カテゴリ:コラム:稀少呼吸疾患( 3 )

Caplan症候群

 1953年に内科医のAnthony Caplanは、炭鉱夫の塵肺患者さん14000人(1950~1952年調査)のうち特徴的な胸部レントゲン写真像を呈する関節リウマチ合併例の13人を抽出しました。これがCaplan症候群のはじまりです1)。その胸部レントゲン写真像とは、軽度の塵肺の陰影を背景にして比較的境界鮮明な類円形の陰影が多発し、数ヶ月で0.5~数cmの大きさに達するというものです(2)
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(文献1)より引用)

 Caplan医師がこの文献で記していることは、14000人の塵肺患者さんのうち51人が関節リウマチを罹患しており、非関節リウマチ患者さんと比較して進行性塊状線維症(PMF)が多いということ(90% vs 30%)、そしてその51人のうち13人が特異な類円形の陰影(Caplan's lesions)を呈するということです。シンプルな塵肺所見を呈していたのは、リウマチ患者さん51人のうちたった4人だけだったと報告されています。Caplan症候群の患者さんではカテゴリー0ないし1の軽症塵肺を呈する例も多く、既存の塵肺重症度とCaplan’s lesionsに相関性はないことが示唆されます。

 Goughらの検討によれば、Caplan's lesionsの病理学的所見はリウマチ結節のそれと一致するそうで、マクロファージによって囲まれる壊死を伴う炎症像と動脈内膜の炎症所見がみられたとのことです3)。Caplan's lesionsの発生機序として考えられているのは、肺に沈着した珪酸が関与した免疫学的なメカニズムです。珪酸がアジュバント(抗原性補強剤)として機能し、肺内に結節をつくるというものです。関節リウマチにおける炎症は、マクロファージ由来のTNF-αやIL-6といったサイトカインがトリガーになっています。マクロファージなどは粉塵などの異物存在下で刺激され、サイトカインを過剰に放出することでリウマチ結節形成を促進します4)

 Caplan症候群は、古典的には関節リウマチ+塵肺による類円形の陰影多発というものですが、疾患概念そのものが拡大解釈されて、非典型的な類円形の陰影を呈する塵肺例でリウマチ結節に合致した病理所見が得られれば、広義のCaplan症候群と考えるべきだと主張する研究者もいます。また、関節リウマチに限らず、強皮症など他の膠原病の存在によっても塵肺で肺病変が悪化することがあり5)-8)、膠原病の垣根を超えて広い意味でCaplan症候群を捉えている研究者もいます。

 炭鉱夫の数万人に1人しか発症しない疾患であり、また日本の塵肺患者さんではCaplan型の免疫学的な経過を示す例はほとんどないとされています(ほとんどが珪肺型)9)ので、現代の呼吸器内科医がCaplan症候群に遭遇することはないかもしれません。ただ、関節リウマチの患者さんでは、外的因子がアジュバントとして作用し肺などの他臓器の病変を増長する可能性があることを知っておかねばなりません。それらの中には、関節リウマチ関連間質性肺疾患も含まれているのでしょう。

 なお、Caplan症候群を疑う症例では肺結核の罹患が多いため9)、関節リウマチと塵肺の既往を有する患者さんに肺の異常陰影がみられた場合、喀痰抗酸菌検査を行うことがすすめられます。

 ちなみにフランスではCaplan症候群のことをColinet-Caplan症候群と呼びます。これは類似の症例をColinetが報告・考察していることが由来です10)


(参考文献)
1) Caplan A. Certain unusual radiological appearances in the chest of coal-miners suffering from rheumatoid arthritis. Thorax. 1953 Mar;8(1):29-37.
2) Schreiber J, et al. Rheumatoid pneumoconiosis (Caplan's syndrome). Eur J Intern Med. 2010 Jun;21(3):168-72.
3) Gough J, et al. Pathological studies of modified pneumoconiosis in coal-miners with rheumatoid arthritis; Caplan's syndrome. Thorax. 1955 Mar;10(1):9-18.
4) Pernis B. Silica and the immune system. Acta Biomed. 2005;76 Suppl 2:38-44.
5) Erasmus LD. Scleroderma in goldminers on the Witwatersrand with particular reference to pulmonary manifestations. S Afr J Lab Clin Med. 1957;3(3):209-31.
6) Innocencio RM, et al. Esclerose sistêmica associada à silicose pulmonar: relato de caso. Rev Bras Reumatol. 1998;38(4):249-52.
7) Costallat LT, et al. Pulmonary silicosis and systemic lupus erythematosus in men: a report of two cases. Joint Bone Spine. 2002;69(1):68-71.
8) Sanchez-Roman J, et al. Multiple clinical and biological autoimmune manifestations in 50 workers after occupational exposure to silica. Ann Rheum Dis.1993;52(7):534-8.
9) Honma K, et al. Rheumatoid Pneumoconiosis: A Comparative Study of Autopsy Cases between Japan and North America. Ann Occup Hyg. 2002;46(Suppl 1):265-7.
10) Colinet E. Evolutive chronic polyarthritis and pulmonary silicosis. Acta Physiother Rheumatol Belg. 1953;8(2):37-41.

