呼吸器疾患に対するβ遮断薬が孕むジレンマ

呼吸器疾患に対するβ遮断薬が孕むジレンマ_e0156318_10365827.jpg・使いにくいβ遮断薬
 「呼吸器内科医はβ遮断薬が嫌い」という格言(?)があります。気管支平滑筋を収縮させるワケですから、COPDなどの閉塞性肺疾患がある患者さんに対しては基本的に禁忌と考えられるためです。β遮断薬の添付文書をザっとながめてみると、たとえば気管支喘息の患者さんには使いにくいようになっています。最近の循環器内科事情には精通していませんが、循環器疾患においてエビデンスが豊富なビソプロロール(メインテート®)やカルベジロール(アーチスト®)などの薬剤では、前者は呼吸器疾患(特に気管支喘息)に対しては慎重投与ですが、後者はなんと禁忌とされています。


・COPDには使ってもよい?
 2011年にBMJに衝撃的な報告がなされました。6000人近いCOPD患者さんを解析したコホート研究において、β遮断薬の使用はCOPD全体で死亡率を低下させたのです1)。また、心臓選択性のβ遮断薬を使用しても、気流閉塞の悪化はほとんど起こらないということが報告されており2)、「循環器疾患のあるCOPD患者さんに対してβ遮断薬はダメ!」というのは時代遅れになってきたのでは・・・という意見がちらほら出始めました。特に、虚血性心疾患のリスクが高そうなCOPD患者さんに対してはむしろβ遮断薬を用いた方がよいのでは、という意見もあります3), 4)

 ただし、酸素療法を要するような超重症のCOPD患者さんに対してはβ遮断薬の有害性の方が上回るとされているので注意が必要です5)。また、ACOS(asthma-COPD overlap syndrome)のような気管支喘息との合併例に対しては安易に使用しない方がよいでしょう。COPDはともかくとして、気管支喘息に対しては有害であるという意見の方が多いためです6)

 虚血性心疾患の既往があったり、将来的にそのリスクが高いCOPD患者さんにおいて、トータルでみればβ遮断剤を使用した方が生命予後の改善に結び付く可能性が高いでしょう。私も、心筋梗塞二次予防、収縮性心不全の患者さんには積極的に導入してもよいかなと考えています。β遮断薬の作用機序に目が行きがちですが、患者さんが元気に長生きできるかどうか、という視点で捉えなければならないと思います。もちろん、個々の症例について効果とリスクを天秤にかける必要があることは言うまでもありません。


(参考文献)
1) Short PM, et al. Effect of beta blockers in treatment of chronic obstructive pulmonary disease: a retrospective cohort study. BMJ. 2011 May 10;342:d2549.
2) Salpeter S, et al. Cardioselective beta-blockers for chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2005 Oct 19;(4):CD003566.
3) Quint JK, et al. Effect of β blockers on mortality after myocardial infarction in adults with COPD: population based cohort study of UK electronic healthcare records. BMJ. 2013 Nov 22;347:f6650.
4) Du Q, et al. Beta-blockers reduced the risk of mortality and exacerbation in patients with COPD: a meta-analysis of observational studies. PLoS One. 2014 Nov 26;9(11):e113048.
5) Ekström MP, et al. Effects of cardiovascular drugs on mortality in severe chronic obstructive pulmonary disease. Am J Respir Crit Care Med. 2013 Apr 1;187(7):715-20.
6) Morales DR, et al. Adverse respiratory effect of acute β-blocker exposure in asthma: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Chest. 2014 Apr;145(4):779-86.
by otowelt | 2015-09-11 00:22 | コントラバーシー

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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