Surviving Sepsis Campaign 2012 :日本語訳
2013年 01月 27日
"Surviving Sepsis Campaign 2012" (SSC 2012)を日本語に訳してみました。間違いなどがあったら申し訳ありません。乳酸値の測定、昇圧剤、HESなどの近年の知見が反映された内容に変わっていますね。
Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Severe Sepsis and Septic Shock: 2012
A.初期蘇生
1.低血圧や乳酸値>4mmol/L(36mg/dl)の患者ではすみやかに蘇生を開始する。6時間以内に以下の達成を目指す(grade 1C)。
・中心静脈圧(CVP)8~12mmHg
・平均動脈圧(MAP)≧65mmHg
・尿量≧0.5ml/kg/hr
・中心静脈(上大静脈)酸素飽和度≧70%あるいは混合静脈血酸素飽和度≧65%
2.乳酸値が上昇している患者では正常乳酸値へ戻すよう蘇生をはかる(grade 2C)。
B.敗血症スクリーニングとパフォーマンスの改善
1.早期治療の実現のために、潜在的に重症敗血症の可能性がある患者はルーチンでスクリーニングを行う (grade 1C)。
2.重症敗血症では病院ごとのパフォーマンスの改善の努力が必要である(UG)。
C.診断
1.抗菌薬の開始が45分を超えるといった有意な遅れがなければ、抗菌薬投与前の培養検体採取は臨床的に適切である(grade 1C)。少なくとも血液培養を2セット以上(好気ボトルと嫌気ボトルの両方)採取する。少なくとも1セットは経皮的に、もう1セットは挿入後48時間未満であれば血管内カテーテルから採取してもよい(grade 1C)。
2.感染症の原因として侵襲性カンジダ症を考慮する場合は、1,3 β-Dグルカン (grade 2B)、マンナン抗原および抗マンナン抗体(grade 2C)を測定してもよい。
3.潜在的な感染源の検索のため画像検査を迅速に行うべきである(UG)。
D.抗菌薬治療
1. 敗血症性ショック (grade 1B) 、重症敗血症 (grade 1C) と認識した場合、最初の1時間で有効な抗菌薬を経静脈的に投与すべきである。
2a.初期治療には、原因と考えられる細菌/真菌/ウイルスに対して有効であり、敗血症の感染原因と推定される組織へ十分に移行する感染症治療薬を1つ以上選択する (grade 1B)。
2b.治療薬のレジメンは毎日de-escalationが可能か評価すべきである(grade 1B)。
3. 初期に敗血症と判断したものの後に感染の根拠が乏しいと判断したときは、プロカルシトニンや同様のバイオマーカーが低値であることをエンピリック治療を中止するために使用してよい(grade 2C)。
4a. 好中球が減少している患者の重症敗血症(grade 2B)、AcinetobacterやPseudomonas spp.といった難治性多剤耐性菌による感染症(grade 2B)の場合には、抗菌薬を併用したエンピリック治療を行うべきである。呼吸不全や敗血症性ショックを伴う重症感染症の場合、P. aeruginosa菌血症をカバーするため広域のβラクタムにアミノグリコシドまたはフルオロキノロンを併用すべきである(grade 2B)。Streptococcus pneumoniaeの菌血症を伴う敗血症性ショックの場合、βラクタムとマクロライドを併用すべきである(grade 2B)。
4b.エンピリックな抗菌薬の併用療法は3~5日を超えて使用すべきではない。菌の感受性が判明すれば、最適な抗菌薬の単剤治療にde-escalationすべきである(grade 2B)。
5.抗菌薬の治療期間は典型的には7〜10日である。治療の反応が遅い患者、ドレナージできない感染巣がある患者、S. aureusによる菌血症の患者、真菌感染やウイルス感染、好中球減少症を含む免疫抑制のある患者ではより長期間の治療が必要になるかもしれない(grade 2C)。
6.重症敗血症または敗血症性ショックの原因がウイルスの場合、できるだけすみやかに抗ウイルス薬を開始する(grade 2C)。
7.重篤な炎症の状態にある患者でも感染症が原因ではないと判断した場合は抗菌薬は使用すべきではない (UG)。
E.感染源のコントロール
1.緊急的な感染源のコントロールが必要な解剖特異的な感染源の検索、その診断および除外をすみやかに行い、可能ならば診断後12時間以内に感染源のコントロールを行う (grade 1C)。
