黒色胸水の鑑別疾患:Aspergillus niger、Rhizopus oryzea、悪性腫瘍、出血、膵胸腔瘻

ふと思い出して復習をしてみたのだが、
黒色胸水の鑑別は以下に挙げた通りだと考えられている。

●黒色胸水(black pleural effusion)の鑑別
・悪性黒色腫(melanoma)の胸腔内播種
  CMAJ MAY 18 2010 182(8)
  AJR Am J Roentgenol 1981;137:293-8.
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・骨髄移植後のzygomycosis感染症(Rhizopus oryzaeが報告)
  Med Mycol 2006;44:75-8.
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・Aspergillus nigerによる胸膜炎
 Am Rev Respira Dis 1984; 129:501-502


CHESTから、黒色胸水の原因として
”膵胸腔瘻pancreaticopleural fistula”を報告している論文があった。

Takashi Koide, et al.
A 54-Year-Old Man With an Uncommon Cause of Left Pleural Effusion
CHEST February 2012 vol. 141 no. 2 560-563


日本の杏林大学からの報告であり、非常に面白い。
膵炎により膵胸腔交通ができ、これにより逸脱酵素が
胸水内にみられるようになる。食道穿孔や悪性腫瘍、急性膵炎で
みられる胸水中アミラーゼよりも症例報告ではかなり高値となっており、
1000IU/Lを超える場合にはかなり有用な所見となる。
胸水中において間接ビリルビンが高く(6.5 mg/dL)、赤血球の存在、
鉄の存在(223 m g/dL)はアミラーゼが豊富な胸水による溶血による
出血を反映しており、これが黒色胸水の原因となったと
Discussionで述べられている。

●クリニカルパール
1. 黒色胸水は感染(Aspergillus niger,Rhizopus oryzea)や、
  悪性腫瘍、あるいは出血によって起こり得る。
2. アルコール乱用患者あるいは慢性膵炎患者において
  通常では説明できない胸水があった場合、貯留側に
  関係なく、膵胸腔瘻を疑うべきである。
3. 膵偽嚢胞の存在は膵胸腔瘻の診断を示唆するものであり
  胸水穿刺において胸水中アミラーゼが1000IU/Lを超える
  場合には確定的である。
4. 膵胸腔胸水の初期症状は胸部に関連したものであり
  腹部症状はあまり高頻度にはみられない。
5. 前方への膵偽嚢胞の破裂は少量腹水を引き起こしうるが
  後方への破裂は大量胸水(典型的には左側)を起こしうる。

by otowelt | 2012-03-14 06:45 | 呼吸器その他

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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