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医師と看護師の喫煙率

e0156318_10101938.jpg●はじめに
 『平成23年国民健康・栄養調査結果の概要』によれば、現在習慣的に喫煙している国民は20.1%で、性別では男性32.4%・女性9.7%とされています。男性の喫煙率は先進国の中で飛びぬけて高いです。
 では、医師・看護師の喫煙率はどのようになっているのでしょうか。限られたデータではありますが、少し調べてみました。

●医師の喫煙率
 日本医師会は4年ごとに喫煙率の調査をおこなっています(私は回答した記憶はないのですが・・・)。それによれば、2000年の時点では高い喫煙率(男性27.1%・女性6.8%)でしたが、2012年の第4回日本医師会員喫煙意識調査実施によれば、喫煙率は男性12.5%・女性2.9%と低下しています。すなわち、日本の医師の喫煙率は男女ともに国民の平均喫煙率の半分以下ということになります。
 数値だけみれば、まだまだ高いと思います。
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 診療科別の喫煙率では、さすがに呼吸器科が最も少ない喫煙率です。肌に対する影響を知っているためか、皮膚科医の喫煙率もかなり低いものです。外科系と精神科は喫煙率が高い傾向にあります。なぜか、救急に関しては見つかりませんでした。
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 医師が喫煙する要因として、男性であること、60歳代、月4回以上の夜勤・当直があること、毎日の飲酒習慣があること、運動習慣がないことが挙げられます。ちなみに、海外の報告でも救急医の喫煙率が高いという報告があります。
El-Khushman HM, et al. Cigarette smoking among health care workers at King Hussein Medical Center. J Hosp Med. 2008 May;3(3):281-4.
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●看護師の喫煙率
 日本看護協会は、2001年、2006年に喫煙の調査をおこなっておりますが、2006年時点で喫煙率は18.5%と報告されています。しかし、調べた限りではこれ以降調査結果は開示されておらず、現時点での喫煙率は不明です。そのため、2006年のデータのみで比較すると、医師の喫煙率とそこまで大きく変わらないかもしれません。
 多くの報告では看護師の方が医師よりも喫煙率が高いと考えられていますが、国によって勤務形態や職業範疇も異なるため、あまり他国の報告はあてにならないかもしれません。
・Ravara SB, et al. Smoking behaviour predicts tobacco control attitudes in a high smoking prevalence hospital: a cross-sectional study in a Portuguese teaching hospital prior to the national smoking ban. BMC Public Health. 2011 Sep 23;11:720.
・Sarna L, et al. Are health care providers still smoking? Data from the 2003 and 2006/2007 Tobacco Use Supplement-Current Population Surveys. Nicotine Tob Res. 2010 Nov;12(11):1167-71.
・Jones TE, et al. Smoking prevalence and perspectives on smoking on campus by employees in Australian teaching hospitals. Intern Med J. 2012 Mar;42(3):311-6.

 ちなみに、国によっては看護師よりも医師の方が圧倒的に喫煙率が高い国もあります。
Movsisyan NK, et al. Smoking behavior, attitudes, and cessation counseling among healthcare professionals in Armenia. BMC Public Health. 2012 Nov 24;12:1028.
 日本看護協会から診療科別のデータは公表されていませんが、喫煙率が低いとされているニュージーランドでは精神科に勤務する看護師の喫煙率が最も高いという報告があります。
Edwards R, et al. Low and declining cigarette smoking rates among doctors and nurses: 2006 New Zealand Census data. N Z Med J. 2008 Oct 17;121(1284):43-51.
 過去の看護研究から、「看護業務のストレス=喫煙」という短絡的な図式が成り立つわけではなさそうですが、不規則な勤務体系がその一助になっている可能性は十分にあります。
川中淑恵ら. 病院勤務看護師の健康状態. 日看管会誌 13; 1:84-91, 2009.
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 看護師を対象とした研究の主要な知見を、まとめて表にしている文献がありましたので、改変転載させていただきます。この研究によれば、まだ仕事についていない看護学生が学生時代にすでに高い率で喫煙していることが示されています。
島井哲志ら. 日本における看護師と看護学生の喫煙行動とストレスについての検討. 禁煙科学 5:P1-P11, 2011.
 日本医師会立看護等学校の看護学生31124人を対象にした調査では、喫煙率は女子15.8 %、男子35.8%、全体で19.6%でした。25歳~30歳の喫煙率は高く、女子23.9% 、男子45.1%にのぼりました。
江口成美. 看護学生の喫煙の現状と対策 医師会立看護学校学生調査より. 日医総研 日医総研ワーキングペーパー, No.276.
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by otowelt | 2013-03-31 11:04 | その他