2.感染性膵臓周囲壊死が感染源である可能性がある場合、感染組織と非感染組織の境界がはっきりするまで待って外科的な介入をおこなう(grade 2B)。
3.感染源のコントロールが必要な重症敗血症患者では、最も侵襲が少ない処置で最も効果的なものを選択すべきである(膿瘍に対しては外科的ドレナージよりも経皮的ドレナージ、など) (UG)。
4. 血管内カテーテルが重症敗血症や敗血症性ショックの感染源になっている可能性がある場合、他の血管内カテーテルを確保できた段階ですみやかに抜去すべきである(UG)。
F.感染予防
1a.人工呼吸器関連肺炎(VAP)を減らすためにSOD(Selective oral decontamination)とSDD(Selective digestive decontamination)を行うべきである;これらの予防策は当該方法が有効と考えられる医療施設や地域で行ってよい(grade 2B)。
1b.口腔咽頭の除菌のために口腔内グルコン酸クロルヘキシジンの塗布は、ICUの重症敗血症患者のVAPのリスクを減らすことができる (grade 2B)。
G.重症敗血症の輸液療法
1.重症敗血症や敗血症性ショックの患者の初期蘇生には晶質液を用いるべきである (grade 1B)。
2.重症敗血症や敗血症性ショックの患者の蘇生にhydroxyethyl starches(HES)を用いるべきではない(grade 1B)。
3.蘇生に晶質液を大量に必要とする重症敗血症や敗血症性ショックの患者に対してはアルブミンの点滴を行う(grade2C)。
4.敗血症による組織低灌流と血管内容量減少のある患者の初期輸液は、晶質液を最低でも30ml/kg以上投与すべきである(一部、相当量アルブミンで代替可能)。患者によってはより早い速度でより大量の輸液が必要となる(grade 1C)。
5.初期輸液を動的指標(脈圧やstroke volume variation[SVV]変化)や静的指標(動脈圧、心拍数)において血行動態の改善が得られるまで継続する輸液チャレンジテクニックを適応してよい(UG)。
H.昇圧剤
1.昇圧剤は、平均動脈圧(MAP)65mmHgを目標に投与する(grade 1C)。
2.昇圧剤の選択はノルアドレナリン(ノルエピネフリン)が第一選択である(grade 1B)。
3.十分な血圧が保てない場合は(ノルアドレナリンに追加、もしくは潜在的代替薬として)アドレナリンを用いる(grade 2B)。
4.MAPの上昇やノルアドレナリンの減量の目的で、ノルアドレナリンにバソプレシン0.03単位/分を加えて投与してもよい(UG)。
5.敗血症による血圧低下に対して初期に選択する昇圧剤として低用量バソプレシンは推奨されない。0.03-0.04単位/分以上のバソプレシンは(他の昇圧剤でMAPの達成が得られない場合などの)サルベージ治療として温存する(UG)。
6.ノルアドレナリンの代替薬としてドパミンを用いるのは(頻脈性不整脈や絶対的/相対的徐脈のリスクが低い患者など)極めて限られた患者に対してである (grade 2C)。
7. フェニレフリンは敗血症性ショックにおいて以下の場合以外には推奨されない。(a)ノルアドレナリンによる重症不整脈がある場合、(b)心拍出量は高いのに血圧が低い場合、(c)強心剤/昇圧剤を併用したり低用量バソプレシンを投与してもMAPが目標値を達成できない場合(grade 1C)。
8.低用量ドパミンを腎保護作用目的で使用すべきではない (grade 1A)。
9.昇圧剤を必要とする患者には可能であればすみやかに動脈カテーテルを挿入すべきである(UG)。
I.強心薬
1.以下の場合、昇圧剤に加えてドブタミンを20μg/kg/分で投与してよい。(a)心充満圧が上昇しているが心拍出量が低いなど心筋機能障害が示唆される場合、(b)十分な血管内容量と適切なMAPであるのに組織低灌流が持続している徴候がある場合(grade 1C)。
2.規定された正常を超える心係数にするために強心剤を使用すべきではない(grade 1B)。
J.コルチコステロイド
1.適切な輸液と昇圧剤によって血行動態が安定した成人の敗血症性ショック患者ではヒドロコルチゾンを静脈内投与すべきではない(「初期蘇生」の項目を参照)。逆に血行動態が安定しない場合には、ヒドロコルチゾン200mg/日の静脈内投与を推奨する (grade 2C)。
2.成人の敗血症性ショック患者にヒドロコルチゾンを投与すべきかどうか判断するためにACTH負荷試験を行うべきではない(grade 2B)。
3.昇圧剤が不要となればヒドロコルチゾンは減量すべきである(grade 2D)。
