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ボツリヌス毒素Aの成人慢性頭痛に対する効果

顔面のしわ取りを目的にボトックス治療を受けた患者において
片頭痛が軽くなることが2000年に発見され、いろいろな臨床試験が
実施されてきた。頭が破裂しそうなcrushingタイプ、締め付けられるような
vicelikeタイプ、眼球が飛び出るくらい痛いeye-popping:ocularタイプの
片頭痛には効果があるとされている。
Christine C. Kim, et al. Predicting Migraine Responsiveness to Botulinum Toxin Type A Injections. Arch Dermatol 2010; 146: 159-163

JAMAより、効果的であるとの報告。
ただし1ヶ月に頭痛エピソード2回程度の減少と関連しているのみで
思ったほどの効果ではなさそうだ。

Jeffrey L. Jackson, et al.
Botulinum Toxin A for Prophylactic Treatment of Migraine and Tension Headaches in Adults
A Meta-analysis
JAMA. 2012;307(16):1736-1745. doi: 10.1001/jama.2012.505


背景:
 ボツリヌス毒素Aは慢性偏頭痛の予防に対して効果があると
 考えられている。

目的:
 ボツリヌス毒素Aが成人の偏頭痛の予防治療に有用かどうか評価する。

データ:
 MEDLINE, EMBASE,Cochrane trial registriesなど。
 1966年から2012年までのデータを使用。
 試験は、成人の頭痛においてボツリヌス毒素Aとプラセボを
 比べた試験を登録した。

結果:
 ボツリヌス毒素Aは、chronic dailyの頭痛患者において
 1ヶ月あたりの頭痛の減少と関連(1115 patients,
 −2.06 頭痛/月; 95% CI, −3.56 to −0.56; 3試験)、
 また慢性偏頭痛患者においても同様であった(n = 1508,
 −2.30 頭痛/月; 95% CI, −3.66 to −0.94; 5試験)。
 episodic偏頭痛においては有意差はみられなかった 
 (n = 1838, 0.05頭痛/月; 95% CI, −0.26 to 0.36; 9試験)。
 慢性緊張型頭痛においても同様に差はみられなかった
 (n = 675, −1.43頭痛/月; 95% CI, −3.13 to 0.27; 7試験)。
 1つの試験において、ボツリヌス毒素Aは、バルプロ酸と比べて
 偏頭痛減少と関連性はみられず(SMD, −0.20;
 95% CI, −0.91 to 0.31)。topiramate
 (SMD, 0.20; 95% CI, −0.36 to 0.76)や、アミノトリプチン
 (SMD, 0.29; 95% CI, −0.17 to 0.76)においても関連性なし。
 ボツリヌス毒素Aは慢性緊張型頭痛においてメチルプレドニゾロン点滴静注
 と比べて、頭痛減少に関連(SMD, −2.5; 95% CI, −3.5 to −1.5)。

結論:
 ボツリヌス毒素Aは、プラセボと比較して、成人の
 chronic daylyの頭痛、偏頭痛において中等度相当の効果と関連
 していたが、epidsodicな偏頭痛や緊張型頭痛とは関連性がみられない。

by otowelt | 2012-04-30 21:45 | 内科一般

内部に網状影を伴う、"太い"reversed halo signはOPよりも侵襲性真菌感染症を疑わせる

侵襲性肺アスペルギルス症がhalo signだけでなくreversed halo signを
伴うことがあるため、内外のコンソリデーション濃度の差というのが
侵襲性真菌症を疑うひとつの情報になることは
呼吸器内科医にとって重要な知識である。
ただ、reversed halo signはCOPにおいても観察される所見であるため
これらを画像上区別する方法についてはこの論文は重要な知見となるだろう。

Edson Marchiori, et al.
Reversed Halo Sign in Invasive Fungal Infections: Criteria for Differentiation from Organizing Pneumonia
CHEST, Published online before print April 26, 2012


背景:
 このスタディの目的は、CTにおいてreversed halo sign (RHS)が
 OPよりも侵襲性真菌感染症invasive fungal infections (IFI)を示唆する
 所見を同定するためにおこなわれた。

方法:
 われわれはレトロスペクティブにCTにおいてRHSがみられたIFI患者あるいは
 OP患者を登録した。このスタディには15人のproven or probable IFI患者
 (8人が男性、7人が女性)、および25人の生検確定のOP患者(13人が女性、
 12人が男性)を登録した。CTは2人の放射線科医によって個別に評価された。

