Caplan症候群
2016年 11月 02日
1953年に内科医のAnthony Caplanは、炭鉱夫の塵肺患者さん14000人(1950~1952年調査)のうち特徴的な胸部レントゲン写真像を呈する関節リウマチ合併例の13人を抽出しました。これがCaplan症候群のはじまりです1)。その胸部レントゲン写真像とは、軽度の塵肺の陰影を背景にして比較的境界鮮明な類円形の陰影が多発し、数ヶ月で0.5~数cmの大きさに達するというものです(図)2)。
(文献1)より引用)
Caplan医師がこの文献で記していることは、14000人の塵肺患者さんのうち51人が関節リウマチを罹患しており、非関節リウマチ患者さんと比較して進行性塊状線維症(PMF)が多いということ(90% vs 30%)、そしてその51人のうち13人が特異な類円形の陰影(Caplan's lesions)を呈するということです。シンプルな塵肺所見を呈していたのは、リウマチ患者さん51人のうちたった4人だけだったと報告されています。Caplan症候群の患者さんではカテゴリー0ないし1の軽症塵肺を呈する例も多く、既存の塵肺重症度とCaplan’s lesionsに相関性はないことが示唆されます。
Goughらの検討によれば、Caplan's lesionsの病理学的所見はリウマチ結節のそれと一致するそうで、マクロファージによって囲まれる壊死を伴う炎症像と動脈内膜の炎症所見がみられたとのことです3)。Caplan's lesionsの発生機序として考えられているのは、肺に沈着した珪酸が関与した免疫学的なメカニズムです。珪酸がアジュバント(抗原性補強剤)として機能し、肺内に結節をつくるというものです。関節リウマチにおける炎症は、マクロファージ由来のTNF-αやIL-6といったサイトカインがトリガーになっています。マクロファージなどは粉塵などの異物存在下で刺激され、サイトカインを過剰に放出することでリウマチ結節形成を促進します4)。
Caplan症候群は、古典的には関節リウマチ+塵肺による類円形の陰影多発というものですが、疾患概念そのものが拡大解釈されて、非典型的な類円形の陰影を呈する塵肺例でリウマチ結節に合致した病理所見が得られれば、広義のCaplan症候群と考えるべきだと主張する研究者もいます。また、関節リウマチに限らず、強皮症など他の膠原病の存在によっても塵肺で肺病変が悪化することがあり5)-8)、膠原病の垣根を超えて広い意味でCaplan症候群を捉えている研究者もいます。
炭鉱夫の数万人に1人しか発症しない疾患であり、また日本の塵肺患者さんではCaplan型の免疫学的な経過を示す例はほとんどないとされています(ほとんどが珪肺型)9)ので、現代の呼吸器内科医がCaplan症候群に遭遇することはないかもしれません。ただ、関節リウマチの患者さんでは、外的因子がアジュバントとして作用し肺などの他臓器の病変を増長する可能性があることを知っておかねばなりません。それらの中には、関節リウマチ関連間質性肺疾患も含まれているのでしょう。
なお、Caplan症候群を疑う症例では肺結核の罹患が多いため9)、関節リウマチと塵肺の既往を有する患者さんに肺の異常陰影がみられた場合、喀痰抗酸菌検査を行うことがすすめられます。
ちなみにフランスではCaplan症候群のことをColinet-Caplan症候群と呼びます。これは類似の症例をColinetが報告・考察していることが由来です10)。
(参考文献)
1) Caplan A. Certain unusual radiological appearances in the chest of coal-miners suffering from rheumatoid arthritis. Thorax. 1953 Mar;8(1):29-37.
2) Schreiber J, et al. Rheumatoid pneumoconiosis (Caplan's syndrome). Eur J Intern Med. 2010 Jun;21(3):168-72.
3) Gough J, et al. Pathological studies of modified pneumoconiosis in coal-miners with rheumatoid arthritis; Caplan's syndrome. Thorax. 1955 Mar;10(1):9-18.
4) Pernis B. Silica and the immune system. Acta Biomed. 2005;76 Suppl 2:38-44.
5) Erasmus LD. Scleroderma in goldminers on the Witwatersrand with particular reference to pulmonary manifestations. S Afr J Lab Clin Med. 1957;3(3):209-31.
6) Innocencio RM, et al. Esclerose sistêmica associada à silicose pulmonar: relato de caso. Rev Bras Reumatol. 1998;38(4):249-52.
7) Costallat LT, et al. Pulmonary silicosis and systemic lupus erythematosus in men: a report of two cases. Joint Bone Spine. 2002;69(1):68-71.
8) Sanchez-Roman J, et al. Multiple clinical and biological autoimmune manifestations in 50 workers after occupational exposure to silica. Ann Rheum Dis.1993;52(7):534-8.
9) Honma K, et al. Rheumatoid Pneumoconiosis: A Comparative Study of Autopsy Cases between Japan and North America. Ann Occup Hyg. 2002;46(Suppl 1):265-7.
