IPFにおけるプレドニゾン、アザチオプリン、N-アセチルシステイン併用は死亡率を増加させる
2012年 05月 22日
呼吸器内科医にとって知名度の高いPANTHER-IPF試験の詳細がNEJMから論文化された。昨年10月にも同様の記事を書いた。
・IPFに対するステロイド・免疫抑制剤・NAC併用は死亡率上昇の可能性?
8人 vs 1人の死亡で早期中断されたため、もしかすると低い確率で薬剤と関連性がなくたまたま併用群の死亡が多かっただけかもしれない。そういった可能性も考えられなくはないが、NEJMに採択されたことはきわめて重い。
The Idiopathic Pulmonary Fibrosis Clinical Research Network
Prednisone, Azathioprine, and N-Acetylcysteine for Pulmonary Fibrosis
N Engl J Med 2012. in press
背景:
プレドニゾン、アザチオプリン、N-アセチルシステイン(NAC)の併用は特発性肺線維症(IPF)の治療にひろく使用されてきた。ステロイドとアザチオプリンあるいはシクロホスファミドの併用については、IPF患者のサブグループにおいて効果があることが示唆されている(Am J Respir Crit Care Med 2000;161:646-64.)。実に半数以上のIPF症例において、特に軽度から中等度の場合2剤併用あるいは3剤併用が使用されているというデータもある(Respir Med 2008;102:1342-8.)。しかしながら、この3薬レジメンの併用における安全性と効果についてはよくわかっていない。
方法:
IPFネットワークを通じて25施設におよぶ臨床試験を実施した。このランダム化二重盲検プラセボ対称試験において、われわれは軽症から中等症の肺機能障害を有するIPF患者を、3群のうち1つに1:1:1に割りつけた。すなわち、プレドニゾン+アザチオプリン+NAC併用療法、NAC単独、プラセボの3群である。
患者は35歳から85歳までのIPF患者でFVC≥50%かつDLCO≥30%である軽症から中等症の患者とした。
プレドニゾンは、0.5mg/kg/日から開始し(理想体重を使用)、0.15mg/kg/日にまで25週かけて漸減した。アザチオプリンは最大用量を150mg/日とし、アロプリノールの併用やTPMT活性についても注意した。NACは600mgを1日3回投与した。
プライマリアウトカムは治療期間60週におけるFVCの変化とした。セカンダリアウトカムは死亡率、死亡までの期間、急性増悪の頻度などとした。
結果:
およそ50%のデータが集まった時点(77人併用群、78人プラセボ群)で、中間解析において併用群がプラセボ群と比較して死亡リスクが有意に高いことが判明し(8 vs. 1, P = 0.01)、入院必要性についても有意に多かった(23 vs. 7, P<0.001)。両群ともにベースラインの特徴は同等であり、ランダム化割り付け手法についても問題はなかった。
併用群における8人の死亡のうち、7人が呼吸器系による死亡、1人が非呼吸器系による死亡と判断された。プラセボ群における1人の死亡は、呼吸器系による死亡であった。

上記をふまえた結果により、data and safety monitoring boardは、併用群においてエビデンスが得られないと判断し、中央フォローアップ期間32週において併用治療を終了するよう推奨した。NHLBIはこれを受諾し、2011年10月14日試験終了となった。
プライマリアウトカムについては解析できなかったが、フォロー期間におけるFVCの差については解析できた。しかしながら、これについて併用群とプラセボ群に差はみられなかった(–0.24 liters vs. –0.23liters, P=0.85)。
なお、継続してすすめられているNAC単独群とプラセボ群は本論文においては評価していない。
結論:
IPFに対してプレドニゾン、アザチオプリン、NACの併用は、プラセボと比較して死亡と入院必要性が増加した。これらの知見は、IPF患者に対して併用療法をおこなうべきでないとのエビデンスを示唆するものである。
ディスカッション:
本試験におけるIPFの併用群における死亡については、IFIGENIA試験の9%と同等の比率である。このIFIGENIA試験が唯一3剤併用ランダム化試験の妥当性のあるデータである(N Engl J Med 2005;353:2229-42.)。またプラセボ群における死亡も、過去に報告されたデータと大きく相違はない。数々の試験において死亡率の差がみられていることを考慮すると、IPF患者に対するスタディそのものについて、しかるべき注意を払う必要がある。
この試験におけるlimitationとして、早期中断のためFVCやセカンダリアウトカムの多くの解析ができなかったこと、死亡が増加した原因がはっきりしないことが挙げられる。
・IPFに対するステロイド・免疫抑制剤・NAC併用は死亡率上昇の可能性?