結果:
 IFI患者において、RHS内部に網状影が93%にみられた(14/15)。
 しかしながらOP患者ではこれは認められなかった。コンソリデーションの
 縁の最大肥厚はIFIにおいて2.04 ±0.85 cm であり、OPにおいて
 0.50 ± 0.22 cmであった。胸水はIFIにおいて73% (11/15)にみられたが
 OPではみられなかった。線状影は両群ともに観察された。
 RHSの病変数についても差はみられなかった。

結論:
 RHS内部に網状影がみられ、コンソリデーションの縁どりが1cmより肥厚して
 胸水がみられるような場合は、OPよりもIFIが疑わしい。

by otowelt | 2012-04-30 11:42 | びまん性肺疾患

HIV感染症における肺結核の画像所見

・HIV感染者の肺結核の画像所見
 肺結核を発症した患者、特に粟粒結核を発症して入院した患者さんの
 中には、時にHIV感染症を有する患者がおられる。
 いわゆる”いきなりAIDS”と呼ばれる病態である。
 HIV感染者の肺結核の画像所見は、免疫機能の強さによってまちまち
 であるが、CD4陽性リンパ球が200/μLをカットオフ値として
 画像所見も変化すると考えられており、それが低い場合は
 非典型的な肺結核画像所見をとることが多いとされている。
 具体的には、リンパ節主体の病変や多発性浸潤影などであり、
 前述のように粟粒結核の頻度も高くなる。
Leung AN, et al. Pulmonary tuberculosis: comparison of CT findings in HIV-seropositive and HIV-seronegative patients. Radiology 198: 687-691, 1996.

・リンパ節
 リンパ節は中心に壊死や活動性病変を示唆する低吸収域が観察
 されるが、特異度は高くない。
Hartman TE, et al. Diagnosis of thoracic complications in AIDS: accuracy of CT. AJR 162; 547-553, 1994.
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 しかしながら、肺内に陰影がみられずリンパ節のみの病変を呈する
 ことがあるため、AIDS患者における発熱においては
 結核の精査のために縦隔リンパ節の確認を行うべきであろう。
 CD4陽性リンパ球が200/μL未満の場合、21%の症例において
 レントゲンで異常所見が指摘できないとされている。
Greenberg SD, et al. Active pulmonary tuberculosis in patient with AIDS: spectrum of radiographic findings. Radiology 193; 115-119. 194.

・肺内
 気道周囲の散布影が特徴的といわれている肺結核だが、
 AIDSにおいては気道周囲の陰影はむしろ少ない。
 空洞病変については多いという報告もあれば少ないという報告も
 あるため、現時点では結論はでていない。
David C. Perlman, et al.Variation of Chest Radiographic Patterns in Pulmonary Tuberculosis by Degree of Human Immunodeficiency Virus–Related Immunosuppression. Clinical Infectious Diseases 1997;25:242–6
 免疫正常者と異なる点はそれ以外にも、肺の中下葉に比較的多いこと、
 胸水貯留をみられることが多いこと、粟粒結核所見がみられやすいこと、
 両肺にみられることが多いこと、などが挙げられる。
Burman WJ, et al. Clinical and radiographic features of HIV-related tuberculosis. Semin Respir Infect 18; 263-271, 2003.
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 粟粒結核のみに絞ると、HIV感染者における所見は
 陰性者と比べると、小葉間隔壁肥厚(p = 0.017),
 壊死性リンパ節病変(p = 0.005)、胸郭外病変(p = 0.040)が
 有意に多く、結節は小さいものが多かった(p = 0.031)。
Kim JY, et al. Miliary tuberculosis: a comparison of CT findings in HIV-seropositive and HIV-seronegative patients. Br J Radiol. 2010 Mar;83(987):206-11.
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文責"倉原優"

by otowelt | 2012-04-29 23:51 | 抗酸菌感染症

呼吸器外科手術におけるUKスリムドレーン

外科領域では低侵襲手術が善しとされる傾向にある昨今だが、
術後管理においても細径のスリット型ドレーンが使用されることがある。
しかしながら、細いドレーンを留置すると必ずついてまわる問題が
吸引力不足とフィブリン・血塊などによる閉塞である。
UKスリムドレーンを呼吸器外科手術後の管理に用いた試験が
呼吸器外科学会雑誌から出ていた。これは個人的に非常に興味深い。
UKスリムドレーンが3溝である理由は、表面積を拡大し、
スリット/チューブ移行部を短縮するためである。さらに
ウロキナーゼコーティングにより、閉塞リスクを減らした製品でもある。

