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アストラゼネカ社へのイレッサの判決について

―――司法は製薬会社に責任ありとの判決を下した。
イレッサの判決については、おととい26日の一面トップ記事だったので
全国の呼吸器内科医が興味があるニュースだったと思う。

個人的には、読売新聞にも書いてあるように、
メディアが夢の薬と囃し立てたことも責任の一端を担っていると感じている。
また国家賠償法の違法性は認められなかったが、
行政面での責任は重いという意見は多い。

現在もイレッサの恩恵を受けながら服用している患者さんは多い。
今回の司法の決定に驚きと不安を隠せない患者さんも多数おられた。
今回の判決によって、患者さんたちの不安が助長されないようにと切に願う。
また、日経新聞はドラックラグの改善について触れているが、
今回の判決によりドラックラグが一層進むのではないかと、懸念している。


●イレッサ判決 国に責任はないのか(毎日新聞)
 肺がん治療薬イレッサの副作用で死亡した患者の遺族らが起こした損害賠償請求訴訟で、大阪地裁は販売元のアストラゼネカ社の責任を認め計6050万円の損害賠償を支払うよう命じた。どんなに画期的な薬でも、きちんと副作用情報を伝えなければならず、そのために多数の犠牲者を出した責任は取らなければならない、と判決は明確に示した。
 イレッサの添付文書には間質性肺炎という重大な副作用が記載されてはいたが、一番後ろの目立たない場所だった。それが十分な情報提供と言えるのかどうかが訴訟の焦点の一つだった。判決は「添付文書の重大な副作用欄の最初に間質性肺炎を記載すべきであり、そのような注意喚起が図られないまま販売されたイレッサは抗がん剤として通常有すべき安全性を欠いていたと言わざるを得ない」と指摘。同社に対して製造物責任法上の指示・警告上の欠陥があったことを認めた。
 イレッサは販売前から副作用の少ない「夢の新薬」と宣伝され、他に治療法のない肺がん患者らは期待を膨らませた。そうした状況も考えて副作用情報は提供されるべきだったのだ。販売後2年半で557人もの間質性肺炎による死者が出たのは、本来使用すべきでない患者にまで幅広く使われたためと言われる。「平均的な医師等が理解することができる程度に危険情報を提供しなければならない」と判決は指摘する。
 一方、国については「死亡を含む副作用の危険を高度の蓋然(がいぜん)性をもって認識することができなかった。国の措置は許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとは認められない」として賠償請求を棄却した。行政指導に法的な拘束力はなく、同社が間質性肺炎を添付文書に記載することに消極的な態度を示していたため被害を防ぐことはできなかったというのだ。
 しかし、判決に先立って裁判所が出した和解所見では国の救済責任について認めていた。判決でも国の行った行政指導が「必ずしも万全な規制権限の行使であったとは言い難い」とも指摘している。国家賠償法の違法性を認めるまでには至らないが、国の行政指導に問題があったことを認めたと読み取るべきだろう。
 製薬会社が自社の製品にマイナスの情報を出したがらないのは過去の薬害でも繰り返されてきたことだ。だから国は適切な監督権限を行使するよう求められているのではないか。国がもっと踏み込んで指導していればイレッサの副作用被害はここまで広がらなかったに違いない。
 来月には東京地裁で判決が出る。国は重い教訓と受け止め、新薬の安全確保策を強化すべきである。

●イレッサ判決が求めるもの(日経新聞)
 肺がん治療薬「イレッサ」の副作用被害を巡る訴訟で、大阪地裁は、販売開始から3カ月の間に投与を始めたケースに限って、製薬会社に損害賠償を命じた。この期間に薬に添付した「使用上の注意」の副作用を警告する記載が不十分で、その結果、当時のイレッサには製造物責任法上の「製造物の欠陥」が生じていた、との判断だ。
 一方で、国の賠償責任は認めず、イレッサの新薬承認審査に安全性軽視の違法があったとの原告側の主張を退けた。不十分な注意文書を改めさせなかった、規制権限の不行使は「必ずしも万全な対応とは言い難い」と批判しつつも、賠償責任を負う違法はなかったとした。
 権限の不行使は「著しく合理性を欠く場合」にのみ違法になるとする最高裁判例に、国は救われた格好だ。判決は、製薬会社と国には、新薬の副作用情報を十分かつ理解しやすく処方医、患者に伝える責務があると指摘したといえる。
 欧米で高い評価を得ていても国内承認が遅いため治療に使えない薬がある。「ドラッグラグ」と呼ばれる問題だ。イレッサは申請から5カ月の迅速な審査で世界に先駆けて国内で販売が承認され、遅れの解消につながると期待された。製薬産業と国は今回の判決を教訓にドラッグラグ解消の努力を続けてほしい。
 抗がん剤は強い副作用を伴うことが多い「両刃の剣」だ。しかし、他に治療法がない患者にとり、新薬は危険を承知の上の「頼みの綱」でもある。副作用の心配を明記し慎重な使用を促したうえ承認すればよい。市販後も追跡・監視し問題が生じたら敏速に対応することだ。
 イレッサは「夢の新薬」と承認前に報道され、使いやすい錠剤でもあるため、最初の3カ月で約7千人が服用し問題を大きくした。抗がん剤の専門知識に乏しい医師が処方した例もあったとされる。医師の不勉強があったのなら、それは問題だ。
 副作用被害の救済制度に抗がん剤を含める改正案が民主党内で検討されている。死因が病気か副作用か、判断が難しいとの慎重論はあるが、抗がん剤をまったく対象外にするのは不合理ではないか。医学に基づき適正な制度を検討してもらいたい。