4.ショックではない敗血症の治療のためにステロイドを投与すべきではない(grade 1D)。
5.ヒドロコルチゾンの投与を行う場合、持続投与で行う(grade 2D)。
K.血液製剤の投与
1.組織低灌流が改善し心筋虚血や重度の低酸素、急性出血、虚血性心疾患などがなければ、赤血球輸血はヘモグロビン7.0g/dL未満にのみ行い、ヘモグロビンは7.0-9.0g/dLを目標値とする(grade 1B)。
2.重症敗血症に関連した貧血の特異的治療としてエリスロポエチンを使用すべきではない(grade 1B)。
3.出血や侵襲的な処置の予定がなければ、凝固異常補正を目的とした新鮮凍結血漿の投与は行うべきでない (grade 2D)。
4.重症敗血症や敗血症性ショックの患者の治療にアンチトロンビン製剤を使用すべきではない(grade 1B)。
5.重症敗血症の患者では、明らかな出血がない患者では血小板10,000/mm3未満の場合に血小板輸血をおこなう。出血のリスクがある患者では血小板20,000/mm3未満で血小板輸血を推奨する。活動性出血のある患者、外科的処置や侵襲的処置を行う患者では血小板数が50,000/mm3以上あることが望ましい(grade 2D)。
L.免疫グロブリン
1. 重症敗血症や敗血症性ショックの患者の治療に免疫グロブリンの静脈内投与を行うべきではない(grade 2B)。
M.セレン
1. 重症敗血症の治療にセレンの静脈内投与は推奨されない (grade 2C)。
N.遺伝子組換え活性化プロテインC(rhAPC)に関する推奨の歴史
rhAPC(もはや推奨されない)を推奨してきた歴史を提示する。
O.敗血症に伴う成人呼吸促迫症候群(ARDS)の人工呼吸管理
1.敗血症に伴うARDS患者では人工呼吸の1回換気量を6mg/kg(予測体重)に設定すべきである (grade 1A vs. 12 mL/kg)。
2.ARDS患者ではプラトー圧を測定し、初期の上限は受動的肺拡張時には30cmH2O以下とすべきである (grade 1B)。
3.呼気終末時の肺胞虚脱(atelectotrauma)を防ぐため、PEEPを適用すべきである(grade 1B)。
4.敗血症に伴う中等度~重症ARDSでは、低PEEPよりも高PEEPにすべきである (grade 2C)。
5.重症難治性低酸素血症の敗血症患者ではリクルートメント手技を行うべきである (grade 2C)。
6.敗血症に伴うARDSでP/F比が100mmHg以下の患者では、経験の豊富な施設であれば腹臥位療法を行ってもよい(grade 2B)。
7.人工呼吸管理中の敗血症患者では、誤嚥のリスクを減らしVAPの発症を防ぐため頭部を30~45度挙上すべきである (grade 1B)。
8. 敗血症に伴うARDSでは、非侵襲的マスク換気(NIV)の使用による有益性が考慮される場合およびリスクよりも上回る場合には使用してよい(grade 2B)。
9.人工呼吸管理中の重症敗血症にはウィーニングのプロトコルを適用し、以下の基準を満たしたときに人工呼吸を離脱できるかどうか定期的にSBT(spontaneous breathing trials)で評価を行う。
a)覚醒できる
b)血行動態的に安定している(昇圧剤を使用していない)
c)新規の重症になりうる合併症がない
d)PEEPの設定が低い
e)マスクや鼻カニューラによる酸素投与でも問題ないくらいにFiO2が低い
もし、SBTが成功すれば抜管を考慮すべきである(grade 1A)。
10.敗血症に伴うARDSにルーチンで肺動脈カテーテルを使用すべきではない(grade 1A)。
11.組織低灌流がない敗血症に伴うARDSでは輸液はおさえるべきである(grade 1C)。
12.気管支痙攣のような特異的な適応がなければ、敗血症に伴うARDSではβ2刺激薬を治療として用いるべきではない(grade 1B)。
P.敗血症の鎮静、鎮痛、筋弛緩
1.患者のエンドポイントを明確にするため、持続あるいは間欠的であろうと鎮静は人工呼吸管理中の敗血症患者では最小限にすべきである(grade 1B)。
2.神経筋遮断薬は中止後にもその神経筋遮断作用が遷延するため、敗血症に伴うARDSに対する投与はできれば避ける。神経筋遮断薬を使用する場合、必要時に間欠的に投与するか、持続投与する場合は遮断効果の評価のために四連刺激(train-of-four)を行う(grade 1C)。
3.早期の敗血症に伴うARDSでP/F比が150mmHg未満の患者では、48時間を超えない短期間の神経筋遮断薬の使用を推奨する(grace 2C)。
Q.血糖管理
