<   2012年 10月 ( 30 )   > この月の画像一覧

肥満低換気症候群による急性II型呼吸不全にNPPVが有効

e0156318_101902.jpg 肥満低換気症候群に伴う急性II型呼吸不全にNPPVが有効であるという論文です。

Andres Carrillo, et al.
Non-invasive Ventilation in Acute Hypercapnic Respiratory Failure due to Obesity-Hypoventilation Syndrome and COPD
Am. J. Respir. Crit. Care Med. October 26, 2012 rccm.201206-1101OC


背景:
 非侵襲性換気(NIV)は、COPD患者における高炭酸ガス血症を伴う急性呼吸不全:acute hypercapnic respiratory failure (AHRF)に有効である。しかしながら、肥満低換気症候群(OHS)によって同様のエピソードをきたした場合のエビデンスはない。
 そこでわれわれは、OHSとCOPDによって起こったAHRFエピソードに対してNIVの効果を検証した。

方法:
 われわれはプロスペクティブにAHRFをきたした716人の連続した患者(OHS:173人、COPD:543人) を登録した(動脈血液ガスpH <7.35 およびPaCO2 >45 mmHg)。2群とも同じ方法でNIVを導入した。われわれはNIVによる治療成功を、挿管回避、24時間時点でのICU生存とした。院内生存者は1年後まで追跡調査された。

結果:
 両群とも同等の呼吸性アシドーシスであった(動脈血ガスpH, 7.22±0.08; PaCO2, 86±21 mmHg)。OHSのある患者は高齢であり(74±11 vs. 71±10 years, p<0.001)、女性が多く(p<0.001)、NIV後期失敗率や(p=0.037)、院内死亡率が低かった(p<0.001)。またOHS群は1年生存率が高かった(オッズ比1.83, 95%信頼区間1.24-2.69, p=0.002)。しかしながら、交絡因子によって補正したところオッズ比率は1.41(95%信頼区間0.70-2.83, p=0.34)と有意差が認められなかった。同様に、NIV失敗率でも有意差を消失させた(p=0.11)。
 COPD患者の間では、肥満はNIV失敗率の減少や病院への再入院に相関していた。

結論:
 OHSのある患者ではAHRFに対してNIVで治療されるべきである。これはCOPD患者が受ける利益よりも大きいかもしれない。

by otowelt | 2012-10-31 08:04 | 呼吸器その他

間質性肺疾患のある患者への呼吸リハビリテーションは有効

e0156318_13563316.jpg 呼吸リハビリテーションはほとんどがCOPDの論文ですが、ERJから間質性肺疾患に対する有効性の報告がありました。

Patrick Huppmann, et al.
Effects of In-Patient Pulmonary Rehabilitation in Patients with Interstitial Lung Disease
ERJ Published online before print October 25, 2012


背景:
 呼吸リハビリテーションは、国際的ガイドラインにおいても特発性肺線維症(IPF)を含む慢性肺疾患患者に推奨されている。
Raghu G, et al, ATS/ERS/JRS/ALAT Committee on Idopathic Pulmonary Fibrosis. An official ATS/ERS/JRS/ALAT statement: Idiopathic pulmonary fibrosis: evidence-based guidelines for diagnosis and management. Am J Respir Crit Care Med 2011; 183:788-824
 しかしながら、間質性肺疾患患者に対するデータは非常に限られている。そのため、わたしたちは入院している間質性肺疾患患者の機能ステータスやQOLに対する呼吸リハビリテーションの効果を検証した。

方法:
 1999年から2010年までにSchoen Klinik Berchtesgadener Land呼吸リハビリテーションセンターに入院した402人の連続した間質性肺疾患患者を評価した。すべての患者は、入退院時の呼吸機能検査、血液ガス分析、6分間歩行試験、SF36を含む標準化された呼吸リハビリテーションプログラムを受けた。

