ノカルジア症(Nocardiosis)
2010年 06月 02日
個人的にはasteroidesではなくfarcinicaしか経験したことがない。
ここ最近何例か続けて目にしたので、改めてまとめてみたい。
●ノカルジア症とは
・ヒトに病原性をしめす放線菌には、嫌気性菌放線菌と
好気性放線菌があり、前者にActinomyces、後者にNocardia,
Rhodococcus, Tsukamurella, Gordoniaがある。これらの菌は
抗酸性菌とよばれ、Mycobacteriumの特徴的な性質である抗酸性の
染色性を示す。Corynebacteriumの一部も同じグループに属するが
抗酸性の程度はそれぞれの菌種によって異なり、Mycobacteriumが
一番強い染色性を示し、Nocardiaは部分的で弱い。
・経験的に放線菌症というのはActinomycesによるものを
指すのが一般的である。(狭義の放線菌症)
・ノカルジアは放線菌目ノカルジア科に属する好気性
グラム陽性桿菌で、土壌中に広く分布し弱抗酸性を有する。
・創傷部からの菌侵入による皮膚型、経気道感染による肺病変から
血行性に全身播種する内臓型に分類され、慢性・亜急性の化膿性炎症を起こす。
・全身に播種しやすく、適切な治療を行っていても再燃や進行しやすいという
特徴がある。内臓型は診断、診療の遅れによりその15~40%に
血行性全身播種をきたすとされている。
●問題となるNocardia属
N. asteroids
N. farcinica
N. nova
N. brasiliensis
N. otitidiscaviarium の5菌種である。
・ヒト感染を起こすものは30種類報告されている。
・感染する約64% が易感染性を有する症例である。
J Infect Dis 1976;134:286―9.
●ヒトにおけるノカルジア感染のリスクファクター
ステロイド治療中 (64.5%)
COPD(23%)
関節リウマチ
Evan’s症候群
臓器移植 (29%)
HIV感染 (19%)
アルコール (6.5%) Respirology, 2007
●ノカルジアの診断
・診断には感染局所からの菌の証明が重要であるが、
常在菌ではないため喀痰からの菌の検出も重要な診断の根拠になる。
・Gram染色がもっとも有用な早期診断法である。
・発育速度が緩徐でコロニー形成までに2~4週間を要する。
●皮膚ノカルジア症
●肺ノカルジア症の画像
・肺ノカルジア症は画像上、非区域性の浸潤影を呈することが
多いが、さまざまな陰影をとり得るため画像上の鑑別は困難。
・孤立性結節影、コンソリデーション、網状影、胸水貯留、
上葉優位の空洞性陰影などがよくみられる。
Clin Microbiol Rev1994;7:213.
J Comput Assist Tomogr. 1995 Jan-Feb;19(1):52-5
・AIDS症例では、spiculated noduleや空洞性病変が多い。
J Thorac Imaging. 2007 May;22(2):143-8.
・気管支鏡は診断に有用。TBBあるいはBALを行うべきである。
診断がつかないケースでは、CTガイド下生検も報告がある。
Radiology 1991; 180: 419–21.
●ノカルジア脳膿瘍
播種性ノカルジア症の約4割に脳膿瘍を合併するとの報告があり、
脳膿瘍全体では1~2%と低率である。
Clin Neurol Neurosurg 2002;104:132―5.
Arch Pathol Lab Med 2003;127:224―6.
他の脳膿瘍と異なり、ノカルジア脳膿瘍の死亡率は単発で33%
多発で66%と高率である。
Neurosuegery1994;35:622―31.
●ノカルジアの治療
↓クリックすると拡大
イミペネムーアミカシンによるシナジー効果が確認されている。
Antimicrob Agents Chemother 1983; 24:810-811.
ST合剤が第一選択薬で、第二選択薬としてカルバペネム、
テトラサイクリン、ペニシリン、アミノグリコシド、ニューキノロンなど
が推奨されている。
Curr Clin Top Infect Dis 1997;17:1―23.
中枢性病変が有る場合は第3世代セフェムが使われるべき。
しかし、asteroidesでしばしば耐性が報告されている。
Antimicrob Agents Chemother 1993; 37:882-884.
リネゾリド治療例の報告が1例ある。
Ann Pharmacother 2007;41 (10) : 1694-9.
●治療期間
6カ月未満で加療を中止した場合では高率に再燃をきたす。
そのためノカルジア症では6~12ヶ月の長期治療が必要。
特に中枢神経病変がある場合、免疫不全例は12ヵ月。
Harrison’s Principles of Internal Medicine. Volume 1. 16th edition. New York: McGraw Hill,2005; 934-37.文責"倉原優"
ここ最近何例か続けて目にしたので、改めてまとめてみたい。
●ノカルジア症とは
・ヒトに病原性をしめす放線菌には、嫌気性菌放線菌と
好気性放線菌があり、前者にActinomyces、後者にNocardia,
Rhodococcus, Tsukamurella, Gordoniaがある。これらの菌は
抗酸性菌とよばれ、Mycobacteriumの特徴的な性質である抗酸性の
染色性を示す。Corynebacteriumの一部も同じグループに属するが
抗酸性の程度はそれぞれの菌種によって異なり、Mycobacteriumが
一番強い染色性を示し、Nocardiaは部分的で弱い。
・経験的に放線菌症というのはActinomycesによるものを
指すのが一般的である。(狭義の放線菌症)
・ノカルジアは放線菌目ノカルジア科に属する好気性
グラム陽性桿菌で、土壌中に広く分布し弱抗酸性を有する。
・創傷部からの菌侵入による皮膚型、経気道感染による肺病変から
血行性に全身播種する内臓型に分類され、慢性・亜急性の化膿性炎症を起こす。
・全身に播種しやすく、適切な治療を行っていても再燃や進行しやすいという
特徴がある。内臓型は診断、診療の遅れによりその15~40%に
血行性全身播種をきたすとされている。
●問題となるNocardia属
N. asteroids
N. farcinica
N. nova
N. brasiliensis
N. otitidiscaviarium の5菌種である。
・ヒト感染を起こすものは30種類報告されている。
・感染する約64% が易感染性を有する症例である。
J Infect Dis 1976;134:286―9.
●ヒトにおけるノカルジア感染のリスクファクター
ステロイド治療中 (64.5%)
COPD(23%)
関節リウマチ
Evan’s症候群
臓器移植 (29%)
HIV感染 (19%)
アルコール (6.5%) Respirology, 2007

