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気管切開患者のウィーニングでプレッシャーサポートを用いない場合、ウィーニング期間短縮に寄与

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 気管切開の患者さんのウィーニングでプレッシャーサポートを下げるか人工呼吸器を外すかを比較した試験です。早期に呼吸不全をきたすような場合(早期失敗群)では有意差はありません。

Amal Jubran, et al.
Effect of Pressure Support vs Unassisted Breathing Through a Tracheostomy Collar on Weaning Duration in Patients Requiring Prolonged Mechanical Ventilation
A Randomized Trial
JAMA Published online January 22, 2013


概要:
 21日を超えるような長期の人工呼吸管理を要する患者は、イギリスでは通常longterm acute care hospitals(LTACH)に転院してウィーニングがおこなわれる。しかし、最も効果的なウィーニング法については研究がなされていない。

目的:
 LTACHにおいて、長期におよぶ人工呼吸管理患者に対する気管切開部を通したプレッシャーサポートを行うウィーニング法とアシストを行わないウィーニング法を比べること。

方法:
 2000年から2010年までの間、気管切開を受けた患者でLTACH施設にウィーニングのために転院となった患者に対するランダム化比較試験。
 人工呼吸器離脱スクリーニングを受けた500人の患者のうち、120時間で離脱できなかった316人がランダム化フェーズに移行した。プレッシャーサポート群(n = 155)、アシストなしの群(気管切開チューブを介した補助なしの換気)(n = 161)に割り付けられた。
 プライマリアウトカムは、ウィーニング期間とした。セカンダリアウトカムは、登録から6ヶ月ないし12ヶ月の生存率とした。

結果:
 316人の患者のうち、4人がドロップアウトしたため解析対象外となった。プレッシャーサポート群の152人のうち68人(44.7%)がウィーニングされ、22人(14.5%)が死亡した。アシストなしの群の160人のうち、85人(53.1%)がウィーニングされ、16人(10%)が死亡した。
 ウィーニング期間の中央値は、アシストなしの群とプレッシャーサポート群でそれぞれ(15日 [IQR 8-25] vs 19日 [IQR 12-31]、P = .004)だった。ウィーニング成功率に対するハザード比は、プレッシャーサポートを使用しない場合の方が高かった(HR, 1.43; 95% CI, 1.03-1.98; P = .033)。12~120時間のスクリーニングに耐えられなかった患者(後期失敗群)の間では、アシストがないウィーニングの方が迅速なウィーニングが可能だった(HR, 3.33; 95% CI, 1.44-7.70; P = .005)。
 死亡率は両群とも同等だった(6ヶ月:55.92% vs 51.25%; 4.67% difference, 95% CI, −6.4% to 15.7%、12ヶ月:66.45% vs 60.00%; 6.45% difference, 95% CI, −4.2% to 17.1%)。
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結論:
 長期の人工呼吸管理を要する患者に対して、気管切開チューブからプレッシャーサポートを使用しないウィーニング法をおこなうことは、プレッシャーサポートを使用する場合と比較してより短い期間でウィーニング達成が可能であるが、6ヶ月あるいは12ヶ月時の死亡率の改善には寄与しない。

by otowelt | 2013-01-31 12:03 | 集中治療

市中肺炎に対する全身性ステロイドは、臨床的効果が乏しく在院日数を延ばすだけ

e0156318_1310578.jpg市中肺炎に対する全身性ステロイド投与の意義について、スペインからの報告です。

Polverino E, et al.
Systemic corticosteroids for community-acquired pneumonia: Reasons for use and lack of benefit on outcome.
Respirology 2013 Feb;18(2):263-71.


背景および目的:
 市中肺炎における全身性のステロイド投与の利益は明らかではないものの、実臨床では頻繁に使用されている。われわれは、このプラクティスの頻度、患者の特徴、臨床的影響を報告する。

方法:
 1997年6月から2008年1月までの成人の市中肺炎の患者をプロスペクティブに観察した(n = 3257)。
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結果:
 260人の患者(8%)が全身性のステロイド投与を受けていた。平均投与量はメチルプレドニゾロン1日あたり45mg(中央値36mg)だった。ステロイドを受けた患者は、高齢(74歳 vs 65歳)で、合併症が多く(呼吸器系: 59% vs 38%, 心疾患: 29% vs 16%, などなど)、Pneumonia Severity Indexが高く(Fine IV-V, 76% vs 50%)、吸入ステロイド治療を受けている患者が多く(36% vs 15%)、抗菌薬の既往が多かった(31% vs 23%)(すべてP < 0.01)。
 全身性のステロイド投与の有意な予測因子は、COPD (オッズ比 1.91)、発熱(オッズ比 0.59)、喀痰 (オッズ比 1.59)、血清クレアチニン上昇(+1 mg/dL, オッズ比0.92)、動脈血酸素飽和度92%以上(オッズ比 0.46)、CRP上昇(+5 mg/dL; オッズ比 0.92)、心不全(オッズ比 1.76)であった。
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 死亡率(6% vs 7%; P = 0.43)および臨床的安定性が得られるまでの期間(4 (3-6) vs 5 (3-7) days; P = 0.11)は2群で差はみられなかったが、在院日数はステロイド投与群の方が長かった(9 (6-14) vs 6 (3-9) days; P < 0.01)。
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結論:
 COPDの存在や臨床的に重症であることが、市中肺炎に全身性ステロイドを用いるが主な理由である。しかし、治療によって死亡や臨床的安定性に影響は与えず、それどころか在院日数を延ばしてしまうかもしれない。ランダム化比較試験によって市中肺炎に対する全身性ステロイドが与える影響を調べる必要があるだろう。

by otowelt | 2013-01-31 00:54 | 感染症全般

右室収縮機能障害のある進行IPFに対するシルデナフィルは運動耐容能の保持が良好

e0156318_9353956.jpgIPFに対するレバチオの話題です。STEP-IPF試験ではプライマリエンドポイントである6分間歩行距離が改善しませんでした。そのため、セカンダリエンドポイントの解析が待たれていました。