サルコイドーシスのセカンドライン治療におけるメトトレキサートとアザチオプリンは良好な効果

 サルコイドーシスのセカンドライン治療における免疫抑制剤を比較した論文です。重度の肺サルコイドーシスでステロイドを使うことがあるかと思いますが、呼吸器内科医にとってはかなり興味深い論文だと思います。
 日本では、免疫抑制剤の場合メソトレキセートではなくメトトレキサートと表記します。個人的にはどっちでもいいんですが。

Adriane DM Vorselaars, et al.
Methotrexate versus azathioprine in second line therapy of sarcoidosis
Chest. 2013. doi:10.1378/chest.12-1728


背景:
 サルコイドーシスの治療の第一選択肢は依然ステロイドであるが、慢性的な使用は毒性を高めてしまう。現時点で、妥当な第二選択肢の治療はない。このスタディの目的は、プレドニゾンの漸減、呼吸機能、副作用をメトトレキサートおよびアザチオプリンにおいて比較することである。

方法:
 国際レトロスペクティブコホート試験により、メトトレキサートあるいはアザチオプリンを開始後2年あるいは断薬するまで続けた全てのサルコイドーシス患者を登録した。
 ベルギーのルーヴェン大学病院およびオランダのセントアントニウス病院でおこなわれた。
 サルコイドーシスはATS/ERS/WASOGステートメントに基づいて診断された。
 メトトレキサートは10mg/週から開始し、肝機能をチェックしつつ15mg/週まで増量した。全ての患者は5mgの葉酸を内服することとした。アザチオプリンは2mg/kgを内服し、肝機能や血球をチェックしなたら最大150mg/日まで増量した。
 呼吸機能への治療効果やプレドニゾンの量が線形混合モデルを用いて計算された。副作用はχ2検定で比較された。

結果:
 200人の患者が登録された。145人はメトトレキサート、55人ガアザチオプリンを使用した。メトトレキサートは非白人が多く(p=0.004)、ベースラインのDLCOが高い(p=0.01)というベースライン特性の差がみられた。肺外サルコイドーシスの治療適応は、心サルコイドーシス、神経サルコイドーシス、関節サルコイドーシス、眼サルコイドーシス(ぶどう膜炎)、著明な倦怠感であった。
 免疫抑制剤治療開始から37人が副作用のため脱落した。
 1日1回のプレドニゾンは治療中に年間で6.23mg減少し(p<0.0001)、ステロイド減量効果がメトトレキサートとアザチオプリンにみられた。1年間の治療をおこなった患者の70%が1日量のプレドニゾンを少なくとも10mg減量することができた。
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 両群において、一秒量は年間で平均53ml改善し(p=0.006)、肺活量は年間で平均95ml改善し(p=0.001)。DLCO (%予測値)は年間で平均1.23%増加した(p=0.018)。なお、肺サルコイドーシスと肺外サルコイドーシスでは全パラメータに有意な差がみられていた(* p=0.049、** P<0.001)。
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 アザチオプリン群ではより多くの感染症が観察されたが(34.6 vs 18.1% p=0.01)、他の副作用については両群に差はみられなかった。
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結論:
 サルコイドーシスのセカンドライン治療の効果を比較したこのレトロスペクティブ試験では、メトトレキサートとアザチオプリンは、有意にステロイドを減量する効果があり、呼吸機能に対して良好な効果が同等にみられ、感染症の発症以外ではいずれも副作用は同等であった。


by otowelt | 2013-03-30 12:53 | サルコイドーシス

細胞診検体でのALK同定は有用

e0156318_21153247.jpg 若年肺癌の場合や、組織で腺構造で粘液産生性があるものに関してはALKを検索する必要があると思いますが、全例でALKを検索すべきかどうかはまだ議論の余地があります。
 Lung Cancerから、細胞診検体でALKを組織検体に遜色ないくらいに同定可能であるという報告です。

Tanaka H, et al.
Clinical application of immunocytochemical detection of ALK rearrangement on cytology slides for detection or screening of lung adenocarcinoma.
Lung Cancer. 2013 Mar 20. pii: S0169-5002(13)00111-6. doi:10.1016/j.lungcan.2013.03.006.


