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溺水


●定義
 溺水(drowning)という用語そのものは、液体に水没(submersion)または
 水浸(immersion)することによって原発性に呼吸が障害される過程を意味している。
 水浸 (immersion)は傷病者の身体が水か他液体に覆われてしまうことを意味する。
 水没(Submersion)は気道を含む体全体が、水または他の液体に沈んでいることを
 意味する。

以下の用語はもはや使用されるべきではない
・dry and wet drowning(乾燥溺水、湿潤溺水)、
・active and passive drowning (能動的溺水、受動的溺水)、
・silent drowning(沈黙の溺水)、
・secondary drowning(二次溺水)、
・drowned と near- drowned(溺死と溺水)


●最もこわい合併症
 溺水の最も重要で有害な合併症は・・・?
 低酸素!!!
●溺水の疫学
溺水による死亡の97%が低中度所得国で生じている。
若年男性の死亡の最大原因は不慮の事故である。
Peden MM, McGee K. The epidemiology of drowning worldwide. Inj Control Saf Promot 2003;10:195-9. 若年男性の溺水の70%が飲酒によるものである。

●淡水と海水
電解質異常においてわずかな相違が見られるが、臨床的な意味はあまりない。

●頚椎損傷
溺水者における頸椎損傷の発生率は低い(約0.5%)
Watson RS, Cummings P, Quan L, Bratton S, Weiss NS. Cervical spine injuries among submersion victims. J Trauma 2001;51:658-62.
脊椎固定は水中で実行するのは困難で、水からの引き上げと適切な蘇生を遅らせる
可能性がある。経過から可能性が高くなければ、頚椎固定は不要。

●治療
・人工呼吸
人工呼吸が大事(そりゃそうだ)
訓練を受けている救助者なら水上人工呼吸(in-water rescue breathing)
を始める。浮力のある救助用具に支えられながらが理想的ではあるが、
それがなくても、不可能ではない。
Perkins GD. In-water resuscitation: a pilot evaluation. Resuscitation 2005;65:321-4

気道を開いた後に自発呼吸がなければ、救助呼吸を約1分間行う
傷病者を5分の救助時間内に陸へ運べるならば、移動中も救助呼吸を続行。
陸地まで5分以上かかると予想されるならば、さらに1分間の救助呼吸を行い、
その後はさらなる人工呼吸はせずにできるだけ早く傷病者を陸地へ向けて運ぶ。

誤嚥した水を気道から除く必要はない。
溺水者のほとんどは、少量の水しか吸引していないし、この水は急速に
中心循環に吸収される。
Heimlich法は、胃液の逆流と誤嚥を引き起こす。
異物の気道閉塞サインがなければ行うべきではない。
Rosen P, Stoto M, Harley J. The use of the Heimlich maneuver in near-drowning: Institute of Medicine report. J Emerg Med 1995;13:397-405.

・胸骨圧迫
胸骨圧迫は大事(そりゃそうだ)
しかし、水上での胸骨圧迫は効果的ではない・・・
March NF, Matthews RC. Feasibility study of CPR in the water. Undersea Biomed Res 1980;7:141-8.
 ・・・だって、できないじゃん。

・除細動
除細動は大事(そりゃそうだ)
一般的なACLSに準じるが、30℃以下の低体温があれば
除細動は3回までおこなってもOK!!
Thomas R, Cahill CJ. Successful defibrillation in profound hypothermia (core body temperature 25.6 degrees C). Resuscitation 2000;47:317-20.

・嘔吐対処
救助呼吸を受けた傷病者の2/3、
胸骨圧迫と人工呼吸を受けた者の86%に嘔吐が起こる。
Manolios N, Mackie I. Drowning and near-drowning on Australian beaches patrolled by life-savers: a 10-year study, 1973-1983. Med J Aust 1988;148:165-7, 70-71.
嘔吐が起きたら、傷病者の口を側方に向け、可能ならば直接吸引して吐物を取り除く。
脊髄損傷が疑われるならば、吐物を誤嚥する前にログロールする。

・抗菌薬
溺水後には肺炎がよく生じる。
抗菌薬の予防的投与が有効か不明だが下水のような汚水水没後などには、考慮。

・循環管理
核温が30℃以下の重度の低体温があるなら、除細動は3回までとし、
核温が30℃を超えるまで薬物の静脈内投与も行わない。
もし、中等度の低体温が存在するならば、薬物の静脈内投与を標準よりも
長い間隔で行う。長時間水浸していると、体内の水の流体静力学的圧によって、
傷病者が低容量になる可能性がある。低容量を補正するために輸液をする。
肺水腫を引き起こす恐れもあり、過剰な量は避ける。

