COVID-19:ネーザルハイフローは是か非か
2020年 04月 23日

臨床的知識と物理学的知識のある北岡先生から御意見をいただきました(実名公開可とのことです)。説得力のあるもので、当ブログで紹介すべきと判断しました。
・参考記事:COVID-19と酸素療法
・参考記事:COVID-19:ネーザルハイフローによるCOVID-19の管理
・参考記事:COVID-19:ネーザルハイフローはエアロゾル飛散リスクが低い
以下、いただいたご意見を転載いたします。
「東京農工大学生体医用システム工学科客員教授(元、株式会社JSOL学術顧問)の北岡裕子と申します。
4月19日にご紹介されておりますERJのCorrespondense「COVID-19:ネーザルハイフローはエアロゾル飛散リスクが低い」につきまして、深刻な懸念を抱いております。院内感染の危険にさらされながら診療にあたっておられます皆様に誤ったメッセージが伝わりかねないと思いまして、この場をお借りして私の意見を表明させていただきます。
このCorrespondenseの主張の根拠は、2019年にERJに掲載された論文(https://erj.ersjournals.com/content/53/4/1802339)で、空気中の微小粒子を可視化する装置を用いて人体モデルの内部で発生した煙の飛散距離を計測する実験がHFNCとCPAPに対して行われていますが、この実験には重大な疑義があります。HFNCの実験に用いた人体モデルの顔面の写真が論文に掲載されていますが、なぜか顔面がビニールのシートで覆われています。シートに関する説明は論文中には一切なく、CPAPの実験を撮影した画像にはビニールシートが写っていないことを考えると、ビニールシートは鼻孔から排出される空気を誘導するために加えられたもののように思われます。つまり、HFNCの飛散距離を小さく見せる意図が働いているのではないかと疑わざるを得ません。
ERJのCorrespondenseの2か月前にLancetにオンライン掲載されたCorrespondense (https://doi.org/10.1016/S2213-2600(20)30084-9)では、この論文に対して「実験に用いられたのは特殊なモデルとモードであり、一般病院では使用されていない」と批判し、「空気感染対応の個室でなければ6L/min以上のハイフローは勧めない」としています。ERJのCorrespondenseだけでなく、こちらのCorrespondenseも貴ブログでご紹介いただければ、と思います。
エアロゾルは、咳嗽時や挿管時、人工呼吸回路のエアリークなど、噴流(ジェット)に伴って発生することが知られていますが、発話の際にも咳嗽時と同様、声門が開閉することでエアロゾルが生じ、上気道内を浮遊します。HFNCでは上気道を大量の空気が通過して鼻孔から排出されるので、二酸化炭素だけでなくエアロゾルもウオッシュアウトされることになります。さらに、カニューラから放出された高速の気流が鼻咽腔の壁に衝突しますので、そこに存在するウイルスを含む粘液がエアロゾル化することも考えられます。したがって、通常の自発呼気によって排出されるよりもはるかに大量のウイルスがHFNC施行中に排出されると推測されます。HFNCは2009年の新型インフルエンザ流行当時は普及しておらず、ここ4,5年で急速に一般臨床現場に浸透しました。ですので、感染症に対する適応が議論される機会がほとんどなかったのではないかと思われます。
以上、生体工学的な立場から意見を述べさせていただきました。現場の皆様の感染リスクを低減することに役立てたらと思っております。ご高配お願い申し上げます。」
今後、できるだけこのブログでは偏った立場のものを連投しないよう配慮したいと思います。とりわけ論文の紹介に関しては、私の主観はできるだけ消したいのが本音なのです。北岡先生、示唆に富むコメントをいただきありがとうございました。
HFNCは、一般病棟やオープンICUでホイホイ使うのは当然ダメで、総陰圧&個室管理で空気感染対策をしている場合に限ってギリギリ容認できる水準なのかもしれません。
ちなみに、数あるPros/Consの中で、もっとも中立的なコメントを出しているなぁと思ったのが日本クリティカルケア看護学会です。

by otowelt
| 2020-04-23 16:03
| 感染症全般