背景:
 Anaplastic lymphoma kinase (ALK)再構成の免疫組織化学スクリーニングは重要であり、肺腺癌の治療選択のためにルーチンで検索される。しかしながら、経気管支肺生検(TBLB)による腫瘍へのアプローチはしばしば困難を極めることがあり、気管支鏡をおこなったとしても腫瘍組織の生検組織を得ることができず、同時に得られた細胞診検体に腫瘍細胞が含まれていることがある。

方法:
 われわれは免疫組織化学染色(IHC)をTBLB検体に用いてALKタンパク発現を調べ、さらに同症例のブラシ検体の細胞診スライドで免疫細胞化学染色(ICC)をおこなった。これらを比較し、一致するかどうか検証した。

結果:
 弘前大学病院および国立病院機構弘前病院において18人の腺癌患者が抽出された。IHCおよびICC結果は高い一致率であった。IHCと比較してICCの感度は85.7% (6/7), 特異度は100% (11/11)、陽性適中率は100% (6/6), 陰性適中率は91.6% (11/12)だった。

結論:
 ルーチンのパパニコロウ細胞診スライドにおけるICCでのALK再構成の同定は肺癌治療において有用である。


by otowelt | 2013-03-30 00:11 | 肺癌・その他腫瘍

呼吸機能障害のない特発性肺線維症患者の臨床的特徴

e0156318_2283862.jpg 呼吸機能障害がない早期の特発性肺線維症の患者さんに焦点をあてた、素晴らしい論文です。

Kondoh Y, et al.
Disease Progression in Idiopathic Pulmonary Fibrosis Without Pulmonary Function Impairment
Respirology, 2013, in press, DOI: 10.1111/resp.12082


背景および目的:
 特発性肺線維症(IPF)を理解する上で近年様々な知見が集まっているにもかかわらず、この疾患の早期の病態についてはいまだによくわかっていない。われわれは、呼吸機能障害のないIPF患者の臨床的特徴、疾患の自然経過、生理学的所見を調べた。

方法:
 1997年1月から2006年12月までの間、公立陶生病院で25人の呼吸機能障害のないIPF患者(外科的肺生検で診断)を同定した。”呼吸機能障害がない”というのは、努力性肺活量およびDLCOが両方とも予測値の80%を超えるものと定義した。2人の肺病理医および3人の放射線科医によって組織学的および放射線学的に再評価をおこなった。このスタディでは新しいIPFガイドライン(Raghu G, et al. ATS/ERS/JRS/ALAT Committee on Idiopathic Pulmonary Fibrosis. An official ATS/ERS/JRS/ALAT statement: idiopathic pulmonary fibrosis: evidence-based guidelines for diagnosis and management. Am J Respir Crit Care Med 2011; 183: 788-824.)に基づいて多方面からIPFと診断した。

結果:
 25人のIPF患者の再評価ののち、以下の患者が除外された。2人:慢性過敏性肺炎の可能性がある、3人:喫煙関連肺疾患の可能性がある、1人:リンパ増殖性疾患あるいは膠原病関連肺疾患の可能性がある、1人:39ヶ月後に関節リウマチと診断された、2人:十分なデータがない。そのため、16人のIPF確定例が本試験に組み込まれた。
 11人の患者は定期的な診察で胸部レントゲン異常が同定された。また、7人の患者は無症状であった。HRCTで4人のUIPパターン、9人のpossible UIPパターン、3人のinconsistent with UIPパターンがみられた。これらの観察者間の一致率は良好であった(κ=0.893)。
 11人で疾患増悪(少なくとも10%の努力性肺活量の悪化あるいは少なくとも15%のDLCO悪化)がみられた(平均期間19.9±12.3ヶ月)。
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 単変量解析でUIPパターンおよびHRCTでの蜂巣肺の存在(OR 5.634, 95% CI 1.364-23.278)とその拡がり(%)(OR 2.371、 95%CI 1.042-5.395)は疾患増悪と関連していた。
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 生存期間中央値は112.0±3.9ヶ月であり、7人が死亡した。

結論: 
 呼吸機能障害のないIPF患者はゆるやかではあるが進行する。HRCTでの蜂巣肺は増悪の予測因子である。


by otowelt | 2013-03-29 09:03 | びまん性肺疾患

GSK961081:新規気管支拡張薬MABA

e0156318_22113414.jpg MABAと言われても、片方のAはantagonistで片方のAがagonistだとややこしいこと極まりないですね。
 GSK961081については2012年のERSで演題がありました。