●イレッサ訴訟 副作用の警告を重んじた判決(読売新聞)
 致死的な肺炎を起こす副作用の可能性を製薬会社は警告し、注意喚起を図るべきだった。
 肺がんの治療薬「イレッサ」の副作用で死亡した患者の遺族らが損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は製薬会社「アストラゼネカ」に賠償を命じる判決を言い渡した。その一方で、イレッサを承認した国の対応については、「著しく不合理とは言えない」として賠償責任を否定した。副作用死が相次ぐことを予想するのは難しく、対応に著しい誤りはなかったとの判断からだ。大阪地裁は、1月に示した和解勧告の所見で、国にも被害者の救済責任があるとしていた。それだけに、原告にとっては、今回の判決に納得できない部分もあるだろう。
 世界に先駆けてイレッサが日本で承認された2002年当時、ア社は、副作用が少ないことをホームページなどで強調する一方、間質性肺炎を発症する危険性は公表していなかった。発売時の添付文書でも、間質性肺炎は「重大な副作用」欄の4番目に記載されているだけで、「致死的」という説明もなかった。判決は、「注意喚起が図られないまま販売されたイレッサには、製造物責任法上の欠陥があった」と断じている。イレッサは、医師や患者の間では、副作用の少ない「夢の新薬」との期待が広がっていた。
 判決が指摘するように、イレッサは化学療法の知識・経験が乏しい医師も使用する可能性があった。しかも患者が自宅で服用できる飲み薬のため、副作用への警戒が薄いまま広く用いられた。そうした状況であったのなら、ア社はなおさら、詳しい副作用情報を提供すべきだったろう。抗がん剤の多くは、副作用を伴う。製薬会社には、新薬の長所ばかりでなく、負の情報である副作用についても、医師や患者に十分に開示する責任がある。そう指摘した判決は、製薬業界への重い警鐘となろう。判決は国の対応に“お墨付き”を与えたものではない。副作用情報の記載に関する厚生労働省の行政指導については、「必ずしも万全な規制権限を行使したとは言い難い」と批判している。重い病と闘う患者は最先端の薬の登場を待ち望んでいる。安全性をおろそかにすることなく、いかに迅速な新薬承認を実現するか。イレッサの教訓を生かさなくてはならない。

by otowelt | 2011-02-28 09:36 | 肺癌・その他腫瘍

アジア人において、低体重は死亡リスクの多大な上昇と関連

古典的NEJMらしい、大規模な疫学研究。
個人的には、あと数kg太らないといけないという結果になった。
表紙の筆者の数も、きわめて大規模だった。(笑)
Wei Zheng, M.D., Ph.D., Dale F. McLerran, M.S., Betsy Rolland, M.L.I.S.,Xianglan Zhang,M.D., M.P.H., Manami Inoue, M.D., Ph.D.,Keitaro Matsuo, M.D., Ph.D., Jiang He,M.D., Ph.D., Prakash Chandra Gupta, Sc.D.,Kunnambath Ramadas, M.D., Shoichiro Tsugane, M.D., Ph.D., Fujiko Irie, M.D., Ph.D.,Akiko Tamakoshi, M.D., Ph.D., Yu-Tang Gao, M.D., Renwei Wang, M.D.,Xiao-Ou Shu, M.D., Ph.D., Ichiro Tsuji, M.D., Ph.D., Shinichi Kuriyama, M.D.,Hideo Tanaka, M.D., Ph.D., Hiroshi Satoh, M.D., Ph.D., Chien-Jen Chen, Sc.D.,Jian-Min Yuan, M.D., Ph.D., Keun-Young Yoo, M.D., Ph.D., Habibul Ahsan, M.D.,Wen-Harn Pan, Ph.D., Dongfeng Gu, M.D., Ph.D.,Mangesh Suryakant Pednekar, Ph.D., Catherine Sauvaget, M.D., Ph.D.,Shizuka Sasazuki, M.D., Ph.D., Toshimi Sairenchi, Ph.D., Gong Yang, M.D., M.P.H.,Yong-Bing Xiang, M.D., M.Ph., Masato Nagai, M.Sc., Takeshi Suzuki, M.D., Ph.D.,Yoshikazu Nishino, M.D., Ph.D., San-Lin You, Ph.D., Woon-Puay Koh, M.B., B.S., Ph.D.,Sue K. Park, M.D., Ph.D., Yu Chen, Ph.D., Chen-Yang Shen, Ph.D.,Mark Thornquist, Ph.D., Ziding Feng, Ph.D., Daehee Kang, M.D., Ph.D.,Paolo Boffetta,M.D.,M.P.H., and John D. Potter, M.D., Ph.D.

Association between Body-Mass Index and Risk of Death in More Than 1 Million Asians
N Engl J Med 2011;364:719-29.


背景:
 BMIと全死因死亡リスク・死因別死亡リスクとの関連を記した研究の多くは
 欧米を対象にしているとされており、アジアにおいてはデータがない。

方法:
 コホート集団合計19における110万人超の人を対象に、BMIと死亡リスクとの
 関連を調べた。解析に、平均9.2年に発生した死亡おおよそ120700 件を組み込んだ。
 Cox回帰モデルを用いて交絡因子を補正。

結果:
 中国・日本・韓国を含む東アジアのコホート集団において、BMI22.6~27.5の
 死亡リスクが一番低かった。死亡リスクは、BMI がこの範囲以外の人で上昇し
 BMI35.0超の人にいたっては、1.5 倍であった。また15.0以下の人で2.8倍であった。
 癌死、心血管イベント死、その他の原因による死亡のリスクとBMI間において
 同様の関係がみられた。インド人・バングラデシュ人のコホート集団において
 BMI20.0以下の人は、22.6~25.0 の人と比べると上記死亡リスクが高かったが
 BMI高値に関してはリスクは有意にはみられなかった。結論:
 アジア人において、低体重は死亡リスクの多大な上昇と関連。
 特に東アジア人においてはBMI高値による死亡リスクがみられた。

by otowelt | 2011-02-28 05:10 | 内科一般

非アジア人においてEGFR遺伝子コピー数は、生存アウトカムの改善に強く関与

EGFR gene copy number as a predictive biomarker for patients receiving tyrosine kinase inhibitor treatment: a systematic review and meta-analysis in non-small-cell lung cancer
Annals of Oncology 22: 545–552, 2011


