カテゴリ:コラム:研修医に伝えたいこと( 12 )

何となく研修医に伝えたいこと その12:指導医をバカにしない

e0156318_15441647.jpg・はじめに
 私が研修医の頃から、エビデンス、エビデンスと叫ばれる時代へ突入しました。もともとEBMが重要だと理解されていたのですが、その「E」は日本では「エデビンス」ではなく「エキスパート」の側面が強かったように思います。

 最近指導医をするようになって、研修医から「先生、しかし今のエビデンスでは・・・」と指摘されることが多くなりました。私は自分のことをデキる医師だとは思っていないので、研修医から指摘されて「なるほど」と勉強し直すこともありますが、世の中の指導医にはそんな研修医をヨシと思わない人も多いはず。


・指導医がどこまで分かっているか
 研修医の時は、誰しもメキメキと臨床力が伸びていきます。しかし、30代、40代と歳を重ねるにつれて、能力がプラトーに達して伸び悩む・・・ということがよくあります。そのため、ヘタすると10年以上前の知見を最新のエビデンスだと思い込んだまま診療している医師もいるかもしれません。

 一方、自分なりに頑張って最新の医学的知見をアップデートしている努力家の指導医もいます。しかし、いくらエビデンスが存在しても、日本の実臨床ではなかなかそれが実践できないこともあります。逆に、確たるエビデンスがない医療を行うこともあるかもしれません。これらの理由は、保険適用上の問題であったり、法的な観点であったり、いろいろです。早期からの緩和ケア導入ががん患者さんに利益があると分かっていても、緩和ケアチーム・主治医の質や患者さんの性格によっては、不利益を与えることがあるかもしれません。IPFにステロイドを使うことがよくないと分かっていても、どこか胸部HRCTでステロイド反応性のスリガラス領域があるように直感的に感じて少量導入することもあるでしょう。私も、エビデンスではこうだと分かっているけど、なかば防衛医療のような医療を行うこともあります。

 研修医の目は、まだそういった現場の如何ともしがたい苦悩を知らない、青空のように澄んだ瞳です。あなたの目の前に立っている指導医が、勉強することをやめたプラトー指導医なのか、勉強熱心だけど日々悩んでいる指導医なのかは、一目では分かりません。指導医に「先生、それって●●というエビデンスがありますよ」と指摘する前に、一呼吸おいてください。

 もしかすると、指導医も「わかっちゃいるけど悩んでいるんだよ」と思っているかもしれません。その一言が、研修医にバカにされていると思われてしまうと、ちょっと研修がやりづらくなってしまうかも・・・。心の広い指導医であれば、どれだけ研修医に指摘されても岩のごとく対応できるのでしょうが。

<何となく研修医に伝えたいこと>
その1:夕方に指示を出すべからず
その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
その5:ポリファーマシーのクセをつけない
その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
その7:クリアカットになりすぎない
その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない
その9:処方する前に必ず添付文書をチェックするべし
その10:医学書は衝動買いしない
その11:他科へのコンサルテーションは目的を明確に


by otowelt | 2016-06-10 00:09 | コラム:研修医に伝えたいこと

何となく研修医に伝えたいこと その11:他科へのコンサルテーションは目的を明確に

e0156318_15441647.jpg・はじめに
 私も呼吸器内科医として結核や呼吸不全の患者さんの紹介をいただくことがあります。ベテランのドクターであればほとんど身についているスキルなのですが、研修医の方からコンサルテーションをいただくとき、「結局何が言いたいのだろう」と歯がゆい紹介になることがあります。


・研修医の頃の苦い思い出
 私が研修医の頃、夜中にSTEMIの患者さんが救急搬送されてきました。糖尿病を有しており、症状が軽かったため、また血液検査でさほどデータが動いていなかったこともあって、どう対応してよいものか悩んでいました。指導医の先生に「じゃあ循環器内科の先生に相談してみようか」と言われ、私は循環器内科のオンコールの先生に電話することにしました。

