VAPガイドラインで議論の余地のある項目のClinical Review
2010年 11月 10日
VAPガイドラインで現在、議論の余地がある項目について
レビューしたものであり、これは非常におもしろい。
集中治療医にとっては大事なConcise Clinical Reviewである。
New Issues and Controversies in the Prevention of Ventilator-associated Pneumonia
Am J Respir Crit Care Med Vol 182. pp 870–876, 2010
はじめに:
公表されたガイドラインにおいて、VAP予防策にかかわる問題点が
いくつか解決されていないことがわかった。
VAP予防策としての多くの新しいテクニックがみられているのにもかかわらず
いずれもが現在のガイドラインでは表記されていない。たとえば、
薄いカフ気管チューブ、低容量/低圧カフ気管チューブ、カフ圧の持続
モニタリング、バイオフィルム除去装置、気管内吸引前の生食注入などがある。
また、人工鼻や、加温加湿器、抗菌コーティング気管チューブは予防策として
取り入れられていない。そこで、このレビューにおいてVAP予防策で現在
ガイドラインで明確な推奨がなかったり、議論の余地がある項目をレビューする。
●薄いカフの気管チューブEndotracheal Tube with an Ultrathin Cuff Membrane
声門下気道分泌物は、気管チューブのカフ上部に貯留した分泌物が
カフのシワをつたって下気道へたれ込むものであり、これがVAPを引き起こす。
声門下分泌物ドレナージ(SSD)機能付き気管チューブによって気道分泌物を
除去することを現在こころみている施設も多い。
メタアナリシスでは、VAPリスクがRR0.51(95%CI, 0.37-0.71)でVAP
リスクを低下させることがわかっている。
Subglottic secretion drainage for preventing ventilator-associated pneumonia: a meta-analysis. Am J Med 2005;118:11–18.
このメタアナリシスの重要なポイントは、5つの対象文献のうち4つにおいて、
人工呼吸管理を72時間以上必要とする患者を対象にしていた。
別の研究で、心臓手術に関連する患者714名をSSD気管チューブまたは従来チューブ
のいずれかにランダムに割りつけて比較する研究がある。これによると、VAP頻度は
SSDに関係なく同等であった(3.6% vs 5.3%; P=0.2)。
サブ解析で、人工呼吸管理を48時間以上要した患者においては、SSD気管チューブ群
の方がVAP発生率が低かった(26.7% vs 47.5%; P=0.04)。
Continuous aspiration of subglottic secretions in the prevention of ventilator-associated pneumonia in the postoperative period of major heart surgery. Chest 2008;134:938–946.
カフにシワが形成されて分泌物が落ち込まないように発案された極めて薄いカフの
チューブが最近登場した(厚さ7μm、従来のポリ塩化ビニル製のものの7分の1)。
この薄いカフチューブをin vitroに研究したものがあり、着色水5mlを
カフの上に注入し、モデル人形を用いてこれを評価した。これにより、この
薄いカフチューブによって分泌物落ちこみが防止できる可能性が示唆された。
Fluid leakage past tracheal tube cuffs: evaluation of the new Microcuff endotracheal tube. Intensive Care Med 2003;29:1849–1853.
in vivoでは、心臓手術を受ける患者134名を、薄いカフ付き気管チューブ群
または従来型のカフ付き気管チューブ群にランダムに割りつけたものがある。
薄いカフ群の方が術後早期の肺炎の発生頻度が低かった。
多変量回帰分析を行ったところ、薄いカフ付き気管チューブを使用すると、
早期VAPに対する予防効果がみられた(OR0.31; 95%CI, 0.13-0.77; P=0.01)。
ただこの研究は心臓手術患者に限定しているため、
一般的な人工呼吸器を必要とする他の病態で有用かどうかは不明である。
Polyurethane cuffed endotracheal tubes to prevent early postoperative pneumonia after cardiac surgery: a pilot study. J Thorac Cardiovasc Surg 2008;135:771–776.