1.重症敗血症でICUに入室している患者に対してはプロトコル化した血糖管理を行い、2回連続で血糖が180mg/dlを超えれば、すみやかにインスリンの投与を行う。このプロトコル化されたアプローチでは血糖値の上限は110mg/dl以下よりも180mg/dl以下と設定した方がよい(grade 1A)。
2.血糖値とインスリン投与量が安定するまでは1~2時間毎に血糖を測定し、安定すれば4時間毎に測定すべきである(grade 1C)。
3.ベッドサイドでの毛細血管血による血糖値測定(デキスター)は、動脈血や血漿の糖を正確には反映しないことがあり解釈に注意が必要である(UG)。
R.腎代替療法
1.急性腎不全を伴う重症敗血症患者では、CRRT(Continuous renal replacement therapies:持続的腎代替療法)と間欠的血液透析の効果は同等である(grade 2B)。
2.血行動態が不安定な敗血症患者では輸液管理を円滑にするため間欠透析よりもCRRTを選択すべきである (grade 2D)。
S.重炭酸治療
1.組織低灌流による乳酸血症でpHが7.15以上の患者に対して、血行動態の安定化や昇圧剤減量をねらって重炭酸ナトリウムを投与すべきではない (grade 2B)。
T.深部静脈血栓症(DVT)の予防
1.重症敗血症の患者に対しては静脈血栓塞栓症の予防のために毎日予防投与を行うべきである(grade 1B)。これは低分子ヘパリンの皮下投与がよい (grade 1B vs 未分画ヘパリン1日2回投与、grade 2C vs 未分画ヘパリン1日3回投与)。クレアチニンクリアランスが30mL/min未満であれば、ダルテパリン (grade 1A)または腎に代謝されにくいタイプの低分子ヘパリン (grade 2C)、または未分画ヘパリン (grade 1A)を用いるべきである。
2.重症敗血症患者はできれば薬剤と間欠的空気圧迫装置による併用でDVTを予防すべきである(grade 2C)。
3.血小板減少、重度の凝固異常、活動性出血、最近の脳出血の既往などヘパリンの使用が禁忌である敗血症患者では薬剤によるDVTの予防はすべきではない(grade 1B)。しかし、弾性ストッキングや間欠的空気圧迫装置による機械的な予防は禁忌でないならば行うべきである (grade 2C)。リスクが減少すれば薬剤投与を開始すべきである (grade 2C)。
U.ストレス潰瘍の予防
1.出血のリスクがある重症敗血症や敗血症性ショックの患者に対するストレス潰瘍の予防には、H2受容体拮抗薬またはプロトンポンプ阻害薬を使用すべきである (grade 1B)。
2.ストレス潰瘍の予防には、H2受容体拮抗薬よりもプロトンポンプ阻害薬の方を用いるべきである(grade 2D)。
3.ストレス潰瘍のリスクがない患者には予防投与はすべきではない(grade 2B)。
V.栄養
1.重症敗血症や敗血症性ショックと診断した場合、絶食や静脈内にグルコースを投与するよりも、可能ならば最初の48時間に経口または経腸栄養(もし必要なら)を開始すべきである(grade 2C)。
2.治療の最初の週には十分なカロリーを投与するよりも、最大500kcal/日程度の投与の方が望ましい(grade 2B)。
3.重症敗血症や敗血症性ショックと診断された最初の7日までに、完全静脈栄養単独や静脈栄養と経腸栄養を組み合わせるよりも、静脈へのグルコース投与と経腸栄養を行うべきである (grade 2B)。
4.重症敗血症患者には免疫賦活作用のある物質よりも免疫賦活作用のない物質の補充を行う方がよい(grade 2C)。
W.ケアのゴール設定
1.ケアのゴールと患者の予後について、患者本人や家族と話し合うべきである(grade 1B)。
2.ケアのゴールは治療と終末期医療を組み合わせて考え、必要であれば緩和ケア原理も活用する(grade 1B)。
3.ケアのゴールは可能な限り早く設定し、ICU入室から72時間以上遅れるべきではない(grade 2C)。
SURVIVING SEPSIS CAMPAIGN BUNDLES
•3時間以内に達成すべき目標:
1) 乳酸値の測定
2) 抗菌薬投与前の血液培養採取
3) 広域スペクトラム抗菌薬を投与
4) 血圧低下または乳酸 4mmol/L以上に対して晶質液を30 mL/kgで投与
•6時間以内に達成すべき目標:
5)(初期輸液に反応しない血圧低下に対して)平均動脈圧(MAP)65mmHg以上を目標に昇圧剤投与
6) 輸液蘇生を行なっても血圧低下が持続する、または初期の乳酸値が4mmol/L (36 mg/dL)以上であれば、
- 中心静脈圧(CVP)を測定する※
