2009年ASPEN/SCCM急性期栄養ガイドライン
2010年 05月 13日
長らく絶版となっていたので、手に入らなかった。
2010年3月に新版が発刊されたので、ぜひとも購入したいところである。
現在の集中治療室における栄養療法は
2009年のASPEN/SCCMガイドラインがもっとも重要なエビデンスである。
以下にサマリーを訳す。個人的に重要だと思った点を赤字にした。
●2009年ASPEN/SCCMの急性期栄養ガイドライン
Guidelines for the provision and assessment of nutrition support therapy in the adult critically ill patient: Society of Critical Care Medicine and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition: Executive Summary
Crit Care Med 2009 Vol. 37, No. 5
1.集中治療において、従来の栄養評価法(アルブミン、プレアルブミン、身体計測)
は正確とは言えない。理由は、急性相反応により影響を受けるためである。
栄養を開始する前評価に、体重減少の評価、入院前栄養摂取、疾患重症度、
合併症、消化管の機能を含むべきである。(Grade E)
2.自分で栄養摂取の維持ができない重症患者において、経腸栄養は
開始されるべきである。(Grade C)
3.経腸栄養は、経静脈栄養法よりも好ましい投与経路である。(Grade B)
4.経腸栄養は、入院後24~48時間以内の早期に開始されるべきである。(Grade C)
次の48~72時間において、目標に向かって進められるべきである。(Grade E)
5.血行動態が不安定な状態(高容量のカテコラミン投与や高容量輸液など)
では、血行動態が安定するまで、経腸栄養は差し控えるべきである。(Grade E)
6.ICU患者における経腸栄養の開始において、腸蠕動音や腸内ガス・便の通過の
有無の確認は不要である。(Grade B)
7.ICUにおいては、経胃栄養あるいは経小腸栄養が好ましい。重症患者では
誤嚥の危険性が高い場合や、経胃栄養が困難であった場合には、
小腸に留置された経腸チューブを用いて栄養されるべきである。(Grade C)
胃内残量が多いために経腸栄養法を中断しなければならないことは、
経小腸栄養に切り替える十分な論拠となる。(Grade E)
●経静脈栄養の開始
1.ICU入室後7日間にわたって早期経腸栄養法が開始できない場合は、
その低栄養状態を放置すべきではない。(Grade C)
ICU入室7日までに経腸栄養が不十分である場合に、7日以降の
低栄養に備えて経静脈栄養が開始されるべきである。 (Grade E)
2.入院時に蛋白とエネルギーの不足がみられる場合に、経腸栄養が不可能であれば
経静脈栄養法をできる限り早期に開始する。(Grade C)
3.上部消化管手術施行予定患者で経腸栄養法が行いにくい場合、
以下の特殊な状況下で経静脈栄養法が行われるべきである。
・栄養失調にある場合、経静脈栄養法を術前5~7日前より開始し
術後にかけ継続すべきである。(Grade B)
・経静脈栄養法は手術直後に開始すべきではなく、経腸栄養法が行えない
状態が続く場合、術後5~7日以降より開始されるべきである。 (Grade B)
・術後5~7日間以内の経静脈栄養法は予後の改善が期待できず、感染症などの
リスクが増加する可能性がある。経静脈栄養法は、7日間以上の
治療期間が予想される場合に開始されるべきである。(Grade B)
●経腸栄養の投与法
1.目標経腸栄養量は、開始時点で明確に決定されるべきである。(Grade C)
栄養必要量は予測式によって算出するか、間接熱量測定でもって測定する。
予測式は間接熱量測定よりも栄養必要量の評価が不正確なので、予測式は
注意して用いられるべきである。肥満の患者における予測式は、
間接熱量測定を用いなければ、さらに不正確となる。(Grade E)
2.入院第1週目に経腸栄養法の効果を高めるためには、目標カロリーの
50~65%以上を投与するべきである。(Grade C)
3.経腸ルートのみで7~10日後に栄養必要量(目標摂取カロリー100%)を
満たすことができない場合、経静脈栄養による栄養補足を考慮する。(Grade E)
7~10日間経腸栄養法を行う前に経静脈栄養法による補足を開始することは、
予後を改善しないどころか有害となりうる。(Grade C)
4.適切な蛋白投与量の時系列での評価が重要である。標準的な経腸栄養製剤は
糖質や脂肪などで供給されるNPC: non-protein calorieと蛋白質に含まれる窒素