背景:
 われわれは、EGFR-TKI単剤を使用して治療した進行非小細胞肺癌患者において
 潜在的な生存バイオマーカーとしてのEGFR遺伝子コピー数を評価した
 システマティックレビューとメタアナリシスを施行した。

方法:
 われわれは、EGFR遺伝子コピー数を
 FISH(Fluorescence in situ hybridization)法あるいは
 CISH(Chromogenic in situ hybridization)法 によって検証した
 進行あるいは再発NSCLC患者でTKIs(エルロチニブあるいはゲフィチニブ)で
 治療した研究を同定。登録臨床試験にはOS、PFS、TTP、EGFR遺伝子コピー数
 のデータがあるものとした。サマリーハザード比は、ランダム効果モデルを用いて
 計算された。

結果:
 255の研究のうち、20(1689人の患者、594の遺伝子コピー数増幅があった)、
 10(822人の患者、290の遺伝子コピー数増幅があった)、5(294人の患者、
 129の遺伝子コピー数増幅があった)がそれぞれOS、PFS、TTPの
 メタアナリシスに組み込まれた。EGFR遺伝子コピー数の増幅は
 OS(HR = 0.77; 95% CI 0.66–0.89; P = 0.001)、
 PFS(HR = 0.60; 95% CI 0.46–0.79; P<0.001)
 TTP (HR = 0.50;95% CI 0.28–0.91; P = 0.02)に有意に関連していた。
 白人患者においては、このEGFR遺伝子コピー数の増幅は、強く生存との
 関与がみられた(HR = 0.70; 95% CI 0.59–0.82; P<0.001)が、
 東アジア腎には影響を与えなかった(HR = 1.11; 95% CI 0.82–1.50; P=0.50)。
 この違いは統計学的に有意であった(P=0.02)。
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結論:
 TKIsで治療した患者において、EGFR遺伝子コピー数は、生存アウトカムの改善に
 影響する。このOSにおける効果は、非アジア人に限定される。

by otowelt | 2011-02-25 16:29 | 肺癌・その他腫瘍

農家に住む小児は、多種多様な微生物曝露のため喘息リスクが低くなる

個人的には、喘息を発症してしまった子供を『療養のため』ということで
田舎に連れて行くのは意味があるのかどうかを知りたい。

Exposure to Environmental Microorganisms and Childhood Asthma
N Engl J Med 2011;364:701-9.


背景:
 農場には多くの微生物がいるが、これに曝露される環境で育った小児は、
 小児喘息やアトピーになりにくいとされている。すでに
 微生物曝露マーカーとこれらアレルギー疾患とに逆相関があるとわかっている。

方法:
 2つの断面研究、農家で生活している小児とコントロール群の小児との間で、
 喘息とアトピーの有病率と、微生物曝露の多様性(diversity)を比較。
 PARSIFAL試験は、マットレスダストのサンプルを用いて
 培養法では測定できない環境細菌を検出するべく一本鎖DNA構造多型解析に
 より細菌のDNAをスクリーニング。GABRIELA試験では、小児の部屋から
 採取した沈積ダストのサンプルを使用して、培養法により
 細菌・真菌分類群をアセスメント。

結果:
 2つの研究の両方ともが、農家で生活している小児はコントロール群の小児と比べ
 喘息とアトピーの有病率が低く、多くの環境微生物に曝露されていた。
 この微生物曝露の多様性は、喘息のリスクと逆相関があった
 (PARSIFAL:OR0.62,95%CI 0.44~0.89、GABRIELA:OR0.86、
 95% CI 0.75~0.99)。サブ解析において、個々の微生物に関しては
 ユーロチウム属の種への曝露(補正OR 0.37,95% CI 0.18~0.76)、
 Listeria monocytogenesBacillus属・Corynebacterium
 への曝露(補正OR 0.57,95% CI 0.38~0.86)であった。
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結論:
 農家の小児は、コントロール群の小児よりも多種多様な微生物に曝露されている。
 喘息リスクと農家で育つことの逆相関関係は、この微生物曝露によって説明できる。

by otowelt | 2011-02-25 05:52 | 気管支喘息・COPD

滅菌手袋のルーチン使用は、血液培養コンタミネーション率を半減させる

アブストラクトだけ読んでも意味不明なので
結局本文を読むことになった。
おおまかにみると(likelyとpossibleの両方を考慮した場合)、
コンタミネーション率に、2倍近い差が出ていることになる。

Effect of Routine Sterile Gloving on Contamination Rates in Blood Culture.A Cluster Randomized Trial
Ann Intern Med. 2011;154:145-151.


背景:
 血液培養におけるコンタミネーションは不適切な抗菌薬使用につながるとされている。
 しかしながら、ガイドラインでは滅菌手袋を血液培養採取時において
 装着することに関して一貫性がない。

目的:
 滅菌手袋をルーチンに使用することが、血液培養のコンタミネーションを
 減らすかどうかを検証。

デザイン:
 cluster randomized, assessor-blinded, crossover trial
 (ClinicalTrials.gov registration number: NCT00973063).