Pascal L.M.L. Wielders, et al.
A new class of bronchodilator improves lung function in COPD: A trial with GSK961081
ERJ February 21, 2013 erj01657-2012


背景:
 GSK961081はムスカリン受容体拮抗薬(MA)およびβ受容体刺激薬(BA)の2つの機能を有する薬剤(MABA)である。

方法:
 患者は40歳以上の現喫煙者・既往喫煙者で、NHANES IIIに基づいてCOPDと診断されたものを登録した。
 これは4週間の多施設共同ランダム化二重盲検ダブルダミープラセボ・サルメテロール対照試験である。複数パターンの1日1回あるいは2回吸入法が中等度および重症COPD患者で検証された。治療群は8アームで、100μg1日1回, 400μg1日1回, 800μg1日1回、100μg1日2回, 200μg1日2回, 400μg1日2回, 50μgサルメテロール1日2回、プラセボに2:2:2:2:2:2:2:3に割り付けた。
 治療期間は28日で、クリニックには1日目、2日目、14日目、28日目、29日目に来院するスケジュールとした。さらに2回の電話コンタクトを7日目および最終受診から7日後におこなった。
 29日時点でのトラフ一秒量がプライマリエンドポイントに設定された。トラフ一秒量は、28日目の夜の吸入後11~12時間後の一秒量とした。

結果:
 436人の患者が登録された。GSK961081は全ての吸入用量において有意にプラセボと29日目の一秒量に差がみられた(155–277 mL)(p<0.001)。妥当な1日用量は400 μgで、29日目の改善はトラフ一秒量で400 μg1日1回で215mL、200 μg1日2回で249mLだった。1日用量800μgと400μgでは差はみられなかった。
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 血糖、血清カリウム値、心拍数、血圧に影響はみられず、QTc延長に用量反応効果は観察されなかった。

結論:
 この試験では、GSK961081はCOPDに対して効果的な気管支拡張薬であり、安全かつ忍容性が高かった。


by otowelt | 2013-03-28 17:29 | 気管支喘息・COPD

妥当な一秒率の使用:一秒率70%未満と一秒率正常下限5パーセンタイルの比較

 年齢別のパーセンタイルを見るには何かしらのツールが必要になるので、実臨床的には一秒率70%未満を使用する方が望ましいように思います。

Surya P Bhatt, et al.
Comparison of spirometric thresholds in diagnosing smoking-related airflow obstruction
Thorax Online First, published on March 23, 2013 as 10.1136/thoraxjnl-2012-202810


背景:
 COPDの診断において呼吸機能検査における気流制限:airflow obstructionは重要な所見である。診断は現在一秒率(FEV1/FVC)によっておこなわれているが、年齢によってこの比率は変化するのではないかという意見もある。GOLDはCOPDにおける気流制限の定義を、気管支拡張薬使用後の一秒率が70%未満であると規定している。ATS/ERSは、年齢によって調整した正常下限を下回る場合に気流制限があると判断したほうがいいのではないかと提唱している(Eur Respir J 2005;26:319–38.)。彼らは、正常下限をNational Health and Nutrition Examination Survey (NHANES) IIIコホートで得られた5パーセンタイルと定義している( Am J Respir Crit Care Med 1999;159:179–87.)。この計算によれば年齢や性別によって正常下限が移動することになる。縦断的試験では、これら2方法は同等であるとしている。
 われわれは、GOLDが推奨する一秒率基準と調整正常下限の精度と差を比較した。

方法:
 多施設共同試験で、気流制限のない現喫煙者と喫煙歴のある被験者(45~80歳)が登録された。一秒率70%未満の基準と一秒率5パーセンタイルの年齢別基準の間の呼吸機能検査の一致率が調べられた。両群とも陰性であった喫煙被験者は気流制限なしと判断した。
 気腫およびエアトラッピングはCTを用いて判断された。低吸収域の面積で判断し、気腫はLAA950insp.のカットオフ値を10%、15%の2種類、エアトラッピングはLAA856exp.15%超に設定した。