・体温管理
核温が32~34℃に達するまで積極的に復温する方針とし、
その後は高体温(37℃以上)とならないよう対応する。

文責"倉原優"

by otowelt | 2009-02-18 08:27 | レクチャー

肺内リンパ節


よくカンファレンスなんかで、肺内リンパ節じゃないのコレ??なんていう
議論がされることがある。

●肺内リンパ節の特徴
 40歳以上
 喫煙歴を有する患者に多い
 男女比=7:4
 20mm以下が多く、ほとんどが10mm以下
 下葉の胸膜直下に好発する
 炭粉沈着が多い
 珪肺患者にみられることが多い
 多発例は多くない、多くは単発例
Kradin RL, et al. Intrapulmonary lymph nodes clinical, radiologic, and pathologic features. Chest 1985; 87; 662-667

●原因
 リンパ組織が刺激、加齢によって、免疫反応を経てマクロファージやリンパ球の
 集積をきたし、肺内リンパ節に過形成し増大したものではないかと考えられている。
Kradin RL, et al. Intrapulmonary lymph nodes clinical, radiologic, and pathologic features. Chest 1985; 87; 662-667

●診断
 確定診断としては、組織診・細胞診がおこなわれているが、径が小さいため
 十分な検体がとれず、VATSを施行しているのが現状。

●画像
 辺縁は平滑であり、卵円形、多角形が多い。辺縁に静脈分枝の連続をみること
 がある。また、造影効果を有する。

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文責"倉原優"

by otowelt | 2009-02-17 19:26 | レクチャー

リポイド肺炎


●リポイド肺炎とは
 脂質を貪食したマクロファージが
肺胞腔内に出現することを特徴とする肺炎
・リポイド肺炎は内因性(endogenous)と外因性(exogenous)に分類。
・リポイド肺炎といえば、一般的には外因性を指す。

内因性リポイド肺炎は通常、閉塞部位の遠位の障害肺胞壁
から逸脱した脂質や、気道悪性腫瘍や化膿性病変による肺組織の障害でみられる。
稀ではあるが、内因性リポイド肺炎は脂肪塞栓症、血栓塞栓症、
Wegener肉芽種症、肺胞蛋白症などにより発生することもある。

油脂類を吸入して発症する肺炎を外因性リポイド肺炎という。
外因性リポイド肺炎は,1925 年にLaughlenがパラフィン,点鼻薬などにより
発症した肺炎として初めて報告した。
Laughlen GF. Studies on pneumonia following nasopharyngeal injections of oil. Am J Pathol 1925 ; 1 :407―414.

●原因
海外では外因性リポイド肺炎の原因としては流動パラフィンが全体の約75%で
最も多く、GERD、精神疾患は本症の要素となる。流動パラフィンは無色透明の
液状物質で、誤嚥しても刺激が少ないため咳反射を起こしにくい。
これが流動パラフィンにより外因性リポイド肺炎が発生しやすい原因と
考えられている(日本では流動パラフィンを緩下剤として使用することが少ないため
パラフィノーシスの頻度は少ない)。

●リポイド肺炎を起こしやすい原因
 灯油
 上顎癌術後のDKB 油性ガーゼ(流動パラフィン含有)
 オートバイ整備工
 旋盤工等の職場のガソリン
 鉱物
 中華料理コック

●病態機序
・外因性リポイド肺炎における組織反応は油脂の種類,物理化学的性状,
 量,時間的経過,宿主側の条件などにより規定される。
・動物性油脂はリパーゼで加水分解を受け遊離脂肪酸を生成するため、
 植物性油脂あるいは鉱物油より激しい反応を生じ壊死性出血性肺炎
 (infantile type)を引き起こす。
・殺虫剤に含まれる鉱物油を少量,長期間吸入した場合は症状が乏しく
 末梢肺に限局性腫瘤影を形成する(adult type)が、大量に吸入すれば
 急性の炎症,血管障害を起こし壊死性出血性肺炎や肺化膿症に移行する。
・吸入物質pH 1.7 以下では強い肺障害を起こす。
Soloaga ED, Beltramo MN, Veltri MA, et al : Acute respiratory failure due to lipoid pneumonia. Medicina2000 ; 60 : 602―604(Spanish).