この薄いタイプはカフが紡錘形である。
この形状の利点は、気管内の少なくとも一点において、膨張したカフが
気管にタイトと密着することにある。この部分には、分泌物がリークする余地がない。
そのためVAP予防効果が、カフの材質が薄いポリウレタンにあるのか、
カフの形状が紡錘形であることに由来するのか、現段階では不明と言わざるを得ない。
また、この薄いカフとSSDの両方の利点を一挙に調べたランダム化試験がある。
これは280名を対象としており、エンドポイントとしてVAP発生頻度の比較が
検証された。結果、SSDのついた薄いカフ付き気管チューブ使用群の方が
早期・晩期VAP両方の発生頻度が低かった
(11/140[7.9%] vs 31/140[22.1%];HR3.3; 95%CI, 1.66-6.67; P=0.001)。
SSDの効果は早期VAPに対してのみ発揮され、晩期VAPの予防は難しいとされて
いたが、このダブル予防の研究では、SSDのついた薄いカフ付き気管チューブを
使用すると早期・晩期VAPのいずれも予防することが可能であった。
Influence of an endotracheal tube with polyurethane cuff and subglottic drainage on
pneumonia. Am J Respir Crit Care Med 2007;176:1079–1083.
●持続的気管内カフ圧制御
Device for Continuous Monitoring of Endotracheal Tube Cuff Pressure
声門下の分泌物が下気道へ落ち込むのを防ぐため、カフ圧を最適な圧に維持
すべきだという意見がある。ある研究では、カフ圧が持続的に20cmH2O未満で
あった症例ではVAP発生率が高かった(RR2.57; 95%CI, 0.78-8.03)。
気管挿管中の患者で抗菌薬を投与されていない場合、カフ圧が持続的に
20cmH2O未満であると、それはVAPの独立危険因子である
(RR4.23; 95%CI, 1.12-15.92)。なおかつ気管損傷を防ぐためには
カフ圧は30cmH2Oを超えてはならない。
Pneumonia in intubated patients: role of respiratory airway care. Am J Respir Crit
Care Med 1996;154:111–115.
Postintubation tracheal stenosis. Chest Surg Clin N Am 2003;13:231–246.
142人の人工呼吸患者を、カフ圧を自動制御するようなメカニズム(カフ圧が
画面上に常に表示されるようなシステム)を用いる群あるいは手動のカフ圧計で
その都度カフ圧を調整する群かのいずれかにランダムに割りつけた研究がある。
当然ながら、自動に制御した方がカフ圧のオーバーダウンは少なかった(P<0.001)。
ただ、この2群においてVAPなどの臨床的な差および死亡率に差はみられなかった。
こういった自動測定装置を用いるとカフ圧を正確に管理することは可能だが、
エビデンスの蓄積が不十分であり、推奨に至るものではない。
Automatic control of tracheal tube cuff pressure in ventilated patients in semirecumbent position: a randomized trial.Crit Care Med 2007;35:1543–1549.
LotrachチューブはSSD、低容量・低圧カフ、カフ圧自動調節システムが
あるが、誤嚥は減る可能性があるが、VAPを予防できるかどうかは
現段階では不明である。
●バイオフィルム除去デバイスDevice to Remove Biofilm Formation
チューブの表面に形成されるバイオフィルムを除去することは、VAPの
リスクを減らす方法としてよく言われている。Mucus Shaverという、
チューブ内をバルーニングして一気にバイオフィルムを抜き去るという装置がある。
ヒツジを用いた研究では、電子顕微鏡を用いて気管チューブ内壁を観察したところ。
Mucus Shaver群に使用したチューブにはバイオフィルムは全くなかった。
このヒツジを用いた研究は2つある。Mucus Shaverは、ヒトにおける
VAP予防効果についてのデータがなく現段階では推奨には至らない。
Novel system for complete removal of secretions within the endotracheal tube: the Mucus
Shaver. Anesthesiology 2005;102:1063–1065.
Antibacterial-coated tracheal tubes cleaned with the Mucus Shaver: a novel method to retain long-term bactericidal activity of coated tracheal tubes. Intensive Care Med 2006;32:888–893.