との比率=NPC/Nを高くする傾向にあり、通常蛋白を追加補足する。
BMIが30未満の患者では、蛋白必要量は実体重に応じて1.2~2.0g/kg/日が必要で、
熱傷や多発外傷患者ではさらに高くなる。(Grade E)
5.重症の肥満患者では,経腸栄養法を用いた低栄養療法が推奨される。
BMIが30をこえる患者では、経腸栄養の目標は目標栄養必要量の60~70%、
あるいは実体重に対して11~14kcal/kg/日、あるいは理想体重に応じ
22~25kcal/kg/日を超えるべきではない。
蛋白は、BMI 30~40のクラスIおよびクラスII患者に対しては理想体重で
2.0g/kg/日以上、BMI 40以上のクラスIIIの患者に対しては理想体重で
2.5g/kg/日以上、投与されるべきである。(Grade D)
●経腸栄養適正化のモニタリング
1.ICU経腸栄養の開始にあたって、消化管運動の確認は必要ではない。(Grade E)
2.経腸栄養耐性(腹痛や腹満の訴え、身体所見、腸内ガスや便の滞留、腹部X-P所見)
は、監視されるべきである。(Grade E)
不適切な経腸栄養の中断は避けるべきである。(Grade E)
胃内残量が500 mL未満で、耐性兆候がなければ経腸栄養を中断しない。(Grade B)
診断目的の検査や処置のために患者を絶食にすることは、栄養素の不適切供給や
腸閉塞の長期化を防ぐために、最小限にとどめるべきである。
腸閉塞は絶食により増悪するかもしれない。(Grade C)
3.経腸栄養プロトコールは、目標栄養量を達成させるため必要である。(Grade C)
4.経腸栄養を施行されている患者では、誤嚥の危険を評価するべき。(Grade E)
また、誤嚥の危険性を減らすための手段を考慮すべきである。(Grade E)
誤嚥の危険性を減らすために以下の手段がある。
・経腸栄養中のすべてのICU挿管患者において、
ベッドの頭側を30~45°挙上するべきである。(Grade C)
・誤嚥のハイリスク患者あるいは経胃栄養に耐えられない患者に対して、
経腸栄養は持続輸液に切り替えられるべきである。(Grade D)
・腸管運動促進薬(メトクロプラミドやエリスロマイシン)や麻薬拮抗薬
(ナロキソンなど)のような、消化管運動促進薬を併用すべきである。(Grade C)
・幽門より肛門側へチューブを留置することによって、経腸栄養注入量を
再評価すべきである。(Grade C)
・VAPリスクを減少させるために、クロルヘキシジンによる口腔内洗浄を
2回/日行うことを考慮すべきである。(Grade C)
5.誤嚥の指標として、経腸栄養剤の青色着色やグルコースオキシダーゼ法は
重症患者管理において使用するべきではない。(Grade E)
6.経腸栄養に関連した下痢の増悪は、その原因の精査を必要とする。(Grade E)
●適切な経腸栄養剤の選択
1.免疫調節経腸栄養剤(アルギニン、グルタミン、核酸、ω-3脂肪酸、抗酸化物質)
は、適切な患者群(定時の大手術、外傷、熱傷、頭頸部癌、人工呼吸重症患者)
において、重症敗血症に注意しながら使用する。
(重症敗血症ではアルギニンによりNO産生が高まる可能性がある)
(外科系ICU患者:Grade A/内科系ICU患者:Grade B)
免疫調節製剤の適応がないICU患者群では、標準的な
経腸栄養製剤を投与すべきである。(Grade B)
2.ARDSや重症急性肺傷害の患者では、抗炎症脂質(ω-3油、サラダオイルなど)や
抗酸化物を含有する経腸栄養剤を投与すべきである。(Grade A)
3.免疫調節製剤から最適な治療効果を得るには、少なくとも必要栄養量の
50~65%が投与されるべきである。(Grade C)
4.下痢の場合には、可溶性繊維や小ペプチド含有製剤を使用してもよい。(Grade E)
●補助療法
1.プロバイオティクス製剤の投与は、移植、腹部大手術、重症外傷のような
重症患者において感染を減少させることにより予後を改善することが
わかっている。(Grade C)
ただ現在一般的ICU患者群では、予後改善効果が一貫しないため
プロバイオティクスを使用することは推奨されない。プロバイオティクス製剤
の種類により効果が異なり、プロバイオティクス製剤の推奨を行うのは困難。
2.抗酸化ビタミンと微量ミネラルの組み合わせ(特にセレン)は
特殊栄養療法を受けている重症患者全てに投与されるべき。(Grade B)
3.熱傷、外傷や混合ICU患者において、グルタミンが含まれていない経腸栄養製剤
には、グルタミンを加えることを考慮すべきである。(Grade B)
4.経腸栄養を受け下痢が増悪している血行動態が安定した重症患者に対して、
可溶性繊維が有益かもしれない。不溶性繊維は全重症患者において避けるべき。