井上匡美ら
呼吸器外科手術におけるウロキナーゼ抗血栓加工ポリウレタン製スリット型ドレーンの基礎的および臨床的試験
日呼外雑誌Vol. 26 (2012) , No. 2 ,114-118


概要:
 我々は3溝で断面積を31-33%拡大し,ウロキナーゼ抗血栓加工を施した新たなポリウレタン製スリット型ドレーン(UKスリムドレーン)を評価した.5・10・15 cmH2Oにおける吸引量は,19Frで234±9.2・391±9.5・527±13ml/分,24Frで407±3.6・686±6.7・883±6.7 ml/分であった.血栓形成試験で4時間以上血栓形成を認めなかった.スリット・チューブ移行部の引張限界強度は19Frで16.8±0.9 kgf,24Frで21.3±2.6 kgfであった.次に,呼吸器外科手術20例を対象にUKスリムドレーン24Frの術後使用における認容性試験を施行した.留置日数は2-7日(中央値4日).最大疼痛レベルはPrince Henry Pain Scale1-3(中央値2)であった.ドレーン追加を要する肺瘻または胸水の吸引不良は認めなかった.UKスリムドレーン24Frは呼吸器外科手術で使用できる.

by otowelt | 2012-04-27 18:07 | 呼吸器その他

気管支鏡時に抗菌薬投与は必要か?

・はじめに
呼吸器内科医にとって気管支鏡は日常的におこなう慣れた検査
であるが、臨床試験やエビデンスの開拓が進まない領域でもある。
気管支鏡時に全例に抗菌薬を投与している病院は聞いたことはないが、
施設によっては、光線力学的療法(PDT)や気管支肺胞洗浄(BAL)の
症例で検査後に抗菌薬を予防的に投与している病院もある。
しかし、この抗菌薬投与に果たしてどれくらい意義があるのだろうか。

・ガイドライン
気管支鏡の抗菌薬について言及しているガイドラインは、
たとえばイギリス呼吸器学会のものがある。
http://www.brit-thoracic.org.uk/guidelines/bronchoscopy-guidelines.aspx
The British Thoracic Society Bronchoscopy Guideline Committee: a sub-Committee of the Standards of Care Committee of the British Thoracic Society - Thorax 2001. 56: (Suppl I); i1-i 21.

アドバンスな処置に関するガイドラインは2011年に同学会から発表
されているが、基本的な気管支鏡のガイドラインは2001年以降更新
されていない。ガイドラインによれば、脾摘後、人工弁装着後、
細菌性心内膜炎の既往のある場合など特殊な患者以外で
抗菌薬の予防投与は不要とされている。

日本呼吸器内視鏡学会からもガイドライン(指針)が出ているが、
「気道が閉塞や狭窄している症例での肺生検や肺胞洗浄などの検査後は
気道粘膜の浮腫による閉塞・狭窄の増悪によって感染を引き起こすことが
あるので抗生剤の投与を考慮する必要がある」と記載されている。
この根拠は特に記載されていない。私個人としては、
このメカニズムは理解はできるが納得はしていない。
気管支鏡検査を安全に行うために 日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡安全対策委員会編

・臨床試験
やや古い論文であるが、抗菌薬投与群で処置後2日目の
発熱が有意に抑えられたとする報告がある。
しかしながら感染については差がみられておらず、
抗菌薬の投与については意義は乏しいと結論づけている。
坂 英雄ら. 気管支鏡および気管支造影後の発熱に対する抗生物質予防投与の検討.呼吸と循環1992;40:1105-84.

大阪市立大学からの報告で、3日間の抗菌薬投与が気管支鏡後の
感染症の発症を抑えられるか検討したものがある。ランダムに、
アジスロマイシン(500mg/day)、セフカペン/ピボキシル(300mg/day)、
抗菌薬投与なしの3群に割り付けたものである。310人の患者のうち
9人(2.9%)が気道感染を気管支鏡生検後に発症した。感染を
起こした患者は全例気管支鏡所見において異常所見がみられたもので、
感染を起こした患者のうち60%が非治療群、26.7%が
セフカペン/ピボキシル群、13.3%がアジスロマイシン群であった。
アジスロマイシンの方が非治療群よりもやや感染率が低い傾向に
あった(P = 0.06)。ただ、この報告で統計学的解析をおこなうのは
少し強引で、様々なバイアスが絡んでいる可能性がある。
Kanazawa H, et al. Efficacy of azithromycin administration in prevention of respiratory tract infection after bronchoscopic biopsy: A randomized, controlled trial. Respirology 2007;12:70–75.