Han MK, et al.
Sildenafil Preserves Exercise Capacity in IPF Patients with Right Ventricular Dysfunction.
Chest. 2013 Jan 24. doi: 10.1378/chest.12-1594. [Epub ahead of print]


背景:
 特発性肺線維症(IPF)は、肺血管障害を伴う進行性の肺疾患である。

目的:
 右室機能障害を有する患者において、シルデナフィルが6分間歩行距離(6MWD)を改善するかどうか調べる。

方法:
 これはIPFnet主導のランダム化比較試験(STEP-IPF試験:N Engl J Med 2010;363:620-8.)の解析である。シルデナフィルが進行IPF(DLCOが予測値の35%未満)患者において6MWDに効果をもたらすかどうか検証したものである。2人の循環器科医によって180人中119人のIPF患者に独立して超音波検査がおこなわれた。右室肥大(RVH)、右室収縮機能障害(RVSD)、右室収縮期圧(RVSP)が解析された。多変量線形回帰モデルにより右室異常、シルデナフィル治療、6MWDの変化、St. George’s Respiratory Score (SGRQ)、EuroQol、SF36の間の関連性を調べた。

結果:
 RVHとRVSDは、それぞれ12.8%、18.6%に観察された。RVSPは119人中71人に測定可能で、平均RVSPは42.5mmHgだった。RVSD患者のサブグループでは、シルデナフィルで治療された患者はより6MWDの減衰が少なかった(99.3 m, p=0.01)。またシルデナフィルで治療された患者は、プラセボよりSGRQの改善が大きく (13.4 points, p=0.005)、EuroQol visual analog scoresも良かった(17.9 points, p=0.04)。RVH患者のサブグループでは、シルデナフィルは6MWDの変化には関連していなかった(p=0.13)、しかしSGRQの改善は有意であった(14.8 points, p=0.02)。RVSDおよびRVHのある患者において、シルデナフィルの治療はSF36の変化には寄与しなかった。

結論:
 RVSDのあるIPF患者に対するシルデナフィル治療は、プラセボと比較して運動耐容能の保持が良好である。シルデナフィルはRVHおよびRVSDのある患者において、QOLの改善もみられる。

by otowelt | 2013-01-30 00:02 | びまん性肺疾患

喫煙者は非喫煙者より平均余命が10年以上短縮する

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 放射能に大騒ぎしている人が喫煙していると、「一体何のリスクを心配しているのかなぁ」と疑問に思うことがあります。NEJMから喫煙と禁煙の利益に関する興味深い研究が報告されています。

Prabhat Jha, et al.
21st-Century Hazards of Smoking and Benefits of Cessation in the United States
N Engl J Med 2013; 368:341-350January 24, 2013


背景:
 1980年代の研究によれば、喫煙はアメリカにおける35~69歳の男女の死因の25%を占めるとされている。各年齢での現在の喫煙リスクと禁煙の利益について、アメリカの代表指標は得られていない。

方法:
 アメリカ健康調査において、1997~2004年にインタビューを受けた25歳以上の女性113752人および男性88496人の喫煙歴と禁煙歴のデータを2006年12月31日までに発生した死亡(女性8236人、男性7479人)の原因と照らし合わせ解析をおこなった。
 喫煙歴のない人に対する現喫煙者の死亡に関するハザード比は、年齢、教育水準、肥満、アルコール摂取で補正した。

結果:
 25~79歳の登録者のうち、現喫煙者の全死因死亡率は、喫煙歴のない人のおよそ3倍だった(女性のハザード比 3.0、99%信頼区間 2.7~3.3、男性のハザード比 2.8、99%信頼区間 2.4~3.1)。
 喫煙者の超過死亡の多くは、悪性疾患、心血管系疾患、呼吸器疾患、喫煙により引き起こされる他疾患によるものだった。25歳から79歳まで生存する確率は、喫煙歴のない人では現喫煙者のおよそ2倍高かった(女性 70% vs 38%、男性 61% vs 26%)。喫煙歴のない人と比較して現喫煙者では、平均余命が10年以上短かった。
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 喫煙を続けた人と比較して、25~34歳で禁煙した人、35~44歳で禁煙した人、45~54歳で禁煙した人では、平均余命がそれぞれ10年、9年、6年長かった。
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結論:
 喫煙者は、喫煙歴のない人と比較して平均余命が10年以上短縮する。40歳までに禁煙することで、喫煙継続による死亡リスクはおよそ90%低下するだろう。

by otowelt | 2013-01-29 08:59 | 呼吸器その他

Surviving Sepsis Campaign 2012 :日本語訳

"Surviving Sepsis Campaign 2012" (SSC 2012)を日本語に訳してみました。間違いなどがあったら申し訳ありません。乳酸値の測定、昇圧剤、HESなどの近年の知見が反映された内容に変わっていますね。

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Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Severe Sepsis and Septic Shock: 2012

A.初期蘇生
1.低血圧や乳酸値>4mmol/L(36mg/dl)の患者ではすみやかに蘇生を開始する。6時間以内に以下の達成を目指す(grade 1C)。
 ・中心静脈圧(CVP)8~12mmHg
 ・平均動脈圧(MAP)≧65mmHg
 ・尿量≧0.5ml/kg/hr
 ・中心静脈(上大静脈)酸素飽和度≧70%あるいは混合静脈血酸素飽和度≧65%
2.乳酸値が上昇している患者では正常乳酸値へ戻すよう蘇生をはかる(grade 2C)。

B.敗血症スクリーニングとパフォーマンスの改善
1.早期治療の実現のために、潜在的に重症敗血症の可能性がある患者はルーチンでスクリーニングを行う (grade 1C)。
2.重症敗血症では病院ごとのパフォーマンスの改善の努力が必要である(UG)。

