IgG4関連疾患
2010年 05月 09日
現在日本が確実にリードしている分野であり、海外の文献が少ないのが現状である。
最近IgG関連疾患の本が出版されており、読んでおきたいところである。
●概念
近年、IgG4関連疾患と呼ばれる疾患概念が提唱されている。
涙腺・唾液腺、膵、腎など多臓器に病変を認め、血中IgG4高値と組織の
IgG4陽性形質細胞の浸潤を特徴とする。組織学的にIgG4陽性形質細胞や
リンパ球浸潤が涙腺、唾液腺、後腹膜、膵臓、胆管などで起こり、臨床的には
Mikulicz病、後腹膜線維症、自己免疫膵炎、糖尿病、原発性硬化性胆管炎
類似の胆管病変などを呈する全身性疾患である。
以下を満たすものをIgG関連疾患とする、という提唱がなされているが
現時点では確実な診断基準はまだない。
・血清IgG4の高値(135㎎/dl以上)
・IgG4関連疾患で特異性の高い臓器(涙腺、唾液腺、膵臓、後腹膜) の異常
・組織学的にIgG4陽性形質細胞とリンパ球浸潤の確認
●歴史
1978年に両側上眼瞼と顎下腺の腫脹を初発症状とし、ステロイドが著効
した膵炎を報告している。IgG4関連疾患の膵病変の初報告と考えられる。
Am J Dig Dis 23(Supple):75S79S, 1978.
その後の様々な検討により、自己免疫膵炎に高頻度に血清IgG4が高値を示す
ことが明らかになった。膵以外にも胆道、涙腺、唾液腺、後腹膜などにも病変を認め、
膵を含むそれらの臓器の免疫組織染色でIgG4陽性形質細胞および
CD4ないしCD8陽性Tリンパ球がびまん性に浸潤していることが明らかになった。
N Engl J Med 344:732738, 2001.
J Gastroenterol 38:982984,2003.
のちにIgG4関連疾患という疾患概念が提唱され、
自己免疫膵炎はIgG4関連疾患という全身性疾患の膵病変であると推定された。
●IgG4関連疾患・胆道~膵臓
膵病変の特徴は膵管の狭細像と膵のソーセージ状の腫大である。
自己免疫膵炎に合併する胆管狭窄はPSCの合併ではないとされている。
IgG4関連疾患のPSC様胆管病変とするのが妥当である。
PSCは閉塞性黄疸で発症するが、IgG関連PSC様胆管病変は軽度の肝障害が
診断のきっかけとなることが多い。PSCとIgG4関連硬化性胆管炎は異なる組織像
を示し、病理学的にも鑑別可能である。IgG4関連疾患の胆管病変の合併頻度は
40%程度である。胆嚢ではIgG4関連疾患では胆嚢壁の肥厚が25%程度認められる。
●IgG4関連疾患・後腹膜
IgG4関連疾患では膵に対する画像診断で偶然発見されることが多いため、
後腹膜線維症が発見されるケースは少ない。大動脈や上腸間膜動脈周囲の
線維化にとどまっていることが多く、軽症例が多いとされている。
尿路閉塞による水腎症を呈することがある。
間質性腎炎を呈することがあり、造影CTが診断に有用である。
Clin Nephrol. 2007 Nov;68(5):308-14.
間質性腎炎と腎門部IgG4関連硬化性腫瘤の合併は本症に多く、
浸潤形質細胞数が少ない場合、間質腎炎合併は重要なIgG4関連疾患の根拠となる。
●IgG4関連疾患・唾液腺
両側唾液腺、涙腺の腫脹を来たす症例をMikulicz病という。
Mikulicz病はIgG4関連自己免疫疾患であるとの報告が多い。
血清IgG4が高値であり、SS-AおよびSS-B抗体が陰性であるという点、
またステロイド治療に対して良好な反応性を示すためである。
顎下腺に後発し、硬く触れる腫瘤を形成する炎症性病変で
硬化性唾液腺炎という病名を用いることが一般的である。
●IgG4関連疾患・肺
IgG関連肺疾患として認知されているのは、炎症性偽腫瘍と間質性肺炎である。
炎症性偽腫瘍では特発性間質性肺炎に比べ優位にIgG、IgG4 陽性形質細胞が
多く認められる。
Human Pathology 2005 ; 36 : 710―717.
BALでは全例でリンパ球分画の増加を認め、CD4/8ではCD4優位であったと
いう報告が多い。
また、肺門部リンパ節腫大を伴うことがあるため、
サルコイドーシスと間違えられることもある。
67%の自己免疫性膵炎で肺門部リンパ節腫大を伴うとされている。
Pancreas 2003;27:20–25.
アメリカの自己免疫性膵炎36症例の検討で、2例に肺病変が認められた。
Am J Surg Pathol. 2006 Dec; 30 (12): 1537-45
一方日本では自己免疫性膵炎30症例の経過中4例に肺病変が認められた。
Intern Med J. 2006 Jan; 36 ( 1): 58-61
IgG関連肺疾患の画像上の特徴として、
(a) solid nodular
(b) round-shaped GGO
(c) alveolar interstitial
(d) bronchovascular
の4タイプが報告されている。
Radiology: Volume 251: Number 1—April 2009

bronchovascular typeは、multicentric Castleman diseaseに類似する。
Radiology 1998;209:477–481.
病理学的に、炎症で閉塞した動脈周囲にIgG陽性形質細胞がみられることが多い。
Hum Pathol 2008;39:975–980.
肺化膿症やWegener肉芽腫でもIgG陽性細胞が浸潤することがあるので
鑑別に注意が必要であるとも考えられている。
治療については、IgG関連疾患全般に共通しているが、
肺病変もステロイドに反応しやすいとされている。
Gut 2004;53:770
Intern Med J 2006;36:58–61.
文責"倉原優"
最近IgG関連疾患の本が出版されており、読んでおきたいところである。