結果:
 患者平均年齢は60±1歳(range 21-89)で、202人(50%)がIPFの確定診断を受け、21人(5%)はIPF以外の特発性間質性肺炎(NSIP,COP)、59人(15%)が過敏性肺炎、50人(12%)がサルコイドーシス、24人(6%)が膠原病肺、46人(12%)が薬剤や放射線などのその他の原因による間質性肺疾患であった。299人(74%)が肺移植登録患者であった。111人(28%)が肺高血圧の徴候があった。80%の患者は在宅酸素療法を受けていた。全体の平均肺活量は予測値の54±1%であった。
 平均呼吸リハビリテーション期間は30±1日であった。6分間歩行試験は46±3m (308±6m vs.354±6m, p<0.001)の改善がみられた。呼吸困難に変化はみられなかった。呼吸機能検査は、肺活量の改善がみられた(+1±0%, p=0.002)。SF-36は身体的・精神的健康サマリースコアと同様8つのサブスコア全てで増加がみられた(physical: 6±1 points, p<0.001; mental-health: 10±1 points, p<0.001)。さらに、肺高血圧徴候のある患者においても呼吸リハビリテーションの効果がみられた。
e0156318_1350640.jpg
limitations:
・ランダム化試験ではないこと
・患者側の因子だけでなく、治療者側の意欲も結果に影響している可能性がある
・患者の何人かは病状の悪化で入院してきた経緯があり、アウトカム改善が呼吸リハビリテーションによるものだけではない可能性がある

結論:
 この大規模コホート試験によって、間質性肺疾患のある患者への呼吸リハビリテーションは、機能ステータスやQOLに効果がみられることがわかった。

by otowelt | 2012-10-30 13:57 | びまん性肺疾患

メトホルミンは癌死亡リスクを減少

 メトホルミンは、肺癌の分野でも少し注目されていますね。ちなみにメトホルミンと癌のリスク減少については過去にいくつか報告されています(Cancer Prev Res (Phila) 3: 1451–1461, 2010.,Diabetes Care 34: 2323–2328,2011.)。

Hiroshi Noto, et al.
Cancer Risk in Diabetic Patients Treated with Metformin: A Systematic Review and Meta-analysis
PLoS One. 2012;7(3):e33411


背景:
 メトホルミンは潜在的ではあるが癌のリスクを下げると示唆されている。われわれの目的は、糖尿病患者においてメトホルミンが、部位を問わない癌あるいは臓器特異的な癌のリスクに対する効果検証するものである。

方法:
 MEDLINE, EMBASE, ISI Web of Science, Cochrane Library, ClinicalTrials.govにおいて、2011年10月12日の時点で出版されている論文を調査し、システマティックレビューおよびメタアナリシスを施行した。検索ワード:‘diabetes’, ‘metformin’, ‘cancer’ or ‘neoplasms’, and ‘risk’ or ‘risk factors’。総癌死亡率と癌の頻度を計算した(リスク比)。

結果:
 6試験(4:コホート試験、2:ランダム化比較試験)で21195人の糖尿病患者が登録され、991人(4.5%)が癌によって死亡した。10試験(2:ランダム化比較試験、6:コホート試験、2:症例対照研究)210892人のうち、11117人(5.3%)に癌の発生がみられた。
 メトホルミン使用者における癌のリスクは有意に非メトホルミン使用者より低かった(癌死亡RR 0.66, 95%CI 0.49–0.88、全ての癌発症RR0.67, 0.53–0.85、大腸癌RR0.68, 0.53–0.88、肝細胞癌RR0.20, 0.07–0.59、肺癌RR0.67 , 0.45–0.99)。
e0156318_1671653.jpg
 ほかの癌種については統計学的有意差はみられなかった(前立腺癌、乳癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌)。
e0156318_1674333.jpg
Discussion:
 メトホルミンが癌の発生・死亡リスクを抑制する理由として、体重増加の抑制や高インスリン血症の改善などが考えられる。また、メトホルミンとAMPK経路の関連が示唆される。LKB1はAMPK経路の上流にあり、メトホルミンがLKB1依存性の腫瘍形成を阻害している可能性がある。

結論:
 糖尿病患者におけるメトホルミン使用は有意に癌死亡と癌発症を減少させる。しかしながら、この解析はおもに観察研究に基づいており、長期のランダム化比較試験が必要であると考えられる。

by otowelt | 2012-10-30 00:01 | 内科一般

癌患者は、抗癌剤治療に過度の期待を持つ傾向がある

 癌を診ている医師にとって、大事な論文です。確かに転移したIV期の癌は、どのような抗癌剤を使用しても本当の意味での完治はありません(例外的に完全寛解というケースはありますが)。どちらかと言えば”付き合っていく病気”という認識のほうが正しいと思います。上手く説明をして、少しでも希望を持っていただくような手法を使う医師も多いと思いますが、悪いニュースも含めて全ての情報をしっかり提供する医師も決して少なくはありません。私は、どちらも間違っていないと思います。
 相手は人間ですから、どちらが正しいという答えが無いのは当然です。臨床医はこの問題に慣れてしまってはいけないと思います。

