喘息とマグネシウムの関連性

喘息とマグネシウムの関連性_e0156318_10523354.png・喘息とマグネシウムの関連性
 体内では、総マグネシウムのうち、約70~80%がイオン化マグネシウムとして存在すると言われており、その生理活性はイオン化マグネシウムが持つとされています。さて、喘息とマグネシウムの関連について、よく知られているのは喘息発作の治療薬としてのマグネシウムです。

 喘息に対するマグネシウムの作用機序は、イオン化マグネシウムが細胞外でイオン化カルシウムのアンタゴニストとして作用し、イオン化カルシウムによる平滑筋収縮作用を抑制することが主です1),2)。これにより気管支平滑筋が弛緩されやすい状態になり、喘息発作を軽減させます。in vivoでは軽微な影響ではあるものの、抗炎症作用を持つことが知られています。喘息発作の治療薬として短時間作用性β2刺激薬が用いられますが、マグネシウムはこの受容体の親和性を亢進する作用も併せ持ちます。そのほか、頻脈を抑制するはたらきがあり、に示したように複数の作用によって喘息発作を緩和する方向にはたらきます。

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図. 喘息とマグネシウムの関連

・喘息に対するマグネシウムの有効性
 今から30年近く前の研究で、喘息診療医の間ではよく知られたランダム化比較試験3)があります。喘息発作の患者をプラセボ生理食塩水静注群と1.2gの硫酸マグネシウム静注群に割り付け、ピークフロー値や入院アウトカムの改善がみられるかどうか検証したものです。結果、マグネシウム投与群で有意なアウトカムの改善がみられました。一方、ネブライザー吸入のマグネシウム、静注マグネシウム、プラセボの効果を比較した近年の研究4)では、投与経路にかかわらずマグネシウムは入院アウトカムや呼吸困難のスケールに有意な効果をもたらしませんでした。

 その後、ネブライザー吸入と静注に分けてコクランが別々にレビューをしています。質の低い研究が多いものの、ネブライザーマグネシウムの投与はわずかながら肺機能や喘息発作による入院を改善させたことを報告しています。しかしエビデンスとしては弱く、その他の喘息発作治療に比べると極めて弱い効果であることが明記されています5)。静注に関しては、成人喘息に対するマグネシウム投与は入院の頻度を減らすとされています6)。100人の喘息発作にマグネシウムを静注することで、約7人の入院を減らすことができるようですが、個人的にはそこまでの発作軽減力はないように感じています。

 当然ながら、死亡率を低下させるほどの効果はありませんので7)、重症喘息治療に対する奥の手として用いたとしてもやはりパワー不足というのが実のところではないでしょうか。

関連記事:マグネシウムは気管支喘息発作に本当に効果があるのか?


(参考文献)
1) Gourgoulianis KI, Chatziparasidis G, Chatziefthimiou A, et al. Magnesium as a relaxing factor of airway smooth muscles. J Aerosol Med. 14:301-307, 2001.
2) Sinert R, Spektor M, Gorlin A, et al.Ionized magnesium levels and the ratio of ionized calcium to magnesium in asthma patients before and after treatment with magnesium. Scand J Clin Lab Invest. 65:659-670, 2005.
3) Skobeloff EM, Spivey WH, McNamara RM, et al. Intravenous magnesium sulfate for the treatment of acute asthma in the emergency department.JAMA. 262:1210-1203, 1989.
4) Goodacre S, Cohen J, Bradburn M ,et al. Intravenous or nebulised magnesium sulphate versus standard therapy for severe acute asthma (3Mg trial): a double-blind, randomised controlled trial. Lancet Respir Med. 1:293-300, 2013.
5) Knightly R, Milan SJ, Hughes R, et al :Inhaled magnesium sulfate in the treatment of acute asthma. Cochrane Database Syst Rev. 11:CD003898, 2017.
6) Kew KM, Kirtchuk L, Michell CI, et al. Intravenous magnesium sulfate for treating adults with acute asthma in the emergency department. Cochrane Database Syst Rev. 28;CD010909, 2014.
7) Hirashima J, et al. Effect of intravenous magnesium sulfate on mortality in patients with severe acute asthma. Respirology. 21(4):668-73, 2016.







by otowelt | 2018-08-08 00:10 | レクチャー

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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