セッティング:
 単施設試験で内科病棟およびICUで施行。

患者:
 64のインターンが血液培養採取に参加。
 彼らはルーチン→必要時選択あるいは、必要時選択→ルーチン
 のいずれかの群にランダムに割り付けられた。
 1854人の成人患者において実施。

インターベンション:
 血液培養採取時の静脈穿刺前にルーチンに無菌手袋を使用する群と
 必要時のみに使用する必要時選択群の2群に割りつけた。
 一般化混合モデルを用いて比較した。

評価:
 単一血液培養陽性の場合、コンタミネーションのこともありうる(likely, possible)
 し、真の病原であることもありうる。
 ・likely:皮膚常在菌であるBacillus species、CNS、
      Corynebacterium species, Enterococcus species,
      Micrococcus species, Propionibacterium species,
      viridans Streptococcusが1血培から検出されること、
      ただし、他の感染部位の同菌で感受性が同一のものではないこと
 ・possible:1血培検出で、likelyあるいは真の病原のいずれも満たさないもの
 ・真の病原:enteric gram-negative bacilli, Pseudomonas species,
      S. pyogenes,S. pneumoniae, Bacteroides species, Candida species
      あるいは他の感染部位の同菌で感受性が同一の病原菌

結果:
 10520の血液培養が解析され、5265がルーチン群による採取、
 5255が必要時選択群での採取であった。
 possibleを含むの全コンタミネーション率は
 ルーチン群0.6%、必要時選択群1.1%であった(調整OR 0.57
 [95% CI,0.37 to 0.87]; P=0.009)。likelyのみのコンタミネーション率は
 ルーチン群で0.5%、必要時選択群で0.9%(調整OR 0.51[95%CI, 0.31 to 0.83]
 P=0.007)であった。
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結論:
 血液培養採取前のルーチンの滅菌手袋装着は
 血液培養におけるコンタミネーションを減らすかもしれない。

by otowelt | 2011-02-22 17:58 | 感染症全般

腎血管筋脂肪腫がLAMにおよぼす影響

腎血管筋脂肪腫は、TSC-LAMの93%、S-LAMの30~50%に
認められるとしている。
Lyphangioleiomyomatosis: a clinical update.Chest 133: 507-516, 2008.

腎血管筋脂肪腫に焦点を当てた論文。

Clinical Features of Lymphangioleiomyomatosis Complicated by Renal Angiomyolipomas
Intern Med 50: 285-289, 2011


目的:
 腎血管筋脂肪腫(R-AMLs)は、リンパ脈管筋腫症(LAM)の重要な
 合併症である。この試験の目的は、LAMの予後や呼吸器の臨床因子に対する
 R-AMLsの影響を理解することであり、R-AMLsのマネジメントを調査することである。

患者および方法:
 われわれはレトロスペクティブにR-AMLsを合併したLAM7患者
 (4人は結節性硬化症合併LAM(TSC-LAM)、3人は散発性LAM(S-LAM))を
 検証した。(1997年~2008年)

結果:
 全ての患者は女性であり、平均年齢はLAM診断時で40.7歳(TSC-LAM:31.7歳、
 S-LAM:52.7歳)であった。5人の患者がR-AMLs関連症状を訴えたが
 1人だけが診断時にR-AMLs関連症状を訴えていた。
 5人は両側、2人が片側のR-AMLsであった。4例においてR-AMLsは
 破裂(ruptured)した(3人がTSC-LAM)。2人が両側破裂し、両側腎摘となった。
 1人は片側のR-AMLsが増大しており、フォローアップ期間中にもう片方にも出現した。

結論:
 LAMにおいて症状のあるR-AMLsは初期には少ないが、重要な合併症である。
 腎摘出を避けるためにも、R-AMLsは径が小さい時に診断をつけ、厳重に
 超音波やCTでフォローアップをしていく必要がある。

by otowelt | 2011-02-22 07:07 | びまん性肺疾患

梅毒検査

外来で2期梅毒をみたのと、結核患者でRPR陽性(偽陽性)が多いので
少し初心に立ち返って勉強してみた。

●梅毒検査の概要
 T. pallidumは現時点では培養不可能な細菌であり、血清学的な診断に
 頼るしか方法がない。T. pallidumは無数のエピトープをもつ細菌で、
 慢性の経過をとる感染症であるためいまだに治療判定を正確に
 診断できる検査がない。

●STS(Serologic Test for Syphilis)法
脂質抗原をプローブとして用いる抗体検査法。
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プローブはカルジオリピンであり、本体は動物細胞の
ミトコンドリアに局在するdiphosphatidyl glycerolである。
抗原・抗体反応から、複数の方法が応用されている。
Wasserman反応もその1つである。
Wassermann, A, et al. Eine serodiagnostische reaktion bei syphilis. Dtsch Med Wochenschr 1906; 32:745.
日本では緒方法が有名である。
ガラス板法のVDRL(Veneral Disease Research Laboratory)テスト、
カードテスト法のRPR カードテストなどが知られているが、ラテックス粒子を
抗原被膜し、抗体の架橋で生じる凝集を光学的に測定する分析が普及している。
reaginを検出するため、感染の早期に陽性となる。また、炎症を反映するため
治療効果の判定にも用いられる。
自己抗体であるため。特異度が低く、生物学的偽陽性が多い。
典型的にはSLEで偽陽性となるが、肝疾患、伝染性単核球症、関節リウマチ、
結核、HIV感染などでも起こり得る現象である。
希釈倍量で表示し、2倍、4倍、8倍と倍数で表示されることが多いが、
1.0などという実数表示もある。これは、ラテックス凝集反応が普及してきたためである。
実数でも、倍数の数字と同等の扱いで考える。
陰性であっても抗体価が著明な高値の場合、前地帯現象(prozone phenomenon)
を考える。頻度は約2 %で、第2 期梅毒患者と妊婦に多い。

