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C.difficile BI/NAP1/027株

Clostridium difficile PCR ribotype 027: assessing the risks of further worldwide spread
The Lancet Infectious Diseases, Volume 10, Issue 6, Pages 395 - 404, June 2010


欧米では、C.difficile-027(CD027)が話題になっている。
            CMAJ. 2004;171(5):466-72.
            N Engl J Med. 2005;353(23):2433-41.
            N Engl J Med. 2005;353(23):2442-9.

欧米で知らない内科医はいないだろう。

というわけで、日本の医師も知っておくべき必要がある。
CD027は、具体的には、
BI(REA型別)/NAP1(PFGE型別)/ 027(PCR ribotyping型別)
であり、トキシンAおよびBの産生量が多いとされている。
また、大事な事項だが、
Binary toxin(actin-specific ADP-ribosyltransferase)を産生する。
ゆえに、感染症を発症すると従来型のC. difficile による感染症と比べ、
重症な経過をたどり、死亡率が極端に高くなるといわれている。
CD027は、シプロフロキサシンに加え、ガチフロキサシンや
モキシフロキサシンなどのフルオロキノロンにも耐性を獲得しており、
これらフルオロキノロンの投与が本菌の選択因子や腸炎誘因になりうる。

by otowelt | 2010-05-31 17:19 | 感染症全般

非小細胞肺癌におけるリポプラチンの有用性

パクリタキセルをリポソーム製剤にしたり、
シスプラチンをアルブミン結合製剤にしたり、
毒性軽減のために、いろいろ考案されている。

リポソーム・シスプラチンは、lipoplatinと呼ばれている。
これは、従来のシスプラチンよりも毒性が低いとされている。
               Oncol Rep 2004;12:3-12
               Anticancer Res 2004;24:2193-2200

膵癌領域で従来のシスプラチンと同等の忍容性を確認している。
               Oncol Rep 2005;15:1201-1204.
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Liposomal cisplatin combined with paclitaxel versus cisplatin and paclitaxel in non-small-cell lung cancer: a randomized phase III multicenter trial
Ann Oncol (2010) doi: 10.1093/annonc/mdq234, May 3, 2010


背景:
 リポソーム・シスプラチンはシスプラチンの全身毒性を減らすとともに
 体液と組織における薬剤の循環時間を増加させることにより原発腫瘍・転移巣
 に対する選択性を高めることを目的に開発された新しい製剤である。
 今回のランダム化III相試験の目的はその腎毒性、消化管の副作用、
 末梢神経障害および血液毒性を明らかにすることである。
 副次目的は奏効率、無増悪期間(TTP)および生存期間を評価することである。

方法:
 化学療法歴のない手術不能NSCLC患者236例を
 リポソーム・シスプラチン200mg/m(2)+パクリタキセル135mg/m(2)(A)
 シスプラチン75mg/m(2)+パクリタキセル135mg/m(2)(B)
 にランダムに割りつけ、外来で2週毎に1回投与した。
 229例で毒性、奏効率および生存期間の評価が可能であった。
 治療は9サイクルの予定で行なった。

結果:
 A群の患者では腎毒性、grade 3~4の白血球減少、grade 2~3の神経障害、
 悪心、嘔吐および疲労が統計的に有意に低頻度であった。OSおよびTTP中央値は
 2群間に有意な差はなく、生存期間中央値はA群:9ヵ月、B群:10ヵ月、TTPは
 それぞれ6.5ヵ月と6ヵ月であった。

結論:
 リポソーム・シスプラチンとパクリタキセルの併用はシスプラチンの従来製剤
 とパクリタキセルの併用に比べ毒性が明らかに少なく、とくに腎毒性は
 ほとんど認められなかった。TTPと生存期間は両群で同等であった。

by otowelt | 2010-05-31 14:44 | 肺癌・その他腫瘍

大腸癌肺転移術後再発における再切除は有用

大腸癌の孤立性肺転移を切除することは一般的だが、それが2回目、3回目と
繰り返しおこなうことは妥当かどうかは異論がある。Annals of Oncologyから
繰り返し切除することが長期生存に寄与するという論文が出た。

Outcomes after repeated resection for recurrent pulmonary metastases from colorectal cancer
Annals of Oncology 21: 1285–1289, 2010