●症状
 41% は無症状か軽微な症状(偶然発見)
 発熱
 体重減少
 咳嗽
 呼吸困難
 胸痛
 喀血
Gondouin A, Manzoni P, Ranfaing E, et al. Exogenous lipid pneumonia :
a retrospective multicentre study of 44 cases in France.
Eur Respir J 1996 ; 9 :1463―1469.


●画像所見
肺胞性陰影,間質性陰影,結節性陰影など、様々な陰影を呈し,
肺門リンパ節腫大や胸膜病変を認めることもある。病変の分布は片側で
下葉もしくは右中葉が多い。これは、就寝時の体位に依存していると考えられている。
・Spickard A III, Hirschmann JV. Exogenous lipoid pneumonia. Arch Intern Med 1994 ; 154 : 686―692.
・Lee KS, Muller NL, Hale V, et al : Lipoid pneumonia :CT Findings. J Comput Assist Tomogr 1995 ; 19 :48―51.

・急性・慢性のいずれも下葉の陰影が多い。
・急性に関して言えば、胸水貯留例が慢性に比べて有意に多い。
・慢性リポイド肺炎患者の67%では、腫瘤影をつくる。
・急性リポイド肺炎の86%はレントゲン上軽快するが、
 慢性リポイド肺炎は67%の例でCT上増悪所見がみられる。
Baron SE, Haramati LB, Rivera VT. Radiological and clinical findings in acute and chronic exogenous lipoid pneumonia. J Thorac Imaging. 2003;18(4):217-24.
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●診断
喀痰の脂肪染色,TBLBなどで,検体内に脂肪を貪食したマクロファージを同定すること

●組織所見
リポイド肺炎の病理組織学的所見
Stage1:吸入部に一致して出血性気管支肺炎
Stage2:脂肪を貪食した肺胞マクロファージが増加し、肺胞壁の上皮下が肥厚し,
       リンパ球,形質細胞浸潤が見られる
Stage3:正常の肺胞壁が破壊され線維化が進む
Stage4:正常の肺構造が失われ線維性瘢痕に置き換わる
Spencer H : Inhalation lipoid pneumonia including liquid paraffin granuloma. In : Pathology of the lung. 4 th ed, Pergamon Press, Oxford, 1985 ; 517―525

●治療
・全肺胞洗浄
Chang HY, et al. Successful treatment of diffuse lipoid pneumonitis with whole lung lavage. Thorax 1993 ; 48 : 947―948.
・ステロイド投与
Ayvazian LF, et al. Diffuse lipoid pneumonitis successfully treated with prednisone. Am J Med 1967 ; 43 : 930―934.

・確立した治療のエビデンスはない

●予後
急性型に関しては予後はよい。慢性型は治療抵抗性。
反復する感染症として、見過ごされるケースが多い。
Brown-Elliott BA, Griffith DE, Wallace RJ Jr. Newly described or emerging human species of nontuberculous mycobacteria. Infect Dis Clin North Am. 2002;16(1):187-220.

文責"倉原優"

by otowelt | 2009-02-17 18:59 | レクチャー

抗癌剤が血管外に漏出した場合


●抗癌剤血管外漏出
1.投与をただちに中止する!!
2.血液3~5mlをルートから吸引して、点滴を抜去!
3.漏出した皮下に27G針を穿刺して薬剤吸引!
4.ヒドロコルチゾン(サクシゾン)100mg
  +1%キシロカイン
  +生食(トータル5~10ml)  皮下注
(ステロイド局所投与は有効性と非有効性の意見あり)
 Ballone JD: treatment of vincristine extravasation. JAMA245: 343, 1981
 Larson DL: treatment of tissue extravasation by antitumor agents.
  Cancer 49: 1796-1799, 1982

 → 特にビンカアルカロイドにはステロイド投与はあまりよくないとされている
5.冷却圧迫(氷20分間1日4回、3日間)、患肢挙上
6.ステロイド軟膏(strongest)
7.0.1%アクリノール液 湿布
8.必要あればデブリドマン
9.漏れたことを患者に伝える!
  → 医者生命を断ち切りたくないなら、
   すぐに謝り、応急処置をしたことを伝えること!

●注意点
使うべきルートは
・中心静脈
・末梢留置針

 逆に使ってはならないのは、翼状針!!

・患者さんに「痛くないですか?」と必ず尋ねること

by otowelt | 2009-02-17 17:44 | レクチャー