- 中心静脈酸素飽和度(ScvO2)を測定する※
7) 初期の乳酸値が上昇していれば、再測定を行う※
※ガイドラインにおける蘇生の定量的指標の目標値は、CVPが8 mmHg以上、 ScvO2が70%以上、乳酸の正常化である
A.初期蘇生
1.低血圧や乳酸値>4mmol/L(36mg/dl)の患者ではすみやかに蘇生を開始する。6時間以内に以下の達成を目指す(grade 1C)。
・中心静脈圧(CVP)8~12mmHg
・平均動脈圧(MAP)≧65mmHg
・尿量≧0.5ml/kg/hr
・中心静脈(上大静脈)酸素飽和度≧70%あるいは混合静脈血酸素飽和度≧65%
2.乳酸値が上昇している患者では正常乳酸値へ戻すよう蘇生をはかる(grade 2C)。
B.敗血症スクリーニングとパフォーマンスの改善
1.早期治療の実現のために、潜在的に重症敗血症の可能性がある患者はルーチンでスクリーニングを行う (grade 1C)。
2.重症敗血症では病院ごとのパフォーマンスの改善の努力が必要である(UG)。
C.診断
1.抗菌薬の開始が45分を超えるといった有意な遅れがなければ、抗菌薬投与前の培養検体採取は臨床的に適切である(grade 1C)。少なくとも血液培養を2セット以上(好気ボトルと嫌気ボトルの両方)採取する。少なくとも1セットは経皮的に、もう1セットは挿入後48時間未満であれば血管内カテーテルから採取してもよい(grade 1C)。
2.感染症の原因として侵襲性カンジダ症を考慮する場合は、1,3 β-Dグルカン (grade 2B)、マンナン抗原および抗マンナン抗体(grade 2C)を測定してもよい。
3.潜在的な感染源の検索のため画像検査を迅速に行うべきである(UG)。
D.抗菌薬治療
1. 敗血症性ショック (grade 1B) 、重症敗血症 (grade 1C) と認識した場合、最初の1時間で有効な抗菌薬を経静脈的に投与すべきである。
2a.初期治療には、原因と考えられる細菌/真菌/ウイルスに対して有効であり、敗血症の感染原因と推定される組織へ十分に移行する感染症治療薬を1つ以上選択する (grade 1B)。
2b.治療薬のレジメンは毎日de-escalationが可能か評価すべきである(grade 1B)。
3. 初期に敗血症と判断したものの後に感染の根拠が乏しいと判断したときは、プロカルシトニンや同様のバイオマーカーが低値であることをエンピリック治療を中止するために使用してよい(grade 2C)。
4a. 好中球が減少している患者の重症敗血症(grade 2B)、AcinetobacterやPseudomonas spp.といった難治性多剤耐性菌による感染症(grade 2B)の場合には、抗菌薬を併用したエンピリック治療を行うべきである。呼吸不全や敗血症性ショックを伴う重症感染症の場合、P. aeruginosa菌血症をカバーするため広域のβラクタムにアミノグリコシドまたはフルオロキノロンを併用すべきである(grade 2B)。Streptococcus pneumoniaeの菌血症を伴う敗血症性ショックの場合、βラクタムとマクロライドを併用すべきである(grade 2B)。
4b.エンピリックな抗菌薬の併用療法は3~5日を超えて使用すべきではない。菌の感受性が判明すれば、最適な抗菌薬の単剤治療にde-escalationすべきである(grade 2B)。
5.抗菌薬の治療期間は典型的には7〜10日である。治療の反応が遅い患者、ドレナージできない感染巣がある患者、S. aureusによる菌血症の患者、真菌感染やウイルス感染、好中球減少症を含む免疫抑制のある患者ではより長期間の治療が必要になるかもしれない(grade 2C)。
6.重症敗血症または敗血症性ショックの原因がウイルスの場合、できるだけすみやかに抗ウイルス薬を開始する(grade 2C)。
7.重篤な炎症の状態にある患者でも感染症が原因ではないと判断した場合は抗菌薬は使用すべきではない (UG)。
E.感染源のコントロール
1.緊急的な感染源のコントロールが必要な解剖特異的な感染源の検索、その診断および除外をすみやかに行い、可能ならば診断後12時間以内に感染源のコントロールを行う (grade 1C)。
2.感染性膵臓周囲壊死が感染源である可能性がある場合、感染組織と非感染組織の境界がはっきりするまで待って外科的な介入をおこなう(grade 2B)。
3.感染源のコントロールが必要な重症敗血症患者では、最も侵襲が少ない処置で最も効果的なものを選択すべきである(膿瘍に対しては外科的ドレナージよりも経皮的ドレナージ、など) (UG)。