背景:
 大腸癌の肺転移の再発に対して再切除をおこなうことはいまだ議論の余地がある。
 このスタディの目的は、こういった患者において再度切除をおこなうことの
 アウトカムを評価するものである。

方法:
 1995年から2007年にかけて、202人の患者において大腸癌の肺内転移が
 切除された。観察期間中央値は28.9ヶ月で、48患者が2回目の切除をおこなった。
  29人:wedge resections
  5人:segmentectomies
  13人:lobectomies
  1人:completion pneumonectomy
 disease-free intervalの中央値は9.6ヶ月であった。
 48人の再切除をおこなった患者において、28人が再度肺内転移を発症し、
 さらにその10にんが3回目の切除をおこなわれた。
  2人:wedge resections
  2人:segmentectomies
  4人:lobectomies
  2人:completion pneumonectomies

結果:
 2回目の切除をおこなった48人の患者のうち、5年全生存率は79%、
 disease-free 5-year survivalは49%であった。3回目の切除をおこなった
 10人の患者のうち、最後の切除からの5年全生存率は78%であった。
e0156318_20412425.jpg
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結論:
 大腸癌の肺転移症例において、再度切除をおこなうことは安全でかつ長期生存
 を期待できる。早期再発発見と肺実質を温存した切除が結果をよいものにする。

by otowelt | 2010-05-30 20:42 | 肺癌・その他腫瘍

CPAおよび内科非CPAにおける救急隊による院外挿管は生存率を改善する

Out-of-Hospital Endotracheal Intubation Experience and Patient Outcomes
Ann Emerg Med. 2010;55:527-537


目的:
 過去のスタディで、多くの複雑な医療手技を学んだプロバイダー
 による手技は患者のアウトカムを改善させると考えられている。
 院外挿管は難しい手技である。私たちはこの院外挿管が患者の生存に
 どう寄与したかを調べた。

方法:
 ペンシルヴァニア州における救急サービスとリンクして解析。
 患者の退院、死亡率を院外挿管された患者において検索した。
 われわれは、院外挿管を経験した回数によって以下のように定義した。
  2000年~2005年までに
  1~10回挿管したもの:low
  11~25回挿管したもの:medium
  26~50回挿管したもの:high
  51回以上挿管したもの:very high
 また、患者においては、2003年から2005年に挿管されたのちに生存あるいは
 退院した患者を検索した。
 患者の生存と院外挿管の経験数による関連を評価。

結果:
 2003年から2005年に4846人の救急隊が挿管をおこなった。
 2003年から2005年まで33117人の患者に、2000年から2005年に62586人の
 患者に挿管をおこなった。
 21753人のCPAの患者において、very high群によって挿管された場合
 有意に生存率が高かった。ORはlow群と比較して、very high群では
 1.48 (95%CI 1.15 to 1.89)、high群で1.13 (95% CI 0.98 to 1.31)、
 medium群で1.02(95% CI0.91 to 1.15)あった。
 8162人の非CPA内科患者において、high群およびvery high群で有意に
 生存率が高かった。ORは、low群と比較して
 very high群で1.55 (95% CI 1.08 to 2.22)、high群で1.29
 (95% CI 1.04 to 1.59)、medium群で1.16 (95% CI0.97 to 1.38)。
 3202人の外傷非CPA患者において、生存率は経験にかかわらず院外挿管群では
 改善しなかった。ORはlow群と比較して、very high群で1.84
 (95% CI 0.89 to 3.81)、high群で1.25 (95% CI 0.85 to 1.85)、
 medium群で0.92 (95% CI 0.67 to 1.26)であった。
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結論:
 CPAおよび内科非CPAにおける救急隊による院外挿管は生存率を改善する。
 しかしながら、外傷非CPA患者においては生存率を改善しない。

by otowelt | 2010-05-28 14:33 | 救急

ASCO2010でのBIBW2992の発表

e0156318_0222230.jpgASCO2010の前評判になっているBIBW2992(Tovok)について。
BIBW2992は、ダブルキナーゼ阻害薬、
EGFR+HER2を阻害する薬剤である。