 夜中に叩き起こしてスイマセン・・・。

循環器内科医:「・・・・・はい・・。」

 明らかに寝起きの声でした(こちらが叩き起こしたわけですが)。

:「研修医1年目の倉原と申します。今、少しお時間よろしいでしょうか?」

循環器内科医:「・・・・・はい。」

 叩き起こしておいて、「お時間よろしいでしょうか」は絶対ナイな、と今でも思います。

:「52歳男性です。主訴は胸痛で救急搬送されました。2時間くらい前から間欠的に胸痛が発生し、その後よくならないために救急車を要請したそうです。胸痛は最強を10とすると7くらいです。既往歴としましては、4年前からの2型糖尿病と・・・」

循環器内科医:「ちょっと待って、結局何が言いたい?」

 この時点でかなり畏縮してしまった私は、なかばパニック状態でこともあろうに病歴プレゼンテーションを続けてしまいます。

:「は、はい!えーと、血液検査では白血球は軽度上昇、あれ、いや、ほとんど正常で。トロポニンは・・・あれ、えーと陽性でしたか、あれ、見つからないです。す、すいません!とりあえず心電図をとったらII、III、aVFでSTが上昇しておりまして・・・」

循環器内科医:「わかったわかった、AMIを疑っているんでしょ。とりあえず先生はカテ室をおさえてもらって、この電話は指導医の先生とかわってくれる?」

 よくもまあ、こんなコンサルテーションで怒られずに済んだものです。最初から病歴をプレゼンテーションするのではなく、端的に目的を言う必要がありました。すなわち、「AMIを疑っている52歳男性で、PCIが必要かどうか相談させていただきます」と最初から目的を言えばよかったわけです。


・おわりに
 デキる研修医1年目の方は私みたいに馬鹿げたコンサルテーションをすることはないと思いますが、それ以降、私は他科にコンサルトする場合には「目的を明確に」ということを心がけるようになりました。コンサルテーションを受ける側としても、やはりその方が診療しやすいです。

<何となく研修医に伝えたいこと>
その1:夕方に指示を出すべからず
その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
その5:ポリファーマシーのクセをつけない
その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
その7:クリアカットになりすぎない
その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない
その9:処方する前に必ず添付文書をチェックするべし
その10:医学書は衝動買いしない


by otowelt | 2014-10-11 00:52 | コラム:研修医に伝えたいこと

何となく研修医に伝えたいこと その10:医学書は衝動買いしない

e0156318_20193484.jpg 意気揚々と高い医学書を購入し、そのまま1ページも読むことなく本棚の肥やしになってしまった経験はありませんか?高い給料をもらっている人ならまだしも、研修医の方々が1万円もする太い本を購入しているのを見ると「本当に買うのかい!?」と待ったをかけたくなります。

 当然ながら、医学書は高い。医師が購入する医学書というのはだいたい相場が決まっていまして、おおよそ1ページあたり10~15円程度になっています。ただ、専門性が増すほど需要が減りますので、1ページあたり30円くらいする本もザラにあります。一方、需要(購買絶対数)が多い一般向けの小説や文庫本なんかは1ページあたり2円以下に抑えられていることが多いです。医学書の値段の後に東野圭吾のような売れっ子作家の本の値段を見ると、とてもリーズナブルに見えます。

 そのため、流行りの小説を衝動買いするのと、何となく医学書を衝動買いするのでは、ワケが違います。

 私は研修医のころ、給料の多くを医学書の購入につぎ込んでいました。今思えば、非常にもったいなかったなと思います。もちろん実臨床に役立った医学書も数多くありますが、本棚の隅にホコリをかぶって数回しか開かなかった医学書もあります。何だか、本に対して申し訳ない気分でいっぱいです。

 私は、最低でも半分以上は読めると思う医学書しか買わないようにしています。つまり、辞書的に使用する可能性が高い分厚いモノは買いません。本を執筆している身でこんなことを書いていたら出版社の人に怒られそうですが・・・。

 ちなみに知り合いやお世話になった先生の本は、全部買っています。指導医はあのときこういったことを教えたかったのかと反芻する意味もありますが、懐かしさと嬉しさが99%です。


<何となく研修医に伝えたいこと>
その1:夕方に指示を出すべからず
その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
その5:ポリファーマシーのクセをつけない
その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
その7:クリアカットになりすぎない
その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない
その9:処方する前に必ず添付文書をチェックするべし


by otowelt | 2014-09-20 00:22 | コラム:研修医に伝えたいこと

何となく研修医に伝えたいこと その9:処方する前に必ず添付文書をチェックするべし

e0156318_1921632.jpg 研修医の頃、安易に処方しようとした薬剤が自分の患者さんに禁忌だったことを知りヒヤリとした経験があります。研修医の方々は、もちろん指導医の管理下で処方をするわけですが、指導医に「あの患者さんに●●を処方しておいて」と言われてイエスマンで処方している人もいるかもしれません。いやいや、ちょっと待った。