国立病院機構の3施設において、前向きに検討したスタディがあるが
登録症例4942人という大規模なデータを用いて検証している。
予防的抗菌薬投与に関するpropensity scoreによる
propensity-matched cohortを解析に用いた。
予防的抗菌薬の投与は1672人(33.8%)においておこなわれ、
治療的抗菌薬の投与は145人(2.9%)、感染症発症は107人(2.2%)
に確認された。propensity-matched cohort3520人において、
予防的抗菌薬投与の治療的抗菌薬投与ORは0.83(95%CI 0.54-1.27)、
感染症発症ORは1.00(95%CI 0.61-1.63)であった。
患者報告アウトカムにおいて、予防投与群で有意に良好なアウトカムは
なかった。そのため、予防的抗菌薬は意味がないと結論づけている。
(2012年4月時点で該当論文なし)

・さいごに
気管支鏡時の抗菌薬使用に関して、現時点で有用なエビデンスはない。
しかしながら、気管支鏡が口腔内常在菌を末梢気道に押し込んで
しまうことで肺炎を誘発するようなことが懸念される状況、あるいは
気管支狭窄がみられ処置後に閉塞性肺炎を惹起する可能性が高い
と想定される場合には、抗菌薬は投与してもよいかもしれない。
かといって投与しやすい経口第3世代セフェムに飛びつくのは
私個人としては反対である。また、予防投与によって肺炎が
起こらなかった場合や、予防投与をせずに肺炎を発症した場合に、
「やはり抗菌薬は使用すべきだ」という、個と全を混同した意見を持つことは、
臨床医としてはいささか短絡的かもしれない。

by otowelt | 2012-04-26 18:28 | コントラバーシー

ピラジナミド耐性結核は全剤感受性結核よりも予後不良

12.6%でアウトカム情報が得られなかったのはなぜだろう…。

Yee, D. P, et al.
Clinical outcomes of pyrazinamide-monoresistant Mycobacterium tuberculosis in Quebec
The International Journal of Tuberculosis and Lung Disease, Volume 16, Number 5, 1 May 2012 , pp. 604-609(6)


背景:
 ケベックにおいて全結核のうち6.2%がピラジナミド単独耐性(PZAMR)
 である。PZAMRの臨床的重要性についてはよくわかっていない。
 
方法:
 カナダ生まれの患者で、1990年1月から2000年12月の間に
 PZAMR結核と診断された患者を、過去の報告におけるカナダ生まれの
 同時期の全剤感受性結核患者と比較する。
 
結果:
 318人の患者が登録され、40人(12.6%)でアウトカム情報が
 得られなかった。平均治療期間はPZAMRおよび全剤感受性結核において
 それぞれ9.0ヶ月、8.9ヶ月であった。91%のPZAMR結核、89%の
 全剤感受性結核においてリファンピシンを含めた治療を最低6ヶ月受けた。
 PZAMR患者67人のうち、51人(76%)が治癒し、3 人(4%) が再発、
 治療失敗はおらず、16人(24%)が診断6ヶ月以内に死亡した。
 全剤感受性結核211人のうち、181人(86%)が治癒し、2人(1%)が再発、
 2人(1%)が治療失敗、30人(14%)が診断6ヶ月以内に死亡した。
 PZAMR結核は全剤感受性結核と比較して、臨床アウトカムの成功に対する
 オッズ比を低下させた(OR 0.4, 95%CI 0.2-0.8)。

結論:
 PZAMR結核は、全剤感受性結核株よりも有意に予後不良である。

by otowelt | 2012-04-26 13:22 | 抗酸菌感染症

MDR-TBにおける肝機能障害と予後との関連

Keshavjee, S, et al.
Hepatotoxicity during treatment for multidrug-resistant tuberculosis: occurrence, management and outcome
The International Journal of Tuberculosis and Lung Disease, Volume 16, Number 5, 1 May 2012 , pp. 596-603(8)