昨年も取り上げた。
Tovok(BIBW2992)、PF-00299804

LUX-Lung試験は、1,2,3、4,5,6といろいろあって覚えられないが
LUX-Lung2試験が、治療歴を問わないNSCLC患者を対象とした第2相試験で、
次回ASCOで発表される予定となっている。
いったいどれがどういった状況で発表されるのか、よく知らないのだが・・・。
exon19 deletionとexon21 L858R point mutationがある場合に腫瘍縮小がみられ、
PFSの中央値は約14カ月、OSの中央値は2年であったとのこと。
日本から速報を待つ状況だが、ASCOの発表が楽しみである。

・LUX-Lung1試験:
  BIBW 2992 vs. placebo (phase IIb/III) after erlotinib or gefitinib
・LUX-Lung2試験:
  BIBW 2992 (phase II)
・LUX-Lung3試験:
  BIBW 2992 vs. cisplatin +pemetrexed (phase III)
・LUX-Lung4試験:
  BIBW 2992 (phase I/II)
・LUX-Lung5試験:
  BIBW 2992 + paclitaxel vs.investigator’s choice chemotherapy (phase III)
・LUX-Lung6試験:
  BIBW 2992 vs. cisplatin +gemcitabine (phase III)

by otowelt | 2010-05-27 23:48 | 肺癌・その他腫瘍

ALIと集中治療における2009年アップデート

2009年に発表されたALI/ARDSに関する論文をすべてまとめた
AJRCCMからの最新のUPDATESである。集中治療に興味のある呼吸器内科医必読!
遺伝子とかキライなので、そこらへんはすっ飛ばしてみた。

Update on Acute Lung Injury and Critical Care Medicine 2009
Am. J. Respir. Crit. Care Med..2010; 181: 1027-1032
e0156318_13185232.jpg
●はじめに
 急性肺傷害(ALI)の疫学、臨床経過、病因および治療の解明に関連する論文で
 2009年に発表されたものをふまえて、レビューする。

●ALIの疫学
 罹患する人種や民族性がALIの死亡率に及ぼす影響は、明らかにされていない。
 ARDSネットワークによれば、人工呼吸患者2362名のデータがある
 (白人1715名、アフリカ系米国人449名、ヒスパニック系米国人198名)。
 ALI患者のうち、アフリカ系およびヒスパニック系米国人の死亡率は、
 白人の死亡率より有意に高かった。ALIの死亡率に人種・民族性による
 違いが生まれる機序や環境および遺伝要因を解明する研究が必要かもしれない。
              Crit Care Med 2009;37:1–6.
 2009年は、ALI/ARDSの死亡率が低下しているかどうかを扱った論文が 
 2つ発表された。1つ目はは過去の文献を検討し、1994までは死亡率の
 低下が認められるものの1994年以降は低下していないと論じている。
              Am J Respir Crit Care Med 2009;179:220–227.
 2つ目の論文では、ARDSネットワーク参加施設で行われた臨床試験の
 対象となったALI患者の死亡率が検討。1996年から2005年に
 ARDSネットワークが行ったランダム化試験に登録された2451名のデータが
 解析され、1996年の死亡率は35%であり、その後、年ごとに低下。
 2005年には26%まで低下していることがわかっている。 
 スタディにおいて一回換気量や重症度などの共変量と背景因子の調整を
 施行しても、死亡率の経時的低下傾向は認められた(P=0.0002)。つまり、
 肺保護戦略による死亡率低下効果に関係なく、重症患者管理の進歩により
 ALI患者の死亡率が低下している

              Crit Care Med 2009;37:1574–1579.

●ALIの定義と診断
 ALI/ARDSの定義では、気管挿管と人工呼吸が前提になっている。しかしながら、
 大半の症例では、気管挿管および人工呼吸開始に先んじて、ALIが発症している。
 そのため、早期のALIの診断が死亡率の改善につながるかもしれない。
 2009年に、胸部レントゲン上で血管内容量過多or心不全では
 説明のつかない両肺透過性低下が認められる救急患者100名を対象とした研究が
 行われた。100名のうち、入院後ALIを発症したのは33名。
 多変量解析を行ったところ両側透過性低下があり当初から吸入酸素2L/min以上
 が必要だったケースがALI発症の予測因子だった。
 ”初期ALI”という臨床診断が、実際にALIへと進展する症例を予測する際の
 感度は73%、特異度は79%
として有用である。
              Chest 2009;135:936–943
 また、別のグループは、P/F比がある一定の値を下回り、胸部レントゲンで
 両側浸潤影または両側肺水腫の所見が認められる患者を自動的にひろう
 スクリーニングシステムを紹介している。
              Neth J Med 2009;67:268–271.