結果:
 7743人の被験者が登録された。呼吸機能検査カットオフ値での双法の一致率は高かった(κ=0.85; 95% CI 0.83 to 0.86, p<0.001)。7.3%が不一致であった。一秒率70%未満の定義で気流制限のある被験者は、正常下限定義で気流制限のある被験者と比較すると、気腫の程度や(4.1% vs 1.2%, p<0.001)、エアトラッピング(19.8% vs 7.5%,p<0.001)がよくみられた。喫煙者で気流制限のない被験者でも、一秒率70%未満の定義の方が気腫の程度やエアトラッピングが観察された(4.1% vs 1.9%, 19.8% vs 10.9%, p<0.001)。
 コホート全体では、気腫は一秒率70%未満の基準の場合感度が高く、正常下限の定義の場合は特異度が高かった。
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 総じて、CTでの気腫同定と呼吸機能検査の一秒率との一致率は低かった。
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 また、一秒率定義で気流制限のある被験者は喫煙者で気流制限のない被験者よりも急性増悪を起こしやすかった。

結論:
 一秒率70%未満の基準を用いた場合と比較して、5パーセンタイル正常下限を用いた基準では、高齢であるほど一致率は低いものの、両方ともおおむね一致はしていた。CT検査における判断と呼吸機能検査は一致していなかった。総じて、正常下限の基準を用いた場合高齢者ではより特異度が高くなるものの、有症状およびCTでの気腫性病変を有する患者の多くは同定できなかった。


by otowelt | 2013-03-28 00:24 | 呼吸器その他

悪性胸膜中皮腫を診断するうえで、胸水中ヒアルロン酸カットオフ値10万ng/mLで感度44%・特異度96.5%

e0156318_2351885.jpg 悪性胸膜中皮腫の胸水中ヒアルロン酸のカットオフ値は10万ng/mLと言われていますが、これはあくまで特異度を重視した確定診断を想定した数値です。除外診断の場合、個人的には感度が最も高くなる3万ng/mLあたりをカットオフ値にしています。感度特異度ともに優れたROC曲線が描けない場合、自身で2つのカットオフ値を意識しておくように心がけた方がよいと思っています。
 ヒアルロン酸に限ったことではありませんが、カットオフ値の意味を履き違えずに臨床応用したいものですね。

Fujimoto N, et al.
Hyaluronic acid in the pleural fluid of patients with malignant pleural mesothelioma
Respiratory Investigation 2013, in press.


背景:
 われわれはレトロスペクティブに胸水におけるヒアルロン酸濃度を解析し、悪性胸膜中皮腫(MPM)の鑑別に対する有用性を評価する。

方法:
 胸水中ヒアルロン酸が334人の患者で測定された。50人のMPM、48人の良性石綿胸水、85人の肺癌、18人の他の悪性疾患、86人の感染性胸水、6人の膠原病胸水、41人の他疾患による胸水の患者が登録された。

結果:
 MPMの胸水中ヒアルロン酸の中央値は78,700 ng/mL(7920–2,630,000 ng/mL)であった。良性石綿胸水では35,950(900–152,000)ng/mL、肺癌では19,500(2270–120,000)ng/mL、他の悪性疾患では14,200(900–101,000)ng/mL、感染性胸水では23,000(900–230,000)ng/mL、膠原病胸水では24,600(9550–80,800)ng/mL、他疾患による胸水では8140(900–67,800)ng/mLであった。
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 ヒアルロン酸はMPM患者では有意に高かった。ROC解析では、MPMの鑑別診断に対するRPC曲線下面積は0.832(95%信頼区間0.765–0.898)であった。カットオフ値100,000ng/mLに設定すると、感度44.0%、特異度96.5%であった。
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 MPM群ではヒアルロン酸は上皮型が肉腫型よりも高く(p=0.007)、早期MPM(stageI-II)の方が進行期のMPM(stageIII-IV)よりも高かった(International Mesothelioma Interest Group classification p=0.007)。
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結論:
 胸水中ヒアルロン酸濃度が100,000ng/mLを上回る場合、MPMの診断を考慮すべきである。


ハリソン第4版が出ました。

by otowelt | 2013-03-27 00:07 | 肺癌・その他腫瘍

スピリーバ・レスピマット®はハンディヘラー®と比較して30%の死亡リスク上昇と関連

e0156318_22315092.jpg スピリーバ・レスピマット®の死亡リスク上昇については、BMJやThoraxからのメタアナリシスが記憶に新しいですね。レスピマット®に不利なデータが相次いでいますね。

メタアナリシス:スピリーバ・レスピマットは総死亡・心血管系死亡リスクを有意に上昇

 以下ERJの論文をご紹介します。

KMC. Verhamme, et al.
Use of tiotropium Respimat® SMI vs. tiotropium Handihaler® and mortality in
patients with COPD
ERJ March 21, 2013 erj00058-2013, Published online before print March 21, 2013.