Jane C. Weeks, et al.
Patients' Expectations about Effects of Chemotherapy for Advanced Cancer
N Engl J Med 2012; 367:1616-1625


背景:
 転移性肺癌あるいは転移性大腸癌は、化学療法によって生存期間が数週間から数ヶ月延長し、症状が緩和される可能性がある。ただ、癌の治癒そのものが得られるわけではない。

方法:
 癌治療転帰調査サーベイランスCancer Care Outcomes Research and Surveillance(CanCORS)研究(アメリカのプロスペクティブ観察コホート研究)の参加者で、癌診断後4ヶ月の時点で生存しており、新たに診断された転移性肺癌または転移性大腸癌に対して化学療法を受けた1193人を対象とした。
 化学療法によって治癒する可能性があるという期待をもっている患者の割合を同定し、この期待に関連する臨床的因子、社会的因子、医療制度因子を検証した。診療録の再検討だけでなく、専門の面接者によって患者情報を得た。

結果:
 1193人(肺癌710人、大腸癌483人)が登録された。全体で、肺癌患者69%と大腸癌患者81%が、化学療法によって癌が治癒する可能性が全くないことを理解しているという回答をしなかった。多変量ロジスティック回帰では、化学療法に関する誤った考えを報告するリスクは、大腸癌患者のほうが肺癌患者よりも高く(OR1.75; 95% CI, 1.29 to 2.37)、非白人患者やヒスパニック系患者では非ヒスパニック系白人患者よりも高く(ヒスパニックOR2.82; 95% CI, 1.51 to 5.27; 黒人OR 2.93; 95% CI, 1.80 to 4.78)、医師とのコミュニケーションについてとても良好であると評価した患者では、あまり良好でないと評価した患者よりも高かった(OR for highest third vs. lowest third, 1.90; 95% CI, 1.33 to 2.72)。
 社会的教育水準、身体的機能状態、意思決定における患者の役割と、化学療法に関する過度の誤認との関連はなかった。
e0156318_95137.jpg
結論:
 化学療法を不治の癌に対して受けている患者の多くは、化学療法によって癌が治癒する可能性は低いことを理解していない可能性がある。ゆえに十分な情報に基づいて、自身の意向に沿った治療を決定する能力に欠けている可能性すらある。医師は患者の理解を深めることが可能であるが、ただしこれが患者満足度の低下という代償を伴うおそれもある。

 最後はこういった一文で締めくくられています。
"Efforts to incorporate earlier and more effective end-of-life care must address honestly and unambiguously patients’ unrealistic expectations about the outcomes of chemotherapy."

by otowelt | 2012-10-29 05:48 | 肺癌・その他腫瘍

歯周病はCOPDのリスク

e0156318_11182880.jpg歯周病とCOPDの関連についての話題です。詳しくは書かれていませんが、歯垢(dental plaque)が炎症を惹起することによってCOPDのリスクになるのではないかと考えられているようです。

Xian-Tao Zeng, et al.
Periodontal disease and risk of chronic obstructive pulmonary disease: a meta-analysis of observational studies.
PLoS One. 2012;7(10):e46508. doi: 10.1371/journal.pone.0046508. Epub 2012 Oct 19.