 これも私の元指導医の受け売りですが、研修医の頃は処方する前に必ず添付文書をチェックして下さい。自分の患者さんに禁忌でないかどうか、使用している薬剤と相互作用はないのか、などバカになったつもりで毎回チェックして下さい。そうしないと、“薬剤を処方する”という行為がどれほど重要なことなのか、日々の業務の中で感覚が麻痺してしまうのです。

 私は呼吸器感染症の診療をしておりますが、特にリファンピシンやボリコナゾールといった特殊な薬剤では相互作用や禁忌を毎回チェックするクセを忘れていません。頭では覚えていても、体は添付文書をチェックするように仕込んでいるのです。物覚えが悪い医師だと思われるかもしれませんが、万が一の事態(禁忌処方)を想定するのであれば、保身のためにも添付文書のチェックは欠かせません。もちろん、添付文書以外にも注意しなければならないことはたくさんあるわけですが、現在の法律では処方に関するミスを糾弾する場合、添付文書の記載が優先されます。

 ただし世の中には例外もあり、添付文書に禁忌と記載されてあっても投与すべきであったとする判例も存在します。明らかに禁忌と思われる処方については、必ず指導医に確認を取るようにして下さい。

<何となく研修医に伝えたいこと>
その1:夕方に指示を出すべからず
その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
その5:ポリファーマシーのクセをつけない
その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
その7:クリアカットになりすぎない
その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない


by otowelt | 2014-09-13 00:59 | コラム:研修医に伝えたいこと

何となく研修医に伝えたいこと その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない

e0156318_18401993.jpg・はじめに
 私は呼吸器内科医ですが、ときに原因不明の肺の陰影に出合うことがあります。これは正確には原因不明なのではなく、調べても原因がわからないという医療側の都合がほとんどです。

 典型的には、両肺のスリガラス影が挙げられます。おそらく気管支肺胞洗浄をおこなえば診断がつくのでしょう、しかし実臨床では急性呼吸不全に陥った患者さんに対して気管支鏡を実施できないことが多いのです。そのため、臨床所見や血液検査から診断をつけにかかりますが、まったく診断がつかないケースもあります。そんなときに、以下のような議論が出ます。

 「感染症も否定できないので抗菌薬を投与する」
 「薬剤性も否定できないので薬剤を中止する」


 研修医の方々に伝えたいのは、この「●●も否定できない」というのを肯定の理由にしない、ということです。これがクセになってしまうと、なかなか直りません。


・患者さんの命を救うための絨毯爆撃
 原因不明の肺炎で、血液検査をしてもよくわからない呼吸不全のケース。とりあえず、基礎疾患があるかどうかも分からない人だから、ピペラシリン/タゾバクタムを投与しよう。そうだ、非定型肺炎も否定できないから、アジスロマイシンも投与しよう。ステロイドパルスもしておいた方がよさそうだ。もしかすると、通常の抗菌薬が効かない肺炎かもしれない。免疫不全が隠れている可能性があるから、ST合剤、ガンシクロビル、ミカファンギンも投与しよう。今はインフルエンザシーズンで、発症から間もないから検査が陰性ってこともある、オセルタミビルも投与しよう。・・・・・・・・・。

 上記のような極端な治療を「ありえない」とお思いの方がほとんどでしょうが、「患者さんの命がかかっているのだから・・・」という大義名分のもと絨毯爆撃を正当化してしまう状況はどの病院でも起こりえます。薬剤を併用することのデメリットよりも救命率を上げるメリットの方が大きいと判断される場合に、こういった現象が起こることがあります。診断が困難な重症例ではなおさらです。


・薬剤性を疑われた患者さんはその薬剤を二度と使えない
 薬剤性の臓器障害を一度疑われた患者さんは、基本的にその薬を将来使うことはありません。それは、臓器障害のリスクを回避できるという大きなアドバンテージを孕む一方で、将来の治療選択肢を狭めるというディスアドバンテージを併せ持ちます。