●ALIと遺伝
 一塩基多型(SNP)がALIの臨床アウトカムに関わっていることが、明らかになった。
 2009年には優れたレビューが発表された。ALIに関係する候補遺伝子が
 挙げられているのである。
      Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2009;296:L713–L725.
 細胞外スーパーオキサイドジスムターゼ:SODは強力な活性酸素除去作用があり、
 過酸化物質による傷害から肺を守る重要な働きがある。
 細胞外SODのプロモータと遺伝子の塩基配列を解析するという研究が発表され、
 その結果、細胞外SODがGCCTハプロタイプを呈するグループでは、
 人工呼吸期間が短く死亡率も低いことが分かっている。
 肺炎患者およびALI患者では、血漿中・肺浮遊液中の
 プラスミノゲン活性化抑制因子-1(PAI-1)濃度が高いほど、死亡率が高い。
 PAI-1遺伝子の持つ4G/5G多型の中でも4G対立遺伝子があると、PAI-1が増える。
 肺炎による入院患者111名を対象とした研究で、
 PAI-1→4G/5G多型4G対立遺伝子があると、
 人工呼吸器非使用日数が少なく、また死亡率が高いことがわかった

              Anesthesiology 2009;110:1086–1091.
 別の研究では、プロテアーゼ阻害物質:エラフィンの遺伝子多型が、
 ARDS発症リスクの上昇に関わっていることが報告された。
              Am J Respir Cell Mol Biol 2009;41:696–704.

●ALIの病因とヒト研究
 DcR3によって、生存者と非生存者を判別できるかもしれない。
 DcR3の血中濃度が、28日後死亡率、多臓器不全および人工呼吸器依存状態の
 遷延と独立して相関することも明らかになっている。
              Am J Respir Crit Care Med 2009;180:751–760.
 TNF-αやIL-6を測定するよりも、良い。また、ARDSでは健常者と比べ
 BAL中の活性型20Sプロテアソームが高いことが報告された。
 しかし、一つのバイオマーカーだけでは、正確な予後診断はできないと考えられる。
 ARDSネットワークに登録された患者549名について臨床アウトカムと
 バイオマーカーの関係についての研究が行われた。臨床予測因子と8つの
 バイオマーカーを組み合わせるとAUCは0.85だった。
              Chest 2010;137:288–296.

●ALIの病因と動物研究
 マウスを用いた実験では、エンドトキシンによるALIの治癒プロセスにおいて
 リンパ球が重要な役割を担っていることが明らかになった。
 別の研究グループは、IL-10を介した好中球の動員をリンパ球が
 制御していることを明らかにした。
              J Clin Invest 2009;119:2891–2894.
 ALI/ARDS分野では、Toll-like-receptor(TLR)が関与する非感染性
 刺激シグナル伝達についての研究が進んでおり、メジャーである。
 2009年マウスを用いたin vitroおよびin vivo研究で示された。
 エンドセリンB受容体がエンドセリン-1によって活性化されNOが産生されると
 Na-K―ATPアーゼのダウンレギュレーションが起こって、肺胞水分除去能が低下。
 ブレオマイシンモデルを用いた研究では、インスリン様成長因子を阻害すると
 生存率が向上し、線維化が抑制された。また別の研究グループは、
 IL-6に肺傷害を軽減する作用があることを明らかにした。
              Am J Respir Crit Care Med 2009;179:113–122.
              Am J Respir Crit Care Med 2009;179:212–219.