C.診断
1.抗菌薬の開始が45分を超えるといった有意な遅れがなければ、抗菌薬投与前の培養検体採取は臨床的に適切である(grade 1C)。少なくとも血液培養を2セット以上(好気ボトルと嫌気ボトルの両方)採取する。少なくとも1セットは経皮的に、もう1セットは挿入後48時間未満であれば血管内カテーテルから採取してもよい(grade 1C)。
2.感染症の原因として侵襲性カンジダ症を考慮する場合は、1,3 β-Dグルカン (grade 2B)、マンナン抗原および抗マンナン抗体(grade 2C)を測定してもよい。
3.潜在的な感染源の検索のため画像検査を迅速に行うべきである(UG)。

D.抗菌薬治療
1. 敗血症性ショック (grade 1B) 、重症敗血症 (grade 1C) と認識した場合、最初の1時間で有効な抗菌薬を経静脈的に投与すべきである。
2a.初期治療には、原因と考えられる細菌/真菌/ウイルスに対して有効であり、敗血症の感染原因と推定される組織へ十分に移行する感染症治療薬を1つ以上選択する (grade 1B)。
2b.治療薬のレジメンは毎日de-escalationが可能か評価すべきである(grade 1B)。
3. 初期に敗血症と判断したものの後に感染の根拠が乏しいと判断したときは、プロカルシトニンや同様のバイオマーカーが低値であることをエンピリック治療を中止するために使用してよい(grade 2C)。
4a. 好中球が減少している患者の重症敗血症(grade 2B)、AcinetobacterPseudomonas spp.といった難治性多剤耐性菌による感染症(grade 2B)の場合には、抗菌薬を併用したエンピリック治療を行うべきである。呼吸不全や敗血症性ショックを伴う重症感染症の場合、P. aeruginosa菌血症をカバーするため広域のβラクタムにアミノグリコシドまたはフルオロキノロンを併用すべきである(grade 2B)。Streptococcus pneumoniaeの菌血症を伴う敗血症性ショックの場合、βラクタムとマクロライドを併用すべきである(grade 2B)。
4b.エンピリックな抗菌薬の併用療法は3~5日を超えて使用すべきではない。菌の感受性が判明すれば、最適な抗菌薬の単剤治療にde-escalationすべきである(grade 2B)。
5.抗菌薬の治療期間は典型的には7〜10日である。治療の反応が遅い患者、ドレナージできない感染巣がある患者、S. aureusによる菌血症の患者、真菌感染やウイルス感染、好中球減少症を含む免疫抑制のある患者ではより長期間の治療が必要になるかもしれない(grade 2C)。
6.重症敗血症または敗血症性ショックの原因がウイルスの場合、できるだけすみやかに抗ウイルス薬を開始する(grade 2C)。
7.重篤な炎症の状態にある患者でも感染症が原因ではないと判断した場合は抗菌薬は使用すべきではない (UG)。

E.感染源のコントロール
1.緊急的な感染源のコントロールが必要な解剖特異的な感染源の検索、その診断および除外をすみやかに行い、可能ならば診断後12時間以内に感染源のコントロールを行う (grade 1C)。
2.感染性膵臓周囲壊死が感染源である可能性がある場合、感染組織と非感染組織の境界がはっきりするまで待って外科的な介入をおこなう(grade 2B)。
3.感染源のコントロールが必要な重症敗血症患者では、最も侵襲が少ない処置で最も効果的なものを選択すべきである(膿瘍に対しては外科的ドレナージよりも経皮的ドレナージ、など) (UG)。
4. 血管内カテーテルが重症敗血症や敗血症性ショックの感染源になっている可能性がある場合、他の血管内カテーテルを確保できた段階ですみやかに抜去すべきである(UG)。

F.感染予防
1a.人工呼吸器関連肺炎(VAP)を減らすためにSOD(Selective oral decontamination)とSDD(Selective digestive decontamination)を行うべきである;これらの予防策は当該方法が有効と考えられる医療施設や地域で行ってよい(grade 2B)。
1b.口腔咽頭の除菌のために口腔内グルコン酸クロルヘキシジンの塗布は、ICUの重症敗血症患者のVAPのリスクを減らすことができる (grade 2B)。

G.重症敗血症の輸液療法
1.重症敗血症や敗血症性ショックの患者の初期蘇生には晶質液を用いるべきである (grade 1B)。
2.重症敗血症や敗血症性ショックの患者の蘇生にhydroxyethyl starches(HES)を用いるべきではない(grade 1B)。
3.蘇生に晶質液を大量に必要とする重症敗血症や敗血症性ショックの患者に対してはアルブミンの点滴を行う(grade2C)。
4.敗血症による組織低灌流と血管内容量減少のある患者の初期輸液は、晶質液を最低でも30ml/kg以上投与すべきである(一部、相当量アルブミンで代替可能)。患者によってはより早い速度でより大量の輸液が必要となる(grade 1C)。
5.初期輸液を動的指標(脈圧やstroke volume variation[SVV]変化)や静的指標(動脈圧、心拍数)において血行動態の改善が得られるまで継続する輸液チャレンジテクニックを適応してよい(UG)。