背景:
 歯周病:periodontal disease の菌などが肺に落ち込むことで炎症を惹起するとされている(J Oral Microbiol 2, 2010)。また、COPDと歯周病の疫学的共通点が多いこと(肥満、喫煙歴、社会的側面などなど)(Aust Dent J 54 Suppl 1: S62–69, 2009)から、本関連性について調査をおこなった。
 多くの疫学的研究によって、歯周病と慢性閉塞性肺疾患(COPD)の関連が示唆されてきたが、この関連についてはスタディによって結論が様々であり、また矛盾することさえもある。

方法:
 PubMed、Embase databaseによって2012年1月から歯周病とCOPDリスクに関するスタディを抽出した。独立した2人の著者によってこれが行われた。メタアナリシスは、Comprehensive Meta-Analysis softwareによって行われた。

結果:
 14の観察研究(1つがnested case-conrtol、8つがcase-control、5つがcross-sectional)が登録され、3988人のCOPD患者が含まれた。ランダム効果メタアナリシスに基づくと、歯周病とCOPDには有意な関連がみられた(オッズ比 2.08, 95% CI 1.48–2.91; P<0.001)。heterogeneityが認められた(I2 = 94.4%, P<0.001)。
e0156318_116424.jpg
 サブグループ解析では、スタディデザインの種類、人種差、歯周病解析項目(alveolar bone loss、priodontal index)、COPD解析(一秒量、一秒率)、補正/非補正オッズ比は有意な関連をみせた。
e0156318_11101425.jpg
 Egger線形回帰によって、出版バイアスが同定された(OR = 3.43, 95%CI= 1.76–5.10; P<0.001)。
e0156318_11123596.jpg
結論:
 現段階でのエビデンスとして、歯周病はCOPDの独立リスク因子であることと考えられる。しかしながら、その原因については不明な点が残されている。われわれは、ランダム化試験をおこない歯周病への介入がCOPDの病理生理や進行に利益があるかどうか調べたいと思う。

by otowelt | 2012-10-28 00:01 | 気管支喘息・COPD

呼吸不全の患者に気管支鏡を施行してもよいか

e0156318_14504521.jpg酸素投与量リザーバーマスク10L/min、両肺にびまん性スリガラス陰影。気管支肺胞洗浄(BAL)をしたいが、できない。

そんなジレンマを持ったことがある先生は、多いと思います。「酸素吸入している患者さんに気管支鏡をやってもいいのかどうか」というのは呼吸器科医が悩む問題の1つです。Intensive Care Medicineから面白い報告がありました。結論としては、オッズ比が5を超える条件であるCOPDや免疫抑制状態がなければ、NIPPV覚悟でやってみるのも一つの手かもしれませんね。

Cracco C, et al.
Safety of performing fiberoptic bronchoscopy in critically ill hypoxemic patients with acute respiratory failure.
Intensive Care Med. 2012 Oct 16.


背景:
 挿管されていない重症の呼吸不全の患者さんにおける気管支鏡の安全性は、評価されたことがない。われわれは、挿管や人工呼吸器サポートを気管支鏡後に必要になった症例を調査し、このイベントの予測因子を同定することとした。

方法:
 これは、8つのフランスのICUでおこなわれたプロスペクティブ多施設共同観察試験である。このスタディでは、P/F比が300以下の患者に対して169の気管支鏡検査が施行された。
 プライマリエンドポイントは挿管率とした。セカンダリエンドポイントは、人工呼吸器サポートが必要であった頻度と酸素療法必要性の増大(>50%)、非侵襲性陽圧換気呼吸(NIPPV)の必要性やその増大とした。

結果:
 24時間以内に人工呼吸器が必要となったのは59の気管支鏡検査後であった(35%)。そのうち、25が挿管を要した。COPDの存在(OR 5.2, 95 % CI 1.6-17.8; p = 0.007)、免疫抑制状態(OR 5.4, 95 % CI 1.7-17.2; p = 0.004)は、多変量解析において有意に挿管率と関連していた。P/F比のような生理学的パラメータのベースライン値は、挿管とは関連していなかった。

結論:
 気管支鏡はしばしば低酸素状態にある重症患者さんでは人工呼吸器を要する。しかし、挿管にまで至ることはそう多くない。COPDと免疫抑制状態にある患者は、気管支鏡後に挿管人工呼吸管理が必要となる可能性がある。

by otowelt | 2012-10-27 00:41 | 気管支鏡

どのくらい曝露すれば結核に感染するのか?

e0156318_1641291.jpg●はじめに
 結核病棟を有する病院ですと、結核患者さんは最初から肺結核だとわかっていることが多いです。しかしながら、肺結核でないと思って入院後精査すると喀痰から結核菌がたくさん検出されたという経験は、結核病棟のない市中病院では時に経験すると思います。
 たとえば、市中肺炎と診断して入院してもらい抗菌薬の点滴治療を開始した患者さんがいたとします。翌朝の喀痰で、大量の結核菌が検出された場合、主治医をはじめ病棟スタッフは大慌てすることと思います。「自分は結核に感染していないだろうか?」という不安を抱いた経験のある方も多いでしょう。

 では、一体どのくらい曝露すれば、どのくらい結核を感染・発病しやすいと言えるのでしょうか?