●ALIと臨床診断研究
 ALI治療において特に留意すべきことは、抗菌薬療法を迅速かつ計画的に
 行うことである。抗菌薬療法の全体的なイニシアチブをとり、
 多面的な取り組みを行い抗菌薬の使用法を改善することにより、
 耐性菌の発生を防ぎ、臨床アウトカムを改善させ、費用を抑えるということが
 重要である。
    Am J Respir Crit Care Med 2009;179:434–438.
 ALIの診断および治療に重要である可能性のある、新しい画像診断法や
 核医学検査が開発されている。2009年、ALI患者の細胞代謝を
 18F-2-deoxy-2-fluoro-D-glucoseを用いたPET検査で画像化して
 評価する研究が行われた。炎症性代謝活性の強い部分は、含気が少ない部分
 に局在するわけではなく、肺全体において、炎症性代謝活性の上昇がみられた。
 すなわち、ALIでは胸部レントゲン・CTにおける肺の虚脱や浸潤影の程度は、
 その部分の炎症の程度を反映しているわけではない。
              Crit Care Med 2009;37:2216–2222.
 FACTT試験の考察で、肺動脈カテーテル群に割り当てられたALI/ARDS患者
 500名について、循環動態が不良である所見と、PACなしで得られる客観的データ
 (1日総水分喪失量、ScvO2およびCVP)はCIおよびSvO2低値と相関する、
 という仮説が検証されている。
 循環動態不良を示す理学的所見として用いられたのは、
 毛細血管再充満時間延長(>2秒)、膝のまだら模様、皮膚温低下であり、
 こういった理学的所見は、感度も特異度も低く役に立たないことが判明した。

              Crit Care Med 2009;37:2720–2726.

●ALIと治療:基礎
 ALI/ARDSで行われる”open lung strategy”に異議を唱える研究がある。
 ブタモデルを用いた研究では、肺胞のリクルートメントを行っても
 過膨脹を防ぐことはできないことが明らかにされた。理由として
 再膨脹した肺組織のメカニカルな特性は、周囲の虚脱または浸潤肺組織とは
 異なるからである。肺の急性炎症において重大な役割を果たす
 メディエーターを阻害すれば肺傷害を軽くできるのではないかと考えられる。
              Crit Care Med 2009;37:2604–2611.
              Am J Respir Crit Care Med 2009;180:415–423.

 最近、ALIの治療における細胞療法に対する注目が集まっている。
 骨髄間葉系幹細胞:MSCは、骨髄、胎盤、臍帯血および脂肪組織などにみられ、
 免疫抑制性サイトカインなどを分泌し、臓器傷害を抑制する。
 MSCを投与すると、肺胞マクロファージがPGE-2を介してリプログラミング
 されることによって抗炎症性サイトカインであるIL-10が増えるため、
 死亡率低下をもたらす可能性が示唆されている。
              Proc Natl Acad Sci USA 2009;106:16357–16362.
              Am J Respir Crit Care Med 2009;180:1131–1142.
              Am J Respir Crit Care Med 2009;180:1122–1130.
              J Am Soc Nephrol 2009;20:1053–1067.
              Nat Med 2009;15:42–49.


●ALI、その他重症疾患の治療:臨床
 ALI/ARDSに体外式膜型人工肺:ECMOを使用するのは、従来は
 緊急避難的な救命方法としての意味合いがあった。イギリスのグループは、
 重症肺傷害および重症呼吸不全に対する治療法としてのECMOの有効性を評価
 (CESAR試験)。6ヶ月後も生存し後遺症のなかった患者数は、
 ECMO実施施設群では90名中57名、ECMO非実施施設群では87名中47名
 (63% vs 47%; P=0.03)、ECMO実施施設の方がわずかに優位であった。
 この結果から、イギリスでは肺保護換気法をはじめとするALI/ARDS治療に
 詳しい地域基幹病院への患者転送が有効であるとされた。
              Lancet 2009;374:1351–1363.
 H1N1インフルエンザ肺炎による重症ARDS患者では、救命的にECMOを用いる
 ことが有効であるとされている。ただ、いずれの研究も対照群がないため、
 インフルエンザによる重症ウイルス性肺炎に対してECMOが有効と結論はできない。
              JAMA 2009;302:1888–1895.
 スタチンを投与すると敗血症・ALIのアウトカムが改善する可能性がある。
 健常者にプラセボあるいはシンバスタチン40mg・80mgを4日間投与し、
 引き続いてエンドトキシン噴霧剤を吸入させた試験がある。
 シンバスタチン投与群ではエンドトキシンによる肺胞への好中球、
 MPO、TNF-α、MMP7、8、9の集積が少なかった。
              Am J Respir Crit Care Med 2009;179:1107–1114.
 小児ALI症例ではサーファクタント投与が有効である可能性がある。
 成人ALI症例ではサーファクタントが有効であることを示す論文はない。
 2009年、成人ALIに対するサーファクタント効果を検証する臨床試験が行われた。
 この研究では、418名の患者を通常治療群または通常治療+ブタサーファクタント
 HL10を肺内へ直接注入する群のいずれかにランダムに割り当てた。
 対照群とサーファクタント投与群のあいだに死亡率の有意差はなし。
 むしろ、サーファクタント投与群の方が有害事象が多い傾向が認められた。
              Am J Respir Crit Care Med 2009;180: 989–994.
 敗血症および肺傷害患者に対するearly goal directed therapy、ステロイド、
 遺伝子組換ヒト活性化プロテインC、強化血糖値管理、肺保護換気法の有効性に
 関しては、議論の余地がある。成人重症敗血症患者を対象としたコホート研究では、
 EGDTの目標の遵守度、広域スペクトラム抗菌薬の早期投与、輸液負荷試験、
 少量ステロイドおよび活性化プロテインCの有効性が評価された。
 これにより、最重症患者では広域スペクトラム抗菌薬の早期投与および
 活性化プロテインCの投与が死亡率低下に寄与する。
              Am J Respir Crit Care Med 2009;180:989–994.
 敗血症に対する活性化プロテインCの有効性を検証する試験が現在行われている。
 (PROWESS-SHOCK試験)
 早期・晩期ALIのどちらにおいてもステロイドが有効ではないという研究が
 複数発表されているので、これは重要な知見であろう。