●気管内吸引前生理食塩水の吸入Saline Instillation before Tracheal Suctioning
気管内吸引前に、毎回生生理食塩水を注入する方法については、
議論の余地がある。生理食塩水を注入せず、吸引カテーテルを挿入する場合と比べ、
吸引カテーテル挿入前に生理食塩水を注入した場合、細菌塊がチューブ内壁から
はがれ落ちやすくなるとされている。
一度はがれ落ちてしまえば下気道がこういった病原性微生物によって汚染される
ことになるためVAPの発生頻度を上昇させる可能性がある。さらには、気管内
吸引前に生理食塩水を注入することによって、低酸素血症を惹起しかねない。
しかしながら、生理食塩水を注入してから気管内吸引を行った場合
VAPの頻度を低下させることが可能かもしれない。理由は、吸引前に注入すれば
粘稠な気道分泌物を除去しやすくなり、咳嗽を誘発できるため技術的に吸引
しやすくなるかもしれない。こういった論点を解決するべく行われた研究では、
262人が、生理食塩水注入後に吸引を行う群か、注入せずに吸引を行う群かの
いずれかにランダムに割りつけられた。注入群の方が、細菌培養で確診された
VAP頻度が低かった(23.5% vs 10.8%; P=0.008)。
ただ、死亡率や人工呼吸期間、ICU滞在日数などについては差はなかった。
Saline instillation before tracheal suctioning decreases the incidence of ventilator-associated pneumonia. Crit Care Med 2009;37:32–38.
結論としては、この1つのスタディのみで推奨には至らない。
●早期の気管切開Early Tracheostomy
早期気管切開によって、VAPが低下するという結果を示す研究もある一報で、
全く低下しないという報告もあり、議論の余地がある。
382人を用いた5つのランダムもしくはquasiランダム化比較対照試験について
メタアナリシスがおこなわれた。気管挿管下の人工呼吸開始から7日以内の気管切開
を行ってもVAPリスク(RR0.90; 95%CI, 0.66-1.21)および
死亡率(RR0.79; 95%CI, 0.45-1.39)は低下しなかった。
ただ、人工呼吸器使用期間については有意な短縮がみられた。
Systematic review and meta-analysis of studies of the timing of tracheostomy in adult
patients undergoing artificial ventilation. BMJ 2005;330:1243–1246.
また人工呼吸期間が7日以上におよぶと”予測される”患者125人を対象とした
研究がおこなわれている。長期気管挿管群あるいは早期(4日以内)気管切開群の
いずれかにランダムに割り当てられたが、死亡率、VAP発生頻度、人工呼吸器使用期間
など差はみられなかった。
Early tracheotomy versus prolonged endotracheal intubation in unselected severely ill
ICU patients. Intensive Care Med 2008;34:1779–1787.
641人を対象とした7つ試験のメタアナリシスを行ったところ、
肺炎および死亡率のリスクについては有意差はなかった。しかしながら、
早期気管切開(人工呼吸開始から5日以内)と晩期気管切開を比べた3つの
ランダム化比較対照試験のみに限定して分析したところ、晩期切開群と比べ早期切開群
では死亡率が低下(OR0.40; 95% CI, 0.25-0.97)、またICU滞在期間が短縮した。
Should tracheostomy be performed as early as 72 hours in patients requiring prolonged
mechanical ventilation? Respir Care 2010;55:76–87.
早期の気管切開により、人工呼吸器使用期間およびICU滞在期間が短縮、
また死亡率が低下することが示されている。
ゆえに、人工呼吸器使用期間が7日以上になると”予測される”患者に対しては
早期気管切開を実施することは考えてもよいと思われる。
ただ、長期の気管挿管を要する患者をどうやって予測するのかという
大きな問題点があるため、こればかりはいかんともしがたい。
●抗菌コーティングの気管内チューブ
Endotracheal Tube Coated with Antimicrobial Agents
気管チューブ内にはバイオフィルムが形成され、これがVAPの原因となることは
よく知られている。重症患者に銀コーティング気管チューブを用いると、
気管内の細菌定着が減少し、VAP発生率が低下することが示されている。
Reduced burden of bacterial airway colonization with a novel silver-coated endotracheal tube in a randomized multiplecenter feasibility study. Crit Care Med 2006;34:2766–2772.
また、1%ヘキセチジン含有気管チューブがVAP予防に有用であるという報告もある。
Physicochemical characterization of hexetidine-impregnated endotracheal tube poly(vinyl chloride) and resistance to adherence of respiratory bacterial pathogens. Pharm Res 2002;19:818–824.
