梅毒検査

外来で2期梅毒をみたのと、結核患者でRPR陽性(偽陽性)が多いので
少し初心に立ち返って勉強してみた。

●梅毒検査の概要
 T. pallidumは現時点では培養不可能な細菌であり、血清学的な診断に
 頼るしか方法がない。T. pallidumは無数のエピトープをもつ細菌で、
 慢性の経過をとる感染症であるためいまだに治療判定を正確に
 診断できる検査がない。

●STS(Serologic Test for Syphilis)法
脂質抗原をプローブとして用いる抗体検査法。
梅毒検査_e0156318_114855100.jpg
プローブはカルジオリピンであり、本体は動物細胞の
ミトコンドリアに局在するdiphosphatidyl glycerolである。
抗原・抗体反応から、複数の方法が応用されている。
Wasserman反応もその1つである。
Wassermann, A, et al. Eine serodiagnostische reaktion bei syphilis. Dtsch Med Wochenschr 1906; 32:745.
日本では緒方法が有名である。
ガラス板法のVDRL(Veneral Disease Research Laboratory)テスト、
カードテスト法のRPR カードテストなどが知られているが、ラテックス粒子を
抗原被膜し、抗体の架橋で生じる凝集を光学的に測定する分析が普及している。
reaginを検出するため、感染の早期に陽性となる。また、炎症を反映するため
治療効果の判定にも用いられる。
自己抗体であるため。特異度が低く、生物学的偽陽性が多い。
典型的にはSLEで偽陽性となるが、肝疾患、伝染性単核球症、関節リウマチ、
結核、HIV感染などでも起こり得る現象である。
希釈倍量で表示し、2倍、4倍、8倍と倍数で表示されることが多いが、
1.0などという実数表示もある。これは、ラテックス凝集反応が普及してきたためである。
実数でも、倍数の数字と同等の扱いで考える。
陰性であっても抗体価が著明な高値の場合、前地帯現象(prozone phenomenon)
を考える。頻度は約2 %で、第2 期梅毒患者と妊婦に多い。

●TP(Treponema pallidum)抗原法
抗原法と名がついているが、T. pallidum特異抗体を測定する検査方法である。
T. pallidum Nichols 株より作成された抗原を用いる。
赤血球凝集を判定するTPHA 法と、非病原性Reiter株で非特異的な抗体を吸収した後
病原性のあるNichols株と反応させ、間接蛍光抗体法で特異抗体を検出する
FTA-ABS(Fluorescent Treponemal Antibodyabsorption)法がある。
代表的な検査方法です。最近は、ラテックス凝集試薬やウサギ睾丸で培養された
精製T. pallidum天然抗原を用いる試薬、T. pallidumペプチド
レコンビナント抗原を用いる試薬などがある。
梅毒検査_e0156318_1234823.jpg

陽性であれば、梅毒に現在あるいは過去の感染既往があった可能性が高い。
STS法に比べ、感染後に陽性となる時期が遅れる。また、治療後も陽性が続く
ため、治療効果の判定には使えない。

●臨床応用
治療歴がない、RPR・TP抗原法陽性患者は、RPR定量検査を行い
感染後か潜伏期か判別すべきである。
STS(-) TPHA(-):非梅毒、きわめて初期の梅毒、初期梅毒治癒後 
STS(-) TPHA(+):梅毒治癒後の抗体保有、陳旧性梅毒
         歯槽膿漏、伝染性単核症などのTPHA法偽陽性
STS(+) TPHA(-): 初期梅毒、生物学的偽陽性
STS(+) TPHA(+):梅毒(早期~晩期あるいは再感染)、梅毒治癒後の抗体保有、
         梅毒以外のスピロヘータ感染症

・1期梅毒
 下疳(潰瘍のこと)期である。感染初期であるため、血清学的診断が
 役に立たない。疼痛の少ない陰部潰瘍であるが、微生物学的にその部位より
 診断可能である。ほとんどの病院では通常顕微鏡で見ることはできないため
 現実的には診断困難である。FTA-IgM抗体が初期に上昇する。
 RPRよりも早期であるため、RPR陰性・FTA陽性になることがある。

・2期梅毒
 全例STS・TP抗原法が陽性になる。ばら疹が出現する。
 表面にうすい落屑を伴う扁平な紅斑で、四肢に多い。
 RPRタイターが32倍を超えるときは、神経梅毒の合併も考慮。
Syphilis and HIV Infection: An Update. CID 2007; 44:1222-8
梅毒検査_e0156318_9304372.jpg


●治療効果判定
 RPRなどのSTSが有用である。TP抗原は全く役に立たない。
 おおよそ1年程度である程度の効果がみられるため、急性期に何度も治療効果判定を
 するのは意味がないとされている。
by otowelt | 2011-02-21 09:05 | 感染症全般

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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