咳喘息
2009年 04月 12日
ある総合病院の研修医たちにレクチャーをした。
テーマは咳喘息。
比較的新しい疾患概念なので、質問が多かった。
●咳喘息とは
・Cough Variant Asthma(咳喘息)とは、慢性咳嗽を
唯一の臨床症状とする喘息の亜型と定義され、
成人にも小児にも見られる
・本疾患の罹患率は報告されていないが、
喘息への移行が臨床的な問題点である。
●病態
・特異IgE抗体保有率は、典型的喘息より低い。
・一定の季節に症状が悪化する症例は典型的喘息より多く、特に
秋の悪化はハウスダスト、ダニとの関連が示唆される。
Takemura M, et al: Sensitized allergens in cough variant asthma and classic asthma with wheezing. Eur Respir J, 24:137s,2004
●診断基準
(1)喘鳴を伴わない咳嗽が8週間以上持続する
聴診上でもwheezeを認めない
(2)喘鳴や呼吸困難などの喘息の既往を認めない
(3)8週間以内に上気道炎に罹患していない
(4)メサコリン吸入に対する気道過敏性の亢進を認める
(5)気管支拡張薬が有効 (β2受容体アゴニストなど)
(6)咳感受性は亢進していない
(7)胸部X線で異常を認めない
●特徴
・慢性咳嗽以外の呼吸器症状を伴わないことが診断上最も重要で
あるが、その持続期間に関する明確な基準はなく、「少なくとも
3週間以上」と記載されている論文もある。
Irwin RS, et al. Interpretation of positive results of a methacholine inhalation challenge and 1 week of inhaled bronchodilator use in diagnosing and treating cough-variant asthma. Arch Intern Med. 1997; 157: 1981-7.
・咳喘息では気道過敏性の存在は必要条件であるが、十分条件でないこと
が報告されており、注意が必要である。すなわち、アレルギー性鼻炎や
後鼻漏、胃食道逆流症、気道ウイルス感染後でも気道過敏性を認める。
・また、PEFで日内変動を認めることを示す報告もある。
Tokuyama K, Shigeta M, Maeda S, et al. Diurnal variation of peak expiratory flow in children with cough variant asthma. J Asthma. 1998; 35: 225-9.
・本疾患の特徴の一つは誘発喀痰中の好酸球増多である。
Niimi A, Amitani R, Suzuki K, et al. Eosinophilic inflammation in cough variant asthma. Eur Respir J. 1998; 11: 1064-9.
・慢性咳嗽を主訴として好酸球性気道炎症が存在がする疾患として、
他にEosinophilic Bronchitisやアトピー咳嗽が存在する。
Eosinophilic Bronchitisは気道過敏性が存在しない点が、また
アトピー咳嗽はβ2刺激薬が無効である点が、咳喘息との明確な
相違点だが、別の疾患概念であるか否かは現時点では不明である。
・最近の報告では、咳喘息やEosinophilic Bronchitisの誘発喀痰中
に炎症性メディエーターが増加していること、咳喘息では知覚神経
の異常が原因の一つである可能性が報告されている。
Birring SS, Parker D, Brightling CE, et al. Induced sputum inflammatory mediator concentrations in chronic cough. Am J Respir Crit Care Med. 2004; 169: 15-9
・咳喘息の臨床的に重要な点は、喘息へ移行することである。
最近の報告では、成人の場合、咳喘息患者の約30%が喘息に移行する
こと、そして吸入ステロイド薬がその移行率を低下させることが報告されている。
Fujimura M, et al. Comparison of atopic cough with cough variant asthma: is atopic cough a precursor of asthma? Thorax. 2003; 58: 14-8.
・また、小児の場合、3~4年間の追跡で咳喘息患者の44~54%が
喘息に移行すること、そして気道過敏性は危険因子にならないが、
咳喘息の発症年齢やメサコリンに対する最大収縮反応、誘発喀痰
中の好酸球比率は危険因子であることが報告されている。
Kim CK, et al. Sputum eosinophilia in cough-variant asthma as a predictor of the subsequent development of classic asthma. Clin Exp Allergy. 2003; 33: 1409-14.
●治療
・間欠的に咳嗽を認める場合
気管支拡張薬を頓用で用いる
・咳嗽が持続的にあるか、間欠的でも
頓用気管支拡張薬でコントロールできない場合
1.ステロイド吸入
フルチカゾン(フルタイド)200~400μg/日
ブデソニド(パルミコート)400~800μg/日
HFA-BDP(キュバール)200~400μg/日
2.長時間作用型β2受容体刺激薬
3.徐放性テオフィリン製剤
4.H1ブロッカー、ロイコトリエン受容体拮抗薬
・急性増悪時やステロイド吸入により咳嗽が誘発される場合
経口ステロイドを短期間併用する
プレドニゾロン20~30mg/日を3~7日間程度
文責"倉原優"
by otowelt
| 2009-04-12 01:12
| レクチャー