ATS2013:長期血液透析患者の市中肺炎は医療ケア関連肺炎として扱わなくてよい?

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S.B. Smith, et al.
Etiology Of Pneumonia In Hemodialysis Patients: Preliminary Results From The Centers For Disease Control And Prevention Etiology Of Pneumonia In The Community (EPIC) Study
ATS 2013, May 19, 2013, Poster Discussion Session


背景:
 ATS/IDSAの2005年の肺炎ガイドラインでは長期血液透析(CHD)患者を医療ケア関連肺炎(healthcare-associated pneumonia:HCAP)のリスク因子としており、MRSAや耐性グラム陰性桿菌を含めた広域スペクトラム抗菌薬治療を推奨している。しかしながら、CHDをHCAPのリスク因子として位置づけているにもかかわらず、地域に住むCHD患者の肺炎の疫学についてはほとんど情報がない。CDCのEPIC試験に組み込まれたCHD患者を評価し、この集団における市中肺炎の疫学の特徴を記した。

方法:
 臨床的および放射線学的に市中肺炎と診断されたシカゴおよびナッシュビルの5病院の救急部を受診した成人の血液培養、喀痰培養、LegionellaのPCR、尿中肺炎球菌抗原・レジオネラ抗原、呼吸器系感染性のあるウイルス・非定型細菌の鼻咽頭スワブPCRのデータを抽出した。EPIC試験の患者のうち、主要なHCAPのリスク因子を有さないCHDを要する成人が本解析対象となった。

結果:
 2010年1月から2012年6月までの間、2386人のうち96人(4%)が本試験に登録されたCHDの成人患者であった。 5人の患者は胸部レントゲン上浸潤影がなかったため、残りの91人を解析に組み込んだ。非CHDの市中肺炎患者と同様に、病原菌は12人(13%)に、病原ウイルスは18人(20%)に同定された。MRSA以外の耐性菌は確認されず、非CHD患者。1人は細菌およびウイルス両方が同定された(肺炎球菌+ライノウイルス)。HCAPのガイドラインベースの抗菌薬治療は49人のCHD患者(54%)で用いられ、9人(10%)はMRSAをカバーしていた。市中肺炎のガイドラインベースの抗菌薬治療は12人のCHD患者(13%)のみで使用されていた。

結論:
 CHD以外にHCAPのリスク因子を有さない成人市中肺炎の大規模試験コホートで、MRSA以外の耐性菌は同定されなかった。この集団において通常の市中肺炎治療を超えてグラム陰性菌カバーまで行う必要性は乏しいのではないだろうか。しかしながら、MRSAのカバーについては議論の余地がある。


by otowelt | 2013-05-19 23:41 | 感染症全般

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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