●TP(Treponema pallidum)抗原法
抗原法と名がついているが、T. pallidum特異抗体を測定する検査方法である。
T. pallidum Nichols 株より作成された抗原を用いる。
赤血球凝集を判定するTPHA 法と、非病原性Reiter株で非特異的な抗体を吸収した後
病原性のあるNichols株と反応させ、間接蛍光抗体法で特異抗体を検出する
FTA-ABS(Fluorescent Treponemal Antibodyabsorption)法がある。
代表的な検査方法です。最近は、ラテックス凝集試薬やウサギ睾丸で培養された
精製T. pallidum天然抗原を用いる試薬、T. pallidumペプチド
レコンビナント抗原を用いる試薬などがある。
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陽性であれば、梅毒に現在あるいは過去の感染既往があった可能性が高い。
STS法に比べ、感染後に陽性となる時期が遅れる。また、治療後も陽性が続く
ため、治療効果の判定には使えない。

●臨床応用
治療歴がない、RPR・TP抗原法陽性患者は、RPR定量検査を行い
感染後か潜伏期か判別すべきである。
STS(-) TPHA(-):非梅毒、きわめて初期の梅毒、初期梅毒治癒後 
STS(-) TPHA(+):梅毒治癒後の抗体保有、陳旧性梅毒
         歯槽膿漏、伝染性単核症などのTPHA法偽陽性
STS(+) TPHA(-): 初期梅毒、生物学的偽陽性
STS(+) TPHA(+):梅毒(早期~晩期あるいは再感染)、梅毒治癒後の抗体保有、
         梅毒以外のスピロヘータ感染症

・1期梅毒
 下疳(潰瘍のこと)期である。感染初期であるため、血清学的診断が
 役に立たない。疼痛の少ない陰部潰瘍であるが、微生物学的にその部位より
 診断可能である。ほとんどの病院では通常顕微鏡で見ることはできないため
 現実的には診断困難である。FTA-IgM抗体が初期に上昇する。
 RPRよりも早期であるため、RPR陰性・FTA陽性になることがある。

・2期梅毒
 全例STS・TP抗原法が陽性になる。ばら疹が出現する。
 表面にうすい落屑を伴う扁平な紅斑で、四肢に多い。
 RPRタイターが32倍を超えるときは、神経梅毒の合併も考慮。
Syphilis and HIV Infection: An Update. CID 2007; 44:1222-8
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●治療効果判定
 RPRなどのSTSが有用である。TP抗原は全く役に立たない。
 おおよそ1年程度である程度の効果がみられるため、急性期に何度も治療効果判定を
 するのは意味がないとされている。

by otowelt | 2011-02-21 09:05 | 感染症全般

NPPVにおけるトータルフェイスマスクと口鼻マスクのランダム化比較試験

マスクの差を比較した試験は、2008年のIntensitve Care Medで34人の
臨床試験がある。これは、cephalic mask(トータルフェイス)の非劣性を
証明した試験でもある。
Cephalic versus oronasal mask for noninvasive ventilation in acute hypercapnic respiratory failure. Intensive Care Med 2008; 35(3): 519-526

今回、60人の患者において検討。
EVALUATION OF THE TOTAL FACE MASK™ FOR NONINVASIVE VENTILATION TO TREAT ACUTE RESPIRATORY FAILURE
CHEST Published online before print February 17, 2011, doi: 10.1378/chest.10-1905


試験目的:
 われわれは、非侵襲的人工呼吸(NIV)を急性呼吸不全(ARF)に施行する
 ときに、トータルフェイスマスク(TFM)がより快適で通常の口鼻マスク(ONM)よりも
 簡単に適応できる点で利点があると考えた。

方法:
 60人のARFの患者をランダムにNIVにおいてONMとTFMに割りつけた。
 マスク快適さと呼吸困難はVASスケールによって評価した。他のアウトカムとして
 適応するまでの時間、バイタルサイン、ガス交換能、NIV中断率とした。
 
結果:
 マスクの快適さと呼吸困難のスコアは、両群とも3時間使用において同等であった。
 NIVの適応までに要した時間は、ONM:5分(Interquartile range (IQR)2-8)、
 TFM3.5分(IQR1.9-5))で、使用期間は15.7時間(IQR, 4.0-49.8)) 、6.05時間
 (IQR, 0.9-56.7))で差はみられなかった。
 心拍数はTFM群の方が高かったが、そのほかのバイタルサインやガス交換能は
 初期3時間において2群間に差がなかった。(p>0.05)
 早期NIV中断率はONMおよびTFM群において同等であった(40% vs. 57.1%)。
 しかしながら、TFM群の8人の患者はONMに3時間以内にスイッチしたものの
 逆のパターンは観察されなかった(P < 0.05)。
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結論:
 NIVを要する急性呼吸不全患者において、トータルフェイスマスクと口鼻マスクは
 快適さ、適応要求時間などは同等であった。中断率、バイタルサイン改善、
 挿管率、死亡率も同等であった。

by otowelt | 2011-02-18 12:21 | 呼吸器その他

ペンタミジン

ペンタミジンについて。

・ペンタミジン概論
 当初イギリスで1930年代後半に合成され抗原虫剤であり、
 トリパノソーマやリーシュマニアに対して有効であるとされていた。
 1950年代にはPneumocystis carinii(現Pneumocystis jiroveci)に
 肺炎の治療にも有効であることわかり、市販された。
 AIDSにおけるPCPに対するST合剤での治療により、サルファ剤過敏症の
 出現頻度が高いと考えられたため、AIDS-PCPにおいてペンタミジンが
 頻用されるようになった。しかしながら、静脈点滴・筋注によって
 毒性の発現リスクが大きく、全身性の副作用が多くみられたという報告があり
 気管支肺胞表面での薬剤濃度上昇と全身への移行が最小限となるような
 吸入投与法が検討された。
 あまり知られていないが、Candida albicansに対する抗真菌活性があることも
 覚えておきたい。

