進行認知症患者に対する胃瘻は利益がないだけでなく褥瘡リスクを高める
2012年 05月 28日
胃瘻を作る理由に自信を持って答えられない状況ならば、私は「とりあえず」という理由で患者さんに胃瘻をすすめることはない。逆に、明確な理由があれば胃瘻は作ってもよいと思う。
胃瘻を作るのは簡単かもしれないが、それは患者さんや家族の人生にとって極めて重い決断であることを医療従事者は認識すべきである。
Joan M. Teno, et al.
Feeding Tubes and the Prevention or Healing of Pressure Ulcers
Arch Intern Med. 2012;172(9):697-701
背景:
進行性の認知症患者に対して、経管栄養によって褥瘡を改善できるかどうかのエビデンスは乏しい。percutaneous endoscopic gastrostomy (PEG)が介護施設に入院している進行認知機能障害advanced cognitive impairment (ACI)患者の褥瘡の予防や治癒に効果があるのかどうか、国内のデータを用いて評価をおこなった。
方法:
進行認知症患者を対象に、介護施設ケアのアセスメントツールであるMinimum Data Set(MDS)データとメディケア受給者の請求情報を利用し、胃瘻による経管栄養の褥瘡管理における利益とリスクを評価した。
入院して胃瘻栄養療法を受けた患者と、入院したが胃瘻チューブを挿入しなかった患者の褥瘡の状態を比較。施設入所者は、MDS認知機能のレベルCognitive Performance Scale 6(最重症)になった段階で当該コホートに組み入れ、その後1年以内に1回以上入院した患者18021人を分析の対象にした。胃瘻チューブの挿入を受けた患者1人あたり、コントロールとしてpropensity-scoreがマッチする胃瘻チューブ未挿入患者を3人まで選択した。propensity-scoreはロジスティック回帰モデルを用いて計算した。
アウトカムは、褥瘡がなかった患者にstage 2以上の褥瘡が現れることと、褥瘡のある患者の褥瘡の改善とした。
結果:
Cognitive Performance Scale 6に到達した進行認知症患者でこのスタディに組み込まれた患者は、合計18021人であった。そのうち入院時に褥瘡がなく、胃瘻チューブを挿入された患者は1124人(6.2%)であった。コントロール(非褥瘡非胃瘻患者)は2082人選ばれた。両群のベースラインの健康状態やリスク因子に差はなかった。また、30日死亡率にも差はなかった。初回MDS評価の時点でstage 2以上の新規褥瘡の割合は、胃瘻挿入群35.6%、非挿入群19.8%で、挿入群のORは2.27(95%CI1.95-2.65)だった。stage 4の褥瘡の発生については、OR 3.21(95% CI 2.14-4.89)で有意差がみられた。
入院時に褥瘡があった上に、胃瘻を挿入された患者は461人(2.6%)で、コントロール群として754人が選ばれた。両群のベースライン患者特性には有意差はなかった。初回MDS評価時に、既存の褥瘡に改善があった患者の割合は、挿入群27.1%、非挿入群34.6%で、挿入群の褥瘡改善のORは0.70(95% CI, 0.55-0.89)であった。
結論:
胃瘻チューブ挿入による栄養療法は、進行認知症患者の褥瘡リスクを高める可能性がある。
胃瘻を作るのは簡単かもしれないが、それは患者さんや家族の人生にとって極めて重い決断であることを医療従事者は認識すべきである。
Joan M. Teno, et al.
Feeding Tubes and the Prevention or Healing of Pressure Ulcers
Arch Intern Med. 2012;172(9):697-701
背景:
進行性の認知症患者に対して、経管栄養によって褥瘡を改善できるかどうかのエビデンスは乏しい。percutaneous endoscopic gastrostomy (PEG)が介護施設に入院している進行認知機能障害advanced cognitive impairment (ACI)患者の褥瘡の予防や治癒に効果があるのかどうか、国内のデータを用いて評価をおこなった。
方法:
進行認知症患者を対象に、介護施設ケアのアセスメントツールであるMinimum Data Set(MDS)データとメディケア受給者の請求情報を利用し、胃瘻による経管栄養の褥瘡管理における利益とリスクを評価した。
入院して胃瘻栄養療法を受けた患者と、入院したが胃瘻チューブを挿入しなかった患者の褥瘡の状態を比較。施設入所者は、MDS認知機能のレベルCognitive Performance Scale 6(最重症)になった段階で当該コホートに組み入れ、その後1年以内に1回以上入院した患者18021人を分析の対象にした。胃瘻チューブの挿入を受けた患者1人あたり、コントロールとしてpropensity-scoreがマッチする胃瘻チューブ未挿入患者を3人まで選択した。propensity-scoreはロジスティック回帰モデルを用いて計算した。
アウトカムは、褥瘡がなかった患者にstage 2以上の褥瘡が現れることと、褥瘡のある患者の褥瘡の改善とした。
結果:
Cognitive Performance Scale 6に到達した進行認知症患者でこのスタディに組み込まれた患者は、合計18021人であった。そのうち入院時に褥瘡がなく、胃瘻チューブを挿入された患者は1124人(6.2%)であった。コントロール(非褥瘡非胃瘻患者)は2082人選ばれた。両群のベースラインの健康状態やリスク因子に差はなかった。また、30日死亡率にも差はなかった。初回MDS評価の時点でstage 2以上の新規褥瘡の割合は、胃瘻挿入群35.6%、非挿入群19.8%で、挿入群のORは2.27(95%CI1.95-2.65)だった。stage 4の褥瘡の発生については、OR 3.21(95% CI 2.14-4.89)で有意差がみられた。
入院時に褥瘡があった上に、胃瘻を挿入された患者は461人(2.6%)で、コントロール群として754人が選ばれた。両群のベースライン患者特性には有意差はなかった。初回MDS評価時に、既存の褥瘡に改善があった患者の割合は、挿入群27.1%、非挿入群34.6%で、挿入群の褥瘡改善のORは0.70(95% CI, 0.55-0.89)であった。
結論:
胃瘻チューブ挿入による栄養療法は、進行認知症患者の褥瘡リスクを高める可能性がある。
by otowelt
| 2012-05-28 17:41
| 内科一般