ATSガイドライン:間質性肺疾患におけるBALの臨床的有用性

ATSからのBALのガイドライン。
呼吸器内科医必読と思われる。
推奨項目の中で唯一大文字で「NOT」と書かれている
部分については赤字で記載した。

Keith C. Meyer, et al.
An Official American Thoracic Society Clinical Practice Guideline: The Clinical Utility of Bronchoalveolar Lavage Cellular Analysis in Interstitial Lung Disease
Am J Respir Crit Care Med Vol 185, Iss. 9, pp 1004–1014, May 1, 2012


背景:
 間質性肺疾患のある患者のマネジメントにおけるBALの臨床的有用性は
 ながらく議論され、いまだに結論がついていない。
 ATSは間質性肺疾患が疑われた患者におけるBALのマネジメント
 について推奨を提示する。

目的:
 (1)BALのパフォーマンスとプロセス
 (2)間質性肺疾患が疑われた患者におけるBAL中の細胞パターンと
    他のBALの特徴の解釈
 における推奨を提示すること。

方法:
 間質性肺疾患におけるBALをおこなわれた患者での実利的な
 システマティックレビューをおこなった(1970年~2006年までの文献)。
 ガイドラインをすすめる上で、検索を2011年3月まで継続しておこなった。
 
I.結論:
1.間質性肺疾患があると想定される患者の初期の臨床的・放射線学的な
 検査にひき続いてBAL解析をおこなうことは、HRCT上典型的な
 UIPパターンが観察されない患者においては診断的に有用
 かもしれない。不確かな間質性肺疾患の型についてBALを行うか
 どうかは非常に重要な問題ではあるが、BALは有益な情報の
 尤度が高い。
2.BALにおいて炎症細胞が多数みられる場合(リンパ球、好酸球、
 好中球)、たとえそのパターンが判然としなくても
 間質性肺疾患の鑑別を臨床的にせばめることができるだろう。
3. 正常なBAL所見は、顕微鏡的な異常を否定するものではない。
4. 悪性疾患や一部のまれな間質性肺疾患を除けば、BAL解析のみでは
 間質性肺疾患の診断には不十分である。しかしながら、BALの異常所見が
 臨床・画像所見ともに合致するような場合には特異的な診断に有用である。
5. BAL解析は予後や治療反応性について証明はされていない。

II.推奨:
1. 間質性肺疾患を疑った患者でBALを施行することが可能だと判断
 した場合には、BALを古典的BAL施行部位(中葉など)よりも
 HRCTに基づいて施行部位を決めるよう推奨する。われわれの
 臨床的プラクティスでは、HRCTはBALの6週間以内に行っている。
2. BALを行った間質性肺疾患を疑われた患者では、BALFにおいて
 細胞分画をカウントすべであると推奨する。これは、マクロファージ、
 リンパ球、好中球、好酸球を含む。残ったサンプルは、臨床的に
 妥当であるならば微生物学的、ウイルス学的、悪性腫瘍細胞診に
 用いる。
3.BALを行った間質性肺疾患を疑われた患者で
 リンパ球サブセット解析をルーチンに行うべきではない

III.手法・解析等のサマリー:
1. BALは、軟性気管支鏡で選択した気管支肺セグメントにおいて
 ウェッジして施行する。生理食塩水の注入量は、100mlを
 下回らず300mlを上回らないようにすべきである。3から5回に
 分割して、注入後吸引する手技をおこなう。
 ※回収圧は100mmHg未満が望ましい
2. 遠位のエアスペースの適切なサンプリングをおこなうためには、
 総注入(分割)容量の30%以上である必要がある。それ未満の場合
 細胞分画に誤りが生じるかもしれない、とくに10%未満の場合には
 なおさらである。洗浄セグメントからの液体の多くが滞留しており、
 回収できるのが分割注入量の5%未満のような場合には
 洗浄セグメントでの過度の膨満による組織破壊のリスクや、
 炎症性メディエーターの放出が起こりうるため、処置は中止すべきである。
3. BALの細胞分画のサンプルとして最小量5mlは必要である。
 適切な量は10-20mlである。BAL回収液の全分割を
 ルーチンの解析のために保存するのは妥当である(初回回収も含)。
4. BAL細胞分画におけるリンパ球15%以上、好中球3%以上、
 好酸球1%以上、肥満細胞0.5%以上は、それぞれ
 リンパ球細胞パターン、好中球細胞パターン、好酸球細胞パターン、
 肥満細胞増多を意味する。それぞれの診断的意義については 
 Table1に記載している。
5. 喫煙関連物質を含むマクロファージ優位な所見で
 他の細胞が増加していない、あるいはほとんど増加していない
 場合ではDIPやRBILD、Langerhans細胞組織球症のような
 喫煙関連間質性肺疾患に合致する。

結語:
 BALにおける細胞成分のパターンとその他の特徴は
 間質性肺疾患が疑われる患者に有益な情報を与える。
by otowelt | 2012-05-02 06:39 | びまん性肺疾患

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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