by otowelt | 2016-11-02 00:15 | コラム:稀少呼吸疾患

Rasmussen動脈瘤:結核性空洞に潜む出血源

●Rasmussen(ラスムッセン)動脈瘤とは
 肺動脈のびらんが原因で形成される、結核による肺空洞内の仮性動脈瘤のことを、150年前に報告した医師の名前を冠してRasmussen(ラスムッセン)動脈瘤といいます1)。結核で大喀血する例は、空洞内にこの動脈瘤が形成されていることがあります。まれな病態ですが、現在の化学療法が登場する前はこの動脈瘤の破裂が喀血死の最たるリスク因子でした。


●Rasmussen動脈瘤の形成機序
 1939年に実施された、空洞を有する結核患者さんを剖検した病理学的な検討2)では、1114人中45人(4.04%)に肺動脈瘤が観察され、とりわけ空洞に隣接する肺動脈の血管壁が脆弱化することで瘤が形成されるのではないかと考察されました。日本でも戦後間もなく結核患者さんの剖検によって同様の検討3)がなされていますが、200人中9人(4.5%)とその頻度は1939年の報告と同じ結果でした。
 全ての結核患者さんにこうした動脈瘤が形成されるわけではなく、また血痰・喀血を呈する結核患者さんもその出血源はほぼ全例で気管支動脈と考えられます。化学療法が発達した現代では肺動脈が瘤化すること自体非常にまれな現象です。
 胸部レントゲン写真のみでは肺アスペルギローマとの鑑別が難しいこともあり4)、肺結核の患者さんの空洞にポリープ様の陰影が出現すれば、胸部単純・造影CTを撮影することでRasmussen動脈瘤かどうか判断できます。

●Rasmussen動脈瘤の治療
 第一選択は、カテーテル治療です5)。永久塞栓物質を詰めてしまった方がよいとされています。
 結核患者さんで「喀血が重度だからとりあえず気管支動脈塞栓術を」というのは高確率で正しい選択なのかもしれませんが、Rasmussen動脈瘤のように気管支動脈ではなく肺動脈に病変がある可能性も忘れてはいけません。
 ただし、Rasmussen動脈瘤は気管支動脈やその他非気管支動脈とシャントがあることが大半なようで、このような例にも気管支動脈塞栓術が有効であることが多いそうです。同動脈瘤の破裂によると思われる大喀血例でも、真赤な動脈血を喀出するのがその証左です。

※岸和田盈進会病院石川秀雄院長先生のご意見を一部参考にさせていただきました。

(参考文献)
1) Rasmussen V. On haemoptysis, especially when fatal, in its anatomical and clinical aspects. Edinburgh Med J 1868; 14: 385-401.
2) Auerbach O. Pathology and pathogenesis of pulmonary arterial aneurysm in tuberculous cavities. Am Rev Tuberc 1939; 39: 99-115.
3) 星野日出男.空洞壁動脈瘤の病理組織学的研究.結核 1952; 27: 419-22.
4) Remy J, et al. Treatment of massive hemoptysis by occlusion of a Rasmussen aneurysm. AJR Am J Roentgenol. 1980 Sep;135(3):605-6.
5) Picard C, et al. Massive hemoptysis due to Rasmussen aneurysm: detection with helicoidal CT angiography and successful steel coil embolization. Intensive Care Med. 2003 Oct;29(10):1837-9.


by otowelt | 2016-10-25 00:15 | コラム:稀少呼吸疾患

Birt-Hogg-Dubé症候群

 呼吸器内科医の間で必ず話題になるのは、「Birt-Hogg-Dubé」をどう発音するかという点です。日本語に表記すると「バート・ホッグ・デューブ」が正しい発音になります。英語の発音に関して言えば、「ホッジ」・「ダブ」・「デュベ」は誤りです。YouTubeに発音の仕方という動画があるので参考にしてください。ただし、Birt-Hogg-Dubé 症候群情報ネット (BHD ネット)(http://www.bhd-net.jp/)では「バート・ホッグ・デュベ」と明記されていますので、国内ではこちらの発音を採用すべきでしょうか。

・「How to Say or Pronounce Birt Hogg Dube Syndrome」https://www.youtube.com/watch?v=FnjWfok9YEI

 フランス語ベースの場合、「ビエト・ホッグ・デュベィ」のように聴こえます。Dubéという名前を現地の発音に記すと、正しくは「デュベィ」でもよい気がします。

 BHD症候群は皮膚だけでなく、肺病変(肺嚢胞・自然気胸)、腎病変(腎細胞癌)、消化器病変(大腸ポリープ)を合併しやすいことが知られています。そのため、呼吸器内科医も多発性嚢胞性肺疾患の鑑別としてBHD症候群の存在を知っておく必要があります。極めてまれな疾患ですが、日本国内に約100家系、 300人程度がBHD症候群と推察されます。
 