 原因として薬剤性を疑うことは簡単です。しかし臨床医は、その診断が患者さんの将来に大きな影響を及ぼすことを忘れてはなりません。私は、慢性間質性肺疾患の患者さんで、ペニシリン系2剤、セフェム系2剤、マクロライド系2剤の合計6種類の抗菌薬に薬剤性肺障害を疑われた患者さんを診たことがあります。医学的常識に鑑みて、6種類の抗菌薬に薬剤性肺障害を持つことはありえないはずです(たぶん)。

 薬剤性という診断をくだす主治医の責任は重い。これは研修医の頃から、是非とも知っておいて欲しい。


・答えがなくても自分の中にバランスを持つ
 急性呼吸不全に陥った原因不明のスリガラス影の患者さんに対してどう診療すべきか、EBMは答えを明示してくれません。もしかすると、抗菌薬や抗ウイルス薬をたくさん併用することが正しいというエビデンスが将来登場するかもしれません。絨毯爆撃が正しいというエビデンスも、誤りであるというエビデンスもありません。

 ただ、答えはなくても研修医の方々は自分なりのバランスを構築してほしい。それが正しいか誤りか、誰にも分かりません。指導医も教えてくれません。「エビデンス」という言葉が叫ばれるようになってまだ医学の歴史は浅い。おそらく、こうした疑問点は解決される方向へ収束していくに違いありません。それが新しいバイオマーカーや新しい検査法の登場による恩恵でしょう。

 現在使える武器(診断法・治療法)でどこまでまっとうな医療ができるだろうか、と日々自問自答することがそのバランス構築に役立つのは言うまでもありません。


<何となく研修医に伝えたいこと>
その1:夕方に指示を出すべからず
その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
その5:ポリファーマシーのクセをつけない
その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
その7:クリアカットになりすぎない
その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない


by otowelt | 2014-09-06 00:02 | コラム:研修医に伝えたいこと

何となく研修医に伝えたいこと その7:クリアカットになりすぎない

e0156318_14561322.jpg・研修医時代の私
 今からもう何年前になるでしょうか。私が指導医に「アスペルギルス抗原が陽性です!この患者さんアスペルギルスだったんですね!」と鼻息を荒くして報告したときのことでした。その時、指導医から「抗原が陽性だったら、全員アスペルギルス症なのかな?」と言われたことがあります。結果的にその患者さんの喀痰からAspergillus nigerが検出され、総合的に慢性の肺アスペルギルス症と診断されたのですが、私の中でその言葉がずっと残っていました。

 私は進学校の出身でもないですし、小論文で医学部に合格したような人間ですから、もともと頭がよくありません。そのため、どうしても多くの医師が体得している「臨床ノウハウ」を知るためには周りの何倍も努力しなければなりません。そのため、研修医に対していざ教えようと思っても詳しく教えることができず、“ぼんやりと”教えることができないのが私の指導医としての欠陥です。そんなポンコツ指導医が、自分なりに“ぼんやりと”意識するようになった検査の解釈について、難しくならないように書いてみたいと思います。内容もポンコツなので、ガッカリしないようにして下さい。


・検査の“異常”は“真の異常”を反映しない
 検査のうち、定性検査と呼ばれるものは結果が「陽性」「陰性」で表示されます。一方、数値で表示されるものを定量検査と呼びます。最近は、定量検査とともに定性的な結果が得られるシステムが電子カルテに備わっていますから、異常値はすべて赤色や青色で表示される病院も多いでしょう。定量検査といいながら、実は定性的に解釈してしまっている医師もいるはずです。

 肝機能の異常を血液検査で評価する場合、ASTという数値をみることがあります。病院や検査法によって基準値は異なりますが、たとえば正常上限が32 IU/Lとしましょう。ある患者さんのASTが38 IU/Lとわずかに基準値を上回ってしまいました。それをみて「ASTが基準値を超えている!これは薬剤性肝障害かもしれない!」と慌てたところで、それに賛同してくれる人はいません。これはなぜかというと、健常な人でも何かしらの理由でASTが正常上限を超えることがありうることを私たちは知っているからです。また、その異常値が何となく誤差範囲であることを知っているからです。もちろん、ASTがたとえ正常であったとしても薬剤性肝障害の患者さんもいるかもしれませんし、医療に絶対というのは存在しないのは言わずもがなです。