NASCENT試験は、人工呼吸を24時間以上要すると予測される患者2003人を
対象として、銀コーティング気管チューブと従来の気管チューブの比較を行った
大規模なランダム化試験である。この結果として、銀コーティング気管チューブ群が、
細菌培養で確診されたVAPの発生率が有意に低かった
(37/766[4.6%] vs. 56/743[7.5%]; P=0.003)。
NASCENT試験で得られたデータのコホートアナリシスで、VAP発症例における
死亡率は、銀コーティング気管チューブ群の方が従来の気管キューブ群よりも
有意に低いことが明らかになった。
Silver-coated endotracheal tubes and incidence of ventilator-associated pneumonia: the NASCENT randomized trial. JAMA 2008;300:805–813.
コストパフォーマンスに重きをおいた解析では、銀コーティングチューブの使用は
VAPを予防し入院医療費を削減する可能性があるとされている。
VAPを一例防ぐごとに12840US$がplusになるという計算となった。
Cost-effectiveness analysis of a silvercoated endotracheal tube to reduce the incidence of ventilator-associated pneumonia. Infect Control Hosp Epidemiol 2009;30:759–763.
銀コーティングの気管チューブの使用は推奨してもよいと考える。
●人口鼻および加温・加湿器HMEs or HHs
9つのスタディにおいて1378人を対象としたメタアナリシスがある。
人工鼻の使用によってVAP発生率が低下することがわかった
(RR0.7; 95%CI, 0.50-0.94)。しかし、人工鼻と比べ加温加湿器の方が
VAP発生率が有意に低いことを示した非ランダム化試験は、この9のメタアナリシス
には含まれていない。
Efficacy of heat and moisture exchangers in preventing ventilator-associated pneumonia: meta-analysis of randomized controlled trials. Intensive Care Med 2005;31:5–11.
他のメタ分析では、13のスタディ・2580人を対象としたものがある。
結果として、人工鼻と加温加湿器にはVAP率、ICU死亡率、ICU滞在期間などに
差がみられなかった。ただ、人工鼻は安価であり、コストエフェクティブという観点
からは、加温加湿器に比べると優位に立つかもしれない。推奨には至らない。
Impact of passive humidification on clinical outcomes of mechanically ventilated patients:
a meta-analysis of randomized controlled trials. Crit Care Med 2007;35:2843–2851.
レビューしたものであり、これは非常におもしろい。
集中治療医にとっては大事なConcise Clinical Reviewである。
New Issues and Controversies in the Prevention of Ventilator-associated Pneumonia
Am J Respir Crit Care Med Vol 182. pp 870–876, 2010
はじめに:
公表されたガイドラインにおいて、VAP予防策にかかわる問題点が
いくつか解決されていないことがわかった。
VAP予防策としての多くの新しいテクニックがみられているのにもかかわらず
いずれもが現在のガイドラインでは表記されていない。たとえば、
薄いカフ気管チューブ、低容量/低圧カフ気管チューブ、カフ圧の持続
モニタリング、バイオフィルム除去装置、気管内吸引前の生食注入などがある。
また、人工鼻や、加温加湿器、抗菌コーティング気管チューブは予防策として
取り入れられていない。そこで、このレビューにおいてVAP予防策で現在
ガイドラインで明確な推奨がなかったり、議論の余地がある項目をレビューする。
●薄いカフの気管チューブEndotracheal Tube with an Ultrathin Cuff Membrane
声門下気道分泌物は、気管チューブのカフ上部に貯留した分泌物が
カフのシワをつたって下気道へたれ込むものであり、これがVAPを引き起こす。
声門下分泌物ドレナージ(SSD)機能付き気管チューブによって気道分泌物を
除去することを現在こころみている施設も多い。
メタアナリシスでは、VAPリスクがRR0.51(95%CI, 0.37-0.71)でVAP
リスクを低下させることがわかっている。
Subglottic secretion drainage for preventing ventilator-associated pneumonia: a meta-analysis. Am J Med 2005;118:11–18.