4. 血管内カテーテルが重症敗血症や敗血症性ショックの感染源になっている可能性がある場合、他の血管内カテーテルを確保できた段階ですみやかに抜去すべきである(UG)。
F.感染予防
1a.人工呼吸器関連肺炎(VAP)を減らすためにSOD(Selective oral decontamination)とSDD(Selective digestive decontamination)を行うべきである;これらの予防策は当該方法が有効と考えられる医療施設や地域で行ってよい(grade 2B)。
1b.口腔咽頭の除菌のために口腔内グルコン酸クロルヘキシジンの塗布は、ICUの重症敗血症患者のVAPのリスクを減らすことができる (grade 2B)。
G.重症敗血症の輸液療法
1.重症敗血症や敗血症性ショックの患者の初期蘇生には晶質液を用いるべきである (grade 1B)。
2.重症敗血症や敗血症性ショックの患者の蘇生にhydroxyethyl starches(HES)を用いるべきではない(grade 1B)。
3.蘇生に晶質液を大量に必要とする重症敗血症や敗血症性ショックの患者に対してはアルブミンの点滴を行う(grade2C)。
4.敗血症による組織低灌流と血管内容量減少のある患者の初期輸液は、晶質液を最低でも30ml/kg以上投与すべきである(一部、相当量アルブミンで代替可能)。患者によってはより早い速度でより大量の輸液が必要となる(grade 1C)。
5.初期輸液を動的指標(脈圧やstroke volume variation[SVV]変化)や静的指標(動脈圧、心拍数)において血行動態の改善が得られるまで継続する輸液チャレンジテクニックを適応してよい(UG)。
H.昇圧剤
1.昇圧剤は、平均動脈圧(MAP)65mmHgを目標に投与する(grade 1C)。
2.昇圧剤の選択はノルアドレナリン(ノルエピネフリン)が第一選択である(grade 1B)。
3.十分な血圧が保てない場合は(ノルアドレナリンに追加、もしくは潜在的代替薬として)アドレナリンを用いる(grade 2B)。
4.MAPの上昇やノルアドレナリンの減量の目的で、ノルアドレナリンにバソプレシン0.03単位/分を加えて投与してもよい(UG)。
5.敗血症による血圧低下に対して初期に選択する昇圧剤として低用量バソプレシンは推奨されない。0.03-0.04単位/分以上のバソプレシンは(他の昇圧剤でMAPの達成が得られない場合などの)サルベージ治療として温存する(UG)。
6.ノルアドレナリンの代替薬としてドパミンを用いるのは(頻脈性不整脈や絶対的/相対的徐脈のリスクが低い患者など)極めて限られた患者に対してである (grade 2C)。
7. フェニレフリンは敗血症性ショックにおいて以下の場合以外には推奨されない。(a)ノルアドレナリンによる重症不整脈がある場合、(b)心拍出量は高いのに血圧が低い場合、(c)強心剤/昇圧剤を併用したり低用量バソプレシンを投与してもMAPが目標値を達成できない場合(grade 1C)。
8.低用量ドパミンを腎保護作用目的で使用すべきではない (grade 1A)。
9.昇圧剤を必要とする患者には可能であればすみやかに動脈カテーテルを挿入すべきである(UG)。
I.強心薬
1.以下の場合、昇圧剤に加えてドブタミンを20μg/kg/分で投与してよい。(a)心充満圧が上昇しているが心拍出量が低いなど心筋機能障害が示唆される場合、(b)十分な血管内容量と適切なMAPであるのに組織低灌流が持続している徴候がある場合(grade 1C)。
2.規定された正常を超える心係数にするために強心剤を使用すべきではない(grade 1B)。
J.コルチコステロイド
1.適切な輸液と昇圧剤によって血行動態が安定した成人の敗血症性ショック患者ではヒドロコルチゾンを静脈内投与すべきではない(「初期蘇生」の項目を参照)。逆に血行動態が安定しない場合には、ヒドロコルチゾン200mg/日の静脈内投与を推奨する (grade 2C)。
2.成人の敗血症性ショック患者にヒドロコルチゾンを投与すべきかどうか判断するためにACTH負荷試験を行うべきではない(grade 2B)。
3.昇圧剤が不要となればヒドロコルチゾンは減量すべきである(grade 2D)。
4.ショックではない敗血症の治療のためにステロイドを投与すべきではない(grade 1D)。
5.ヒドロコルチゾンの投与を行う場合、持続投与で行う(grade 2D)。
K.血液製剤の投与
1.組織低灌流が改善し心筋虚血や重度の低酸素、急性出血、虚血性心疾患などがなければ、赤血球輸血はヘモグロビン7.0g/dL未満にのみ行い、ヘモグロビンは7.0-9.0g/dLを目標値とする(grade 1B)。