H.昇圧剤
1.昇圧剤は、平均動脈圧(MAP)65mmHgを目標に投与する(grade 1C)。
2.昇圧剤の選択はノルアドレナリン(ノルエピネフリン)が第一選択である(grade 1B)。
3.十分な血圧が保てない場合は(ノルアドレナリンに追加、もしくは潜在的代替薬として)アドレナリンを用いる(grade 2B)。
4.MAPの上昇やノルアドレナリンの減量の目的で、ノルアドレナリンにバソプレシン0.03単位/分を加えて投与してもよい(UG)。
5.敗血症による血圧低下に対して初期に選択する昇圧剤として低用量バソプレシンは推奨されない。0.03-0.04単位/分以上のバソプレシンは(他の昇圧剤でMAPの達成が得られない場合などの)サルベージ治療として温存する(UG)。
6.ノルアドレナリンの代替薬としてドパミンを用いるのは(頻脈性不整脈や絶対的/相対的徐脈のリスクが低い患者など)極めて限られた患者に対してである (grade 2C)。
7. フェニレフリンは敗血症性ショックにおいて以下の場合以外には推奨されない。(a)ノルアドレナリンによる重症不整脈がある場合、(b)心拍出量は高いのに血圧が低い場合、(c)強心剤/昇圧剤を併用したり低用量バソプレシンを投与してもMAPが目標値を達成できない場合(grade 1C)。
8.低用量ドパミンを腎保護作用目的で使用すべきではない (grade 1A)。
9.昇圧剤を必要とする患者には可能であればすみやかに動脈カテーテルを挿入すべきである(UG)。

I.強心薬
1.以下の場合、昇圧剤に加えてドブタミンを20μg/kg/分で投与してよい。(a)心充満圧が上昇しているが心拍出量が低いなど心筋機能障害が示唆される場合、(b)十分な血管内容量と適切なMAPであるのに組織低灌流が持続している徴候がある場合(grade 1C)。
2.規定された正常を超える心係数にするために強心剤を使用すべきではない(grade 1B)。

J.コルチコステロイド
1.適切な輸液と昇圧剤によって血行動態が安定した成人の敗血症性ショック患者ではヒドロコルチゾンを静脈内投与すべきではない(「初期蘇生」の項目を参照)。逆に血行動態が安定しない場合には、ヒドロコルチゾン200mg/日の静脈内投与を推奨する (grade 2C)。
2.成人の敗血症性ショック患者にヒドロコルチゾンを投与すべきかどうか判断するためにACTH負荷試験を行うべきではない(grade 2B)。
3.昇圧剤が不要となればヒドロコルチゾンは減量すべきである(grade 2D)。
4.ショックではない敗血症の治療のためにステロイドを投与すべきではない(grade 1D)。
5.ヒドロコルチゾンの投与を行う場合、持続投与で行う(grade 2D)。

K.血液製剤の投与
1.組織低灌流が改善し心筋虚血や重度の低酸素、急性出血、虚血性心疾患などがなければ、赤血球輸血はヘモグロビン7.0g/dL未満にのみ行い、ヘモグロビンは7.0-9.0g/dLを目標値とする(grade 1B)。
2.重症敗血症に関連した貧血の特異的治療としてエリスロポエチンを使用すべきではない(grade 1B)。
3.出血や侵襲的な処置の予定がなければ、凝固異常補正を目的とした新鮮凍結血漿の投与は行うべきでない (grade 2D)。
4.重症敗血症や敗血症性ショックの患者の治療にアンチトロンビン製剤を使用すべきではない(grade 1B)。
5.重症敗血症の患者では、明らかな出血がない患者では血小板10,000/mm3未満の場合に血小板輸血をおこなう。出血のリスクがある患者では血小板20,000/mm3未満で血小板輸血を推奨する。活動性出血のある患者、外科的処置や侵襲的処置を行う患者では血小板数が50,000/mm3以上あることが望ましい(grade 2D)。

L.免疫グロブリン
1. 重症敗血症や敗血症性ショックの患者の治療に免疫グロブリンの静脈内投与を行うべきではない(grade 2B)。

M.セレン
1. 重症敗血症の治療にセレンの静脈内投与は推奨されない (grade 2C)。

N.遺伝子組換え活性化プロテインC(rhAPC)に関する推奨の歴史
rhAPC(もはや推奨されない)を推奨してきた歴史を提示する。

O.敗血症に伴う成人呼吸促迫症候群(ARDS)の人工呼吸管理
1.敗血症に伴うARDS患者では人工呼吸の1回換気量を6mg/kg(予測体重)に設定すべきである (grade 1A vs. 12 mL/kg)。
2.ARDS患者ではプラトー圧を測定し、初期の上限は受動的肺拡張時には30cmH2O以下とすべきである (grade 1B)。
3.呼気終末時の肺胞虚脱(atelectotrauma)を防ぐため、PEEPを適用すべきである(grade 1B)。
4.敗血症に伴う中等度~重症ARDSでは、低PEEPよりも高PEEPにすべきである (grade 2C)。
5.重症難治性低酸素血症の敗血症患者ではリクルートメント手技を行うべきである (grade 2C)。
6.敗血症に伴うARDSでP/F比が100mmHg以下の患者では、経験の豊富な施設であれば腹臥位療法を行ってもよい(grade 2B)。
7.人工呼吸管理中の敗血症患者では、誤嚥のリスクを減らしVAPの発症を防ぐため頭部を30~45度挙上すべきである (grade 1B)。
8. 敗血症に伴うARDSでは、非侵襲的マスク換気(NIV)の使用による有益性が考慮される場合およびリスクよりも上回る場合には使用してよい(grade 2B)。
9.人工呼吸管理中の重症敗血症にはウィーニングのプロトコルを適用し、以下の基準を満たしたときに人工呼吸を離脱できるかどうか定期的にSBT(spontaneous breathing trials)で評価を行う。
a)覚醒できる
b)血行動態的に安定している(昇圧剤を使用していない)
c)新規の重症になりうる合併症がない
d)PEEPの設定が低い
e)マスクや鼻カニューラによる酸素投与でも問題ないくらいにFiO2が低い
もし、SBTが成功すれば抜管を考慮すべきである(grade 1A)。
10.敗血症に伴うARDSにルーチンで肺動脈カテーテルを使用すべきではない(grade 1A)。
11.組織低灌流がない敗血症に伴うARDSでは輸液はおさえるべきである(grade 1C)。
12.気管支痙攣のような特異的な適応がなければ、敗血症に伴うARDSではβ2刺激薬を治療として用いるべきではない(grade 1B)。