・診断には感染局所からの菌の証明が重要であるが、
常在菌ではないため喀痰からの菌の検出も重要な診断の根拠になる。
・Gram染色がもっとも有用な早期診断法である。
・発育速度が緩徐でコロニー形成までに2~4週間を要する。
●皮膚ノカルジア症

●肺ノカルジア症の画像

多いが、さまざまな陰影をとり得るため画像上の鑑別は困難。
・孤立性結節影、コンソリデーション、網状影、胸水貯留、
上葉優位の空洞性陰影などがよくみられる。
Clin Microbiol Rev1994;7:213.
J Comput Assist Tomogr. 1995 Jan-Feb;19(1):52-5
・AIDS症例では、spiculated noduleや空洞性病変が多い。
J Thorac Imaging. 2007 May;22(2):143-8.
・気管支鏡は診断に有用。TBBあるいはBALを行うべきである。
診断がつかないケースでは、CTガイド下生検も報告がある。
Radiology 1991; 180: 419–21.
●ノカルジア脳膿瘍

脳膿瘍全体では1~2%と低率である。
Clin Neurol Neurosurg 2002;104:132―5.
Arch Pathol Lab Med 2003;127:224―6.
他の脳膿瘍と異なり、ノカルジア脳膿瘍の死亡率は単発で33%
多発で66%と高率である。
Neurosuegery1994;35:622―31.
●ノカルジアの治療
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Antimicrob Agents Chemother 1983; 24:810-811.
ST合剤が第一選択薬で、第二選択薬としてカルバペネム、
テトラサイクリン、ペニシリン、アミノグリコシド、ニューキノロンなど
が推奨されている。
Curr Clin Top Infect Dis 1997;17:1―23.
中枢性病変が有る場合は第3世代セフェムが使われるべき。
しかし、asteroidesでしばしば耐性が報告されている。
Antimicrob Agents Chemother 1993; 37:882-884.
リネゾリド治療例の報告が1例ある。
Ann Pharmacother 2007;41 (10) : 1694-9.
●治療期間
6カ月未満で加療を中止した場合では高率に再燃をきたす。
そのためノカルジア症では6~12ヶ月の長期治療が必要。
特に中枢神経病変がある場合、免疫不全例は12ヵ月。
Harrison’s Principles of Internal Medicine. Volume 1. 16th edition. New York: McGraw Hill,2005; 934-37.文責"倉原優"
by otowelt
| 2010-06-02 23:58
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