかしながら心膜癒着療法が予後改善を示した大規模試験がほとんどないのが
 現状である。
 JCOG9811では、原発性肺癌を対象としてbleomycin投与群と
 非投与群との比較試験が行われ、2 ヵ月間心嚢液無再貯留生存率が
 bleomycin 投与群で46% と非投与群29% に比べて良好であるものの
 有意差は認められなかった。
                 Br J Cancer. 2009;100:464-469.
e0156318_23465344.jpg
●癌性心膜炎のドレナージによる予後改善効果
 心嚢穿刺ドレナージを行うことにより、平均3 ヵ月の延命が得られたとする報告
 が多い。しかし中には平均生存期間が約10~12 ヵ月と長期の報告も認められる。
文責"倉原優"

by otowelt | 2010-02-04 23:32 | レクチャー

リンパ腫様肉芽腫症 lymphomatoid granulomatosis

LYGは呼吸器内科医が知っておかねばならない疾患の1つ。

●リンパ腫様肉芽腫症(lymphomatoid granulomatosis)
 LYGは1972 年にLiebow らにより提唱された概念で、
 組織学的壊死を伴い血管中心性の多彩な細胞浸潤を特徴とするリンパ増殖性疾患。
             Hum Pathol 1972 ; 3 :457―558.
 1979 年にKatzensteinらがLYG 152 例の症例検討を行い、悪性リンパ腫や
 Wegener 肉芽腫症とは異なる独自の疾患としてLYG の多数例での実態を報告。
               Cancer 1979 ; 43 : 360―373.
 しかしながらKatzenstein も後に病変の一部に悪性リンパ腫の病巣がみられる
 ものをLYG-Lymphoma、純粋に多彩な細胞浸潤のみからなるものpure-LYGと
 呼ぶことを提唱した。pure-LYGは極めてまれであると考えられている。
              WB Saunders, 1997 ; 223―246.
 LYG の多くにEBウイルス感染が認められ、その局在がB 細胞であることやEB
 ウイルス陽性細胞数と組織学的なgrade が相関することが報告され、2001年
 新WHO分類では、びまん性大細胞B細胞リンパ腫に進展する可能性を持った
 EBウイルス 陽性B 細胞リンパ腫として独立することになった。
               Am J Surg Pathol 1998 ; 22 : 1093―1100.

●リンパ腫様肉芽腫症(lymphomatoid granulomatosis)の疫学
 40~60 歳の男性に多く、発熱、咳嗽、倦怠感、体重減少、呼吸困難
 などがみられる。肺に好発するが、他にも脳や腎臓にみられることもある。

●リンパ腫様肉芽腫症(lymphomatoid granulomatosis)の画像
 多くの症例において両側中下肺野優位に気管支血管束や
 小葉間隔壁に沿って径0.5cm~8cmの境界不明瞭な多発結節を認める。
 片側の結節影や両側びまん性網状影はまれで、40%に胸水が、
 25%に肺門リンパ節腫脹がみられる。
e0156318_12224696.jpg

 AJR 2000; 175:1335-1339によれば、以下の特徴を有する。
 peribronchovascular distribution of nodules
 coarse irregular opacities
 small thin-walled cysts
 conglomerating small nodules

e0156318_12272926.jpg

●リンパ腫様肉芽腫症(lymphomatoid granulomatosis)の病理 
 多彩な細胞浸潤、血管壁への細胞浸潤、およびリンパ球が浸潤している
 部位における壊死、の3 つLiebowは挙げている。
 細胞は小型リンパ球、形質細胞、大型異型リンパ球様細胞からなり、
 小型リンパ球の大半はT 細胞で、大型異型細胞はB細胞である。
 B細胞はEBウイルス陽性であり、新WHO分類ではLYG の病変を
 Lipford らのhistologic grading に基づいてgrade 1~3 に分類。
                Blood 1988 ; 72 : 1674―1681.
 LYG grade 3 病変では
 『大型異型細胞が多様な細胞を背景にして見られ、しばしば大きな
 凝固壊死が融合して見られる。diffuse large B-cell lymphoma の
 診断基準を満たす部位が小さい範囲でみられる例も稀にある。
 EBウイルス陽性細胞は通常は強拡大1 視野で20 個を越える数でみられる』
 としており、この記載が2004 年の肺腫瘍WHO 分類の基礎になっている。

e0156318_12212692.jpg


●リンパ腫様肉芽腫症(lymphomatoid granulomatosis)の治療・予後 
 14~27% は無治療で軽快するとの報告もある一方で、
 異型細胞の多いgrade 2,3では予後不良な経過を辿るとされている。
 生存期間中央値は14ヶ月、5 年生存率は約20%とも言われている。
 治療法は確立されておらず、その病状や病理学的grade に基づいて経過観察
 されることもあるが、悪性リンパ腫に準じた多剤化学療法が行われることもある。
 Grade 3 では積極的な多剤併用化学療法が推奨されているが、Grade1,2 では
 化学療法・免疫療法・経過観察など未だ一定の見解がない.
 EBウイルス感染との関連性からinterferon-α2b による治療や、
 B 細胞性リンパ増殖性疾患という特徴からCD20 を標的分子とするrituximab
 の有効性も報告されている。
                   Blood 1996 ; 87 : 4531―4537.

文責"倉原優"

by otowelt | 2010-02-03 12:23 | レクチャー

Mounier-Kuhn 症候群

●Mounier-Kuhn 症候群とは
Mounier-Kuhn 症候群は1932 年に報告された。
         Lyon Méd. 1932;150:106-109.
その後、1962 年にKatz ら によって「慢性気道感染を繰り返す著明に
気管及び気管支の拡張を呈する疾患」と定義された。
         Am J Roentgenol Radium Ther Nucl Med. 1962;88:1084-1094.
病因として、病理組織学的検討から気道壁の弾性線維の欠損や委縮
筋層の菲薄化がみられたり、Ehler-Danlos 症候群やCutis laxaとの合併例が
報告されていることより、先天的な結合組織の異常が関連していたり
染色体異常や常染色体劣性遺伝の形式をとる可能性も示唆されている。
後天的にはBateson らの報告でMKS の75% 以上は29 歳以降に発症するとされ
慢性気道感染の関与が考えられるが、まだ不明確な点が多い。

●Mounier-Kuhn 症候群の診断
診断は胸部X 線、胸部CT、胸部MRI が有用である。
Katz らは気管支造影検査にて、成人の平均直径が気管で20.2±3.4 mm
右主気管支で16.0±2.6 mm、左主気管支で14.5±2.8 mm と報告しており
Himalstein らが平均値+3 SD 以上を示す場合にMKS と診断してもよいとしている。
         Ann Otol Rhinol Laryngol. 1973;82:223-227.

e0156318_22285412.jpg


●Mounier-Kuhn 症候群の治療
基本的に気道分泌促進剤などの去痰剤、呼吸器感染症時の抗生剤の使用や
体位ドレナージなどの理学療法などの対症療法が主体であるが、
外科的治療も有効な場合がある。またクラリスロマイシンの少量長期投与が有
効であったとの報告もある。
         日本内科学会雑誌.1996;85:617-619.

文責"倉原優"

by otowelt | 2010-02-01 02:14 | レクチャー