・作用機序
 in vitro において、P.jiroveciのブドウ糖代謝と蛋白質合成を抑制、
 ジヒドロ葉酸脱水素酵素(DHFR)活性をin vitro/in vivo(ラットだが)双方で抑制。
 左右対称の化学構造である。ミトコンドリア作用、RNAあるいはDNAへの作用など
 いろいろ報告があるが、具体的にはまだわかっていない。
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・分布および排泄
 あまり論文がないので、添付文書から引用。
 2mg/kgを単回吸収投与した場合は肺で特に高く、1時間後に
 5mg/kg i.v.とほぼ同じレベルに達し、48時間後でも低下はわずか。
 一方、腎・肝での濃度は低く、最高濃度で比較すると腎では肺の約1/4、
 肝では肺の約1/20にすぎなかった。ラットにペンタミジンイセチオン酸塩を
 4mg/kg 単回筋肉投与した場合、肺の濃度は腎の約1/13、肝の1/10。
 また4mg/kg を連続筋肉内投与した場合、肺に比べ腎及び肝での濃度が高く
 各組織内濃度とも投与日数が増すにつれ上昇した。また、ペンタミジン
 イセチオン酸塩20~100mg/kg を単回吸入投与した場合、24時間後の濃度
 は筋肉内投与時とは逆に、肺で最も高く、腎・肝では100mg/kg 投与時の腎で、
 肺の約1/7の濃度に認められたのみであった。また、100mg/kg を
 反復吸入投与した場合、肺、腎、肝の順で高く、2週間後では腎・肝の濃度は
 24時間後よりも低下したが、肺の濃度は投与日数1週間以外は逆に上昇した。
 排泄に関しては、さらに論文がない。
 男性AIDS 患者に、ペンタミジンイセチオン酸塩4mg/kg を筋肉内(n=5)、
 あるいは2時間かけて静脈内投与(n=4)した場合、初回投与後24時間で
 尿中に投与量のそれぞれ4.81%、2.51%のペンタミジンが排泄された。
 24時間までのペンタミジンの平均腎クリアランスは、筋肉内投与、
 静脈内投与それぞれ15.41L/hr 及び6.21L/hr で、血漿クリアランスの
 わずか5.0%及び2.5%にすぎなかった。
The Journal of Infectious Disease, 154(6):923-929, 1986

・副作用
 静脈点滴・筋注による市販後の使用成績調査において、副作用は
 410例中184例(44.9%)に発現、悪心7.3%、BUN上昇6.3%、
 腎機能障害6.1%、低血糖5.4%、肝機能障害5.1%、嘔吐4.6%、
 ALT上昇4.1%、AST上昇4.1%、クレアチニン上昇3.7%、ALP上昇2.9%、
 高カリウム血症2.9%、白血球減少2.7%がみられた。
 報告により様々だが、血糖異常、消化器症状、カリウム上昇、腎機能障害が
 有名な副作用と考えてよい。吸入の場合は、それに気管支攣縮が加わる。

・血糖異常
 血糖に関しては、マウスおよびラットにおいて膵β細胞を損傷したためと
 考えられているが、低血糖や高血糖も起こり得るため、よくわかっていない。
 ペンタミジンによってインスリン依存性糖尿病に陥ったという報告もある。
Insulin-dependent diabetes mellitus following pentamidine therapy in a patient with AIDS. Clin Investig 1994; 72:1027.
 これは治療が終了してから数週間,数ヶ月たってからでさえ起こることがある

・腎機能障害
 腎機能障害は、吸入でも十分起こりうるため注意が必要である。
・Acute renal failure after nebulised pentamidine. Lancet 1989; 1:1271
・Nephrotoxicity and hyperkalemia in patients with acquired immunodeficiency syndrome treated with pentamidine. Am J Med 1989; 87:260.


・電解質異常
 低マグネシウム・カルシウム血症については、尿マグネシウム排泄機構に
 起因するという報告がある。
・Symptomatic hypocalcemia and hypomagnesemia with renal magnesium wasting associated with pentamidine therapy in a patient with AIDS. Am J Med 1990; 89:380.
・Severe hypomagnesemia associated with pentamidine therapy. Rev Infect Dis 1991; 13:511.

 カリウム上昇については、遠位ネフロンの輸送系に異常をきたすためと
 考えられている。
・A mechanism for pentamidine-induced hyperkalemia: inhibition of distal nephron sodium transport. Ann Intern Med 1995; 122:103.
・University of Miami Division of Clinical Pharmacology therapeutic rounds: drug-induced hyperkalemia. Am J Ther 1998; 5:125.


 
・ペンタミジンの使用法
 生食あるいはブドウ糖でいきなり溶解すると、にごってしまうので注意。
 点滴・筋注:4mg/kg を1日1回投与。
 点滴の場合1~2時間かけて投与、筋注の場合2箇所以上に分けて投与する。
 吸入:300~600mgを1日1回投与。
 吸入の場合1日1回30分かけて投与する。吸入装置は5μm 以下のエアロゾル
 粒子を生成する能力を有する超音波ネブライザー又はコンプレッサー式
 ネブライザーなどを使用する。

・PCP治療におけるペンタミジンを中心とした論文
 PCPにおいて、ペンタミジン静注とST合剤と比較した論文は以下のものが有名で、
 uptodateにも記載されている。
 50人のPCP患者をST群とペンタミジン群にランダム化したものである。
 本来はST合剤が有用であることを示した論文のようである。
Comparison of pentamidine isethionate and trimethoprim-sulfamethoxazole in the treatment of Pneumocystis carinii pneumonia. J Pediatr 1978; 92:285.