 重症患者における強化血糖管理の有用性については、よくわかっていない。
 強化血糖値管理群(81~108mg/dL)は従来(180mg/dL以下)と比べ、
 死亡率が高かった。ただし、試験開始後第20日以降ではじめて死亡率の差が
 出たことは留意しておく必要がある。
              N Engl J Med 2009;360:1283–1297.

by otowelt | 2010-05-25 12:47 | 集中治療

挿管後気管狭窄

最近、気管切開後の患者様が、抜管3ヶ月で呼吸困難を訴えてきたので
レントゲン・CTを撮影したが、特に問題なかった。
呼吸器内科医にとって、挿管後気管狭窄というのははナーバスになる疾患の1つである。
抜管した後に起こることが多いのだが、病名はあくまで挿管後気管狭窄、である。

●挿管後気管狭窄概論
 原因として、気管挿管・気管切開後の瘢痕性狭窄がまず挙げられる。
 過去2年以内に挿管・気管切開を受けた患者で呼吸困難を呈する場合に
 まずは気管狭窄を疑わなければならない。
               J La State Med Soc. 2000; 152: 276-80.
 挿管あるいは気管切開後の気管狭窄は、抜管後2か月以内に出現するが
 2年以上経過して出現することもあり得る。
 報告例では10年以上たって、という報告もあるが、本当に挿管が影響したのか
 もはや謎の年月とも言える。
               Br Med J 2001, 322, 362.
 最近では気管挿管チューブの材質が向上し、低圧カフへと改良され
 抜管後に気管狭窄を来す頻度は減少している。

●挿管後気管狭窄の分類
 A proposed classification system of central airway stenosis
 Eur Respir J 2007; 30: 7–12

 挿管後気管狭窄を含めた中枢気道狭窄病変の分類については
 上記ERJの論文がよくまとまっている。
e0156318_23435743.jpg
e0156318_2344182.jpg
a) Intraluminar tumour or granulation; b) distortion or buckling; c) extrinsic compression; d) scar stricture; e) scabbard trachea; f) floppy membrane; g) abrupt transition (web stenosis); h) tapered transition (hour glass stenosis)

●挿管後気管狭窄の発生機序
 挿管時の気管軟骨の損傷が気管軟骨周囲炎を起こすことによって
 二次感染あるいは肉芽組織形成を惹起する。
 これによる気道狭窄が本態と考えられている。
 ただ、インパクトファクターを考慮しても、1953年のNEJMの論文しか
 こういった考察がなされていないのが現状である。
                N Engl J Med.1953; 248: 1097-9.
 気管チューブが気管壁を持続的に刺激すること、過剰なカフ圧による局所循環不全
 なども考えられているが仮説に過ぎない。
 ただ、挿管した期間と狭窄に関しては20人の患者を検討した論文があるが、
 関連性はないとされている。
                Surg Radiol Anat 2002, 24, 160-168.