セッティング:
 ロシアのTomskにおける多剤耐性結核(MDR-TB)治療プログラム

目的:
 MDR-TB治療における肝機能障害のマネジメントを記載し、
 これによる治療アウトカムへの影響を考察する。

デザイン:
 608人の患者におけるレトロスペクティブの症例シリーズ

結果:
 アメリカ胸部学会2006年の定義による肝機能障害が
 568人のうち91人(16.5%)にみられた。最初の肝機能障害イベントが
 みられた中央時間は196日目であった。ベースラインの因子が
 肝機能障害と相関しており、ALT/AST/ビリルビン上昇
 (OR 53.9, 95%CI 6.30-438.7),
 腎機能障害(OR 19.6, 95%CI 2.71-141.6)がそれに寄与した。
 治療アドヒアランスの高さ(OR 3.25, 95%CI 2.07-5.09)および
 刑務所内での治療開始(OR 1.77, 95%CI 1.04-3.01)は
 治療成功と関連していた。喫煙(OR 0.44, 95%CI 0.21-0.92)、
 両肺空洞陰影(OR 0.51, 95%CI 0.34-0.77) は転帰不良と
 関連していた。アルコール常用者において、肝機能障害は
 健常者よりも良好なアウトカムと関連していた(OR 4.40, 95%CI 1.79-10.81 vs
 OR 0.42, 95%CI 0.25-0.68)。91人中10人において
 1つ以上の薬剤が永続的に中止されたが、治療中断例はなかった。

結論:
 肝機能障害のみられたMDR-TB治療は、統計学的に有意な
 転帰不良とは関連しないと考えられる。

by otowelt | 2012-04-26 13:04 | 抗酸菌感染症

重症敗血症においてde-escalation率は43%

言わずもがな、surviving sepsis campaignでは
できる限りすみやかなde-escalationが推奨されている。
Dellinger RP, et al: Surviving Sepsis Campaign: International guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2008. Crit Care Med 2008; 36:296–327

実臨床において、特に重症患者さんの場合に
すみやかなde-escalationを実施できているケースは多くないが、
Crit Care Medからある報告。

Sarah Heenen,et al
Antibiotic strategies in severe nosocomial sepsis: Why do we not de-escalate more often?
Critical Care Medicine: May 2012 - Volume 40 - Issue 5 - p 1404–1409


目的:
 院内発症の重症敗血症患者における抗菌薬のde-escalation
 がおこなわれているかどうか調べる。

デザイン:
 ICUにおいて1年以上の期間、重症敗血症のエピソードをレビューした。
 抗菌薬治療は、抗菌薬がin vitroにおいて原因微生物に対して活性が
 あった場合に適正使用と判断した。抗菌薬治療開始から5日後の治療戦略に
 ついて以下の如くわれわれは分類をおこなった。
 ・de-escalation
 ・抗菌薬変更なし
 ・escalation
 ・混合
De-escalation was defined either as the discontinuation of an antimicrobial agent (antibiotic or anti-fungal) or as a change from one antibiotic to another,
i.e., from meropenem to any other b-lactam, from ceftazidime, cefepime, or piperacillin/tazobactam to amoxicillin-clavulanic acid or any other type of penicillin, or from vancomycin to any type of penicillin

セッティング:
 35床の内科外科ICUにおいて、週3回感染症専門家による
 レビューを受け、抗菌薬戦略を計画

患者:
 169人の患者において、216の重症敗血症(広域βラクタム系抗菌薬単独
 あるいは他の抗菌薬との併用を必要とする院内感染症による)エピソード
 がみられた。

結果:
 感染源は44%が肺で、38%が腹部であった。
 微生物学的データは216の敗血症エピソードのうち167で
 有用であった(77%)。初期抗菌薬治療は27エピソードにおいて不適切
 であった(培養陽性エピソードの16%)。
 de-escalationは93エピソード(43%)で確認され、escalationは
 22エピソード(10%)でみられた。混合は24エピソード (11%)でみられ、
 抗菌薬の変更がなかったのは77エピソード(36%)であった。
 de-escalationが失敗したエピソードは4(5%)と少なかった。

結論:
 集中治療や感染症専門家のコラボレーションがあるような環境においても
 de-escalationの実施は50%を下回った。

by otowelt | 2012-04-25 05:17 | 集中治療

末期癌における緩和的鎮静は生存に対して影響を与えない

当院ではミダゾラムやセレネースなどの薬剤を
皮下から投与して緩和的鎮静をはかることが多い。
主治医の独断で行うことはなく、ナース、緩和ケアチーム、患者家族の
全員で決めるようにこころがけている。

