EGFRおよびALKチロシンキナーゼ阻害薬を使用する肺癌患者を同定するための遺伝子検査ガイドライン

EGFRおよびALKチロシンキナーゼ阻害薬を使用する肺癌患者を同定するための遺伝子検査ガイドライン_e0156318_21584469.jpg JTOから、EGFRおよびALKの検査に関するガイドラインが出ています。ややこしい英語もチラホラあったので誤訳があれば申し訳ありません。
 「いつ行うべきか?」というフレーズが出るたびに、「・・・今でしょ!」という言葉が頭に浮かんでしまい、なかなか翻訳が進みませんでした。

Neal I. Lindeman, et al.
Molecular Testing Guideline for Selection of Lung Cancer Patients for EGFR and ALK Tyrosine Kinase Inhibitors
Guideline from the College of American Pathologists, International Association for the Study of Lung Cancer, and Association for Molecular Pathology
Journal of Thoracic Oncology: 2 April 2013



セクションI: 肺癌の遺伝子検査はいつ行うべきか?
質問 1: どういった患者にEGFR遺伝子変異およびALK遺伝子再構成を検査すべきか?
1.1a: 推奨: EGFR遺伝子変異検査はEGFR-TKI治療のための選定に行うべき検査であり、臨床的特性から肺腺癌患者を除外すべきではない。
1.1b: 推奨: ALK遺伝子再構成検査はALK-TKI治療のための選定に行うべき検査であり、 臨床的特性から肺腺癌患者を除外すべきではない。
1.2: 推奨: 肺癌の切除検体の場合、EGFR遺伝子変異検査およびALK遺伝子再構成検査は、組織学的グレードを問わず腺癌および混合型腺癌に推奨される。完全切除肺癌検体では、免疫組織化学染色で腺癌の特徴を有しない扁平上皮癌、小細胞癌、大細胞癌といった組織型に対してこれらの遺伝子変異検査は推奨されない。
1.3: 推奨: 腺癌のコンポーネントの存在が完全に除外できないような限定的な肺癌検体の場合(生検、細胞診)、扁平上皮癌や小細胞癌の組織型であっても、遺伝子検査をおこなうサブセットを同定するのに有用な臨床的な要素(若年者、非喫煙者など)があればEGFR遺伝子変異検査およびALK遺伝子再構成検査をおこなってもよいかもしれない。
1.4: 推奨: 初期治療の選択に際してEGFRおよびALKステータスを同定するために、原発巣あるいは転移巣は検査に際して同等にふさわしい部位である。
1.5: エキスパートコンセンサスオピニオン: 多発性で明らかに離れた部位の原発性肺腺癌であれば、複数の部位での遺伝子検査はおこなってもよいが、一つの腫瘍内で別々の部位で検査をする必要はない。

質問 2: いつ患者検体にEGFR遺伝子変異検査あるいはALK遺伝子再構成検査を行うべきか?
2.1a: 推奨: EGFR遺伝子変異検査は治療適応にある進行期(TNM分類でstageIV)肺癌の診断時あるいは非進行期肺癌で過去に検査されていない患者で肺癌再発あるいは進行がみられた場合に行うべきである。
2.1b: 提案: ALK遺伝子再構成は治療適応にある進行期(TNM分類でstageIV)肺癌の診断時あるいは非進行期肺癌で過去に検査されていない患者で肺癌再発あるいは進行がみられた場合に行うべきである。
2.2a: エキスパートコンセンサスオピニオン: stageI, II, IIIの肺癌の患者の診断時における腫瘍のEGFR遺伝子変異検査は薦められるが、そうすべきとの決定はそれぞれの検査室によって定められるべきであり、腫瘍内科チームと合議の上決める。
2.2b: エキスパートコンセンサスオピニオン: stageI, II, IIIの肺癌の患者の診断時における腫瘍のALK遺伝子再構成検査は薦められるが、そうすべきとの決定はそれぞれの検査室によって定められるべきであり、腫瘍内科チームと合議の上決める。
2.3: 推奨: 組織はEGFR遺伝子変異検査およびALK遺伝子再構成検査を優先すべきである。

質問 3: どのくらい迅速に遺伝子検査の結果を得られるようにすべきか?
3.1: エキスパートコンセンサスオピニオン: EGFR遺伝子変異検査およびALK遺伝子再構成検査の結果は検体が検査室に届いてから2週間以内(10勤務日)に得られるべきである。
3.2: エキスパートコンセンサスオピニオン: 臨床的緊急性を求めるためにも平均2週間以上のターンアラウンドの検査室はより迅速な結果が得られるようにする必要がある(自施設あるいは委託機関でも)。
3.3: エキスパートコンセンサスオピニオン: 最終的病理学的診断が得られた検体が外部分子病理検査室に依頼後3勤務日以内、施設内分子病理検査室には依頼後24時間以内に送られるように、検査室はプロセスを確立すべきである。



セクション II: どのようにしてEGFR遺伝子検査が行われるべきか?
質問 4: EGFR遺伝子変異検査のために検体はどう処理されるべきか?
4.1: エキスパートコンセンサスオピニオン: 病理医はホルマリン固定/パラフィン包埋(FFPE)検体あるいは凍結標本あるいはアルコール固定検体をPCRによるEGFR遺伝子変異検査に用いるべきである。他の組織固定(酸固定、重金属固定、脱灰溶液など)はEGFR遺伝子変異検査の際には避けるべきである。
4.2: エキスパートコンセンサスオピニオン: 細胞診検体はEGFR遺伝子変異検査およびALK遺伝子再構成検査に適切であり、セルブロックは塗抹標本より望ましい。

