β-Dグルカン

●β-Dグルカンとは
 βグルカンは真菌や植物などが保有する細胞壁成分多糖で、β配位した
 グルコピラノースを構成糖とする。結合様式から、1→3、1→6
 の2種類が真菌では知られている。
 β-D-グルカンと単に言うときは、1→3を指しているものと考えてよい。
 真菌に特徴的な細胞膜を構成している多糖体で、菌糸型接合菌を除く
 すべての真菌に共通して認められるものである。
 当然ながら、正常なヒトには存在しない物質である。
β-Dグルカン_e0156318_11582619.jpg
●β-Dグルカン測定法
 血漿β-グルカン測定法は1995 年生化学工業(株)により初めて発表された
 リムルス反応を応用した深在性真菌症の診断法である。
               Lancet 1995 ;345:17―20.
 どの方法も、カブトガニ血球中のβ-グルカン感受性物質の
 体液凝固反応を応用したものである。β-Dグルカンの測定法と、
 エンドトキシンの測定法は紙一重でありこれらの検査法を理解するためには
 その歴史を学ぶ必要がある。1973年にプレゲルが発売され、ng/mlオーダーで
 エンドトキシンの検出が可能になったが、この方法はゲル化を目で判定するので、
 バイアスが大きかった。つまり、陽性と陰性の判定が容易ではなかった。
 ライセート凝固に関与する因子であるクロッティングエンザイムや
 基質コアギュローゲンが明らかになり、最初の定量法として
 1978年に発色合成基質法が開発された。
            Haemostasis; 7:183, 1978
 1981年にβ-(1→3)-D-グルカンがライセートを凝固させることがわかった。
             Biochem Biophys Res Commun101; 434 ,1981
 ここからリムルス、発色合成基質法が発達していった。
 β-Dグルカンとエンドトキシンの測定法は特異的に発達を遂げる。

 ところで、β-Dグルカンは国内外でのアッセイの方法に違いが少々あり、
 カットオフ値も異なるので、論文を読むときはその点に注意した方がよい。
 測定法としては発色合成基質法とゲル化時間を測定する比濁時間分析法がある。
 臨床で主に用いられているものに
 ファンギテックGテストMK(発色合成基質法;生化学工業(株))と
 β-グルカンテストワコー(比濁法;和光純薬工業(株))の2 種類があったが、
 最近マルハ(発色合成基質法;マルハニチロ食品(株))で登場した。
β-Dグルカン_e0156318_12214991.jpg
・発色合成基質法(ファンギテックG MK/カットオフ値20pg/ml)
 カブトガニG因子系の反応試薬にβ-D-グルカンが
 作用すると連鎖反応が起こり、最終的に活性化された凝固酵素が発色合成基質を
 加水分解する。その結果遊離されるパラニトロアリニン(PNA)の吸光度を
 経時的に測定することにより、自動的に検体中のβ-D-グルカン濃度が算出される
 (カイネティック自動比色測定法)。
 サルファ剤は芳香族アミンを基本構造をもっているが、これが
 パラニトロアニリンと同じくにジアゾカップリングされる。
 そのため、血中にサルファ剤が含まれると偽陽性反応になることがある。
 マルハの発色合成基質法では異なる基質を用いておりこの問題はない。
 ファンギテックMK法が最も感度がよいとされ、かつワコーよりも
 数値が高めに出る点は覚えておきたい。
 しかし、ワコー法とマルハ法は特異度に優れているとされている。


・比濁時間分析法(β-グルカンテストワコー/カットオフ値11 pg/ml)
 前処理した試料をリムルス試薬と反応させると、(1→3)-β-D-グルカンは
 ファクターGより始まるカスケード反応を開始させ、濁りを伴うゲル化を起こす。
 試料中の(1→3)-β-D-グルカン量と反応液があらかじめ設定された濁度に
 達するのに要した時間との間の用量反応関係に基づき、試料中の
 (1→3)-β-D-グルカン量を求めることが可能である。
 
●β-Dグルカンの偽陽性
・透析でのセルロース膜使用者
・アルブミン製剤やグロブリン製剤使用者
・多発性骨髄腫
・レンチナン、シゾフィランなどのグルカン抗悪性腫瘍薬使用中
・アガリクスなどのキノコ類大量摂取
・サルファ剤
・ピシバニール
・ガーゼを使用した
・溶血
ファンギテックG MKを使用している病院では、
たとえばICU患者さんがグロブリン・アルブミン製剤を点滴していたり
すると、β-Dグルカンの数字の判断を安易にしてはならないということになる。

●PCP診断
 ファンギテックGテストMKでは、
 23.2pg/mlをカットオフとして感度96.4%、特異度87.8%(+LR 7.9, -LR 0.04)。
 また、β-DグルカンはPCPの重症度を反映せず、治療効果の判定に使えない
 CIDでは、8割以上の患者が臨床的改善後もβ-Dグルカンが正常化しなかった。
 β-Dグルカン(ワコー)では、31.1pg/mlをカットオフとした場合、
 感度92.3%、特異度86.1%、PPV61%、NPV98%であった。
              Chest (2007) vol. 131 (4) pp. 1173-80


by otowelt | 2010-06-16 09:58 | 感染症全般

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優