Marco Maltoni, et al.
Palliative Sedation in End-of-Life Care and Survival:
A Systematic Review
JCO April 20, 2012 vol. 30 no. 12 1378-1383


目的:
 緩和的鎮静は、進行癌患者における抵抗性の症状から解放するための
 臨床的方法である。鎮静薬を使用することで残された時間を短くすると
 されるが、鎮静した場合としなかった場合を比較した試験はすくない。
 われわれは、緩和的鎮静の臨床プラクティスにおける影響を解析し
 システマティックレビューをおこなった。またデータがあるものは
 生存の解析も行った。

方法:
 1980年1月から2010年12月の文献(MEDLINE、EMBASEデータ
 ベースより抽出)によるシステマティックレビューを実施。
 緩和的鎮静、終末期鎮静、抵抗性症状、癌、悪性新生物、緩和ケア、
 終末期疾患、終末期ケア、生存などの語句を検索に含めた。
 また、電子文献目録の検索もおこなった。

 
結果:
 10のレトロスペクティブあるいはプロスペクティブの非ランダム化試験で
 1807人の連続患者のうち、621人(34.4%)が鎮静を受けていた。
 1つの症例対照研究は解析対象から外れた。
 もっともよくみられた鎮静理由は、終末期におけるせん妄であった
 (median, 57.1%; range, 13.8% to 91.3%)。
 続いて、Psychological distressが19%、呼吸困難が14%であった。
 ベンゾジアゼピンが最もよく使用された薬剤カテゴリーであった。
 ミダゾラムが49%、その他のベンゾジアゼピンが22%、
 ハロペリドールが26%、クロルプロマジンが14%で使用。
 生存に関して鎮静群と非鎮静群で比較すると、鎮静アプローチは
 生存そのものを悪化させるものではなかった。
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結論:
 ランダム化臨床試験の直接的エビデンスはないものの、
 耐えがたい苦痛から解放するために適切に使用される場合、
 緩和的鎮静は末期癌患者の生存に対して有害な影響を
 与えないものと考えられる。
 緩和的鎮静は、緩和ケアの一連の流れの一端を成すものと 
 考えられるべき医療的介入である。

by otowelt | 2012-04-24 23:21 | 肺癌・その他腫瘍

肺MAC症に対する化学療法

●肺MAC(Mycobacterium avium complex)症の化学療法

1.レジメン
 非結核性抗酸菌症の代表的な疾患である肺MAC症の化学療法は、リファンピシン(RFP)、エサンブトール(EB)、クラリスロマイシン(CAM)の3剤による多剤併用が基本で、必要に応じてストレプトマイシン(SM)またはカナマイシン(KM)の注射剤の併用を行うのが基本である。以下に、現時点で推奨されている化学療法レジメンの用量を提示する。
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 肺MAC症に対する単剤治療は効果が弱いうえに、特にCAM単剤では早期(2ヶ月~5ヶ月)にCAM耐性菌が誘発されるとされており、禁忌である。
An official ATS/IDSA statement: diagnosis, treatment, and prevention of nontuberculous mycobacterial diseases. Am J Respir Crit Care Med. 2007 ; 175 : 367-416.
 リファブチン(RBT)はMACに対する抗菌力はRFPよりやや強力と考えられているため、RFPが投与できない時またはRFPの効果が不十分な場合に投与を考慮してもよい(RBT300mg=RFP600mg相当)。
Efficacy and safety of rifabutin in the treatment of patients with newly diagnosed pulmonary tuberculosis. Am J Respir Crit Care Med. 1996 ; 154 : 1462-1467.
 化学療法が無効な症例で空洞や気管支拡張が限局しており、肺機能や全身状態が手術に耐えられる場合は、積極的に外科療法を考慮すべきである。特に、空洞・破壊型の肺MAC症がよい適応である。 しかし結節・気管支拡張型の肺MAC症の場合、気管支拡張病変が初期から左右にみられるため、また高齢者も多いため、手術の適応となる症例は限られている。