P.敗血症の鎮静、鎮痛、筋弛緩
1.患者のエンドポイントを明確にするため、持続あるいは間欠的であろうと鎮静は人工呼吸管理中の敗血症患者では最小限にすべきである(grade 1B)。
2.神経筋遮断薬は中止後にもその神経筋遮断作用が遷延するため、敗血症に伴うARDSに対する投与はできれば避ける。神経筋遮断薬を使用する場合、必要時に間欠的に投与するか、持続投与する場合は遮断効果の評価のために四連刺激(train-of-four)を行う(grade 1C)。
3.早期の敗血症に伴うARDSでP/F比が150mmHg未満の患者では、48時間を超えない短期間の神経筋遮断薬の使用を推奨する(grace 2C)。

Q.血糖管理
1.重症敗血症でICUに入室している患者に対してはプロトコル化した血糖管理を行い、2回連続で血糖が180mg/dlを超えれば、すみやかにインスリンの投与を行う。このプロトコル化されたアプローチでは血糖値の上限は110mg/dl以下よりも180mg/dl以下と設定した方がよい(grade 1A)。
2.血糖値とインスリン投与量が安定するまでは1~2時間毎に血糖を測定し、安定すれば4時間毎に測定すべきである(grade 1C)。
3.ベッドサイドでの毛細血管血による血糖値測定(デキスター)は、動脈血や血漿の糖を正確には反映しないことがあり解釈に注意が必要である(UG)。

R.腎代替療法
1.急性腎不全を伴う重症敗血症患者では、CRRT(Continuous renal replacement therapies:持続的腎代替療法)と間欠的血液透析の効果は同等である(grade 2B)。
2.血行動態が不安定な敗血症患者では輸液管理を円滑にするため間欠透析よりもCRRTを選択すべきである (grade 2D)。

S.重炭酸治療
1.組織低灌流による乳酸血症でpHが7.15以上の患者に対して、血行動態の安定化や昇圧剤減量をねらって重炭酸ナトリウムを投与すべきではない (grade 2B)。

T.深部静脈血栓症(DVT)の予防
1.重症敗血症の患者に対しては静脈血栓塞栓症の予防のために毎日予防投与を行うべきである(grade 1B)。これは低分子ヘパリンの皮下投与がよい (grade 1B vs 未分画ヘパリン1日2回投与、grade 2C vs 未分画ヘパリン1日3回投与)。クレアチニンクリアランスが30mL/min未満であれば、ダルテパリン (grade 1A)または腎に代謝されにくいタイプの低分子ヘパリン (grade 2C)、または未分画ヘパリン (grade 1A)を用いるべきである。
2.重症敗血症患者はできれば薬剤と間欠的空気圧迫装置による併用でDVTを予防すべきである(grade 2C)。
3.血小板減少、重度の凝固異常、活動性出血、最近の脳出血の既往などヘパリンの使用が禁忌である敗血症患者では薬剤によるDVTの予防はすべきではない(grade 1B)。しかし、弾性ストッキングや間欠的空気圧迫装置による機械的な予防は禁忌でないならば行うべきである (grade 2C)。リスクが減少すれば薬剤投与を開始すべきである (grade 2C)。

U.ストレス潰瘍の予防
1.出血のリスクがある重症敗血症や敗血症性ショックの患者に対するストレス潰瘍の予防には、H2受容体拮抗薬またはプロトンポンプ阻害薬を使用すべきである (grade 1B)。
2.ストレス潰瘍の予防には、H2受容体拮抗薬よりもプロトンポンプ阻害薬の方を用いるべきである(grade 2D)。
3.ストレス潰瘍のリスクがない患者には予防投与はすべきではない(grade 2B)。

V.栄養
1.重症敗血症や敗血症性ショックと診断した場合、絶食や静脈内にグルコースを投与するよりも、可能ならば最初の48時間に経口または経腸栄養(もし必要なら)を開始すべきである(grade 2C)。
2.治療の最初の週には十分なカロリーを投与するよりも、最大500kcal/日程度の投与の方が望ましい(grade 2B)。
3.重症敗血症や敗血症性ショックと診断された最初の7日までに、完全静脈栄養単独や静脈栄養と経腸栄養を組み合わせるよりも、静脈へのグルコース投与と経腸栄養を行うべきである (grade 2B)。
4.重症敗血症患者には免疫賦活作用のある物質よりも免疫賦活作用のない物質の補充を行う方がよい(grade 2C)。

W.ケアのゴール設定
1.ケアのゴールと患者の予後について、患者本人や家族と話し合うべきである(grade 1B)。
2.ケアのゴールは治療と終末期医療を組み合わせて考え、必要であれば緩和ケア原理も活用する(grade 1B)。
3.ケアのゴールは可能な限り早く設定し、ICU入室から72時間以上遅れるべきではない(grade 2C)。


SURVIVING SEPSIS CAMPAIGN BUNDLES
•3時間以内に達成すべき目標:
1) 乳酸値の測定
2) 抗菌薬投与前の血液培養採取
3) 広域スペクトラム抗菌薬を投与
4) 血圧低下または乳酸 4mmol/L以上に対して晶質液を30 mL/kgで投与

•6時間以内に達成すべき目標:
5)(初期輸液に反応しない血圧低下に対して)平均動脈圧(MAP)65mmHg以上を目標に昇圧剤投与
6) 輸液蘇生を行なっても血圧低下が持続する、または初期の乳酸値が4mmol/L (36 mg/dL)以上であれば、
 - 中心静脈圧(CVP)を測定する
 - 中心静脈酸素飽和度(ScvO2)を測定する
7) 初期の乳酸値が上昇していれば、再測定を行う
※ガイドラインにおける蘇生の定量的指標の目標値は、CVPが8 mmHg以上、 ScvO2が70%以上、乳酸の正常化である


by otowelt | 2013-01-27 10:01 | 集中治療

ARDSに対するHFOVは死亡率の改善に寄与しない

タイトルが非常に似ているので混同しそうになりましたが、NEJMから2つ目のHFOVの臨床試験です。HFOVの中央日数が3日間ですが、ARDSネットワークのプロトコールと比較して有意性が証明されませんでした。