このメタアナリシスの重要なポイントは、5つの対象文献のうち4つにおいて、
人工呼吸管理を72時間以上必要とする患者を対象にしていた。
別の研究で、心臓手術に関連する患者714名をSSD気管チューブまたは従来チューブ
のいずれかにランダムに割りつけて比較する研究がある。これによると、VAP頻度は
SSDに関係なく同等であった(3.6% vs 5.3%; P=0.2)。
サブ解析で、人工呼吸管理を48時間以上要した患者においては、SSD気管チューブ群
の方がVAP発生率が低かった(26.7% vs 47.5%; P=0.04)。
Continuous aspiration of subglottic secretions in the prevention of ventilator-associated pneumonia in the postoperative period of major heart surgery. Chest 2008;134:938–946.

チューブが最近登場した(厚さ7μm、従来のポリ塩化ビニル製のものの7分の1)。
この薄いカフチューブをin vitroに研究したものがあり、着色水5mlを
カフの上に注入し、モデル人形を用いてこれを評価した。これにより、この
薄いカフチューブによって分泌物落ちこみが防止できる可能性が示唆された。
Fluid leakage past tracheal tube cuffs: evaluation of the new Microcuff endotracheal tube. Intensive Care Med 2003;29:1849–1853.
in vivoでは、心臓手術を受ける患者134名を、薄いカフ付き気管チューブ群
または従来型のカフ付き気管チューブ群にランダムに割りつけたものがある。
薄いカフ群の方が術後早期の肺炎の発生頻度が低かった。
多変量回帰分析を行ったところ、薄いカフ付き気管チューブを使用すると、
早期VAPに対する予防効果がみられた(OR0.31; 95%CI, 0.13-0.77; P=0.01)。
ただこの研究は心臓手術患者に限定しているため、
一般的な人工呼吸器を必要とする他の病態で有用かどうかは不明である。
Polyurethane cuffed endotracheal tubes to prevent early postoperative pneumonia after cardiac surgery: a pilot study. J Thorac Cardiovasc Surg 2008;135:771–776.
この薄いタイプはカフが紡錘形である。
この形状の利点は、気管内の少なくとも一点において、膨張したカフが
気管にタイトと密着することにある。この部分には、分泌物がリークする余地がない。
そのためVAP予防効果が、カフの材質が薄いポリウレタンにあるのか、
カフの形状が紡錘形であることに由来するのか、現段階では不明と言わざるを得ない。
また、この薄いカフとSSDの両方の利点を一挙に調べたランダム化試験がある。
これは280名を対象としており、エンドポイントとしてVAP発生頻度の比較が
検証された。結果、SSDのついた薄いカフ付き気管チューブ使用群の方が
早期・晩期VAP両方の発生頻度が低かった
(11/140[7.9%] vs 31/140[22.1%];HR3.3; 95%CI, 1.66-6.67; P=0.001)。
SSDの効果は早期VAPに対してのみ発揮され、晩期VAPの予防は難しいとされて
いたが、このダブル予防の研究では、SSDのついた薄いカフ付き気管チューブを
使用すると早期・晩期VAPのいずれも予防することが可能であった。
Influence of an endotracheal tube with polyurethane cuff and subglottic drainage on
pneumonia. Am J Respir Crit Care Med 2007;176:1079–1083.

Device for Continuous Monitoring of Endotracheal Tube Cuff Pressure
声門下の分泌物が下気道へ落ち込むのを防ぐため、カフ圧を最適な圧に維持
すべきだという意見がある。ある研究では、カフ圧が持続的に20cmH2O未満で
あった症例ではVAP発生率が高かった(RR2.57; 95%CI, 0.78-8.03)。
気管挿管中の患者で抗菌薬を投与されていない場合、カフ圧が持続的に
20cmH2O未満であると、それはVAPの独立危険因子である
(RR4.23; 95%CI, 1.12-15.92)。なおかつ気管損傷を防ぐためには
カフ圧は30cmH2Oを超えてはならない。
Pneumonia in intubated patients: role of respiratory airway care. Am J Respir Crit
Care Med 1996;154:111–115.
Postintubation tracheal stenosis. Chest Surg Clin N Am 2003;13:231–246.
142人の人工呼吸患者を、カフ圧を自動制御するようなメカニズム(カフ圧が
画面上に常に表示されるようなシステム)を用いる群あるいは手動のカフ圧計で
その都度カフ圧を調整する群かのいずれかにランダムに割りつけた研究がある。
当然ながら、自動に制御した方がカフ圧のオーバーダウンは少なかった(P<0.001)。
ただ、この2群においてVAPなどの臨床的な差および死亡率に差はみられなかった。
こういった自動測定装置を用いるとカフ圧を正確に管理することは可能だが、
エビデンスの蓄積が不十分であり、推奨に至るものではない。
Automatic control of tracheal tube cuff pressure in ventilated patients in semirecumbent position: a randomized trial.Crit Care Med 2007;35:1543–1549.