2.副作用
 化学療法をおこなう際、味覚障害や胃腸障害の副作用が多いとされているが、これは特に高齢者で起こりやすいため、高齢者(70歳以上など)の場合では、1週間に1薬剤ずつ追加するなどの工夫をおこなう(EB→CAM→RFPなど)ことが望ましく、内服3 剤を一挙に開始することは避けた方がよい。また、RFPはまれに白血球や血小板減少を呈することがある。白血球2000または顆粒球1000以下、血小板10万以下となれば薬剤中止を考慮する。RFPとEBではしばしば皮疹を経験するが、皮疹については体表のおよそ1/3を超える範囲に薬疹がでるか、水泡や壊死を伴う重症皮疹の場合には薬剤中止を考慮する。RFPの減感作が可能である(下図)。
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 EBの投与期間が結核よりも長期間となるため、視力障害の発生には充分注意する必要がある。EBによる視神経症は、投与一日量で25mg/kg/day以上、総投与量100~400gで発症しやすく、一日量15mg/kg/day以下では安全とされる。投薬後3ヶ月から起こり得るが、半年~1年以内(平均7ヶ月)が多い。両眼の視力低下、中心暗点、色覚障害(赤・緑)を呈する。従ってEB服用患者は、全例1~2ヶ月に1回の定期的に視機能検査を行う必要がある。スクリーニング検査には視力と河本式中心暗点計を使う。中心フリッカー値も感度は高いが、測定ごとのばらつきが大きく、両眼性なので左右差で検討するのが難しい。異常が疑われたらハンフリー視野計などの静的視野検査を行うが、中心暗点だけでなく両耳側半盲のパターンを呈することも少なくない。
 RBTの副作用としてぶどう膜炎が有名であり、充血、疼痛、飛蚊症、霧視、視力低下などが起こり得る。RBT投与開始2~5ヶ月で発症するとされており、発症は体重あたりの投与量に依存すると考えられている。
Determination of rifabutin-associated uveitis in patients treated with rifabutin clarithromycin and ethambutol for Mycobacterium avium complex bacteremia: a multivariate analysis. Canadian HIV Trial Network Protocol 010 Study Group. J Infect Dis. 1998 ; 177 : 252_255.
 RBT はCAMと併用したときに、その血中濃度が1.5倍以上に上昇することが知られており、ぶどう膜炎発症には細心の注意をはらうべきである。RBT450mgの単独投与の場合、ぶどう膜炎発生が1.8%であったが、
同量にCAM1000mgを併用すると、8.5%にぶどう膜炎を発症した。
Clarithromycin or rifabutin alone or in combination for primary prophylaxis of Mycobacterium avium complex disease in patients with AIDS: A randomized, double-blind, placebo-controlled trial. The AIDS Clinical Trials Group 196/Terry Beirn Community Programs for Clinical Research on AIDS 009 Protocol Team. J Infect Dis. 2000 ; 181 : 1289_1297.
 CAM併用時のRBT初期投与量は150mg⁄日にすべきであり、長期の経過で副作用がない場合には300 mg⁄日まで増量を考慮してもよいと考えられる。

3.感受性検査
 肺MAC症の治療効果を推測できる薬剤感受性検査については、CAM以外では確立していないのが現状である。
An official ATS/IDSA statement: diagnosis, treatment, and prevention of nontuberculous mycobacterial diseases. Am J Respir Crit Care Med. 2007 ; 175 : 367-416.
 その他の薬剤はCAMと異なり、併用効果は期待できるものの、そもそも単剤での臨床効果はきわめて乏しいため、薬剤感受性検査を確立しにくい理由がある。CAM耐性は初回治療例ではほとんど存在しないとされており、再治療例や化学療法後経過の悪い例のみ薬剤感受性検査を実施するのが望ましい。液体培地でMICが4μg/ml以下を感受性、32μg/ml以上を耐性と判定し、8μg/ml および16μg/mlは判定保留とするのが現在のコンセンサスである。CAM耐性の場合、CAMは無効なので中止とすべきである。判定保留の場合は、CAMを継続して定期的に感受性検査を繰り返すべきである。このCAM耐性は、前述のごとくCAM単剤使用をおこなった場合や、CAMとフルオロキノロンの併用例に多いとされている。
Clinical and molecular analysis of macrolide resistance in Mycobacterium avium complex lung disease. Am J Respir Crit Care Med. 2006 ; 174 : 928-934.

4.投与期間
 日常臨床において菌陰性化後約1 年の治療をおこなうよう推奨されているが、エビデンスはない。イギリス胸部学会ガイドラインは薬剤投与期間を2年としており、一概にATSガイドラインや結核病学会の推奨に準じておれば安心というわけではない。


文責"倉原優"

by otowelt | 2012-04-24 13:05 | レクチャー