腸管虚血や腸蠕動異常の危険性が高い患者に対して、可溶性繊維や
不溶性繊維は避けるべきである。(Grade C)
G. 経静脈栄養の適応
1.経腸栄養ができない場合、経静脈栄養の必要性を評価すべきである。(Grade C)
経静脈栄養が必要と評価される場合、量・内容・モニター・補助的添加物の選択を
考え、効果を最大に高めるように進めるべきである。(Grade C)
2.経静脈栄養を受けている全てのICU患者において、少なくとも初期には
許容範囲内の低栄養療法が考慮されるべきである。いったん栄養必要量が決まると
栄養必要量の80%が最終目標あるいは経静脈栄養の投与量として
投与されるべき。(Grade C)
患者状態の安定により、栄養必要量を満たすための
経静脈栄養の増量はよい。(Grade E)
肥満患者(BMI≧30)に対しては、経静脈栄養は
前述の経腸栄養での推奨量に従う。(Grade D)
3.ICU入室の最初の1週間で、経腸栄養が適さず経静脈栄養が必要な場合、
大豆油を含まない経静脈栄養とするべきである。(Grade D)
4.栄養支持療法では、血糖を適切にコントロールするべき。(Grade B)
血糖は110~150 mg/dLが最適かもしれない。(Grade E)
5.重症患者における経静脈栄養で、グルタミン経静脈的投与を考慮すべき。(Grade C)
6.経静脈栄養により安定化した患者において、繰り返し経腸栄養を
開始する努力をすべきである。経腸栄養の耐性が改善し、経腸投与カロリー量
が増加するにつれ、経静脈投与の栄養量を減量すべき。目標栄養必要量の60%
以上が経腸投与されるまでは、経静脈栄養を終了すべきでない。(Grade E)
●呼吸不全
1. 急性呼吸不全のICU患者において、高脂質低炭水化物製剤をCO2産生減少のため
ルーチンに使用することは推奨されない。(Grade E)
2.急性呼吸不全の患者では、水分が制限された
高濃度栄養製剤を考慮すべき。(Grade E)
3.血清リン酸塩濃度を厳重にモニターし、必要に応じて適切に補正すべき。(Grade E)
●腎不全
1.AKIを合併したICU患者にも、標準的な経腸栄養製剤を投与すべきで、
標準的なICUの蛋白と栄養量投与に従うべきである。電解質異常を伴う場合、
電解質制限のある腎不全のための特殊製剤を考慮するとよい。(Grade E)
2.血液浄化法を受けている患者では、最大2.5g/kg/日まで蛋白を投与すべき。
腎不全患者において透析療法の開始を避けたい場合、蛋白投与量を
制限すべきではない。(Grade C)
●肝不全
1.肝硬変・肝不全患者においては、腹水、循環血液量減少、浮腫、門脈圧亢進、
低アルブミン血症などの合併症への栄養評価法は正確性や信頼性に欠ける。
そのため、注意して使用すべき。(Grade E)
2.急性・慢性肝疾患のICU患者において、経腸栄養は栄養療法の好ましい投与経路。
肝不全患者の栄養において、蛋白制限は避けるべきである。(Grade E)
3.急性・慢性肝疾患ICU患者では,標準的な経腸栄養製剤を使用すべき。
標準治療に抵抗性である脳症患者に対しては、腸管作用性抗生剤と
ラクツロースに抵抗性のある場合、分枝鎖アミノ酸製剤を用いるべき。(Grade C)
●急性膵炎
1.急性膵炎患者は、入院時に重症度を評価すべき。(Grade E)
重症急性膵炎では経鼻腸管チューブを留置し、輸液蘇生が完了したらすぐ
経腸栄養を開始すべきである。(Grade C)
2.軽症~中等症急性膵炎患者は、予期しない合併症が増悪するか7日以内に
経口摂取に進むことができない場合以外に栄養補助療法を必要としない。 (Grade C)
3.重症急性膵炎では経胃あるいは経空腸による経腸栄養を行う。(Grade C)
4.重症急性膵炎では、以下の方法により経腸栄養の併用効果を高めることが可能。
・経腸栄養の早期開始により、入院後の腸閉塞期間を最小限とする。(Grade D)
・消化管における経腸栄養注入位置を、より肛門側に変更。(Grade C)
・投与される経腸栄養の内容を、蛋白質から小ペプチドに
また長鎖脂肪酸から中鎖脂肪酸あるいはほぼ脂肪分のない製剤に変更。(Grade E)
・ボーラス注入から持続注入に切り替える。(Grade C)
5.重症急性膵炎患者に経腸栄養が不可能であれば経静脈栄養を考慮。(Grade C)
入院後5日間が経過するまで、経静脈栄養を開始すべきではない。(Grade E)
●終末期栄養療法
1.終末期の患者において、特殊な栄養療法は必ずしも必要ではない。
栄養療法を行うかどうかの判断は、患者および家族との十分な会話・現実的な目標
に基づいて、また患者自身の意思を尊重して決断されるべきである。(Grade E)
by otowelt
| 2010-05-13 13:50
| 集中治療