LotrachチューブはSSD、低容量・低圧カフ、カフ圧自動調節システムが
あるが、誤嚥は減る可能性があるが、VAPを予防できるかどうかは
現段階では不明である。
●バイオフィルム除去デバイスDevice to Remove Biofilm Formation
チューブの表面に形成されるバイオフィルムを除去することは、VAPの
リスクを減らす方法としてよく言われている。Mucus Shaverという、
チューブ内をバルーニングして一気にバイオフィルムを抜き去るという装置がある。
ヒツジを用いた研究では、電子顕微鏡を用いて気管チューブ内壁を観察したところ。
Mucus Shaver群に使用したチューブにはバイオフィルムは全くなかった。
このヒツジを用いた研究は2つある。Mucus Shaverは、ヒトにおける
VAP予防効果についてのデータがなく現段階では推奨には至らない。
Novel system for complete removal of secretions within the endotracheal tube: the Mucus
Shaver. Anesthesiology 2005;102:1063–1065.
Antibacterial-coated tracheal tubes cleaned with the Mucus Shaver: a novel method to retain long-term bactericidal activity of coated tracheal tubes. Intensive Care Med 2006;32:888–893.
●気管内吸引前生理食塩水の吸入Saline Instillation before Tracheal Suctioning
気管内吸引前に、毎回生生理食塩水を注入する方法については、
議論の余地がある。生理食塩水を注入せず、吸引カテーテルを挿入する場合と比べ、
吸引カテーテル挿入前に生理食塩水を注入した場合、細菌塊がチューブ内壁から
はがれ落ちやすくなるとされている。
一度はがれ落ちてしまえば下気道がこういった病原性微生物によって汚染される
ことになるためVAPの発生頻度を上昇させる可能性がある。さらには、気管内
吸引前に生理食塩水を注入することによって、低酸素血症を惹起しかねない。
しかしながら、生理食塩水を注入してから気管内吸引を行った場合
VAPの頻度を低下させることが可能かもしれない。理由は、吸引前に注入すれば
粘稠な気道分泌物を除去しやすくなり、咳嗽を誘発できるため技術的に吸引
しやすくなるかもしれない。こういった論点を解決するべく行われた研究では、
262人が、生理食塩水注入後に吸引を行う群か、注入せずに吸引を行う群かの
いずれかにランダムに割りつけられた。注入群の方が、細菌培養で確診された
VAP頻度が低かった(23.5% vs 10.8%; P=0.008)。
ただ、死亡率や人工呼吸期間、ICU滞在日数などについては差はなかった。
Saline instillation before tracheal suctioning decreases the incidence of ventilator-associated pneumonia. Crit Care Med 2009;37:32–38.
結論としては、この1つのスタディのみで推奨には至らない。

●早期の気管切開Early Tracheostomy
早期気管切開によって、VAPが低下するという結果を示す研究もある一報で、
全く低下しないという報告もあり、議論の余地がある。
382人を用いた5つのランダムもしくはquasiランダム化比較対照試験について
メタアナリシスがおこなわれた。気管挿管下の人工呼吸開始から7日以内の気管切開
を行ってもVAPリスク(RR0.90; 95%CI, 0.66-1.21)および
死亡率(RR0.79; 95%CI, 0.45-1.39)は低下しなかった。
ただ、人工呼吸器使用期間については有意な短縮がみられた。
Systematic review and meta-analysis of studies of the timing of tracheostomy in adult
patients undergoing artificial ventilation. BMJ 2005;330:1243–1246.
また人工呼吸期間が7日以上におよぶと”予測される”患者125人を対象とした
研究がおこなわれている。長期気管挿管群あるいは早期(4日以内)気管切開群の
いずれかにランダムに割り当てられたが、死亡率、VAP発生頻度、人工呼吸器使用期間
など差はみられなかった。
Early tracheotomy versus prolonged endotracheal intubation in unselected severely ill
ICU patients. Intensive Care Med 2008;34:1779–1787.