 それより後に出された論文において、ST合剤とペンタミジン静注の効果は
 同等であるとされた。副作用はあまり差がみられていないのも
 ペンタミジン静注にとってはよい論文となった。
・Trimethoprim-sulfamethoxazole compared with pentamidine for treatment of Pneumocystis carinii pneumonia in the acquired immunodeficiency syndrome: a prospective, noncrossover study. Ann Intern Med. 1988;109(4):280-287.
・Treatment of Pneumocystis carinii pneumonitis: a comparative trial of sulfamethoxazole-trimethoprim v pentamidine in pediatric patients with cancer: report from the Children’s Cancer Study Group. Am J Dis Child. 1984;138(11):1051-1054.


 アトバコン、ダプソン・トリメトプリム、クリンダマイシン・プリマキンの
 レジメンが代替薬として有名であるが、ST合剤やペンタミジンほどの
 効果を出すことはできなかった。
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・Comparison of atovaquone (566C80) with trimethoprimsulfamethoxazole to treat Pneumocystis carinii pneumonia in patients with AIDS. N Engl J Med. 1993; 328(21):1521-1527.
・Comparison of three regimens for treatment of mild to moderate Pneumocystis carinii pneumonia in patients with AIDS: a double-blind, randomized, trial of oral trimethoprim-
sulfamethoxazole, dapsone-trimethoprim, and clindamycin-primaquine: ACTG 108 Study
Group. Ann Intern Med. 1996;124(9):792-802.


 2001年にメタアナリシスがあるが、ここではクリンダマイシン・プリマキンが
 サルベージ治療として一番成績がよかったと書いている。
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A meta-analysis of salvage therapy for Pneumocystis carinii pneumonia.Arch Intern Med. 2001 Jun 25;161(12):1529-33.

 最近の論文で、HIV-PCPにおいて、セカンドライン治療として
 ペンタミジンとクリンダマイシン・プリマキンを比較したものがあるが、
 副作用関連死が多いため、ペンタミジンに劣性評価がなされている。 
 ただ、レトロスペクティブ観察試験であり、なんとも言えないと筆者は述べている。
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Clinical efficacy of first- and second-line treatments for HIV-associated Pneumocystis jirovecii pneumonia: a tri-centre cohort study.J Antimicrob Chemother. 2009 Dec;64(6):1282-90.

 クリンダマイシン・プリマキンは悪くないが、プリマキンが経口薬しかない。
 ゆえに腸管吸収の信頼性は乏しいという欠点がある。その点もあってか、以下の
 レビューでは、セカンドラインにペンタミジンがよいのではないかと述べている。
Evolving Health Effects of Pneumocystis One Hundred Years of Progress in Diagnosis and Treatment.JAMA. 2009;301(24):2578-2585.

 サンフォードではペンタミジンはPCP治療のセカンドラインとして記載
 されていない。あくまでPCP予防のセカンドラインの立場である。
 uptodateでは、全て並列のalternativeと考えられている。
 現段階では、ST合剤に続くセカンドライン・サルベージ薬剤について
 どれがベストかという結論は早計であると考えられる。

 ただ超重症例のケースにおいては、消化管吸収能を考慮すべきであるとの
 意見も散見されるため、必然的にST合剤IV→ペンタミジンIVの流れになるのだろうか。
 

・ペンタミジンと併用してはいけない薬剤
 頻度的にアミオダロンには注意したいところである。
 ホスカビルはAIDS領域ではありうるか?
 また、腎障害のリスクが大きくなるようなファンギゾンなどの薬剤とは
 できる限り併用したくない。

 アミオダロン:TdPリスクの上昇(QT延長ということか?)
 ホスカビル:低カルシウム血症
 ハイビッド:劇症膵炎発症の報告あり 

by otowelt | 2011-02-17 17:03 | 感染症全般

エキノキャンディン系抗真菌薬

●キャンディン系抗真菌薬について
・概論
 1974年に環状ヘキサペプチドであるechinocandin B が
 Aspergillus nidulans var.echinatus から分離。
 これにより、新たな抗真菌薬の開発が進んだ。
Echinocandin B,ein neuartiges polipeptide–antibiotikum aus Aspergillus nidulans var.echinatus: Isolierung und Bausteine. Helvetica Chimica Acta 57: 2459~2477,1974
 ミカファンギンは福島県木戸川から分離された糸状菌Coleophoma empetri
 の培養液より単離されたリポペプチド抗真菌物質FR901379の側鎖変換により
 合成された化合物である。ミカファンギンをはじめとするエキノキャンディン系は、
 真菌細胞壁のβ-1-3グルカン合成酵素に作用し抗菌力を発揮する。
 きわめて分子量が大きく、腸管から吸収されないため経口薬がない。
 アメリカではFDA によって最初にカスポファンギン(2001年)、
 続いてミカファンギン(2005年)、アニデュラファンギン(2006年)
 が承認された。日本はミカファンギンが2002年に承認されている。
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・作用機序
 エキノキャンディン系抗真菌薬の標的は、β-1-3-グルカン合成酵素の
 触媒サブユニットと考えられている。
Identification of the FKS1 gene of Candida albicans as the essential target of 1,3-beta-D-glucan synthase inhibitors. Antimicrob Agents Chemother 41: 2471-2479, 1997.
 エキノキャンディンによって酵素活性が阻害されると、β-1,3-グルカン
 の合成がストップし、菌が正常形態を保持できなくなる。
 エキノキャンディン耐性株ではFksp の特定領域に単一アミノ酸置換が
 みられるため、この部位がエキノキャンディン結合部位である可能性がある。
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・スペクトラム
 抗真菌薬の中では、スペクトラムが広いのが特徴である。
 アゾール系に耐性の菌種や菌株(Candida glabrata,C. kruseiなど)に
 抗真菌活性を示す点で利点がある。
 エキノキャンディン系はカンジダ属の主要な菌種(C. albicans,C. glabrata,
 C. krusei)とアスペルギルス属に高い感受性がある。カンジダ属には殺菌的、
 アスペルギルス属には静菌的である。
 C. glabrata,C. kruseiは、第一選択として臨床的にはエキノキャンディン系
 あるいはポリエン系が選ばれる。C. parapsilosisではエキノキャンディン系
 が効きにくいため,フルコナゾールないしポリエン系を選択するべきである。
 また、エキノキャンディンは、他の薬剤が効きにくいバイオフィルム中の
 C. albicans に対しても抗菌活性を示すことが知られている。
In vitro susceptibility of invasive isolates of Candida spp. to anidulafungin, caspofungin, and micafungin: six years of global surveillance. J Clin Microbiol 46: 150-156, 2008.
In vitro activity of caspofungin against Candida albicans biofilms. Antimicrob Agents Chemother 46: 3591-3596, 2002.

