IPF急性増悪に対する全身性ステロイドはアウトカムを改善しない

IPF急性増悪に対する全身性ステロイドはアウトカムを改善しない_e0156318_10574046.jpg なかなか衝撃的な報告です。

Farrand E, et al.
Corticosteroid use is not associated with improved outcomes in acute exacerbation of IPF.
Respirology. 2019 Dec 17. doi: 10.1111/resp.13753.


背景および目的:
 IPF急性増悪(AE-IPF)はIPFに関する全死亡の約半分に先行する予後不良イベントである。こうした臨床的意義があるにもかかわらず、治療決定に関するデータは限られている。全身性ステロイドは堅固なエビデンスがあるわけではなく、むしろ害悪をもたすかもしれないという疑念もあるが、治療の主体として用いられている。AE-IPF患者の院内死亡率に対する全身性ステロイド治療の影響を評価した。

方法:
 UCSF医療センターの2010年1月1日~2018年8月1日までの電子診療録からAE-IPF患者を後ろ向きに同定した。全身性ステロイド治療(メチルプレドニゾロンパルス療法500mg/日以上あるいは高用量プレドニゾロン0.5mg/kg以上を2日以上)と院内死亡の関連性を、Coxモデルと適応による交絡因子を補正した傾向スコアを用いて評価した。セカンダリアウトカムに、再入院率、全生存期間を設定した。

結果:
 合計82人のAE-IPF患者が同定され(平均年齢66.8±10歳)、37人(45%)が全身性ステロイド治療を受けていた。AE-IPF患者のうち、特にICUレベルの治療と人工呼吸管理を受けた症例にステロイド治療が適用されやすかった。
 17人のAE-IPF患者が入院中に死亡し、14人(82%)がステロイド治療群、3人(18%)が非治療群だった。ステロイド治療を受けた症例と受けなかった症例では、院内死亡率に有意差はなかった(時間依存性共変量として人工呼吸器とICU入室で補正:補正ハザード比1.52、95%信頼区間0.37-6.18、p=56、傾向スコア:補正ハザード比1.31、95%信頼区間0.26-6.55, p=0.74)。全生存期間は、全身性ステロイド治療を受けたAE-IPF患者のほうが短かった(ハザード比6.17、95%信頼区間1.35-28.14, p=0.019)。

※初回入院場所、ベースラインの酸素使用、入院時DNRオーダー、BMI、抗菌薬治療で補正したモデル。

 再入院率にも統計学な有意差はなかった(補正ハザード比1.81;95%信頼区間0.46–7.17;P= 0.40)。

結論:
 我々の研究では、IPF患者が急性増悪を起こして入院した場合に全身性ステロイド治療を用いてもアウトカムは改善しないことが示された。むしろ、全身性ステロイド使用は、急性増悪後の全生存期間を短縮するかもしれない。大規模なリアルワールドコホートを用いた観察研究により、全身性ステロイド治療とAE-IPFの短期アウトカムの関連を示す必要があるだろう。




by otowelt | 2019-12-23 07:30 | びまん性肺疾患

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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