カテゴリ:コラム:研修医に伝えたいこと( 14 )

何となく研修医に伝えたいこと その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし

e0156318_12153817.jpg 私は呼吸器内科の9年目の医師ですが、平均15~20人くらいの入院患者さんを受け持っています。急性期疾患が主体の病院ですが、他の呼吸器内科医からみるとこの人数は少なめでしょうか。呼吸器内科医が少ない地域だと、1人で30~40人くらい診療している施設もあると聞いたことがあります。多忙な研修医がこれほどの人数をしっかり診療するのは難しいと思いますが、やる気に満ち溢れた研修医の時代だからこそ患者さんのベッドサイドには足しげく通ってほしいと私は考えています。

 私は20歳の頃、椎間板ヘルニアの手術のためにある大学病院に入院したことがあります。術後すぐに坐骨神経痛が改善せずに「手術が失敗したのではないだろか」と不安に思った日々がありました。主治医の先生は朝の外来の前に1回顔を出してくれたのですが、朝のねぼけた頭ではなかなか言いたいことも言えず、夕方にも顔を出してくれたらいいのになぁとワガママなことを思っていました。

 そんな経験もあってか、研修医の頃は時間があれば1日2回、3回と患者さんのころに通いました。私は声が低くてちょっとイカツイ印象を与えてしまうことが多いので、なおさらその印象を払拭したいがために患者さんとたくさん話すよう心がけました。いつの間にか、複数回顔を出すことで、細かい情報の取りこぼしが少なくなることに気付きました。

 呼吸器疾患の場合、たとえば気管支喘息発作の患者さんが入院してきた場合、血管炎を疑っている場合は別として皮膚診察や神経診察をすることはそこまで多くありません。入院患者さん全員に全身診察をすることは、現実的に不可能でしょう。しかし、「今は女房がいないから言えるけど、実は家族にナイショで別宅にインコを飼っているんですよ」なんていう情報が得られることもあったりして、意外に患者さんのベッドサイドに行くことで得られる追加情報は多いものです。

 現在は、さすがに外来や内視鏡の業務や育児をこなしながら入院患者さんのところに複数回顔を出すのは難しくなってきました。それでも顔を出して「調子はどうですか?」と言うだけで、患者さんの満足度は高くなりますよね。お互いのラポールの構築もスムーズにいきます。

 研修医の方々は「仕事が終わった、さあ帰ろう」と言う前に、一度患者さんのベッドサイドで時間を作ってあげてはいかがでしょうか。


<何となく研修医に伝えたいこと>
その1:夕方に指示を出すべからず
その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
その5:ポリファーマシーのクセをつけない
その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
その7:クリアカットになりすぎない
その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない


by otowelt | 2014-07-12 00:49 | コラム:研修医に伝えたいこと

何となく研修医に伝えたいこと その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし

e0156318_100789.jpg 研修医の方々は、ローテートしている診療科でガイドラインや治療法のコツのようなものが分かってくると、自信に満ち溢れる顔をしていることがあります。病気と戦う“武器”を手に入れた戦士のような顔です。指導医としても、これは非常に嬉しいことでもあります。

 しかし疾患の診断や治療の側面ばかり見てしまう研修医は多く、患者さんの社会背景や退院後の生活について配慮できる人は、実はそこまで多くありません。これは医療従事者としての経験不足に起因します。

 これはどういうことかと言いますと、たとえば例を挙げてみましょう。

 ―――84歳の認知症のある男性が、右肺炎で入院してきました。肺炎の部位やエピソードから誤嚥性肺炎を第一に疑いました。嚥下造影検査でも軽度の誤嚥が疑われました。抗菌薬はアンピシリン/スルバクタムを選択し、誤嚥に対しては食事形態を工夫する栄養指導が必要と考えました。また入院直前はほとんど全介助に近い状態であったため、入院中は積極的にリハビリテーションを行いました。入院して1週間程度の治療が過ぎた頃、患者さんは次第に元気になっていきました。研修医は「元気になったら早めに退院できますね」と嬉しそうな顔をしていました。