 しかしながら、Cryptococcus neoformansやTrichosporon cutaneum
 のような担子菌類、糸状菌Fusarium、Mucor・Rhizopusなどの接合菌類
 は自然耐性である点は覚えておく必要がある。
Activities of antifungal agents against yeasts and filamentous fungi: assessment according to the methodology of the European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing. Antimicrob Agents Chemother 52: 3637-3641, 2008.

・代謝
 肝代謝であり、腎機能により投与量を調節する必要がない。
 また、CYP3A代謝活性には大きな影響をおよぼさないとされている。
 実際にCYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1で代謝される
 7-エトキシレゾルフィン、トルブタミド、S-メフェニトイン、デブリソキン、クロルゾキサゾン
 の代謝をほとんど阻害しなかったとする報告もある。
In vitro におけるmicafungin の薬物相互作用.日化療会誌.2002;50(S-1):94-103.
 ラットに14C–MCFG を1 mg/kg 静脈内投与すると、アイソトープ標識
 薬剤は各組織に広く分布し、投与後5分で血漿中アイソトープ標識薬剤濃度
 より高値を示した組織は肺および腎臓。(それぞれ血漿中濃度の1.86・1.09 倍)
 脳にはほとんど移行しなかった(0.02倍)。
 また、尿路感染症にはエキノキャンディン系は実績がほとんどないため
 使わないほうが無難であろう。
 健康成人にミカファンギンの25、50、75mgを30分間、あるいは150mgを1時間で
 静脈内持続投与したときのT1/2、Vdss、CLtは投与量で差がみられず、
 T1/2が13.9±1.0時間、Vdss 0.228±0.016L/kg、
 CLt 0.197±0.018mL/min/kgであった。
Micafungin の高用量での薬物動態試験.日化療会誌.2002;50(S-1):155-184.

・副作用
 主なものは静脈炎や血管痛、あるいは発疹など軽度のアレルギー反応で、
 検査値異常では肝酵素の上昇、血清カリウム値の軽度の変動などが報告。
 ただ、ほかの抗真菌薬の副作用に比してかなり軽度と考えてよい。
 まれに好中球減少やアナフィラキシー様反応など重篤な副作用が出る。
 ガイドラインでは、肝障害時においてカスポファンギンだけは用量調節をすすめている。

・paradoxical effect
 感受性菌種がMIC以上の濃度で再び発育する現象である。
 in vitroでの報告が多い。まだ臨床では明らかになっていない。
 薬剤を除去すると菌は本来の感受性に戻るので、この現象はストレスに対する
 一時的な適応と考えられる。
 カスポファンギンの方がミカファンギンやアニデュラファンギンより
 paradoxical effectを起こしやすいといわれている。
Paradoxical effect of Echinocandins across Candida species in vitro: evidence for echinocandin-specific and candida species-related differences. Antimicrob Agents Chemother 51: 2257-2259, 2007.
 paradoxical effectは、菌種によって起こしやすいもの(C. albicans,
 C. tropicalis,C. krusei,C. parapsilosis)と起こしにくいもの
 (C. glabrata)がある。

・臨床使用
 カンジダ感染症においては、一般的にはalternativeの立場と覚えてよい。
 ただ、C. glabrata、C. krusei感染では推奨、C. parapsilosisでは非推奨。
 ただ、臨床的にparapsilosisでも効果ありと考える専門家もいる。
Echinocandins—an advance in the primary treatment of invasive candidiasis. N Engl J Med 2002; 347:2070–2.
Echinocandins for candidemia in adults without neutropenia. N Engl J Med 2006; 355:1154–9.

 新生児のカンジダ症では、耐性や副作用でフルコナゾールやAmB-dが使用できない
 場合可能としている。
 アスペルギルスにおいては、侵襲性アスペルギルス症での使用法がベースとなるが、
 ボリコナゾールより下位になるものの第二選択として位置づけられている。
Multicenter, noncomparative study of caspofungin in combination with other antifungals as salvage therapy in adults with invasive aspergillosis. Cancer
2006; 107:2888–97.
Micafungin (FK463), alone or in combination with other systemic antifungal agents, for the treatment of acute invasive aspergillosis. J Infect 2006; 53:337–49.

 少なくともポリエン系の抗真菌薬と同等であると考えられているのは
 以下の論文に基づくものと推察される。
Comparison of Caspofungin and Amphotericin B for Invasive Candidiasis. N Engl J Med 2002; 347:2020- 9

・使用量
 1例だが、
 カスポファンギン:loading dose of 70 mg → 50 mg daily
 アニデュラファンギン:loading dose of 200 mg →100 mg daily
 ミカファンギン:100 mg daily 最大量300mg/day

by otowelt | 2011-02-16 06:08 | 感染症全般