●挿管後気管狭窄の症状
 症状を認めるほどの抜管後気管狭窄の発生率は0.1%とされている。
                Eur Respir J. 1999; 13; 888-93.
 軽度の狭窄においては、反復性肺炎、労作時呼吸困難、
 あるいは成人発症喘息と誤診されることもしばしばみられる。
                Semin Thorac Cardiovasc Surg. 1996; 8: 370-80.
                Am J Respir Crit Care Med. 2004; 169: 1278-97.

 Stridor は気管内径が5mm以下にならないと出現しないため、
 絶対的な指標とするには問題があるだろう。
 また、チアノーゼは狭窄が長期におよび、末期症状として出現するものである。

●挿管後気管狭窄の診断
 胸部レントゲンなどの画像診断を行うことが優先される。
 気管支鏡や喉頭ファイバースコープなども有用である。

●挿管後気管狭窄の治療
 抜管後気管狭窄に対する治療法として、
 レーザー焼灼、ステント留置、バルーン拡張術や根本的外科的治療法がある。
文責"倉原優"

by otowelt | 2010-05-24 23:22 | 救急

非喫煙者にみられた小細胞肺癌の2例

今月のJTOに、「非喫煙者にみられた小細胞肺癌の2例」という報告が掲載された。

Small Cell Lung Cancer in Never Smokers Report of Two Cases
Journal of Thoracic Oncology • Volume 5, Number 5, May 2010


受動喫煙は小細胞癌も非小細胞癌のいずれもの発生原因となりうる。
                 Lancet Oncol 2008;9:657– 666.
いくつかのスタディでは、癌遺伝子と癌抑制遺伝子が小細胞癌に関与していると
わかっている。具体的にはmyc, EGFR, c-raf, c-fms, retinoblastoma, p53である。
N-myc変異は小細胞癌を含む神経内分泌腫瘍に強く関連していることがわかっている。
                  Proc Natl Acad Sci USA 1986;83:1092–1096.
EGFR遺伝子変異は、非小細胞肺癌でよくみられるものだが、小細胞癌にも起こりうる。
あるケースレポートでは、EGFR陽性小細胞肺癌が72歳女性の非喫煙者に認められた。
                   Ann Oncol 2006;17:1028 –1029.
興味深いことに、gefitinibは、低いレベルではあるが、レセプターを発現している
小細胞肺癌のセルラインにおいてEGFRシグナルを阻害することができた。
これはすなわち、EGFR-TKIがEGFR遺伝子変異のある小細胞肺癌の治療
オプションになりうることを意味している。
他のケースレポートでは、2例の非喫煙者の小細胞肺癌でEGFR遺伝子変異が
認められた。
                    N Engl J Med 2006;355:213–215. 
喫煙したことのない小細胞肺癌に起こるEGFR遺伝子変異についてはさらなる
スタディが必要になるであろう。
さらに、非喫煙者の強皮症患者において小細胞肺癌が起こったという報告もある。
小細胞肺癌と強皮症による間質性肺炎に関連性があるのかもしれない。
                    Intern Med 2005;44:315–318.

by otowelt | 2010-05-20 05:22 | 肺癌・その他腫瘍

移植後の侵襲性アスペルギローシスの死亡率の検討

Factors Associated with Mortality in Transplant Patients with Invasive Aspergillosis
Clinical Infectious Diseases 2010;50:1559–1567


背景:
 侵襲性アスペルギローシス(IA)は、造血幹細胞移植(HSCT)や固形臓器移植(SOT)
 レシピエントにおいて重要な感染症である。
 このスタディの目的は、移植患者におけるIAの死亡率を評価する。

方法:
 23のイギリスの医療センターにおいて、2001年3月から2005年10月までの
 移植関連感染症サーベイランスネットワーク登録患者で検討。
 IAの症例は2006年3月までプロスペクティブに観察。
 エンドポイントは、12週における全死亡率とした。

結果:
 642例のIAと思われる症例が登録され、317人(49.4%)が死亡した。
 全死亡率は、HSCT患者の方が、SOT患者よりも多かった。
 (239 [57.5%] of 415 VS 78 [34.4%] of 227)(P <.001)
 HSCTにおける予後不良の独立因子は、好中球減少症、腎不全、肝不全、
 早期IA発症、確実なIA診断例、メチルプレドニゾロン使用例であった。
 対して、白人症例では死亡リスクが少なかった。
 SOT患者において、肝不全、栄養不良、中枢神経疾患は予後不良因子であった。
 プレドニゾン使用は死亡リスク減少と関連。
 HSCTあるいはSOTにおいて、抗真菌治療を行われた患者では
 アムホテリシンB使用は死亡リスク上昇と関連していた。
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結論:
 複数の因子が移植患者におけるIA症例の死亡リスク上昇と関連している。


アスペルギルスを相手にする医者としては、
NEJM2002年の論文がボリコナゾールを押し上げた論文であることを
ぜひとも知っておきたい。

Voriconazole versus amphotericin B for primary therapy of invasive aspergillosis.
New Engl J Med 2002; 347(6):408–415.