 しかし、私をはじめ、ある程度医療従事者として長く働いている人間の場合、この事例の研修医とはいささか考えるポイントが異なります。この事例では、「この患者さんは元通り家に帰ることができるだろうか?」という問題が最も大きなハードルになります。治療が終わって「はい退院です」と家族に説明したところで、本当に皆が納得できる状況なのでしょうか。

 この事例の場合、妻は消化器系の疾患で入退院を繰り返しており、夫が認知症を発症してからというもの介護に疲弊しきった状態でした。近所に住んでいる長男は会社の管理職についており夜の22時頃まで家にいません、長男の妻は2人のやんちゃ盛りの子供を育てており、義母のサポートを頑張ってはいるものの義父の介護にまではなかなか手が回りません。要は、介護に疲弊しきった状態で誤嚥性肺炎によって入院したわけです。

 そのため研修医にとって重要なのは、誤嚥性肺炎の診断や治療だけでなく、患者さんが今置かれている社会的現状を理解することなのです。

 とかく研修医の頃は、疾患の診断や治療に目が行きがちで「エビデンス」という言葉にえも言われぬ憧れを抱くものです。しかし、実際の現場では「ナラティブ」の側面も同時に理解しなければなりません。入院患者さんの社会歴や家族歴を問診する意味というのは、まさにそこにあるわけです。

  ※ナラティブという言葉の意味は、ここではエビデンスの対比として記載しています。

 研修医の方々は、教科書に書いてあることだけでなく、常に「患者さんの退院後の生活が可能かどうか」を考えてみて下さい。困ったら、私たち医師よりも多くの情報を持っている病棟の看護師さんに相談することをおすすめします。

 こんなことを書いている私も、「先生、あの患者さん自宅が遠すぎて通院無理ですよ」なんて退院間近に指摘されることがあるわけですが・・・。


<何となく研修医に伝えたいこと>
その1:夕方に指示を出すべからず
その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
その5:ポリファーマシーのクセをつけない
その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
その7:クリアカットになりすぎない
その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない



by otowelt | 2014-06-28 00:51 | コラム:研修医に伝えたいこと

何となく研修医に伝えたいこと その2:病棟ではあまりタメ口を使うべからず

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 年が近い仲良しの看護師さんだとついついタメ口になってしまうこともありますが、私は基本的には敬語を使って仕事をしています(たぶん・・・)。しかし、病棟でフランクに振る舞いたいがために、常時タメ口で病棟業務をしている若手医師も世の中には少なからずいるかもしれません。

 個人的には、年上のベテラン医師であればそこまで問題はないだろうと思っています。また、お年寄りの患者さんに対してフランクに接する場面もありますし、ラポールが構築されておれば問題ないと思います。ただ、そこそこの若手医師が年上の看護師さんにタメ口を使うのは、ちょっとよくないですよね。

 研修医が病棟デビューをした後、3ヶ月もすれば皆さん病棟に慣れてきます。すると、「自分は医師なんだ、自分は司令塔なんだ」と少しだけ勘違いしてしまう若手医師もわずかながらいます。

 確かに医師という職業は、指示を出して患者さんの治療にあたる司令塔に似た役割には違いないのですが、今の医療界は“patient-oriented”あるいは“patient-centered”、すなわち医療従事者のみんなが患者さんの方向を向いているという図式が当たり前ですし、私もそうあるべきだと思っています。ましてや医療従事者の職務には優劣も上下もありません。医師がたくさんいても、看護業務はできません。

 ちょっとした拍子にタメ口がこぼれるくらいならまだしも、普段からタメ口を使っていると、看護師さんからの評判がちょっぴり悪くなってしまう状況を研修医の頃にたびたび目にしたことがありました。