Duncan Young, et al.
High-Frequency Oscillation for Acute Respiratory Distress Syndrome
NEJM January 22, 2013DOI: 10.1056/NEJMoa1215716


背景:
 急性呼吸促迫症候群(ARDS)の患者は、動脈血酸素化を維持するため人工呼吸管理を要するが、この治療は二次的な肺傷害を誘発するかもしれない。高頻度振動換気:High-frequency oscillatory ventilation (HFOV)は二次的なダメージを減らすことができるかもしれない。

方法:
 この試験は、イギリスの12の大学病院、4の大学関連病院、13の一般市中病院でおこなわれた。この多施設共同試験において、われわれは成人のARDS患者で人工呼吸を有する患者をランダムにHFOV(Novalung R100 ventilator (Metran)を使用)あるいは通常の人工呼吸管理に割り付けた。HFOV初期設定は10Hz、平均気道内圧5cmH2O、バイアスフロー20L/min、サイクルボリューム100 ml、吸入酸素濃度1.0、I:E=1:1とした。HFOVは、pH7.25を超えるようPaCO2をコントロールした。これが達成できない場合、振幅を1Hzずつ減少させた。最小で5Hzとした。PaO2は60 mm Hg~75 mm Hgを維持するようにした。FiO20.4以下で平均気道内圧が24cmH2Oに到達した場合、従圧式の人工呼吸管理にスイッチした。
 通常の人工呼吸管理群では、一回換気量6~8 ml/kg(理想体重)とし、PEEPはARDSネットワークのプロトコールに基づいて設定した。
 全ての患者はP/F比が200mmHg以下で少なくとも2日間の人工呼吸管理を要すると予想されるものとした。プライマリアウトカムはランダム化からの30日死亡率とした。

結果:
 2306人の医療従事者をこの試験においてオリエンテーションをおこなった。患者は2007年12月から2012年7月まで登録した。2769人の患者がスクリーニングされ、795人(28.7%)がランダム化フェーズに移行した。
 HFOVは、388人の患者で中央日数で3日間(IQR2-5)使用された。最長で24日間であった。
 プライマリアウトカムに両群での差はみられず、30日死亡率はHFOVで398人中166人(41.7%)、通常の人工呼吸管理群で397人中163人(41.1%)であった(P = 0.85 by the chi-square test)。
 施設間、性別、APACHEIIスコア、初期P/F比で補正をおこなうと、通常の人工呼吸管理群の生存オッズ比は1.03 (95%信頼区間 0.75 to 1.40; P = 0.87 by logistic regression)であった。

結論:
 ARDSに対する人工呼吸管理を要する患者でHFOVの使用は、30日死亡率に有意な影響を与えない。

by otowelt | 2013-01-26 00:05 | 集中治療

成人ARDSに対するHFOVは通常の人工呼吸管理と比較して死亡率を上昇

 NEJMから、HFOVに関する比較試験が2つNEJMから発表されています。これは、そのうちの1つです。新生児の有用性(胎児水腫や重篤なRDSなど)で肺傷害を予防する意味合いはあると思いますので、この換気法が必ずしも良くないという意味ではないと思います。

Niall D. Ferguson, et al.
High-Frequency Oscillation in Early Acute Respiratory Distress Syndrome.
NEJM January 22, 2013DOI: 10.1056/NEJMoa1215554


背景:
 これまでの臨床試験で、高頻度振動換気:high-frequency oscillatory ventilation (HFOV)は、成人の急性呼吸促迫症候群:acute respiratory distress syndrome (ARDS)の死亡率を下げるという報告がなされたが、臨床試験は限定されておりサンプルサイズも小さい(Am J Respir Crit Care Med 2002;166:801-8.、Crit Care 2005;9:R430-R439.、BMJ 2010;340:c2327.)。

方法:
 パイロット試験としてカナダの11施設およびサウジアラビアの1施設で試験がおこなわれ、本試験は多施設共同ランダム化比較試験として合計5ヶ 国の39ICUでおこなわれた。成人新規発症の中等度から重症ARDS患者(FiO2が0.50以上でP/F比200以下)に対して、ランダムに肺リクルートメントを目標としたHFOVあるいは低換気量・高PEEPによる肺リクルートメントを目標とした呼吸器設定に割り付けた。
 登録後、標準化人工呼吸設定が全ての患者に適応された。すなわち、従圧式で一回換気量が6ml/kg、FiO2が0.60、PEEPが10cmH2Oとした。その30分後、P/F比が依然 200以下であれば、患者はHFOVあるいはコントロール群としての人工呼吸管理群のランダム化フェーズに進んだ。
 プライマリアウトカムは全死因の院内死亡とした。

結果:
 1200人の患者を登録する予定だったが、548人を登録し終えた時点でHFOV群の死亡率が有意に高いことが判明し、試験は早期に中止された。2群 ともベースラインはよくバランスがとれていた。HFOV群は中央値で3日間HFOVをおこない(IQR 2 to 8)、抵抗性の低酸素血症のためコントロール群の273人中34人(12%)がHFOVを受けた。
 院内死亡率はHFOV群で47%、コントロール群で35%であった(HFOVの死亡相対リスク 1.33; 95% 信頼区間 1.09 to 1.64; P = 0.005)。この知見はベースラインの異常とは独立していた。HFOV群の患者はミダゾラムがコントロール群と比較して多かった(1日199 mg [IQR100 to 382]vs. 1日141 mg [IQR68 to 240], P<0.001)。またHFOV群では、コントロール群よりも多くの患者が神経筋ブロッカーを使用していた(83% vs. 68%, P<0.001)。加えて、HFOV群では、血管作動薬の使用が多く(91% vs. 84%, P = 0.01)、コントロール群よりも使用期間が長かった(5日 vs. 3日、 P = 0.01)。
 抵抗性の低酸素血症はコントロール群の方がHFOV群よりも多かったが、その状態に陥ったあとの死亡率は両群とも同等だった。また、生命維持装 置の中止後の死亡率は両群とも同等だった(HFOV群:55% [71 of 129 ] vs. コントロール群:49% [47 of 96]、 P = 0.12)。barotrauma率も、統計学的には両群とも同等だった(18% vs. 13%, P = 0.13)。
 生存した患者の解析では、人工呼吸器装着期間やICU在室期間は同等だった。