質問 5: EGFR遺伝子変異検査のための検体要件は?
5.1: エキスパートコンセンサスオピニオン: 病理医は、癌細胞の含有とDNAの質を検証することでEGFR遺伝子変異検査に際して検体の妥当性をはかるべきである。
5.2: エキスパートコンセンサスオピニオン: いずれの検査室であっても、遺伝子変異同定のために最小限の癌細胞検体でおこなえるようにすべきである。
5.3: エキスパートコンセンサスオピニオン: 病理医は検体の腫瘍内容や手技を吟味し、あるいは訓練された技師へそれら手技をガイドし、必要に応じて腫瘍細胞の顕微解剖をおこなうべきである。

質問 6: どのようにしてEGFR遺伝子変異は検査されるべきか?
6.1: 推奨: 検査室は満足のいく機能特性をそなえたEGFR遺伝子変異検査であればいずれも使用してよい。
6.2: エキスパートコンセンサスオピニオン: 検査室は少なくとも癌細胞が50%含まれた検体で検出可能なEGFR遺伝子変異検査を実施すべきであるが、10%のような少ない腫瘍細胞の検体であっても同定できるようなより感度の高い検査も強く推奨される。
6.3: エキスパートコンセンサスオピニオン: 臨床的なEGFR遺伝子変異検査は、EGFR遺伝子変異のある肺腺癌の少なくとも1%の頻度で報告されているすべての個々の変異を同定できるべきである。
6.4: 推奨: 全EGFR免疫組織化学染色はEGFR-TKI治療の選択のためには推奨されない。
6.5: 推奨: EGFRコピー数解析(FISHやCISHなど)はEGFR-TKI治療の選択のためには推奨されない。

質問 7: EGFR-TKI治療をおこなう患者を選択するためのKRAS解析の役割は何か?
7.1: 推奨: KRAS遺伝子変異検査はEGFR-TKI治療の決定だけのためには推奨されない。

質問 8: 二次性あるいは獲得性のEGFR-TKI耐性の場合、どのような追加検査が重要と考えられるか?
8.1: 推奨: 検査室がEGRR-TKI治療に耐性となった患者からの検体に対して検査を行う場合、細胞のわずか5%であっても二次性のEGFR T790M変異が同定できるべきである。



セクション III: どのようにしてALK遺伝子再構成検査が行われるべきか?
質問 9: ALK遺伝子再構成検査のためにどのような方法が用いられるべきか?
9.1: 推奨: ALK-TKI治療を受ける患者の選定のため、検査室はdual-labeled break-apartプローブを用いたALK FISHアッセイをおこなうべきである。ALK免疫組織化学染色はALK FISHのための検体を同定するスクリーニング法として考慮してもよいかもしれない。
9.2: 推奨: ALK-TKI治療を受ける患者の選定のため、RT-PCRはFISHの代替として推奨されない。
9.3: エキスパートコンセンサスオピニオン: 病理医はALK FISH検査部位の選定のために、腫瘍構造、細胞診、検体の質を吟味すべきである。
9.4: エキスパートコンセンサスオピニオン: 固形腫瘍のFISH解析の訓練を受けた細胞診断士や技師の解釈による結果が得られたとしても、病理医はALK FISHスライドの解釈に参入すべきである。
9.5: エキスパートコンセンサスオピニオン: ALK-TKI治療に耐性を獲得した場合、ALKの二次性変異については現時点では臨床マネジメントに必要とされていない。



セクション IV: 肺腺癌に対してほかの遺伝子をルーチンに検索するべきか?
質問 10: 肺癌の検査で他の分子マーカーを用いることは妥当か?
10.1a: 推奨: EGFR遺伝子変異検査は、ほかの肺腺癌の分子マーカーよりも優先されるべきである。
10.1b: 提案: EGFR遺伝子変異検査のあとは、ALK遺伝子再構成検査がほかの肺腺癌の分子マーカーよりも優先されるべきである。ただ現時点ではこれを支持する十分なエビデンスはない。



セクション V: どのように肺腺癌の分子検査を実施・運用すべきか?
質問 11: すべての腺癌に対してEGFR遺伝子変異およびALK遺伝子再構成検査を行わなければならないのか?
11.1: エキスパートコンセンサスオピニオン: 検査室は、肺腺癌の分子検査の効果を高めるためのアルゴリズムを構築してもよい。

質問 12: EGFR遺伝子変異およびALK遺伝子再構成の検査結果はどう報告されるべきか?
12.1: エキスパートコンセンサスオピニオン: EGFR遺伝子変異検査結果およびALK FISH結果は、腫瘍科医や非専門の病理医によって理解しやすいようその結果と解釈を記載すべきである。

質問 13: EGFR遺伝子変異およびALK遺伝子再構成の検査はどのように検証されるべきか?
13.1: エキスパートコンセンサスオピニオン: EGFR遺伝子変異およびALK遺伝子再構成の検査の妥当性は、ほかの分子診断やFISH検査に関する同様のガイドラインをフォローアップすべきである。

質問 14: どのようにして検査の質の保証が維持されるべきか?
14.1: エキスパートコンセンサスオピニオン: 検査室は、肺癌に対するEGFR遺伝子変異検査およびALK遺伝子再構成検査の他施設の質管理・保証の方針や技術を参照すべきである。可能であれば、TKI治療のためのEGFR遺伝子変異検査およびALK遺伝子再構成検査は技能検査に登録すべきである。


by otowelt | 2013-04-10 00:26 | 肺癌・その他腫瘍

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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