背景:
 チオトロピウム(スピリーバ®)は、ハンディヘラー®あるいはレスピマット®を通して吸入される長時間作用型抗コリン薬である。ランダム化比較試験により、レスピマット®製剤の使用は死亡リスクを上昇するとされている。われわれは、チオトロピウム・レスピマット®とハンディヘラー®の死亡リスクを直接比較した。

方法:
 オランダにおけるプライマリケア情報データベースを用いて、われわれは40歳以上で少なくとも1年間情報が得られる患者を登録した。登録前1年間の情報から、基礎疾患の病歴を抽出した。試験期間は2008年1月1日から2011年1月1日とした。処方データに基づき、チオトロピウムの使用(レスピマット®あるいはハンディヘラー®)を抽出し、このエピソードから死亡リスクをCox比例ハザード回帰分析によって算出した。
 共変量として想定したものは、喫煙歴、基礎疾患(気管支喘息、狭心症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患、心筋梗塞、脳卒中あるいは一過性脳虚血発作、心不全、心室性不整脈、高血圧、脂質異常症、癌、肺炎、パーキンソニズム、抑うつ、認知症、糖尿病、腎不全)、併用薬剤とした。
 データベースからはCOPDあるいは慢性気管支炎患者を抽出したが、スパイロメトリーに基づいて診断されたかどうかは定かではない。

結果:
 11287人の患者が24522のチオトロピウム使用エピソードを有していた。平均年齢68.1歳、51.9%の患者が男性であった。496人がレスピマット®あるいはハンディヘラー®使用期間中に死亡していた。
 レスピマット®はおおよそ30%の死亡リスク上昇と関連していた(補正ハザード比1.27, 95%信頼区間 1.03-1.57)。
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 死因は、心血管系/脳血管系の死亡リスクは高かった(補正ハザード比1.56, 95%信頼区間1.08-2.25)。
 心血管系疾患を有する患者では、それらを有さない患者よりも死亡リスクは高かった(補正ハザード比 1.36, 95%信頼区間1.07-1.73 vs 補正ハザード比1.02, 95%信頼区間0.61-1.71)。
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ディスカッション:
 この試験は、レスピマット®とハンディヘラー®を比較した数少ないhead to head試験の1つである。死亡リスクが上昇した理由は、吸入ミストによる抗コリン薬の血中濃度の上昇が考えられている(BMJ.2011;342:d3215.)。ベーリンガー・インゲルハイム社は、現在TIOSPIR試験(17000人以上の患者を登録)によって、レスピマット®製剤の安全性と効果を再検証している。同試験結果は2014年に公開される見通しである(ClinicalTrials.gov. Comparison of tiotropium in the Handihaler versus the Respimat in COPD.2012.)。

結論:
 チオトロピウム・レスピマット®の使用はハンディヘラー®と比較して30%の死亡リスク上昇と関連していた。この関連性は特に心血管系/脳血管系死亡と関連していた。この関連性が因果関係のあるものなのか、COPD重症度による残差交絡によるものなのか定かではない。


by otowelt | 2013-03-26 00:37 | 気管支喘息・COPD

東日本大震災における呼吸器疾患の実態

 このブログでも、過去にいくつか東日本大震災関連の論文を紹介しました。

東日本大震災における胸部外傷
東日本大震災における市中肺炎の発生

 Respiratori Investigationからの論文です。とても重要な報告です。

Shinya Ohkouchi, et al.
Deterioration in regional health status after the acute phase of a great disaster: Respiratory physicians' experiences of the Great East Japan Earthquake
Respiratory Investigation, in press. 15 March 2013


背景:
 2011年3月11日に東日本大震災が起こった。引き続いて起こった荒廃は余震によるものではなく、津波によるものであった。
 2012年2月29日現在、15852人が死亡し、いまだ3279人が行方不明の状態である。死亡者のうち、90.6%が溺水、4.2%が破片などの外傷、0.9%が火災による死亡であった。そして、全体の55.7%が65歳以上の高齢者死亡だった。救急医療チームの尽力にもかかわらず十分な援助がいきわたらず、多くの人が彼らの到着前に死亡した。生存したものの避難が必要となった人は宮城県の報告では32万人にのぼったといわれている。
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 そのため、医療従事者の主たる目的は被災地の人の健康状態の悪化を防ぐことにあった。この論文を通して、自然災害の急性期に何が重要であるかを考察したい。