 ASTのように極端な例でなくとも、過去の私のように検査に振り回される人は少なからずいます。

 「○○が陽性なので、××病です
 「▲▲が少し上昇しているので、□□を投与します

 多くの検査にはカットオフ値や基準値が定められていますが、一部の例外を除いて診断に100%信頼できる検査なんて存在しません。


・クリアカット思想
 研修医になりたての頃は、図1.のようにクリアカットに考えすぎてしまう人が少なくありません。まさに若いころの私がこれでした(今でもその傾向はあるかもしれません)。クオンティフェロンが陽性だから結核。CEAが上昇しているから癌。β-Dグルカンが上昇しているから真菌。すなわち、「異常と判断されたらイコール異常」という考え方です。
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図1. クリアカット思想(抽象的な表現ですが、あくまでイメージ)

 クリアカット思想は、理系らしくて男らしくて個人的には好きなのですが、人の身体はそんな簡単にできていません。翌日採血したら異常値だった検査値が正常に戻ってることもあります。図2.の赤線や緑線のように、基準値上限やカットオフ値を上回っていても慌てなくてもよい検査もあります(繰り返しますが、あくまでイメージです)。
e0156318_17355943.jpg
図2.

 「取りこぼしを減らしたい」という目的でカットオフ値(緑線のようなケース)を設定した場合、軽度上昇していたところでさほど怖くないことが多いです。それにもかかわらず、先述の「異常と判断されたらイコール異常」理論がいまだ医療界には根強いのは、診断学が発展しすぎたがゆえでしょうか。

 私のように専門分野にどっぷり漬かってしまった人間にとっては、少なくとも自分が専門としている領域について、目の前の患者さんの確定診断を目的として検査をしているのか、除外診断を目的として検査しているのか、“ぼんやりと”意識することが重要です。冒頭で述べたとおり、私はもともと頭がさほど良くない人間なので、どうしても感度や特異度を常に意識することができません。そのため、そういった方々は“ぼんやりと”理解しておくことがとても重要なのです。


・おわりに
 医療は楽観的であるよりも悲観的であるほうが取りこぼしが少なくなりますので、ちょっとばかり慌てた方が結果的に患者さんにもたらすメリットは多くなるかもしれません。ただそれでも、やはり医師は短絡的であってはならないと思います。

 研修医の時代は基準値上限やカットオフ値を超えたら、どの病気がどのくらい考えにくいのか・疑わしいのかという疑問を持つことが重要です。もちろん、その答えを指導医が持っているとは限りませんし、誰にもわからない命題だってあります。私は統計学は苦手とする分野の1つですし、ROCだのカットオフ値だの細かい知識を教えるスキルはゼロです。ただそれでも、全ての検査はそんなクリアカットに判断できるシロモノではない、という最低限のセンスだけは研修医のうちに身につけてほしいな、と思っています。

 その結果が本当に正しい異常を反映しているのか、一歩立ち止まって疑うことは忘れないようにしたい。しかし、何もかも疑ってしまうとドクターハウスのようにひねくれた研修医になってしまいますね(そういうひねくれた研修医も好きですが)。


<何となく研修医に伝えたいこと>
その1:夕方に指示を出すべからず
その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
その5:ポリファーマシーのクセをつけない
その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
その7:クリアカットになりすぎない
その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない


by otowelt | 2014-08-23 00:42 | コラム:研修医に伝えたいこと

何となく研修医に伝えたいこと その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい

e0156318_15305466.jpg 多くの病院が8時30分~9時くらいから業務開始になっていますので、研修医の出勤時間についても、規定ではそのくらいの時間で契約をしていることでしょう。ただ、労働基準うんぬんの法的な話は抜きにして、私の個人的な意見としては「研修医は早めに出勤した方がよい」と考えています。別に私は体育会系のノリでもないですし、研修医に夜遅くまで残って仕事しろなどとは毛頭思っていません。むしろすべての医療業務は効率化が重要だと私は考えています。そんな私がなぜ早めに出勤した方がよいなどと言うのか、その理由を書きます。

