Hoover徴候の提唱者:Charles Franklin Hoover
2012年 11月 28日
Hoover徴候は、呼吸器科医にとってCOPDの身体所見で最も有名なものの1つです。
Hoover CF. The diagnostic significance of inspiratory movements of the rib costal margins. Am J Med Sci 1920; 159:633-646.
吸気時に肋間が陥凹し、呼気時にそれが解除されるという徴候です。COPDだけでなく、閉塞性肺疾患全般に起こりうる徴候です。

Johnston CR 3rd, et al. The Hoover's Sign of Pulmonary Disease: Molecular Basis and Clinical Relevance. Clin Mol Allergy. 2008 Sep 5;6:8. より引用
実は神経内科領域にも別のHoover徴候があります。器質性片麻痺の検出法の一つで、足を上げようとするときに逆側の踵に力が入るか入らないかで本当の片麻痺かどうか判別する方法です。ものすごく単純は発想なのですが、ひらめきがすごいなぁと思います。
Hoover CF. A new sign for the detection of malingering and functional paresis of the lower extremities. Journal of the American Medical Association 1908;5:746–7.
この2つのHoover徴候、いずれもCharles Franklin Hooverによって報告されたものです。なぜ同じ名前がついてしまったのか定かではありません。
Charles Franklin Hooverは、オハイオ州マイアミズバーグに1865年に生まれました。彼はハーバード大学で医学を学ぶ前は、キリスト教メソジスト牧師だったと言われています。1892年ハーバード大学を卒業し、1894年までの2年間、ドイツで数々の高名な医師に師事をしました。1894年に再びアメリカに戻った彼は、オハイオ州のクリーブランド市立病院などで内科医・医学講師として働きました。その後、ケース・ウェスタン・リザーブ大学の教授となりました。1908年と1920年に呼吸器内科、神経内科領域の別々の分野で身体所見を発表しました。それらの身体所見は、今ではいずれもHoover徴候として名を残しています。
呼吸器内科領域におけるHoover徴候は、García Pachónらによれば、82人のCOPD患者で検証したところ感度76%という結果でした。
García Pachón E, et al. Paradoxical costal shift throughout inspiration (Hoover's sign) in patients admitted because of dyspnea. Rev Clin Esp. 2005 Mar;205(3):113-5.
172人のCOPD患者さんの身体所見を調べた報告では、気道閉塞性疾患(一秒率70%未満)の診断に対してHoover徴候は呼吸器科医で感度58%・特異度86%・陽性尤度比4.16・陰性尤度比0.49という報告があります。でした。レジデントとの観察者間の一致ではκ値0.74と比較的高い所見でした。ちなみにレジデントの場合、感度55%・特異度76%・陽性尤度比5.37・陰性尤度比0.50でした。
García Pachón E. Paradoxical movement of the lateral rib margin (Hoover sign) for detecting obstructive airway disease. Chest. 2002 Aug;122(2):651-5.より引用
また157人のCOPD患者で検証したところ、重度のCOPDであればあるほどHoover徴候がみられやすいという結果でした。ただ、多変量解析では痩せそのものも独立因子として挙がってますので、るいそうによる偽陽性は十分ありうる身体所見であることを知っておく必要があります。
García Pachón E, et al. Frequency of Hoover's sign in stable patients with chronic obstructive pulmonary disease. Int J Clin Pract. 2006 May;60(5):514-7.
驚くことに今ご紹介した論文3つが同じ著者のものでした。とてもHoover徴候に造詣が深い方なのだとお見受け致します。
<偉人たち>
・Ziehl-Neelsen染色の考案者2:Friedrich Carl Adolf Neelsen
・Ziehl-Neelsen染色の考案者1:Franz Ziehl
・Boerhaave症候群の提唱者:Herman Boerhaave
・Pancoast腫瘍の提唱者:Henry Pancoast
・Clara細胞の発見者:Max Clara
・サコマノ法の考案者:Geno Saccomanno
・Mendelson症候群の提唱者:Curtis Lester Mendelson
・Hoover徴候の提唱者:Charles Franklin Hoover
・Gram染色の発見者:Hans Christian Joachim Gram
・Biot呼吸の提唱者:Camille Biot
<音楽と医学>
・プロコフィエフの死因は脳出血
・ガーシュウィンは多形膠芽腫だった?
・バッハの失明の原因は医療ミス?
・チャイコフスキーの死因はコレラか自殺か?
・モーツァルトの死因は毒殺だったのか?
・ラフマニノフはMarfan症候群ではなかったのかもしれない
・ショパンの死因は結核ではなかったかもしれない
・ベートーヴェンの難聴と肝硬変の原因はワインの飲みすぎによる鉛中毒
Hoover CF. The diagnostic significance of inspiratory movements of the rib costal margins. Am J Med Sci 1920; 159:633-646.
吸気時に肋間が陥凹し、呼気時にそれが解除されるという徴候です。COPDだけでなく、閉塞性肺疾患全般に起こりうる徴候です。