 感染後、一定の結核菌は何年間もとどまって生存しています。この状態を潜在性結核感染(LTBI)といいます。LTBIは、無症状かつ非感染性です。私たちはこの状態を“感染”と呼びます。LTBIがもし肺結核に進展すれば、それは“発病”となります。そのため、「結核にかかる」ということが“感染”か“発病”かどちらを意味しているのか意識しておく必要があります。約5-10%の結核未治療の接触者が一生のうちに結核を発病するとされており、90%程度の接触者は細胞性免疫による 結核菌の封じ込めに成功しそのまま天寿を全うします。LTBIから結核が発病するリスクは、感染後最初の数年が最も高いとされています。
Jensen PA, et al. CDC. Guidelines for preventing the transmission of Mycobacterium tuberculosis in health-care settings, 2005. MMWR Recomm Rep. 2005: 30;54(RR-17):1-141.

 結核菌に曝露した人が感染する可能性は、基本的には空気中の飛沫核の濃度と結核症患者との接触時間によります。接触の濃厚度と期間が長いほど、感染リスクは当然高くなります。結核患者さんの診療にあたった医療従事者も含め、当該患者さんと同じ空間にいた人を「接触者(contact)」と定義しています。公益財団法人結核予防会が出版している『結核の接触者健康診断の手引きとその解説』には、ハイリスク接触者、濃厚接触者、非濃厚接触者、非接触者という区別がなされております。医療従事者の場合、患者さんの結核菌飛沫核を吸入しやすい医療行為をしていたときには濃厚接触者に該当することがあります。


●8時間以上がリスク?狭い空間がリスク?
 曝露した時間が“8時間以内だから大丈夫”という意見を、時に現場で耳にすることがありますが、これは1996年のNew England Journal of Medicine(NEJM)の論文やWHOのガイドラインに記載されている内容に由来するものです。NEJMの論文はとても有名なもので、1994年4月にホノルルからシカゴ、シカゴからボルチモアまで2フライト、その1ヶ月後にそこからの帰りに2フライト、合計4回の旅客機で移動した多剤耐性結核の韓国人女性に対する接触者の健康診断を調査したものです。旅客機の乗客のうちデータ解析が可能であった760人を対象に調査した結果、フライト2,3は2時間以内と短い時間だったので乗客の結核との因果関係は認められませんでした。しかしフライト4は8時間45分と長いフライトであり、このフライトの乗客で明らかに感染したと思われる人が複数いました。座席表を見ると、韓国人女性の前後列以内の乗客の感染リスクが高いと考えられました(率比8.5, 95%信頼区間 1.7-41.3, p=0.01)。
e0156318_15421794.jpg
 この結果から、曝露時間が結核感染のリスクになるという一つの目安ができました。それを受けて「航空機内で8時間以上接触した場合にリスクが増加する」という記載がWHOガイドラインにあります。8時間というカットオフ値はただのシカゴからホノルルまでのフライト時間であり、この試験の概要を知ればそのカットオフ値の設定に何の意味も持たないことは明白です。密閉空間で3時間濃厚接触した場合であっても濃厚接触者と判断することは実際的にありうる話なのです。だから、8時間がうんぬんという発言自体には実はほとんど医学的意味はありません。
・Kenyon TA, et al. Transmission of multidrug-resistant Mycobacterium tuberculosis during a long airplane flight. N Engl J Med 334:933--8, 1996
・WHO. Tuberculosis and air travel: guidelines for prevention and control. -3rd ed, Geneva: WHO; 2008.


 他にも、感度の高いフローチャートを紹介した論文があり、空洞のない結核患者では1ヶ月120時間を超える曝露をすることが結核の感染リスクであるという論文もあります。
Gerald LB, Tang S, Bruce F, et al. A decision tree for tuberculosis contact investigation. Am J Respir Crit Care Med 166:1122-7, 2002.