8人 vs 1人の死亡で早期中断されたため、もしかすると低い確率で薬剤と関連性がなくたまたま併用群の死亡が多かっただけかもしれない。そういった可能性も考えられなくはないが、NEJMに採択されたことはきわめて重い。
The Idiopathic Pulmonary Fibrosis Clinical Research Network
Prednisone, Azathioprine, and N-Acetylcysteine for Pulmonary Fibrosis
N Engl J Med 2012. in press
背景:
プレドニゾン、アザチオプリン、N-アセチルシステイン(NAC)の併用は特発性肺線維症(IPF)の治療にひろく使用されてきた。ステロイドとアザチオプリンあるいはシクロホスファミドの併用については、IPF患者のサブグループにおいて効果があることが示唆されている(Am J Respir Crit Care Med 2000;161:646-64.)。実に半数以上のIPF症例において、特に軽度から中等度の場合2剤併用あるいは3剤併用が使用されているというデータもある(Respir Med 2008;102:1342-8.)。しかしながら、この3薬レジメンの併用における安全性と効果についてはよくわかっていない。
方法:
IPFネットワークを通じて25施設におよぶ臨床試験を実施した。このランダム化二重盲検プラセボ対称試験において、われわれは軽症から中等症の肺機能障害を有するIPF患者を、3群のうち1つに1:1:1に割りつけた。すなわち、プレドニゾン+アザチオプリン+NAC併用療法、NAC単独、プラセボの3群である。
患者は35歳から85歳までのIPF患者でFVC≥50%かつDLCO≥30%である軽症から中等症の患者とした。
プレドニゾンは、0.5mg/kg/日から開始し(理想体重を使用)、0.15mg/kg/日にまで25週かけて漸減した。アザチオプリンは最大用量を150mg/日とし、アロプリノールの併用やTPMT活性についても注意した。NACは600mgを1日3回投与した。
プライマリアウトカムは治療期間60週におけるFVCの変化とした。セカンダリアウトカムは死亡率、死亡までの期間、急性増悪の頻度などとした。
結果:
およそ50%のデータが集まった時点(77人併用群、78人プラセボ群)で、中間解析において併用群がプラセボ群と比較して死亡リスクが有意に高いことが判明し(8 vs. 1, P = 0.01)、入院必要性についても有意に多かった(23 vs. 7, P<0.001)。両群ともにベースラインの特徴は同等であり、ランダム化割り付け手法についても問題はなかった。
併用群における8人の死亡のうち、7人が呼吸器系による死亡、1人が非呼吸器系による死亡と判断された。プラセボ群における1人の死亡は、呼吸器系による死亡であった。

上記をふまえた結果により、data and safety monitoring boardは、併用群においてエビデンスが得られないと判断し、中央フォローアップ期間32週において併用治療を終了するよう推奨した。NHLBIはこれを受諾し、2011年10月14日試験終了となった。
プライマリアウトカムについては解析できなかったが、フォロー期間におけるFVCの差については解析できた。しかしながら、これについて併用群とプラセボ群に差はみられなかった(–0.24 liters vs. –0.23liters, P=0.85)。
なお、継続してすすめられているNAC単独群とプラセボ群は本論文においては評価していない。
結論:
IPFに対してプレドニゾン、アザチオプリン、NACの併用は、プラセボと比較して死亡と入院必要性が増加した。これらの知見は、IPF患者に対して併用療法をおこなうべきでないとのエビデンスを示唆するものである。
ディスカッション:
本試験におけるIPFの併用群における死亡については、IFIGENIA試験の9%と同等の比率である。このIFIGENIA試験が唯一3剤併用ランダム化試験の妥当性のあるデータである(N Engl J Med 2005;353:2229-42.)。またプラセボ群における死亡も、過去に報告されたデータと大きく相違はない。数々の試験において死亡率の差がみられていることを考慮すると、IPF患者に対するスタディそのものについて、しかるべき注意を払う必要がある。
この試験におけるlimitationとして、早期中断のためFVCやセカンダリアウトカムの多くの解析ができなかったこと、死亡が増加した原因がはっきりしないことが挙げられる。
by otowelt
| 2012-05-22 09:43
| びまん性肺疾患