近年、IgG4関連疾患と呼ばれる疾患概念が提唱されている。
涙腺・唾液腺、膵、腎など多臓器に病変を認め、血中IgG4高値と組織の
IgG4陽性形質細胞の浸潤を特徴とする。組織学的にIgG4陽性形質細胞や
リンパ球浸潤が涙腺、唾液腺、後腹膜、膵臓、胆管などで起こり、臨床的には
Mikulicz病、後腹膜線維症、自己免疫膵炎、糖尿病、原発性硬化性胆管炎
類似の胆管病変などを呈する全身性疾患である。
以下を満たすものをIgG関連疾患とする、という提唱がなされているが
現時点では確実な診断基準はまだない。
・血清IgG4の高値(135㎎/dl以上)
・IgG4関連疾患で特異性の高い臓器(涙腺、唾液腺、膵臓、後腹膜) の異常
・組織学的にIgG4陽性形質細胞とリンパ球浸潤の確認

1978年に両側上眼瞼と顎下腺の腫脹を初発症状とし、ステロイドが著効
した膵炎を報告している。IgG4関連疾患の膵病変の初報告と考えられる。
Am J Dig Dis 23(Supple):75S79S, 1978.
その後の様々な検討により、自己免疫膵炎に高頻度に血清IgG4が高値を示す
ことが明らかになった。膵以外にも胆道、涙腺、唾液腺、後腹膜などにも病変を認め、
膵を含むそれらの臓器の免疫組織染色でIgG4陽性形質細胞および
CD4ないしCD8陽性Tリンパ球がびまん性に浸潤していることが明らかになった。
N Engl J Med 344:732738, 2001.
J Gastroenterol 38:982984,2003.
のちにIgG4関連疾患という疾患概念が提唱され、
自己免疫膵炎はIgG4関連疾患という全身性疾患の膵病変であると推定された。
●IgG4関連疾患・胆道~膵臓
膵病変の特徴は膵管の狭細像と膵のソーセージ状の腫大である。
自己免疫膵炎に合併する胆管狭窄はPSCの合併ではないとされている。
IgG4関連疾患のPSC様胆管病変とするのが妥当である。
PSCは閉塞性黄疸で発症するが、IgG関連PSC様胆管病変は軽度の肝障害が
診断のきっかけとなることが多い。PSCとIgG4関連硬化性胆管炎は異なる組織像
を示し、病理学的にも鑑別可能である。IgG4関連疾患の胆管病変の合併頻度は
40%程度である。胆嚢ではIgG4関連疾患では胆嚢壁の肥厚が25%程度認められる。

IgG4関連疾患では膵に対する画像診断で偶然発見されることが多いため、
後腹膜線維症が発見されるケースは少ない。大動脈や上腸間膜動脈周囲の
線維化にとどまっていることが多く、軽症例が多いとされている。
尿路閉塞による水腎症を呈することがある。
間質性腎炎を呈することがあり、造影CTが診断に有用である。
Clin Nephrol. 2007 Nov;68(5):308-14.
間質性腎炎と腎門部IgG4関連硬化性腫瘤の合併は本症に多く、
浸潤形質細胞数が少ない場合、間質腎炎合併は重要なIgG4関連疾患の根拠となる。

両側唾液腺、涙腺の腫脹を来たす症例をMikulicz病という。
Mikulicz病はIgG4関連自己免疫疾患であるとの報告が多い。
血清IgG4が高値であり、SS-AおよびSS-B抗体が陰性であるという点、
またステロイド治療に対して良好な反応性を示すためである。
顎下腺に後発し、硬く触れる腫瘤を形成する炎症性病変で
硬化性唾液腺炎という病名を用いることが一般的である。

IgG関連肺疾患として認知されているのは、炎症性偽腫瘍と間質性肺炎である。
炎症性偽腫瘍では特発性間質性肺炎に比べ優位にIgG、IgG4 陽性形質細胞が
多く認められる。
Human Pathology 2005 ; 36 : 710―717.
BALでは全例でリンパ球分画の増加を認め、CD4/8ではCD4優位であったと
いう報告が多い。
また、肺門部リンパ節腫大を伴うことがあるため、
サルコイドーシスと間違えられることもある。
67%の自己免疫性膵炎で肺門部リンパ節腫大を伴うとされている。
Pancreas 2003;27:20–25.
アメリカの自己免疫性膵炎36症例の検討で、2例に肺病変が認められた。
Am J Surg Pathol. 2006 Dec; 30 (12): 1537-45
一方日本では自己免疫性膵炎30症例の経過中4例に肺病変が認められた。
Intern Med J. 2006 Jan; 36 ( 1): 58-61
IgG関連肺疾患の画像上の特徴として、
(a) solid nodular
(b) round-shaped GGO
(c) alveolar interstitial
(d) bronchovascular
の4タイプが報告されている。
Radiology: Volume 251: Number 1—April 2009

bronchovascular typeは、multicentric Castleman diseaseに類似する。
Radiology 1998;209:477–481.
病理学的に、炎症で閉塞した動脈周囲にIgG陽性形質細胞がみられることが多い。
Hum Pathol 2008;39:975–980.
肺化膿症やWegener肉芽腫でもIgG陽性細胞が浸潤することがあるので
鑑別に注意が必要であるとも考えられている。
治療については、IgG関連疾患全般に共通しているが、
肺病変もステロイドに反応しやすいとされている。
Gut 2004;53:770
Intern Med J 2006;36:58–61.
文責"倉原優"
by otowelt
| 2010-05-09 05:17
| びまん性肺疾患