敗血症における免疫

自分の好きな分野にも、苦手な部分がある。
感染症は好きだが、感染症に伴う病態生理には明るくない。
その克服が、自分の当面の課題である。

敗血症患者の多くで、免疫抑制の状態が生じることが知られている。
免疫反応の消失、感染症が治りにくい、日和見感染の発生・・・。
in vivoでも、敗血症患者の血液にリポポリサッカライドで炎症反応を刺激し、
その後のサイトカインの量を測定すると、健康な人の血液に比べて
サイトカインの上昇の程度が低くなるという報告がある。
T細胞は、ある条件下では抗原に対して反応しない。
敗血症の多くで、リンパ球と消化管上皮細胞がアポトーシスを起こすが、
アポトーシスを生じた細胞からの刺激で、survivor T細胞が無反応になる。
ゆえに、アポトーシスが多い患者では細菌に対する免疫応答が障害され、
さらなる敗血症状態へのスパイラルへ入る。

以下は、最近のNEJMから。

Immunotherapy for Sepsis — A New Approach against an Ancient Foe
NEJM 363;1 july 1, 2010


敗血症性ショック(septic shock)は、病原性微生物の侵入に対する
全身性炎症反応が過剰に発現した結果生じる病態である。
敗血症の臨床的アウトカムを改善するため、炎症促進作用のあるサイトカイン
・メディエーターの阻害薬が過去に試されてきたが、成功には至っていない。
激しい全身性炎症反応(たとえばmeningococcemia;劇症型髄膜炎菌血症)を
呈し急速に死亡する症例もあるが、多くの敗血症は、MOFを危惧しICU
で管理されることになる。
The pathophysiology. and treatment of sepsis. N Engl J Med 2003;348:138-50.

敗血症患者は、Strenotrophomonas maltophilia、Acinetobacter、Candida、
緑膿菌、Enterococcus、CMV、など比較的病原性が弱く、多剤耐性である微生物
に感染する頻度が高い。すなわち、敗血症によって免疫抑制が起こる裏付けである。
耐性菌が増加し、新薬開発がなされないため、敗血症患者の管理は困難に
なってきている。敗血症は、病原体と宿主の免疫反応との戦いである。
言うなれば、病原体は宿主防御能をいろいろな角度から攻撃してくる。
例を挙げると、免疫エフェクター細胞がアポトーシスにより減少するように
仕向けたり、MHC class Ⅱ分子の発現を抑制したり、T細胞negative pathway
に関わる共刺激分子の発現を促進したり、抗炎症性サイトカインを増加させたり、
サプレッサーT細胞および骨髄由来免疫抑制細胞を増やしたりする。

敗血症によって免疫抑制が起こらないようにする予防策、および
免疫抑制が起こってしまった場合の治療法の開発が
現段階では敗血症分野において、最優先の研究課題である。

Saidらが、慢性的ウイルス感染や遷延性敗血症に代表される
持続的炎症に伴う免疫能低下の分子的機序の解明につながる報告をした。
Programmed death-1-induced interleukin-10 production by monocytes impairs CD4+T cell activation during HIV infection. Nat Med 2010;16:452-9.
この研究では、HIVウイルス感染者においてみられるprogrammed death 1; PD-1
で有名な、単球/マクロファージタンパクの作用が明らかにされた。
PD-1は免疫エフェクター細胞上に発現する共刺激分子で、negative pathwayに
関与する。HIV感染の慢性期に、同様の性質を持つリガンドであるPD-L1とともに
up-regulationを受ける。著者らは、HIV慢性感染による炎症がある場合、
腸上皮を細菌性メディエーターが通過し、toll-like-receptorがメディエーターを
認識することを明らかにした。つまり、腸を通じて入り込んだ細菌産生物質による
自然免疫の持続的な活性化が、多くの免疫細胞上のPD-1またはPD-L1の発現
においてup-regulation作用を及ぼすということである。
敗血症における免疫_e0156318_19544097.jpg
免疫を刺激する治療法は、hyperinflammatory phaseを敗血症において
悪化させるが、インターフェロンγ、GM-CSFなどの臨床試験があるが
これらは、免疫応答を惹起しない。
遷延性敗血症において、多くの患者はかなりの免疫抑制を強いられるため、
治療において高炎症性の病態に陥ることはあまりない。
by otowelt | 2010-07-12 19:55 | 集中治療

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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