 BHD症候群は、1977年にBirt, Hogg, Dubéの3人が常染色体優性遺伝性と考えられる頭頸部の多発性皮膚丘疹を呈するカナダの一家系を報告したのが始まりです1)。BHD症候群全体では、顔面頭頸部皮疹、多発性肺嚢胞、腎腫瘍を3徴としていますが、線維毛包腫(fibrofolliculoma)が頭頚部に多発し、毛盤腫(trichodiscoma)、線維性疣贅(acrochordon)を合併し、これら皮膚病変はBHD症候群の皮膚所見3徴とされてます。2001年、BHD症候群が17番染色体短腕に位置するフォリクリン (folliculin [FLCN])遺伝子の変異が原因と判明しました2)。 FLCN遺伝子はとりわけ腎細胞癌において癌抑制遺伝子として機能していることがわかっています。しかし、肺の嚢胞性病変や反復性気胸においてFLCNがどう関与しているのかはいまだによく分かっていません。通常の嚢胞と違い、肺の中葉・下葉にできることが多いのが特徴です。
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(文献3)より引用)

 2002年にZbarら4)が、BHD症候群が自然気胸、腎細胞癌、大腸ポリープに関連するかどうかを詳細に検討し報告していますが、この論文ではBHD症候群33家系223人をBHD症候群の罹患者(BHD遺伝子のキャリアを含む)111人と非罹患者112人に分けて解析しています。BHD症候群の罹患者は非罹患者と比較して、自然気胸の既往、腎細胞癌の発生が有意に多かったと報告されています(大腸ポリープの発生には有意差がなかった)。アジア人のBHD症候群の場合、皮疹はの出現は5人に1人程度と少ないことが分かっています。その反面肺嚢胞・反復性気胸の既往は全体の9割以上にのぼります(気胸は欧米の1.5倍ほど多いようです)。BHD症候群の肺病変の病理所見についての記述は少ないものの、BHD症候群だからといって特異的な所見があるわけではなく、通常の肺嚢胞と変わらないとする報告があります5)。ゆえに、多くのBHD症候群は見逃されていると考えられています。Furuyaらは通常のブラ・ブレブは上葉・肺尖に多いのに対してBHD症候群の嚢胞は下葉・縦隔周囲に多いことを報告しています3)。また、その数も前者が単発であるのに対して後者は多発すること、病理学的な炎症像はBHD症候群の嚢胞ではあったとしても軽度であることを記載しています。

 肺嚢胞は多くの場合、20~30代で発見されます。また皮膚病変は30代前後で発症します。腎細胞癌は中高年以降の発症が多いようです。合併症の中でもっとも予後に反映するのは腎細胞癌です。生命予後に直接影響するのは腎細胞癌です。BHD症候群における腎細胞癌は、多発性でオンコサイトーマ(hybrid oncocyte chromophobe tumor)などの低悪性腫瘍も多いため、腫瘍径が3cmに発育するのを待って腫瘍のみ核出する手術が推奨されています。

 上述したように、BHD症候群診療ウェブサイト“BHDネット”というものがあり(http://www.bhd-net.jp/)、BHD症候群の啓蒙活動と遺伝子診断、定期検査を推進しています。

遺伝子検査を受けて陽性だった場合の推奨検診は、以下の通りです。
1. 肺:原則として21歳から定期検診開始。胸部CTを6年に1回, MRIを3年に1回。
2. 腎臓:CT/MRIを2年に1回。もし5mm以上の腎臓嚢胞が見つかった場合は1年に1回。しかしご家族に腎腫瘍の患者さんがいる場合は, より慎重に定期検診をするべき。


(参考文献)
1) Birt AR, Hogg GR, Dubé WJ. Hereditary multiple fibrofolliculomas with trichodiscomas and acrochordons. Arch Dermatol. 1977 Dec;113(12):1674-7.
2) Schmidt LS, et al. Birt-Hogg-Dubé syndrome, a genodermatosis associated with spontaneous pneumothorax and kidney neoplasia, maps to chromosome 17p11.2. Am J Hum Genet. 2001 Oct;69(4):876-82.
3) Furuya M, et al. Birt-Hogg-Dube syndrome: clinicopathological features of the lung. J Clin Pathol. 2013 Mar;66(3):178-86.
4) Zbar B, et al. Risk of renal and colonic neoplasms and spontaneous pneumothorax in the Birt-Hogg-Dubé syndrome. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2002 Apr;11(4):393-400.
5) Butnor KJ, et al. Pleuropulmonary pathology of Birt-Hogg-Dubé syndrome. Am J Surg Pathol. 2006 Mar;30(3):395-9.


by otowelt | 2016-10-22 00:56 | コラム:稀少呼吸疾患