同時に、アムホテリシンBによる初期治療ではIAにおける死亡リスクが
上昇することも示唆されており、今回の論文も同様の内容である。

今回のCIDの論文では、SOTにおいてカスポファンギン死亡リスクが上昇しているが
これについては筆者は懐疑的な見解を出しているので、結論は控えたいところである。
サルベージではボリコナゾール+カスポファンギンでも個人的にはよいと考えている。

by otowelt | 2010-05-20 02:14 | 感染症全般

成人パルボウイルスB19感染症

●概要
 ヒトパルボウイルスB19は、ウイルス性関節炎で最も多い疾患である。
 小児におけるヒトパルボウイルスB19感染症は皮疹が特異的であり、
 地域に集団発生するため診断しやすい。
 しかしながら、成人のヒトパルボウイルスB19感染症は、小児とは違い
 典型的皮疹を伴わないことが多く、風疹様の丘疹・紅斑、浸出性紅斑、紫斑、
 点状出血など多彩な症状があらわれる。
               臨床皮膚科2006;60(5):27―30.
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●症状
 成人におけるヒトパルボウイルスB19感染症は、多彩な臨床症状を呈し、
 合併症として赤芽球癆や血小板減少症、妊娠初期胎児水腫が知られている。
               Internal Medicine 2002;41(4):247―8.
               総合臨床2004;53(4):1611―5.

 ウイルスの直接的な赤血球系前駆細胞障害作用による症状と
 ウイルス感染に対する免疫学的反応に基づく症状とに分けられる。
 前者に溶血性貧血患者における一過性無形成発作、免疫不全における赤芽球癆、
 胎児水腫があてはまり、後者に伝染性紅斑、多関節炎、脳炎、
 ウイルス関連血球貪食症候群などが含まれる。

 発熱・倦怠感・頭痛などの感冒様症状のほか、関節痛、筋肉痛、蛋白尿など
 さまざまな症状、データ異常を示す。
 成人の散発例ではどの症状・所見が優位であるかによって誤診が多くなる。

 浮腫、関節痛、紅斑のうち少なくとも二つを示す成人患者において、
 かつ感染のリスクとして
 1)同居の小児が伝染性紅斑の診断を1 カ月以内にうけている
 2)伝染性紅斑が1 カ月以内に流行した学校保育園に勤務している
 3)同居の小児が1 カ月以内に伝染性紅斑が流行した学校か保育園に通っている
 のうち1つを満足する状態を条件として20 症例を選択して抗体価を測定した
 論文があるが、14 例(70%)でヒトパルボウイルスB19IgM 抗体陽性であった。
               Internal Medicine 2007;1975―8.

 四肢遠位部に浮腫性紅斑と紫斑を認めた場合、gloves and socks 症候群と呼ぶ。
               J Am Acad Dermatol 1990;23:850―4.
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●診断
 15歳~成人のヒトパルボウイルスB19 IgG抗体保有率は50%で、年齢とともに
 抗体保有率が高くなり60 歳以上では80%以上とされている。
               MMWR Morb Mortal Wkly Rep 1989;38:81-8, 93-7.
 診断としては、急性期7~10日でIgM抗体が陽性になるのでこれを利用する。
 IgM抗体は一度陽性になると2~6ヵ月持続する。
 一過性にリウマトイド因子陽性になることがあるが、リウマチではない。

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●治療
基本的にパルボウイルスB19に対しての治療の必要性はない。
重症例や遷延例では0.4g/kgの免疫グロブリンを5~10日使用することもある。

●予後
 成人ヒトパルボウイルスB19 感染症はおおむね予後は良好な疾患である。
文責"倉原優"

by otowelt | 2010-05-19 11:34 | レクチャー