641人を対象とした7つ試験のメタアナリシスを行ったところ、
肺炎および死亡率のリスクについては有意差はなかった。しかしながら、
早期気管切開(人工呼吸開始から5日以内)と晩期気管切開を比べた3つの
ランダム化比較対照試験のみに限定して分析したところ、晩期切開群と比べ早期切開群
では死亡率が低下(OR0.40; 95% CI, 0.25-0.97)、またICU滞在期間が短縮した。
Should tracheostomy be performed as early as 72 hours in patients requiring prolonged
mechanical ventilation? Respir Care 2010;55:76–87.
早期の気管切開により、人工呼吸器使用期間およびICU滞在期間が短縮、
また死亡率が低下することが示されている。
ゆえに、人工呼吸器使用期間が7日以上になると”予測される”患者に対しては
早期気管切開を実施することは考えてもよいと思われる。
ただ、長期の気管挿管を要する患者をどうやって予測するのかという
大きな問題点があるため、こればかりはいかんともしがたい。
●抗菌コーティングの気管内チューブ
Endotracheal Tube Coated with Antimicrobial Agents
気管チューブ内にはバイオフィルムが形成され、これがVAPの原因となることは
よく知られている。重症患者に銀コーティング気管チューブを用いると、
気管内の細菌定着が減少し、VAP発生率が低下することが示されている。
Reduced burden of bacterial airway colonization with a novel silver-coated endotracheal tube in a randomized multiplecenter feasibility study. Crit Care Med 2006;34:2766–2772.
また、1%ヘキセチジン含有気管チューブがVAP予防に有用であるという報告もある。
Physicochemical characterization of hexetidine-impregnated endotracheal tube poly(vinyl chloride) and resistance to adherence of respiratory bacterial pathogens. Pharm Res 2002;19:818–824.
NASCENT試験は、人工呼吸を24時間以上要すると予測される患者2003人を
対象として、銀コーティング気管チューブと従来の気管チューブの比較を行った
大規模なランダム化試験である。この結果として、銀コーティング気管チューブ群が、
細菌培養で確診されたVAPの発生率が有意に低かった
(37/766[4.6%] vs. 56/743[7.5%]; P=0.003)。
NASCENT試験で得られたデータのコホートアナリシスで、VAP発症例における
死亡率は、銀コーティング気管チューブ群の方が従来の気管キューブ群よりも
有意に低いことが明らかになった。
Silver-coated endotracheal tubes and incidence of ventilator-associated pneumonia: the NASCENT randomized trial. JAMA 2008;300:805–813.
コストパフォーマンスに重きをおいた解析では、銀コーティングチューブの使用は
VAPを予防し入院医療費を削減する可能性があるとされている。
VAPを一例防ぐごとに12840US$がplusになるという計算となった。
Cost-effectiveness analysis of a silvercoated endotracheal tube to reduce the incidence of ventilator-associated pneumonia. Infect Control Hosp Epidemiol 2009;30:759–763.
銀コーティングの気管チューブの使用は推奨してもよいと考える。
●人口鼻および加温・加湿器HMEs or HHs
9つのスタディにおいて1378人を対象としたメタアナリシスがある。
人工鼻の使用によってVAP発生率が低下することがわかった
(RR0.7; 95%CI, 0.50-0.94)。しかし、人工鼻と比べ加温加湿器の方が
VAP発生率が有意に低いことを示した非ランダム化試験は、この9のメタアナリシス
には含まれていない。
Efficacy of heat and moisture exchangers in preventing ventilator-associated pneumonia: meta-analysis of randomized controlled trials. Intensive Care Med 2005;31:5–11.
他のメタ分析では、13のスタディ・2580人を対象としたものがある。
結果として、人工鼻と加温加湿器にはVAP率、ICU死亡率、ICU滞在期間などに
差がみられなかった。ただ、人工鼻は安価であり、コストエフェクティブという観点
からは、加温加湿器に比べると優位に立つかもしれない。推奨には至らない。
Impact of passive humidification on clinical outcomes of mechanically ventilated patients:
a meta-analysis of randomized controlled trials. Crit Care Med 2007;35:2843–2851.

by otowelt
| 2010-11-10 11:59
| 集中治療