1.検査結果をみるときには回診が終わっていた方がよい
 1つ目の理由は病院の検査体制にあります。多くの病院では、検査結果は午前中に出ます。当院でもルーチンの胸部レントゲン写真や血液検査はだいたい10~11時までには結果が出ています。研修医の方々は、患者さんの検査結果を見た後にアセスメントを変更することが多いでしょう。特に受け持ち患者さんが多い場合、検査結果が出ている頃にはすでに患者さんの回診が終わっていることが望ましい。
 朝ゆっくりコーヒーを飲みながら定刻出勤するよりも、昼までに担当患者さんの状態を把握してランチタイムにコーヒーを飲む方がまだいい。私はそう考えます。

2.日中の不測の事態に備えるため
 「別に急ぎの患者さんでなければ、夕方までにアセスメントすればいいじゃないですか」
 なんて意見も出てくるかもしれませんが、研修医はその診療科にとって貴重な即戦力なのです。昼過ぎに緊急入院が入ってきて対応しなければならないことは往々にしてあるわけです。不測の事態に備えるためにも、午前中に効率的に仕事を済ませてしまう方が都合がよい。

3.指導医より後に患者さんの情報を得ると少し恥ずかしい
 このサブタイトルには少し語弊があるかもしれませんが、研修医の頃、私は指導医よりあとに出勤して恥ずかしい思いを何度かしたことがあります。
 現在、私は夕方以降に育児を頑張らなくてはいけないため、朝は規定の出勤時間よりも少しだけ早めに出勤しています。そのため、自分の研修医には「朝は僕よりも早く来なくていい」と言っています。以下は、そんな私のような例外的な指導医を除いた話です。
  指導医が定刻出勤するような場合、研修医は指導医よりも早く来た方がよいです。これはなぜかといいますと、指導医より先に担当患者さんの状態を把握するためです。たとえば、指導医が8時に出勤して、研修医が8時20分に出勤したとしましょう。研修医が病院に着くや否や、指導医から「○○さん、CO2ナルコーシスになっているから、NPPVをつけよう」と言われました。当の研修医は、まだ何も情報がありませんから、「え?」と戸惑うばかり。指導医はすでに8時に出勤したあと、病棟看護師さんから意識レベルが低下している情報を得て、血液ガス分析を終えたあとだったのです。「あーあ、もう少し早く来ておけばよかったなあ」と感じるこういった事例を経験したことがある研修医の方々は多いでしょう。
 早めに出勤して、指導医より先に患者さんの状態を把握しておくと、間違いなく指導医のウケはいいです。これは断言できます。ただし、所詮指導医におべっかを使っていることと変わりないことですし、契約上は出勤時刻が定められているのだから、頑として定刻出勤しますという研修医の方もいるかもしれません。それについては私は悪いとも感じませんし、個人の自由だと思います。
 

 というわけで、私は上記の点から、初期研修医の頃は少し早めに出勤した方がよいと考えています。ちなみに、私の元指導医には朝の5時出勤というスゴイ先生がいました。さすがにその時は指導医より早く出勤することはありませんでしたが・・・(患者さんも誰も起きていないでしょうし)。

<何となく研修医に伝えたいこと>
その1:夕方に指示を出すべからず
その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
その5:ポリファーマシーのクセをつけない
その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
その7:クリアカットになりすぎない
その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない


by otowelt | 2014-08-02 00:21 | コラム:研修医に伝えたいこと

何となく研修医に伝えたいこと その5:ポリファーマシーのクセをつけない

e0156318_1456532.jpg 私は、基本的にあまりたくさんの種類の薬剤を使用しないタイプの医師です。しかし、時にとてつもない種類の薬剤を内服している患者さんに出会うことがあります。

 私が研修医の頃でした。大量の“胃薬”を内服している患者さんが腹痛を主訴に救急受診しました。記憶が曖昧ですが、おおよそ以下のような処方だったと思います。


A病院:近所の開業医(風邪のときによく行く)
 モサプリド(ガスモチン)5mg錠 3錠分3
 シナール配合錠(アスコルビン酸) 6錠分3
 ガスター(ファモチジン)10mg 2錠分2
 ガナトン(イトプリド)50mg 3錠分3
 ビオフェルミン配合錠 3錠分3

