非小細胞肺癌におけるERCC1タンパク発現による効果予測は現時点では難しい
2013年 03月 21日
非小細胞肺癌におけるERCC1タンパクとシスプラチンの関連については有名ですが、現在利用できる抗体では効果予測は難しいのではないかという報告です。
Luc Friboulet, et al.
ERCC1 Isoform Expression and DNA Repair in Non–Small-Cell Lung Cancer
N Engl J Med 2013;368:1101-10.
背景:
除去修復交差相補グループ(excision repair cross-comple-mentation group 1:ERCC1)タンパクは、非小細胞肺癌(NSCLC)に対するシスプラチンをベースとした化学療法の有効性を予測するマーカーとなる可能性が示唆されている。
過去にいくつかの論文(N Engl J Med 2006; 355:983-991など)でERCC1発現量が評価されており、シスプラチンの効果はERCC1発現陰性、すなわちヌクレオチド除去修復が強く作用しないNSCLCに効果がみられやすいことがわかっている。しかし、その評価方法については議論の余地がある。
方法:
2つの第3相試験(JBR.10 試験、CALGB 9633試験)に参加した合計494人の患者から得た検体を対象とし、8F1抗体を用いてERCC1タンパク発現量を測定した。ERCC1タンパク発現の欠損と白金製剤の奏効との間に最初にその相関性がみられた対象589人の検体のセット全体の反復染色結果と、同腫瘍におけるわれわれのグループの過去の結果とを比較した。染色強度はスケール0-3が設定され、3点が最も強い染色性と定義した。陽性腫瘍細胞核は検体ごとに測定され、その比率が記載された。(0 for 0%, 0.1 for 1 to 9%, 0.5 for 10 to 49%, and 1.0 for ≥50%)。
市販ERCC1抗体によって認識されたエピトープをマッピングし、ERCC1アイソフォームごとに白金製剤によるDNA損傷の修復能を検討した。抗β-アクチン抗体(A5441, Sigma-Aldrich)がウェスタンブロット解析のローディングコントロールとして使用された。
結果:
ERCC1抗体陰性のNSCLCにおいて、全生存は化学療法群およびコントロール群に差はみられなかった(ハザード比1.16、95%信頼区間 0.64 to 2.10、P = 0.62)。ERCC1抗体陽性のNSCLCでは、いくぶんかの生存的利益が得られた(ハザード比0.78、95%信頼区間0.58 to 1.05、P = 0.09)。ただし、免疫組織化学染色によってERCC1タンパクの予測効果を検証することはできなかった(P = 0.23 for interaction)。
ERCC1染色結果に不一致があった事実は、2006年以降に8F1抗体の検査性能が変化があった可能性を示唆していた。
16の抗体はいずれも4つのERCC1タンパクアイソフォームを鑑別できなかった。
結論:
現時点で使用可能なERCC1抗体を用いた免疫組織化学的解析では、機能的に予測ができるERCC1タンパクアイソフォームは検出できなかった。そのため、NSCLCにおける治療の決定としての有用性には限度があるのではないだろうか。DNA修復タンパクの真の予後への影響を同定するためには、よりよいアッセイが必要になるだろう。
Luc Friboulet, et al.
ERCC1 Isoform Expression and DNA Repair in Non–Small-Cell Lung Cancer
N Engl J Med 2013;368:1101-10.
背景:
除去修復交差相補グループ(excision repair cross-comple-mentation group 1:ERCC1)タンパクは、非小細胞肺癌(NSCLC)に対するシスプラチンをベースとした化学療法の有効性を予測するマーカーとなる可能性が示唆されている。
過去にいくつかの論文(N Engl J Med 2006; 355:983-991など)でERCC1発現量が評価されており、シスプラチンの効果はERCC1発現陰性、すなわちヌクレオチド除去修復が強く作用しないNSCLCに効果がみられやすいことがわかっている。しかし、その評価方法については議論の余地がある。

2つの第3相試験(JBR.10 試験、CALGB 9633試験)に参加した合計494人の患者から得た検体を対象とし、8F1抗体を用いてERCC1タンパク発現量を測定した。ERCC1タンパク発現の欠損と白金製剤の奏効との間に最初にその相関性がみられた対象589人の検体のセット全体の反復染色結果と、同腫瘍におけるわれわれのグループの過去の結果とを比較した。染色強度はスケール0-3が設定され、3点が最も強い染色性と定義した。陽性腫瘍細胞核は検体ごとに測定され、その比率が記載された。(0 for 0%, 0.1 for 1 to 9%, 0.5 for 10 to 49%, and 1.0 for ≥50%)。
市販ERCC1抗体によって認識されたエピトープをマッピングし、ERCC1アイソフォームごとに白金製剤によるDNA損傷の修復能を検討した。抗β-アクチン抗体(A5441, Sigma-Aldrich)がウェスタンブロット解析のローディングコントロールとして使用された。
結果:
ERCC1抗体陰性のNSCLCにおいて、全生存は化学療法群およびコントロール群に差はみられなかった(ハザード比1.16、95%信頼区間 0.64 to 2.10、P = 0.62)。ERCC1抗体陽性のNSCLCでは、いくぶんかの生存的利益が得られた(ハザード比0.78、95%信頼区間0.58 to 1.05、P = 0.09)。ただし、免疫組織化学染色によってERCC1タンパクの予測効果を検証することはできなかった(P = 0.23 for interaction)。

ERCC1染色結果に不一致があった事実は、2006年以降に8F1抗体の検査性能が変化があった可能性を示唆していた。


結論:
現時点で使用可能なERCC1抗体を用いた免疫組織化学的解析では、機能的に予測ができるERCC1タンパクアイソフォームは検出できなかった。そのため、NSCLCにおける治療の決定としての有用性には限度があるのではないだろうか。DNA修復タンパクの真の予後への影響を同定するためには、よりよいアッセイが必要になるだろう。
by otowelt
| 2013-03-21 16:27
| 肺癌・その他腫瘍