2.重症敗血症に関連した貧血の特異的治療としてエリスロポエチンを使用すべきではない(grade 1B)。
3.出血や侵襲的な処置の予定がなければ、凝固異常補正を目的とした新鮮凍結血漿の投与は行うべきでない (grade 2D)。
4.重症敗血症や敗血症性ショックの患者の治療にアンチトロンビン製剤を使用すべきではない(grade 1B)。
5.重症敗血症の患者では、明らかな出血がない患者では血小板10,000/mm3未満の場合に血小板輸血をおこなう。出血のリスクがある患者では血小板20,000/mm3未満で血小板輸血を推奨する。活動性出血のある患者、外科的処置や侵襲的処置を行う患者では血小板数が50,000/mm3以上あることが望ましい(grade 2D)。
L.免疫グロブリン
1. 重症敗血症や敗血症性ショックの患者の治療に免疫グロブリンの静脈内投与を行うべきではない(grade 2B)。
M.セレン
1. 重症敗血症の治療にセレンの静脈内投与は推奨されない (grade 2C)。
N.遺伝子組換え活性化プロテインC(rhAPC)に関する推奨の歴史
rhAPC(もはや推奨されない)を推奨してきた歴史を提示する。
O.敗血症に伴う成人呼吸促迫症候群(ARDS)の人工呼吸管理
1.敗血症に伴うARDS患者では人工呼吸の1回換気量を6mg/kg(予測体重)に設定すべきである (grade 1A vs. 12 mL/kg)。
2.ARDS患者ではプラトー圧を測定し、初期の上限は受動的肺拡張時には30cmH2O以下とすべきである (grade 1B)。
3.呼気終末時の肺胞虚脱(atelectotrauma)を防ぐため、PEEPを適用すべきである(grade 1B)。
4.敗血症に伴う中等度~重症ARDSでは、低PEEPよりも高PEEPにすべきである (grade 2C)。
5.重症難治性低酸素血症の敗血症患者ではリクルートメント手技を行うべきである (grade 2C)。
6.敗血症に伴うARDSでP/F比が100mmHg以下の患者では、経験の豊富な施設であれば腹臥位療法を行ってもよい(grade 2B)。
7.人工呼吸管理中の敗血症患者では、誤嚥のリスクを減らしVAPの発症を防ぐため頭部を30~45度挙上すべきである (grade 1B)。
8. 敗血症に伴うARDSでは、非侵襲的マスク換気(NIV)の使用による有益性が考慮される場合およびリスクよりも上回る場合には使用してよい(grade 2B)。
9.人工呼吸管理中の重症敗血症にはウィーニングのプロトコルを適用し、以下の基準を満たしたときに人工呼吸を離脱できるかどうか定期的にSBT(spontaneous breathing trials)で評価を行う。
a)覚醒できる
b)血行動態的に安定している(昇圧剤を使用していない)
c)新規の重症になりうる合併症がない
d)PEEPの設定が低い
e)マスクや鼻カニューラによる酸素投与でも問題ないくらいにFiO2が低い
もし、SBTが成功すれば抜管を考慮すべきである(grade 1A)。
10.敗血症に伴うARDSにルーチンで肺動脈カテーテルを使用すべきではない(grade 1A)。
11.組織低灌流がない敗血症に伴うARDSでは輸液はおさえるべきである(grade 1C)。
12.気管支痙攣のような特異的な適応がなければ、敗血症に伴うARDSではβ2刺激薬を治療として用いるべきではない(grade 1B)。
P.敗血症の鎮静、鎮痛、筋弛緩
1.患者のエンドポイントを明確にするため、持続あるいは間欠的であろうと鎮静は人工呼吸管理中の敗血症患者では最小限にすべきである(grade 1B)。
2.神経筋遮断薬は中止後にもその神経筋遮断作用が遷延するため、敗血症に伴うARDSに対する投与はできれば避ける。神経筋遮断薬を使用する場合、必要時に間欠的に投与するか、持続投与する場合は遮断効果の評価のために四連刺激(train-of-four)を行う(grade 1C)。
3.早期の敗血症に伴うARDSでP/F比が150mmHg未満の患者では、48時間を超えない短期間の神経筋遮断薬の使用を推奨する(grace 2C)。
Q.血糖管理
1.重症敗血症でICUに入室している患者に対してはプロトコル化した血糖管理を行い、2回連続で血糖が180mg/dlを超えれば、すみやかにインスリンの投与を行う。このプロトコル化されたアプローチでは血糖値の上限は110mg/dl以下よりも180mg/dl以下と設定した方がよい(grade 1A)。
