IPFと咳嗽
2016年 07月 13日

IPFの咳嗽は、日中に多く夜間に少ないという特徴があります(図)。GERDやSBSと違って、安静臥床時はかなり落ち着いていることが多いです。しかし、他の慢性咳嗽疾患と比べて、非常にしつこく強いものです。中枢気道に腫瘍が顔を出している悪性腫瘍のように、咳嗽は強い。そのため、経年的にQOLはどんどん損なわれ、体重も徐々に落ちていきます。

IPFの患者さんでは、カプサイシンによる化学的刺激(図)や胸壁振動による物理的刺激のいずれによっても咳感受性が強いことがわかっています4),5)。多くの咳嗽診療医も、きわめて咳が出やすい呼吸器疾患であることを認めています。

残念ながら、IPFによる慢性咳嗽を治療する有用な鎮咳薬はありません。唯一ランダム化比較試験が報告されているのは、サリドマイドです6)。「なぜにサリドマイド!?」とお思いの方もいるかもしれませんが、サリドマイドは強力な免疫調節薬で、抗炎症作用や抗血管新生作用を持ちます。この研究では、プラセボと比較してCQLQスコアを改善したとされています(プラセボとの平均差-11.4点[95%信頼区間-15.7~-7.0]、p<0.001)。また、VASに評価した咳嗽の重症度も有意に軽減させました。サリドマイドと聞くとなんだか副作用が多そうなイメージがありますが、非常に軽いものがほとんどです。便秘やめまいが有意に多かったそうです。

他にもインターフェロンαやプレドニゾロンといった薬剤が効果的とする報告もありますが4),7)、前者はコマーシャルベースで薬剤が出回っていませんし、後者はそもそもIPFへの投与がもはや推奨されていません。
もっぱらIPFに使用されているピルフェニドン(ピレスパ®)やニンテダニブ(オフェブ®)は努力性肺活量の低下を抑制する効果はありますが、咳嗽症状を軽減する効果はさほどないと考えられています。しかし、高用量ピルフェニドン(1800mg/日)を内服している患者さんでは、咳嗽の安定化が得られたという報告があるので、もしかすると幾ばくかの効果があるのかもしれません(図)8)。

なお、IPFと逆流性食道炎(GERD)には深い関連性があることが知られており、IPFの増悪にはGERDが大きく関与しているのではないかと考える研究者もいます。ただし、GERDに対するプロトンポンプ阻害薬(PPI)治療をおこなってもIPFの病態は改善せず、むしろ感染リスクを増加させるだけだと考えられています。そのため、現時点ではIPFに対するPPI使用は推奨されません9)。
(参考文献)
1) Vigeland CL, et al. Cough in idiopathic pulmonary fibrosis: more than just a nuisance. Lancet Respir Med. 2016 Jun 23. pii: S2213-2600(16)30150-3. doi: 10.1016/S2213-2600(16)30150-3. [Epub ahead of print]
2) Crystal RG, et al. Idiopathic pulmonary fibrosis. Clinical, histologic, radiographic, physiologic, scintigraphic, cytologic, and biochemical aspects. Ann Intern Med. 1976 Dec;85(6):769-88.
3) Key AL, et al. Objective cough frequency in Idiopathic Pulmonary Fibrosis. Cough. 2010 Jun 21;6:4.
4) Hope-Gill BD, et al. A study of the cough reflex in idiopathic pulmonary fibrosis. Am J Respir Crit Care Med. 2003 Oct 15;168(8):995-1002.
5) Jones RM, et al. Mechanical induction of cough in Idiopathic Pulmonary Fibrosis. Cough. 2011 Apr 10;7:2.
6) Horton MR, et al. Thalidomide for the treatment of cough in idiopathic pulmonary fibrosis: a randomized trial. Ann Intern Med. 2012 Sep 18;157(6):398-406.
7) Lutherer LO, et al. Low-dose oral interferon α possibly retards the progression of idiopathic pulmonary fibrosis and alleviates associated cough in some patients. Thorax. 2011 May;66(5):446-7.
8) Azuma A, et al. Exploratory analysis of a phase III trial of pirfenidone identifies a subpopulation of patients with idiopathic pulmonary fibrosis as benefiting from treatment. Respir Res. 2011 Oct 28;12:143.
9) Kreuter M, et al. Antacid therapy and disease outcomes in idiopathic pulmonary fibrosis: a pooled analysis. Lancet Respir Med. 2016 May;4(5):381-9.
by otowelt
| 2016-07-13 00:54
| びまん性肺疾患