ERS2012:肥満は肺炎の死亡率を低下させる一因かもしれない

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肥満は肺炎の死亡率を減らすのではないかという報告が市中肺炎と院内肺炎の二つの演題であった。
しかし、これは出版バイアスの多そうな分野だなぁ・・・。参考程度にとどめておいた方がよいかもしれない。

A. Singanayagam,et al.
Obesity is associated with improved outcome in community-acquired pneumonia
ERS 2012 Oral Presentation


目的:
 BMIと市中肺炎の関連を調べる。

方法:
 プロスペクティブに市中肺炎の診断で来院した連続患者を2005年1月から2009年12月までの間登録した。BMIが入院時に測定され、2群にわけられた。すなわち、BMI30以上の肥満群と、それ以外の非肥満群である。30日死亡率、人工呼吸器あるいは血管作動薬サポートが必要となるかどうかをアウトカムとした。疾患重症度(CURB65)、糖尿病既往、COPD既往、スタチン使用既往で補正し、多変量ロジスティック回帰によって肥満および非肥満患者で検証された。

結果:
 1079人の患者が登録され、21%が肥満であった。平均年齢は62.5歳であった。肥満群と非肥満群の間で、入院時の重症度に差はみられなかった(mean CRB65 score 1.44 vs 1.39)。また、人工呼吸器や血管作動薬の必要性も差はみられなかった。これにもかかわらず、肥満患者は非肥満患者と比較して30日死亡率が低い傾向にあった(6.7% vs 10.3%, p=0.3)。上記の補正因子によって多変量解析をおこなったところ、肥満は有意に30日死亡率を下げた(OR= 0.54, 95% CI 0.30-0.97, p=0.04)。

結論:
 われわれのプロスペクティブ試験では、肥満は市中肺炎の死亡の保護的役割があるものと思われる。このメカニズムはよくわかっていない。

S. Kahlon, et al.
Obesity and outcomes in patients hospitalized for pneumonia
ERS 2012 Oral Presentation


方法:
 連続したカナダ・エドモントンの6病院の成人入院患者の2年間のプロスペクティブデータを抽出した。
 907人の患者でBMIを測定した。患者はBMI18.5未満の過少体重、18.5-25の正常域、25-30の過体重、30を上回る肥満に分類した。

結果:
 65%が65歳より高齢であり、52%が女性、15%が最近の体重減少があった。84人(9%)が過少体重、358人(39%)が正常、228人(25%)が過体重、237人(26%)が肥満であった。3分の2が重症肺炎であり(63% PSI Class IV/V)、79人(9%)が死亡した。院内死亡率は、過少体重においてもっとも多かった (12 [14%]) vs normal (36 [10%]) vs overweight (21 [9%]) vs obese (10 [4%], p<0.001 for trend)。正常体重と比較して、肥満は院内死亡率が低かった(4% vs 10%, 非補正OR 0.39, 95%CI 0.19-0.81)。
 年齢、性別、合併症、臨床的放射線学的な肺炎重症度による補正をおこなった多変量解析においても、この差は有意であった(adjusted OR 0.44, 95%CI 0.21-0.94, p=0.035)。しかしながら、正常体重と比較して、過少体重あるいは過体重は死亡率に統計学的な差はみられなかった。

結論:
 肥満は短期的な院内肺炎の死亡率の低さと関連していた。
by otowelt | 2012-09-02 20:18 | 感染症全般

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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