結論:
 成人の中等度から重症のARDSでは、早期のHFOVは低換気量・高PEEPの人工呼吸管理と比較して死亡率を減らすことはなく、むしろ上昇す るかもしれない。

by otowelt | 2013-01-25 00:02 | 集中治療

医師が使う日本語はおかしい?

e0156318_1346505.jpg コラムを書くのは当ブログの趣旨とは異なるのですが、別職種の友人から”医師が使う日本語がおかしい”と指摘されたので、個人的に感じるところを書いてみたいと思います。これから述べる日本語についての意見は、私自身も頻繁に使用することがある言い回しなので、決して否定的な意見を持っているわけではないことを先に述べておきます。
 私は4年以上にわたってブログという媒体で文章を書き続けていますが、それでも「医師独特の言い回しをしてしまった」と後から反省することがあります。雑誌の執筆でも、配慮しているのにもかかわらず編集社からしばしば訂正され、そのたびに自分の日本語能力の低さに辟易とします。これはおそらく医師の初期に受けた”医師文体”の教育のせいではないかと考えています。紹介状や学会発表、場合によってはpeer reviewがある日本語論文であっても医師は非常に独特な言い回しをすることがあります。それは医療に携わっていない方々から見ると、とても奇妙な日本語に見えるようです。

●にて

 例文:「胸痛にて来院。」

 「にて」は、格助詞「に」+接続助詞「て」から構成されています。この言葉は広辞苑にも載っている言葉なので決して誤った言葉ではありませんが、古文の授業でもない限り、日常でこのように古い言い回しを使うことはありません。
 「胸痛にて」という言葉は「胸痛によって(因って)」という言葉を短縮したものですが、現在は「胸痛で」と言うのが一般的だろうと思います。この「にて」という言葉は、驚くほど医療界で汎用されています。「によって(因って)」以外にも「当院にて(に於いて)」という用法もありますが、これも目にするとすれば古文の世界くらいではないでしょうか。(例:「成菩提院の御所にて御ぐしおろさせ給ふ」 『保元物語』)
 その昔学会はきわめて格式高い場でおこなうもので、現代の一例発表ばかりのものとは異なり、1つ1つの発表が医学界でとても重大な意味を持っていました(もちろん現在の一例発表も重要だとは思いますが)。その時に使われた「胸痛ニテ来院シ」と格式ばった言い回しがこの文体の普及した始まりではないかと考えられます。日本のサイエンスの世界は閉鎖的なので、学会や論文で使われた文体はそのまま次世代へと引き継がれていきました。


●体言止め

 例文:「胸痛にて来院。」

 「来院」の後がなく、体言止めで終わっています。文学小説で、ここぞという時に体言止めを使うことは良いと思いますが医師が使う言葉で体言止めは必要ないと思います。「胸痛で来院した。」でいいのではないでしょうか。


●認められる

 例文:「聴診にて湿性ラ音認め、胸部レントゲン写真上結節影が認められた。」

 日本の学会や論文で、臨床所見が観察される場合に「●●が認められる」という言葉を使うことがあります。一般的に「認められる」という言葉を使う場面というのは、「成人になったので飲酒が認められる」、「医師免許を取得したので、医療行為が認められる」といった際に使用する、”資格”や”許可”の意味合いが強いと思います。「胸部レントゲンで結節影が認められる」という言葉は、多くの医師はおそらく”認識・認知”の意味で使用していると考えられます。「そこに、人影を認めた。」という小説のような言い回しもありますが、あまり日常的に使う言葉ではありません。医師の場合、「認める」「認められる」という言葉は学会でも異常に使用する頻度が高く、明らかに誤った用法ではないものの不自然にすら見えます。「胸部レントゲン写真で結節影がみられた」でいいと思います。


●脱助詞

 例文:「胸腔ドレーン挿入後、症状改善認めた。」 

 俗に言う、「てにをは(弖爾乎波)」のことです。学会発表や医師の紹介状では、かなりの確率でこの脱助詞現象がみられます。驚くべきことに、提示した例文では「てにをは」が一つもありません。せめて「胸腔ドレーンを挿入した後、症状は改善した。」と「てにをは」を挿入したいですね。これほど「てにをは」が抜ける現象は避けたいものです。


●となる、となった

 例文:「症状改善認め、退院となった。」

 これも学会発表や論文でよく使用されている言い回しですが、「退院した」でいいと思います。動詞をわざわざ名詞化しなくてもいいのはないでしょうか。「お会計は1000円になります」でなく「お会計は1000円です」。「ハンバーグステーキになります」ではなく「ハンバーグステーキです」。


●御侍史

 例文:「○○病院 呼吸器内科 ××先生 御侍史」

 言い回しというより、これは隠語(ジャーゴン)化している言葉です。「侍史」とは「私のような身分の低い者が先生に直接お手紙を書くなど滅相もないので、先生の秘書(=待史)宛てに、言伝て申し上げます。」という意味の脇付(わきづけ)です。「御机下」なら「御」をつける必要があると教わったことがありますが(敬意を表する人の所有物である机下であるため)、「侍史」には本来「御」をつけません。「侍史」に「御」がついた理由は、もしかすると「御御御付け(おみおつけ)」と同じように、”マックス敬語”にしようと考えた医師がいるのかもしれませんね。「侍史」も「御机下」もとても古い言い回しで、医療従事者でなければ聞いたことすらない人が多いです。
 個人的には「先生」か「様」だけでいいのではないかと考えていますが、郷に入れば…ということで私もこの「侍史」という言葉は使い続けています(医師同士を先生と呼び合うこと自体も本来は不自然なのですが……)。
 