10) Colinet E. Evolutive chronic polyarthritis and pulmonary silicosis. Acta Physiother Rheumatol Belg. 1953;8(2):37-41.

Caplan医師がこの文献で記していることは、14000人の塵肺患者さんのうち51人が関節リウマチを罹患しており、非関節リウマチ患者さんと比較して進行性塊状線維症(PMF)が多いということ(90% vs 30%)、そしてその51人のうち13人が特異な類円形の陰影(Caplan's lesions)を呈するということです。シンプルな塵肺所見を呈していたのは、リウマチ患者さん51人のうちたった4人だけだったと報告されています。Caplan症候群の患者さんではカテゴリー0ないし1の軽症塵肺を呈する例も多く、既存の塵肺重症度とCaplan’s lesionsに相関性はないことが示唆されます。
Goughらの検討によれば、Caplan's lesionsの病理学的所見はリウマチ結節のそれと一致するそうで、マクロファージによって囲まれる壊死を伴う炎症像と動脈内膜の炎症所見がみられたとのことです3)。Caplan's lesionsの発生機序として考えられているのは、肺に沈着した珪酸が関与した免疫学的なメカニズムです。珪酸がアジュバント(抗原性補強剤)として機能し、肺内に結節をつくるというものです。関節リウマチにおける炎症は、マクロファージ由来のTNF-αやIL-6といったサイトカインがトリガーになっています。マクロファージなどは粉塵などの異物存在下で刺激され、サイトカインを過剰に放出することでリウマチ結節形成を促進します4)。
Caplan症候群は、古典的には関節リウマチ+塵肺による類円形の陰影多発というものですが、疾患概念そのものが拡大解釈されて、非典型的な類円形の陰影を呈する塵肺例でリウマチ結節に合致した病理所見が得られれば、広義のCaplan症候群と考えるべきだと主張する研究者もいます。また、関節リウマチに限らず、強皮症など他の膠原病の存在によっても塵肺で肺病変が悪化することがあり5)-8)、膠原病の垣根を超えて広い意味でCaplan症候群を捉えている研究者もいます。
炭鉱夫の数万人に1人しか発症しない疾患であり、また日本の塵肺患者さんではCaplan型の免疫学的な経過を示す例はほとんどないとされています(ほとんどが珪肺型)9)ので、現代の呼吸器内科医がCaplan症候群に遭遇することはないかもしれません。ただ、関節リウマチの患者さんでは、外的因子がアジュバントとして作用し肺などの他臓器の病変を増長する可能性があることを知っておかねばなりません。それらの中には、関節リウマチ関連間質性肺疾患も含まれているのでしょう。
なお、Caplan症候群を疑う症例では肺結核の罹患が多いため9)、関節リウマチと塵肺の既往を有する患者さんに肺の異常陰影がみられた場合、喀痰抗酸菌検査を行うことがすすめられます。
ちなみにフランスではCaplan症候群のことをColinet-Caplan症候群と呼びます。これは類似の症例をColinetが報告・考察していることが由来です10)。
(参考文献)
1) Caplan A. Certain unusual radiological appearances in the chest of coal-miners suffering from rheumatoid arthritis. Thorax. 1953 Mar;8(1):29-37.
2) Schreiber J, et al. Rheumatoid pneumoconiosis (Caplan's syndrome). Eur J Intern Med. 2010 Jun;21(3):168-72.
3) Gough J, et al. Pathological studies of modified pneumoconiosis in coal-miners with rheumatoid arthritis; Caplan's syndrome. Thorax. 1955 Mar;10(1):9-18.
4) Pernis B. Silica and the immune system. Acta Biomed. 2005;76 Suppl 2:38-44.
5) Erasmus LD. Scleroderma in goldminers on the Witwatersrand with particular reference to pulmonary manifestations. S Afr J Lab Clin Med. 1957;3(3):209-31.
6) Innocencio RM, et al. Esclerose sistêmica associada à silicose pulmonar: relato de caso. Rev Bras Reumatol. 1998;38(4):249-52.
7) Costallat LT, et al. Pulmonary silicosis and systemic lupus erythematosus in men: a report of two cases. Joint Bone Spine. 2002;69(1):68-71.
8) Sanchez-Roman J, et al. Multiple clinical and biological autoimmune manifestations in 50 workers after occupational exposure to silica. Ann Rheum Dis.1993;52(7):534-8.
9) Honma K, et al. Rheumatoid Pneumoconiosis: A Comparative Study of Autopsy Cases between Japan and North America. Ann Occup Hyg. 2002;46(Suppl 1):265-7.
10) Colinet E. Evolutive chronic polyarthritis and pulmonary silicosis. Acta Physiother Rheumatol Belg. 1953;8(2):37-41.
by otowelt
| 2016-11-02 00:15
| コラム:稀少呼吸疾患