2.血糖値とインスリン投与量が安定するまでは1~2時間毎に血糖を測定し、安定すれば4時間毎に測定すべきである(grade 1C)。
3.ベッドサイドでの毛細血管血による血糖値測定(デキスター)は、動脈血や血漿の糖を正確には反映しないことがあり解釈に注意が必要である(UG)。
R.腎代替療法
1.急性腎不全を伴う重症敗血症患者では、CRRT(Continuous renal replacement therapies:持続的腎代替療法)と間欠的血液透析の効果は同等である(grade 2B)。
2.血行動態が不安定な敗血症患者では輸液管理を円滑にするため間欠透析よりもCRRTを選択すべきである (grade 2D)。
S.重炭酸治療
1.組織低灌流による乳酸血症でpHが7.15以上の患者に対して、血行動態の安定化や昇圧剤減量をねらって重炭酸ナトリウムを投与すべきではない (grade 2B)。
T.深部静脈血栓症(DVT)の予防
1.重症敗血症の患者に対しては静脈血栓塞栓症の予防のために毎日予防投与を行うべきである(grade 1B)。これは低分子ヘパリンの皮下投与がよい (grade 1B vs 未分画ヘパリン1日2回投与、grade 2C vs 未分画ヘパリン1日3回投与)。クレアチニンクリアランスが30mL/min未満であれば、ダルテパリン (grade 1A)または腎に代謝されにくいタイプの低分子ヘパリン (grade 2C)、または未分画ヘパリン (grade 1A)を用いるべきである。
2.重症敗血症患者はできれば薬剤と間欠的空気圧迫装置による併用でDVTを予防すべきである(grade 2C)。
3.血小板減少、重度の凝固異常、活動性出血、最近の脳出血の既往などヘパリンの使用が禁忌である敗血症患者では薬剤によるDVTの予防はすべきではない(grade 1B)。しかし、弾性ストッキングや間欠的空気圧迫装置による機械的な予防は禁忌でないならば行うべきである (grade 2C)。リスクが減少すれば薬剤投与を開始すべきである (grade 2C)。
U.ストレス潰瘍の予防
1.出血のリスクがある重症敗血症や敗血症性ショックの患者に対するストレス潰瘍の予防には、H2受容体拮抗薬またはプロトンポンプ阻害薬を使用すべきである (grade 1B)。
2.ストレス潰瘍の予防には、H2受容体拮抗薬よりもプロトンポンプ阻害薬の方を用いるべきである(grade 2D)。
3.ストレス潰瘍のリスクがない患者には予防投与はすべきではない(grade 2B)。
V.栄養
1.重症敗血症や敗血症性ショックと診断した場合、絶食や静脈内にグルコースを投与するよりも、可能ならば最初の48時間に経口または経腸栄養(もし必要なら)を開始すべきである(grade 2C)。
2.治療の最初の週には十分なカロリーを投与するよりも、最大500kcal/日程度の投与の方が望ましい(grade 2B)。
3.重症敗血症や敗血症性ショックと診断された最初の7日までに、完全静脈栄養単独や静脈栄養と経腸栄養を組み合わせるよりも、静脈へのグルコース投与と経腸栄養を行うべきである (grade 2B)。
4.重症敗血症患者には免疫賦活作用のある物質よりも免疫賦活作用のない物質の補充を行う方がよい(grade 2C)。
W.ケアのゴール設定
1.ケアのゴールと患者の予後について、患者本人や家族と話し合うべきである(grade 1B)。
2.ケアのゴールは治療と終末期医療を組み合わせて考え、必要であれば緩和ケア原理も活用する(grade 1B)。
3.ケアのゴールは可能な限り早く設定し、ICU入室から72時間以上遅れるべきではない(grade 2C)。
SURVIVING SEPSIS CAMPAIGN BUNDLES
•3時間以内に達成すべき目標:
1) 乳酸値の測定
2) 抗菌薬投与前の血液培養採取
3) 広域スペクトラム抗菌薬を投与
4) 血圧低下または乳酸 4mmol/L以上に対して晶質液を30 mL/kgで投与
•6時間以内に達成すべき目標:
5)(初期輸液に反応しない血圧低下に対して)平均動脈圧(MAP)65mmHg以上を目標に昇圧剤投与
6) 輸液蘇生を行なっても血圧低下が持続する、または初期の乳酸値が4mmol/L (36 mg/dL)以上であれば、
- 中心静脈圧(CVP)を測定する※
- 中心静脈酸素飽和度(ScvO2)を測定する※
7) 初期の乳酸値が上昇していれば、再測定を行う※
※ガイドラインにおける蘇生の定量的指標の目標値は、CVPが8 mmHg以上、 ScvO2が70%以上、乳酸の正常化である
by otowelt
| 2013-01-27 10:01
| 集中治療