方法:
 地震後の急性期に正確な入院情報を得ることはできなかったため、宮城県内の14の病院からアンケートをに基づいて入院患者の調査をおこなった。これらの病院は宮城県内のベッド数の30%を有していた。呼吸器科に入院した患者に対する調査をおこない、疾患の頻度の変化を調べた。

結果:
 2011年3月11日から4月10日までの患者数は、2010年の同時期と比較して2.7倍に増えていた(1223人 vs 443人)。気管支喘息、COPD急性増悪、市中肺炎は全ての年齢層において2011年のほうが2010年よりも2~3倍増えた(それぞれ98人 vs 32人、117人 vs 46人、443人 vs 202人)。市中肺炎の半数は緊急避難場所から発生したものであった。溺水などの他の呼吸器疾患での入院は少なかった。
 疾患の年齢分布には2010年と2011年で差はみられず、呼吸器疾患での死亡率がこの震災によって有意に増えたわけではなかった。
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結論:
 これらの結果は、避難場所・居住地の劣悪な環境、または避難者過多、基礎資源不足に由来するものである。自然災害の後の急性期の健康被害を予防するために、適切な避難場所、供給システム、ワクチンを含む感染予防策が必要であろう。


by otowelt | 2013-03-25 00:19 | 救急

医学論文の著者の順番

e0156318_8501792.jpg●はじめに
 症例報告であろうと原著論文であろうと、医師は”論文”を執筆する機会があると思います。筆頭著者(ファーストオーサー)には、共著者の順番を一体どうすればいいのかと悩んだことがある人が多いでしょう。


●共著者の順番
 物理の世界、特に素粒子系の論文では共著者数が1000人を超えることもあるため、共著者はアルファベット順に並べられるのが一般的です。驚くべきことに、2500人以上の著者が存在する論文もあるようです。
The ALEPH Collaboration, the DELPHI Collaboration, the L3 Collaboration, the OPAL Collaboration, the SLD Collaboration, the LEP Electroweak Working Group, the SLD electroweak, heavy flavour groups. Precision Electroweak Measurements on the Z Resonance. Phys.Rept.427:257-454,2006

 このような極端な例はさておき、一般的な医学論文の著者は、有名ジャーナルの場合20~30人くらいになることもありますが普通は5~10人程度です。
 投稿する医学論文や投稿コーナーによって著者の上限が決まっています。たとえば、8人を著者にしたいと考えていても、5人までという規定がある場合には残りの3人は原則的に著者に入ることができません(カバーレターに「3人を入れてください」とお願いすることで許可されることはありますが)。そのため、やむなく著者に入ることができなかった人たちはAcknowledgementの部分で”謝辞”として登場することが多いです。この謝辞に入った人は、論文情報としてはその名前は正式には登録されません。正式に登録というとなんだかおかしな言い回しの気がしますが、論文情報として登録される名前はあくまで著者のみなのです。
 論文の著者が5人だった場合を想定してみましょう。たとえば「机の引き出しにおけるタイムマシンの安全性」という論文を書いた5人の著者がいた場合、筆頭著者である野比のび太は、その研究に取り組み論文を書いた人間です。当然ながら彼が一番この論文に貢献した人間なので、一番目に登場するわけです。ここで悩ましいところは、第二著者であるドラえもん以降の扱いだと思います。
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 最近の欧米の医学論文に目を向けると、共著者は研究の貢献順に並べられていることが多いようです。そのため、論文を書いたのび太の次に貢献度が高いのは、タイムマシンを家の引き出しに設置したドラえもんということになります。しかし日本の場合は、教授やリーダーが論文の共著者の最後に存在する傾向が強く、のび太~剛田武(ジャイアン)の5人の中では、のび太の次にラストオーサーであるジャイアンの貢献度が高いという意味をなすことが多いのです。
 国ごとに著者順のルールが違う理由の1つとして、たとえば日本では旧帝大による研究業績評価法の歴史があります。この評価方法は、筆頭著者とラストオーサーに高い評価が与えられる仕組みになっています。この方式での評価が過去におこなわれていた歴史があり(現在も使用している大学はありますが)、ラストオーサーの立ち位置が非常に高いものになったのだろうと思います。そのため、現在の日本では、その研究におけるラストオーサー(ジャイアン)が一番ポストの高い人間と位置付ける暗黙の決まりがあります。
 国によってこのルールが異なるため、雑誌によってはAuthor's Contributionという、”誰が何にどう貢献したのか”という細かい記載を求めることもあります。有名雑誌ほどAuthor's Contributionを求める傾向にあります。