 「さっき入院してきた患者さん、採血とっといて。あー、あとさ、レントゲンもオーダーしたから、早めに撮ってもらって。

 と医師が言い残して病棟を去った後、残念そうな顔をする看護師さんを何度か見かけたことがあります。指示の内容自体は至極まっとうなのですが、年下の医師からこんな言葉で指示を出されると遺憾に思う看護師さんもいるのは確かです。

 普段からタメ口で仕事をしている医師は、病院という職場において周囲からどう見られているかなかなか自覚できません。一度よくない評判が立ってしまうと、思いもよらぬレッテルを貼られることもありますので、少なくとも若手医師の間は敬語をしっかりと使える方がよいと思います。

 これを書いている私も病棟でどんなことを言われているのか、知る由もありませんが・・・。

 Wikipediaによれば、以下のような記載があります。「タメ口は、相手に心理的にリラックスした態度を示すため、自身が相手を友愛の対象としてとらえ恐れていないことを示す効果がある。そのため、相手への友好の意思を表明する意図でも頻繁に使用される。ただし、これは、“支配権誇示のためのタメ口”と混同されやすいため、日本マジョリティー社会では、友好意思の表明でのタメ口は、社会的な年齢や性別や職位による差別・支配隷属関係のないだろう相手でない限り、危険性を強く伴う。」


<何となく研修医に伝えたいこと>
その1:夕方に指示を出すべからず
その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
その5:ポリファーマシーのクセをつけない
その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
その7:クリアカットになりすぎない
その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない


by otowelt | 2014-06-21 00:05 | コラム:研修医に伝えたいこと

何となく研修医に伝えたいこと その1:夕方に指示を出すべからず

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 私は研修医の頃、「看護師さんの勤務体系を理解して指示を出しなさい」と口を酸っぱくして教えられました。なぜ他職種の勤務体系まで理解しなければならないのだろう?と訝しげに思っていた時期もありましたが、医師3年目頃から一人で指示を出すようになり、その重要性を痛切に感じます。

 「じゃあ、この指示よろしくお願いします。」

 と言いながら、夕方17時に翌日の採血と点滴の指示を出した研修医がいたとしましょう。その指示が緊急性を要するものでもなく、夕方でなく昼間に簡単にオーダーが出せる内容だった場合、リーダーをしている看護師さんにとっては苛立ちの種以外の何でもありません。外来が多忙で指示が出せなかった、他の病棟で緊急入院の患者さんの対応をしていた、など色々理由があると思いますが、そんな医師側の都合なんて看護師さんは知る由もありません。ただ言えることは、夕方17時に緊急性のない指示を出すという行為はケンカを売っていることと大差ないということです。せめて、リーダーさんの顔色くらい窺った方がよいでしょう(リーダーさんへの思いやり・配慮という意味で)。

 たとえば、夕方になって「患者さんが手持ちの目薬がなくなるから、新しい目薬が欲しいと昨日から言ってるそうです」という電話がかかってくると、イラっとする医師もいるでしょう。「昼間に分かっていたことを、なぜ夕方になって報告するんだ!」と。夕方に緊急性のない指示を出す医師も、それと同じようなものです。

 夕方にフラっとやってきて指示を出すのではなく、せめて「こんな時間に指示を出してすいません」といった態度を見せたいものです(斯く言う私も、夕方に急ぎでない指示を出してしまうことはよくあるわけですが)。

 私のようなオジサンになってしまうと、看護師さんからの評判はそれほど気にならなくなりますが、少なくとも研修医時代は「あの先生は私たち看護師のことがわかってるわ」と褒められたいものですよね。

 お互いに円滑に仕事を進めるためには、とても重要なポイントだと私は思っています。

<何となく研修医に伝えたいこと>
その1:夕方に指示を出すべからず
その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
その5:ポリファーマシーのクセをつけない
その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
その7:クリアカットになりすぎない
その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない


by otowelt | 2014-06-14 00:46 | コラム:研修医に伝えたいこと