 もちろん、ゼク、ムンテラ、ステルベンといった隠語(ジャーゴン)は利便性がありますしあってしかるべき言葉かもしれません。しかし、文法や言い回しはできることなら閉鎖的になって欲しくはないものです。こういった文章の書き方が当たり前と思ってしまった研修医が、次の研修医へこれを引き継いでいくことで、”医師文体”の慣習が脈々と続いていくのでしょう。そのため、「36歳男性。胸痛にて来院。来院時胸部レントゲンにて左下肺野浸潤影認める」、「胸部レントゲンにて気胸認め、胸腔ドレーン挿入後、症状改善認めた」、というどこかの時代の軍隊の電報にも似た、不自然な日本語が当然のように学会で使用されています。これらが閉鎖された世界で独立した言語体系に発展していくのではないかと一抹の不安を感じます。
 しかし、言語は時代によって移り変わりゆくものです。半世紀後には「全然」という副詞も「全然、大丈夫」という用法が正しいものとして教育現場に普及するかもしれません。ただそれでも、この”医師文体”が少なくとも世間とかけ離れた言い回しのままであるという事態は避けたいものです。


by otowelt | 2013-01-24 00:15 | その他

MUC5Bのポリモルフィズムは特発性肺線維症に関連するが、全身性強皮症やサルコイドーシスでは関連せず

MUC5BとIPFの話題です。特異性の高い線維化関連SNPであるという報告です。

Carmel J Stock, et al.
Mucin 5B promoter polymorphism is associated with idiopathic pulmonary fibrosis but not with development of lung fibrosis in systemic sclerosis or sarcoidosis.
Thorax Online First, published on January 15, 2013 as 10.1136/thoraxjnl-2012-201786


背景:
 イギリスのスタディにより、MUC5B転写部位の3kb上流のポリモルフィズム(rs35705950)は、家族性や孤発性特発性肺線維症(IPF)に関連していると考えられている(N Engl J Med 2011;364:1503–12., N Engl J Med 2011;364:1576–7.)。
e0156318_15412854.jpg
e0156318_15432699.jpg
われわれは、この変異が線維性肺疾患のリスク因子となるのかどうかを調べ、イギリスの白人のIPF集団におけるデータを提示する。

方法:
 イギリス白人の健常者コントロール(n=416)とIPF患者(n=110)、サルコイドーシス患者(n=180)、全身性強皮症患者(SSc) (n=440)が登録され、ジェノタイピングを受けた。SScとサルコイドーシスのコホートは、肺に線維化があるかないかでサブグループ化された。疾患進行との関連性を評価するため、努力性肺活量やDLCOが減少するまでの期間がIPFとSSc群で調べられた。

結果:
 イギリス人の集団において、MUC5BプロモーターのSNPは有意にIPFと関連していた(p=2.04×10–17; OR 4.90, 95% CI 3.42 to 7.03)。
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MUC5Bの変異はSScやサルコイドーシスにおける肺線維化とは関連しておらず、急速進行性の肺疾患とも関連性がなかった。

結論:
 IPFとMUC5Bの変異には関連性がある。SScやサルコイドーシスの肺繊維化とは関連性がみられなかったが、この結論は限られたサブグループ数に由来するため、確実にその可能性を除外すると結論づけるものではない。

by otowelt | 2013-01-23 00:29 | びまん性肺疾患

抗凝固療法は肺癌の生存期間を延長する

e0156318_1525422.jpgインパクトが大きいシステマティックレビューですが、リスク比の有意差は微々たるものであり、日常臨床にこれをすぐに適応することはないと思います。

Jing Zhang, et al.
Efficacy and safety of adjunctive anticoagulation in patients with lung cancer without indication for anticoagulants: a systematic review and meta-analysis.
Thorax Online First, published on January 15, 2013 as 10.1136/thoraxjnl-2012-202592


背景:
 肺癌患者は、静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクが高く、VTEは予後不良因子である。そのため、抗凝固療法はこれらの患者で利益があるかもしれない。しかし、抗凝固療法の適応にない肺癌患者において抗凝固薬が生存やほかのアウトカムを改善させるかどうかは不明である。

方法:
 われわれはWeb of Science, Medline, EMBASE, Cochraneのデータベースから信頼性のある試験を抽出した。2人のレビュアーが独立して試験を評価しデータを抽出した。プライマリアウトカムは1年生存とVTE発症とした。
 抽出した試験で出版バイアスはみられなかった。
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結果:
 9試験2185人の肺癌患者が登録された。抗凝固療法は有意に1年生存率(RR 1.18, 95% CI 1.06 to 1.32; p=0.004)および2年生存率(RR 1.27, 95% CI 1.04 to 1.56; p=0.02)を改善したが、6ヶ月時には有意差はみられなかった。
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 サブグループ解析では、小細胞肺癌や非進行/限局型肺癌で生存的利益が確認された。
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 VTE発症(RR=0.55, 95% CI 0.31 to 0.97; p=0.04)、血栓塞栓イベント(RR=0.48, 95% CI 0.28 to 0.82; p=0.008)は抗凝固療法によって有意に低下した。
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 ビタミンK拮抗薬とヘパリン皮下投与は出血のリスクを上昇させるが、ヘパリンは重篤な出血の有害事象を増加させなかった。

結論:
 抗凝固療法の適応にない肺癌患者において、抗凝固療法は特に小細胞肺癌で生存的利益が示された。ヘパリン皮下投与はビタミンK拮抗薬よりも出血リスクの観点から優れている。

by otowelt | 2013-01-22 00:09 | 肺癌・その他腫瘍