 しかし例外はあるもので、たとえば1日15分間をたった3日間だけ結核発病者に接触したような短期間のケースであっても、結核発病にまでいたったという報告があります。恐ろしい。
Golub JE, et al. Transmission of Mycobacterium tuberculosis through casual contact with an infectious case. Arch Intern Med 161:2254-8, 2001.

 曝露時間だけでなく、たとえば曝露空間容積はどうでしょうか。空間の大きさで、1.車内程度の広さ、2.寝室程度の広さ、3.家屋程度の広さ、4.家屋以上の広さ、と分類し、結核感染のリスクを調査した報告があります。当然ながら、狭い1-2の空間サイズの方が接触者の感染リスク(この試験ではツベルクリン反応陽転化)は高いです(オッズ比1.68, 95%信頼区間 1.31-2.14)。結核患者と接触者の共有する空間の容積が小さいほど結核の感染性粒子は濃縮されるため、感染リスクが高くなることは容易に想像できますが、この関係は疫学的に十分にはまだ解明されていません。
Bailey WC, et al. Predictive model to identify positive tuberculosis skin test results during contact investigations. JAMA 287:996-1002, 2002.

 以上のことから、合計何時間接触したのであなたの感染リスクはどのくらい、あなたの発病リスクはどのくらいという具体的な数値は出せません。限られたデータから、寝室より狭い空間であったり8時間以上近い場所にいることはある程度のリスク上昇が起こりうるとしか言えないのが現状ではないでしょうか。

 患者側の因子として咳嗽症状があったり空洞性病変を持っていると、排菌量が多くなるため感染させるリスクが高くなるとされていることはご存知の通りです。逆に曝露側の因子として、元来の結核の発病リスクが高い人がいます。たとえば、外国出生の者、高リスクの施設入所者や労働者、保健医療サービス供給体制が不十分な地域の住民、乳児・小児、HIV感染者、免疫不全宿主、などなど。数え上げたらキリがありません。この中でも特にHIV感染者は特にリスクが高いと言われております。HIV感染者は結核の“発病”リスクはケタ違いに高いとされていますが、“感染”リスクが高いかどうかはまだよくわかっていません。
CDC. Prevention and treatment of tuberculosis among patients infected with human immunodeficiency virus: principles of therapy and revised recommendations. Centers for Disease Control and Prevention. MMWR Recomm Rep 30;47(RR-20):1-58, 1998.

by otowelt | 2012-10-26 00:03 | 抗酸菌感染症

Lancet Respiratory Medicine

ご存知の呼吸器内科医の先生も多いと思いますが、
2013年3月号から、Lancet Respiratory Medicineが発刊されます。

http://www.thelancet.com/journals/lanres/issue/current
e0156318_12533324.jpg

by otowelt | 2012-10-25 07:52 | 呼吸器その他

ばち指の発症にはPGE2増加が関与している可能性

 当院は呼吸器専門病院であるため、前向き試験が組めるほどに大量のばち指患者さんがいます。JTOから、少し小さめの論文ですがPGE2の増加との関連性についての報告があります。ただし、結語に書いてあるシクロオキシゲナーゼ2阻害薬であるセレコキシブの肺癌への効果は、NVALT-4試験の結果から否定的です(JCO November 10, 2011 vol. 29 no. 32 4320-4326)。

NVALT-4試験:進行NSCLCに対するセレコキシブに生存上の利益はなし

 最近個人的には、慢性好酸球性肺炎の患者さんや、粟粒結核とAIDSを合併した患者さんにばち指がみられました。どういうメカニズムなのか非常に興味があります。

Kozak, Kevin R, et al.
Elevation of Prostaglandin E2 in Lung Cancer Patients with Digital Clubbing
Journal of Thoracic Oncology, in press