●Corresponding author
 ところで、医学雑誌に論文を投稿する際、匿名化した査読(peer review)を受けることになります。その際、corresponding author(連絡著者)を決めなければなりません。これは、研究に対して医学雑誌社とのやりとりを行う代表者であり、その論文について最も理解している人が果たす役割です。
 欧米の場合だと、筆頭著者であるのび太や貢献度が高いドラえもんがcorresponding authorになることが多いのですが、日本の場合だとのび太やリーダーのジャイアンがcorresponding authorを兼任します。しかし、スネ夫とジャイアン、あるいはドラえもんとジャイアンの貢献度に優劣をつけがたいとき、一方をラストオーサーに他方をcorresponding authorに指定することもあります。これは、後述するギフトオーサーシップではないかとの厳しい意見も一部ではあるようです。


●最初の3人
 文献が他雑誌で引用されるときに”最初の3人のみを記載し、その後に「et al.」をつけること”という決まりがある場合があります。3人目のしずかちゃんはデータ解析をしただけなのに、最も上司であるジャイアンの名前が掲載されないというのは、ジャイアンからしてみればあまり気持ちのいいものではない可能性もあります。ラストオーサーかつcorresponding authorであるにもかかわらず、海外では貢献度の高い共著者とは認識されないおそれがあります。
 そのため日本の暗黙のルールに従った場合、最も上司にあたるラストオーサーが最初の3人に入らないために掲載されないという不具合を生じることがあります。もちろんそんなことは別にたいしたことじゃないとおっしゃる方も多いと思いますが、重要なボスの名前が引用されないことがいささか問題になるケースもあるようです。

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 海外の場合だとcorresponding authorかつ最も貢献度が高い上司が2番目に来ることが多いので、こういった不都合はあまり見受けられません。


●オーサーシップのモラル違反
 共著者は、論文の内容についての共同責任を負います。論文の捏造などの不正行為はともかくとして、共著者全員が論文の内容全てに責任を負うのというのが国際的なルールになっています。そのため、貢献度が高くないのにもかかわらず、仕事上での義理や利害関係があるオーサーシップ(ギフトオーサーシップ)はモラル違反とされています。極端なギフトオーサーシップだと、ロシアの有機元素化合物研究所のユーリ・ストルチコフが10年間で948本の論文の共著者になっており、同施設を利用する見返りとして施設職員を共著者に入れるのが常習化していたことによるものでした。
 オーサーシップを扱った論文のシステマティックレビューでは、29%にオーサーシップの非適正使用が報告されています。
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Marusić A, et al. A systematic review of research on the meaning, ethics and practices of authorship across scholarly disciplines. PLoS One. 2011;6(9):e23477. doi: 10.1371/journal.pone.0023477.


●まとめ
 以上をまとめると、5人の位置づけとしては日本の場合だと以下のケースが最も多いパターンだと考えられます。

筆頭著者(ファーストオーサー):草稿を書いた人、一番貢献度が高い人
第二著者:筆頭著者を補佐してくれた直属の上司あるいは部下、二番目に貢献度が高い人、corresponding authorになることがある
第三著者:第二著者の次に貢献度が高い人
第四著者:第三著者の次に貢献度が高い人、二番目に立場の高い人、corresponding authorになることがある
ラストーオーサー:最も立場の高い人、corresponding authorになることが多い


 海外の流れに合わせるのであれば、日本の著者順も貢献度に応じて記載すべきではないかと思います。あるいは数学論文のようにアルファベット順に記述していくスタイルでもいいのかなあとも思います。いずれにしても、国内だけでなく医局内でも暗黙のルールのようなものが存在することがあるので、少し上の先輩にまず相談するのが無難だろうと思います。


※登場する医学雑誌名、論文タイトル、著者名はすべて架空のものです。



by otowelt | 2013-03-22 12:09 | レクチャー