家庭内のMAC曝露源としてシャワーヘッドは盲点!?
2019年 12月 29日

この研究、MACと最終確認できなかった菌もカウントしているため、厳密に検出MACのみに限定するとすべて有意差がなくなっています(抗酸菌が陽性とは言えても、厳密に環境MACの陽性数が少なかったため)。要は「シャワーヘッドにNTMが存在すると、肺MAC症になりやすい」ということが示されたわけです。
自宅内の水、特に風呂場に存在することが近年ピックアップされています。自宅の水回りにMACが存在することは知られており(J Water Health. 2008;6(2):209-13.)、日本では特に風呂がリスクではないかと考えられてきました。実際、日本ではMACは台所の水道水からは分離されず、浴室内から分離されやすく、これがPFGE法やRFLP法で患者の喀痰分離株と相同性があることも示されています(Clin Infect Dis. 2007; 45:347-351.)。
気管支拡張症がある中高年は、土壌にも浴室にも注意するしかないのかもしれません。日本人は風呂が好きです。シャワーヘッドだけでなく、浴槽にもNTMが定着している可能性が高いでしょう。海外とは違い、入浴時間が長いため湯気への曝露が大きい。それが肺MAC症罹患のリスク因子になっているとするなら、シャワーヘッドや浴槽の掃除は定期的に行う必要があります。
Tzou CL, et al.
Association between Mycobacterium avium Complex Pulmonary Disease and Mycobacteria in Home Water and Soil: A Case-Control Study.
Ann Am Thorac Soc. 2020 Jan;17(1):57-62.
背景:
Mycobacterium avium complex (MAC)を含む非結核性抗酸菌(NTM)は、感受性のあるヒトに肺疾患を起こす病原微生物である。家庭での潜在的な暴露源には、蛇口やシャワーヘッドなどの使用場所の水源、園芸土壌が含まれる。これらの家庭環境におけるNTMのヒト健康への影響は、よく理解されていない。
目的:
この研究では、肺MAC症と家庭の水使用場所5ヶ所におけるNTM定着の関連性を調べた。
方法:
肺MAC症と診断されたワシントン州およびオレゴン州の住民、および年齢・性別・居住地でマッチしたコントロール集団(ランダム・デジット・ダイヤリング[Random Digit Dialing]で登録)において実施された症例対照研究である。
検体サンプルは、肺MAC症患者およびコントロール集団の浴室の蛇口、台所の蛇口、シャワーエアロゾル、屋内土壌、屋外土壌の5か所から採取された。シャワーを使わない場合、普段の入浴条件に近い状況を作り出してもらい、しかるべき場所から抗酸菌検体を採取した(検体採取のフェーズにかなり時間をかけた研究であるが詳しい手順は割愛させていただく)。環境抗酸菌は、PCRを併用した培養を用いて盲検的に調べられた。
肺MAC症患者の自宅から得られたNTM(N=56)、コントロール集団の自宅から得られたNTM(N=51)について、潜在的な交絡変数で補正した条件付きロジスティック回帰モデルを使用して定量的に比較した。
結果:
肺MAC症患者の自宅のシャワーエアロゾルからは、コントロール集団の自宅よりもNTMが分離されやすかった。補正条件付きロジスティック回帰分析によれば、シャワーエアロゾルから分離されたNTMは、患者の疾患と関連するオッズ比が高かった(オッズ比4.0、95%信頼区間1.2-13)。その他の自宅環境サンプル(水道水、土壌)ではこの関連性は明らかでなかった。

結論:
この研究では、シャワーのエアロゾルが家庭でのNTM暴露の非常に重要な発生源であることを示している。
by otowelt
| 2019-12-29 00:09
| 抗酸菌感染症