B病院:近くの総合病院消化器内科(腹痛で受診することが多い)
 ランソプラゾール(タケプロン)30mg 1錠朝
 FK配合散 3包分3
 エクセラーゼ配合顆粒 3包分3
 マグミット(酸化マグネシウム)330mg 9錠分3

C病院:かかりつけ医(関節リウマチを診てもらっている)
 プレドニン(プレドニゾロン)5mg  2錠分1朝
 ムコスタ(レバミピド)100mg 3錠分3
 ボナロン(アレンドロン酸)35mg 土曜起床時
 バクタ配合錠 1錠分1朝
 アザルフィジン(サラゾスルファピリジン)500mg 2錠分2
 ツムラ大建中湯エキス顆粒 3包分3
 プルゼニド(センノシド)12mg 2錠分1眠前

 上部消化管内視鏡検査をおこない異常がないことを確認した上で、処方医に許可を取ってから消化器系の薬剤を1つずつオフしていきました。当初16種類内服していたのですが、最終的にプレドニン、ボナロン、アザルフィジン、ガスター、バクタの5種類にまで減らすことができました。驚くべきことに薬剤をオフしていくにつれ、患者さんが元気になっていきました。腹痛の症状の原因が薬剤を大量に内服していたかどうかはわかりませんでしたが、こういったポリファーマシーを受けている患者さんはまだまだ多いと思います。

 研修医になったばかりの頃は「患者さんを上手に治療する」=「効果的な薬剤を投与すること」という等式をイメージしがちです。しかしながら、その安易な処方が退院後も継続され、他院の薬剤と重複してしまうことがありうるわけです。

 もちろん患者さんも複数のかかりつけ医から似たような薬剤を安易に処方されるような、ドクターショッピングを避ける必要があります。しかし、薬剤を処方されることで満足感を得る患者さんはまだまだ多く、患者満足度という名分のもとポリファーマシーが常態化している現状があります。

 研修医の方々は、本当にその薬剤が目の前の患者さんの病態を改善させる確からしさが高いのかどうか、悩んでほしいと思います。そして、ポリファーマシーがクセにならないようにして下さい。

 こんなことを書いている私も、研修医から「先生、この薬要らないと思うんですけど・・・」と指摘されることもあります。まだまだ勉強が必要ですね。

<何となく研修医に伝えたいこと>
その1:夕方に指示を出すべからず
その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
その5:ポリファーマシーのクセをつけない
その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
その7:クリアカットになりすぎない
その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない


by otowelt | 2014-07-19 00:38 | コラム:研修医に伝えたいこと

何となく研修医に伝えたいこと その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし

e0156318_12153817.jpg 私は呼吸器内科の9年目の医師ですが、平均15~20人くらいの入院患者さんを受け持っています。急性期疾患が主体の病院ですが、他の呼吸器内科医からみるとこの人数は少なめでしょうか。呼吸器内科医が少ない地域だと、1人で30~40人くらい診療している施設もあると聞いたことがあります。多忙な研修医がこれほどの人数をしっかり診療するのは難しいと思いますが、やる気に満ち溢れた研修医の時代だからこそ患者さんのベッドサイドには足しげく通ってほしいと私は考えています。

 私は20歳の頃、椎間板ヘルニアの手術のためにある大学病院に入院したことがあります。術後すぐに坐骨神経痛が改善せずに「手術が失敗したのではないだろか」と不安に思った日々がありました。主治医の先生は朝の外来の前に1回顔を出してくれたのですが、朝のねぼけた頭ではなかなか言いたいことも言えず、夕方にも顔を出してくれたらいいのになぁとワガママなことを思っていました。

 そんな経験もあってか、研修医の頃は時間があれば1日2回、3回と患者さんのころに通いました。私は声が低くてちょっとイカツイ印象を与えてしまうことが多いので、なおさらその印象を払拭したいがために患者さんとたくさん話すよう心がけました。いつの間にか、複数回顔を出すことで、細かい情報の取りこぼしが少なくなることに気付きました。

 呼吸器疾患の場合、たとえば気管支喘息発作の患者さんが入院してきた場合、血管炎を疑っている場合は別として皮膚診察や神経診察をすることはそこまで多くありません。入院患者さん全員に全身診察をすることは、現実的に不可能でしょう。しかし、「今は女房がいないから言えるけど、実は家族にナイショで別宅にインコを飼っているんですよ」なんていう情報が得られることもあったりして、意外に患者さんのベッドサイドに行くことで得られる追加情報は多いものです。