実は神経内科領域にも別のHoover徴候があります。器質性片麻痺の検出法の一つで、足を上げようとするときに逆側の踵に力が入るか入らないかで本当の片麻痺かどうか判別する方法です。ものすごく単純は発想なのですが、ひらめきがすごいなぁと思います。
Hoover CF. A new sign for the detection of malingering and functional paresis of the lower extremities. Journal of the American Medical Association 1908;5:746–7.
この2つのHoover徴候、いずれもCharles Franklin Hooverによって報告されたものです。なぜ同じ名前がついてしまったのか定かではありません。
Charles Franklin Hooverは、オハイオ州マイアミズバーグに1865年に生まれました。彼はハーバード大学で医学を学ぶ前は、キリスト教メソジスト牧師だったと言われています。1892年ハーバード大学を卒業し、1894年までの2年間、ドイツで数々の高名な医師に師事をしました。1894年に再びアメリカに戻った彼は、オハイオ州のクリーブランド市立病院などで内科医・医学講師として働きました。その後、ケース・ウェスタン・リザーブ大学の教授となりました。1908年と1920年に呼吸器内科、神経内科領域の別々の分野で身体所見を発表しました。それらの身体所見は、今ではいずれもHoover徴候として名を残しています。
呼吸器内科領域におけるHoover徴候は、García Pachónらによれば、82人のCOPD患者で検証したところ感度76%という結果でした。
García Pachón E, et al. Paradoxical costal shift throughout inspiration (Hoover's sign) in patients admitted because of dyspnea. Rev Clin Esp. 2005 Mar;205(3):113-5.
172人のCOPD患者さんの身体所見を調べた報告では、気道閉塞性疾患(一秒率70%未満)の診断に対してHoover徴候は呼吸器科医で感度58%・特異度86%・陽性尤度比4.16・陰性尤度比0.49という報告があります。でした。レジデントとの観察者間の一致ではκ値0.74と比較的高い所見でした。ちなみにレジデントの場合、感度55%・特異度76%・陽性尤度比5.37・陰性尤度比0.50でした。

また157人のCOPD患者で検証したところ、重度のCOPDであればあるほどHoover徴候がみられやすいという結果でした。ただ、多変量解析では痩せそのものも独立因子として挙がってますので、るいそうによる偽陽性は十分ありうる身体所見であることを知っておく必要があります。
García Pachón E, et al. Frequency of Hoover's sign in stable patients with chronic obstructive pulmonary disease. Int J Clin Pract. 2006 May;60(5):514-7.
驚くことに今ご紹介した論文3つが同じ著者のものでした。とてもHoover徴候に造詣が深い方なのだとお見受け致します。
<偉人たち>
・Ziehl-Neelsen染色の考案者2:Friedrich Carl Adolf Neelsen
・Ziehl-Neelsen染色の考案者1:Franz Ziehl
・Boerhaave症候群の提唱者:Herman Boerhaave
・Pancoast腫瘍の提唱者:Henry Pancoast
・Clara細胞の発見者:Max Clara
・サコマノ法の考案者:Geno Saccomanno
・Mendelson症候群の提唱者:Curtis Lester Mendelson
・Hoover徴候の提唱者:Charles Franklin Hoover
・Gram染色の発見者:Hans Christian Joachim Gram
・Biot呼吸の提唱者:Camille Biot
<音楽と医学>
・プロコフィエフの死因は脳出血
・ガーシュウィンは多形膠芽腫だった?
・バッハの失明の原因は医療ミス?
・チャイコフスキーの死因はコレラか自殺か?
・モーツァルトの死因は毒殺だったのか?
・ラフマニノフはMarfan症候群ではなかったのかもしれない
・ショパンの死因は結核ではなかったかもしれない
・ベートーヴェンの難聴と肝硬変の原因はワインの飲みすぎによる鉛中毒
by otowelt
| 2012-11-28 06:13
| コラム:医学と偉人