背景:
 紀元前15世紀に認知されて以来、ばち指:digital clubbingの原因はまさに医学のミステリーであった。われわれは、プロスペクティブ試験においてその病態生理を解き明かしたい。
 ばち指や肥大性骨関節症(HOA)の病態疫学において、シクロオキシゲナーゼ代謝、プロスタグランジンE2などの報告がある。たとえば、プラスタグランジンE1治療は、チアノーゼを有する心疾患の小児や肝疾患を有する成人にHOAをもたらすとされている。また、15-ヒドロプロスタグランジン脱水素酵素のエンコード遺伝子の不活化変異が原発性HOAに関連しているという報告がある。さらに、尿中PGE2代謝物である11-hydroxy-9,15-dioxo-2,3,4,5-tetranor-prostane-1,20-dioic acid (PGE-M)がHOAを有する肺癌患者で増加することが報告されている。
・Uppal S, et al. Mutations in 15-hydroxyprostaglandin dehydrogenase cause primary hypertrophic osteoarthropathy. Nat Genet 2008;40:789 –793.
・Ueda K, et al. Cortical hyperostosis following long-term administration of prostaglandin E1 in infants with cyanotic congenital heart disease. J Pediatr 1980;97:834–836.


方法:
 Massachusetts General Hospital Thoracic Oncology Clinicにおいて、ばち指の有無を問わず新規診断の病期III/IVの肺癌患者において、尿中PGE-Mを測定した。29人の患者が登録された。
 薬物学的交絡因子を除外するため、アスピリン、NSAIDs、ステロイド内服患者は除外された。腎不全や全身性炎症性疾患患者も除外された。ばち指はSchamrothテストで内科医によって診断された。重要な点であるが、ばち指の有無は尿検査の前に判断された。尿検査は、肺癌治療の前に採取された。

結果:
 ばち指のある患者では、尿中PGE-Mが有意に高かった。ばち指のある患者では、尿中PGE-M中央値はばち指の無い患者に比べて2.3倍高かった。Fisherの正確検定では、喫煙、性別、病期、組織のバランスについてばち指の有無での差はなかった。
e0156318_23112547.jpg
結論:
 肺癌患者におけるばち指には、PGE2の増加が関連している。シクロオキシゲナーゼ2阻害薬による肺癌の潜在的利益が報告されているため、この結果との関連が示唆される。

by otowelt | 2012-10-25 00:47 | 肺癌・その他腫瘍

チョコレート摂取量が多いほどノーベル賞受賞者が増える

クリスマスBMJを彷彿させる、突っ込みどころ満載の論文です。ランダム化試験って。

Franz H. Messerli.
Chocolate Consumption, Cognitive Function, and Nobel Laureates
N Engl J Med 2012; 367:1562-1564


背景:
 チョコレートの摂取は認知機能の改善をもたらすとされているが、この摂取がノーベル賞受賞とどう関連しているのか、私は疑問に思った。

方法:
 合計22ヶ国の1000万人当たりのノーベル賞受賞者の数をWikipedia(http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_countries_by_Nobel_laureates_per_capita)で調べた(List of countries by Nobel laureates per capita)。
 国別の1人当たりのチョコレート摂取量は、スイスChocosuisse、ドイツTheobroma-cacao、ヨーロッパチョコレート・ビスケット・菓子工業協会Caobiscoをインターネットで調べて、一番新しいデータを採用した。

結果:
 1人当たりのチョコレートの摂取量と、1000万人当たりのノーベル賞受賞者の数の間には、有意な線形相関がみられた(r = 0.791, P<0.0001)。外れ値のスウェーデン以外では、r=0.862であった(スウェーデンは、チョコレート摂取量から予測されるノーベル賞受賞者数の2倍程度の受賞者がいるため)。スイスにおいて、1人当たりのチョコレート摂取量および1000万人当たりのノーベル賞受賞者の数が双方とも最も高いものとなった。
e0156318_13171493.jpg
 1人当たり年間0.4kgのチョコレートを余分に摂取することで、国別ノーベル賞受賞者が1人増えると推測される。アメリカの場合、全米チョコレート総摂取量が年間1億2500万kg増加することで、ノーベル賞受賞者が1人増える。

考察:
 スウェーデンが外れ値となった理由として、ノーベル賞委員会が選考の際にスウェーデンを選ぶバイアスがかかっている理由が考えられる。また、スウェーデン国民のチョコレート感受性が高いこと(sensitive to chocolate)などが考えられる。

結論:
 チョコレートの摂取がノーベル賞受賞に必要なベースとなっている可能性がある。プロスペクティブランダム化試験が望まれる。

 

by otowelt | 2012-10-24 13:19 | 内科一般