 現在は、さすがに外来や内視鏡の業務や育児をこなしながら入院患者さんのところに複数回顔を出すのは難しくなってきました。それでも顔を出して「調子はどうですか?」と言うだけで、患者さんの満足度は高くなりますよね。お互いのラポールの構築もスムーズにいきます。

 研修医の方々は「仕事が終わった、さあ帰ろう」と言う前に、一度患者さんのベッドサイドで時間を作ってあげてはいかがでしょうか。


<何となく研修医に伝えたいこと>
その1:夕方に指示を出すべからず
その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
その5:ポリファーマシーのクセをつけない
その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
その7:クリアカットになりすぎない
その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない


by otowelt | 2014-07-12 00:49 | コラム:研修医に伝えたいこと

何となく研修医に伝えたいこと その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし

e0156318_100789.jpg 研修医の方々は、ローテートしている診療科でガイドラインや治療法のコツのようなものが分かってくると、自信に満ち溢れる顔をしていることがあります。病気と戦う“武器”を手に入れた戦士のような顔です。指導医としても、これは非常に嬉しいことでもあります。

 しかし疾患の診断や治療の側面ばかり見てしまう研修医は多く、患者さんの社会背景や退院後の生活について配慮できる人は、実はそこまで多くありません。これは医療従事者としての経験不足に起因します。

 これはどういうことかと言いますと、たとえば例を挙げてみましょう。

 ―――84歳の認知症のある男性が、右肺炎で入院してきました。肺炎の部位やエピソードから誤嚥性肺炎を第一に疑いました。嚥下造影検査でも軽度の誤嚥が疑われました。抗菌薬はアンピシリン/スルバクタムを選択し、誤嚥に対しては食事形態を工夫する栄養指導が必要と考えました。また入院直前はほとんど全介助に近い状態であったため、入院中は積極的にリハビリテーションを行いました。入院して1週間程度の治療が過ぎた頃、患者さんは次第に元気になっていきました。研修医は「元気になったら早めに退院できますね」と嬉しそうな顔をしていました。

 しかし、私をはじめ、ある程度医療従事者として長く働いている人間の場合、この事例の研修医とはいささか考えるポイントが異なります。この事例では、「この患者さんは元通り家に帰ることができるだろうか?」という問題が最も大きなハードルになります。治療が終わって「はい退院です」と家族に説明したところで、本当に皆が納得できる状況なのでしょうか。

 この事例の場合、妻は消化器系の疾患で入退院を繰り返しており、夫が認知症を発症してからというもの介護に疲弊しきった状態でした。近所に住んでいる長男は会社の管理職についており夜の22時頃まで家にいません、長男の妻は2人のやんちゃ盛りの子供を育てており、義母のサポートを頑張ってはいるものの義父の介護にまではなかなか手が回りません。要は、介護に疲弊しきった状態で誤嚥性肺炎によって入院したわけです。

 そのため研修医にとって重要なのは、誤嚥性肺炎の診断や治療だけでなく、患者さんが今置かれている社会的現状を理解することなのです。

 とかく研修医の頃は、疾患の診断や治療に目が行きがちで「エビデンス」という言葉にえも言われぬ憧れを抱くものです。しかし、実際の現場では「ナラティブ」の側面も同時に理解しなければなりません。入院患者さんの社会歴や家族歴を問診する意味というのは、まさにそこにあるわけです。

  ※ナラティブという言葉の意味は、ここではエビデンスの対比として記載しています。

 研修医の方々は、教科書に書いてあることだけでなく、常に「患者さんの退院後の生活が可能かどうか」を考えてみて下さい。困ったら、私たち医師よりも多くの情報を持っている病棟の看護師さんに相談することをおすすめします。

 こんなことを書いている私も、「先生、あの患者さん自宅が遠すぎて通院無理ですよ」なんて退院間近に指摘されることがあるわけですが・・・。


<何となく研修医に伝えたいこと>
その1:夕方に指示を出すべからず
その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
その5:ポリファーマシーのクセをつけない
その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
その7:クリアカットになりすぎない
その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない



by otowelt | 2014-06-28 00:51 | コラム:研修医に伝えたいこと