COVID-19:唾液PCRは妥当か?
2020年 05月 02日
■にわかに高まる"唾液PCR"機運
鼻咽頭スワブの枯渇を受けて、自治体によっては、鼻咽頭と喀痰の両方を提出するのではなく、可能なら喀痰を第一にというお達しが出ています。
ある衛生研究所からの通達:「検体の優先順位を考え、検体は1人1検体にしていただけるよう、ご協力をお願いしたく思っております。検体の優先順位は、陽性率の高いものから順に、①喀痰 ②鼻咽頭ぬぐい液 とさせていただきます。①が採取できた場合は、可能であれば、極力、①のみのご提出をお願いできますでしょうか。」
ここで気になるのが、"喀痰という名の唾液"でも大丈夫か?ということです。アメリカではすでに唾液を使ったPCR検査が開始されています。
鼻咽頭スワブは、鼻が痛いので、できれば受けたくないと思っている人が多いでしょう。私もイヤです。唾液なら、自分で採取できる上、医療従事者への曝露リスクが減らせるため、検査精度が保証されるなら唾液を使いたいところです。
■当初から報告されていた唾液PCR
唾液におけるSARS-CoV-2のPCRが陽性になるという話は、前からありました。たとえば、香港では12人のCOVID-19患者のうち、11人の唾液PCRが陽性だったと報告されています(図1)1)。これは、自分で喀痰を採取できた集団なので、それなりに軽症をみています。また、イタリアの重症例における検討2)においても、COVID-19患者25人全員で唾液PCRが陽性だったと記載されています。
(図1:文献より引用)
ところで、忽那賢志先生のニュース(新型コロナの唾液を介した感染は起こり得るのか?)で目にした情報ですが、SARS-CoV-2が侵入するACE2受容体は、口腔内粘膜、特に舌に多く発現しているというデータがあるそうです(図2)3)。受容体総数としては消化器系に発現が多いですが、口腔近辺に限定すると舌に多いことが分かります。
(図2:文献より引用)
唾液PCRが陽性になる期間はそこそこ長く、先ほどの香港のTo先生の別論文で参考になるデータがあります4)。COVID-19確定患者23人の検体を検討したところ、唾液ウイルス量は発症後初週が最も多く、その後は経時的に減少するものの、4週間近く経過しても検出可能だったそうです(図3)。また、高齢だとウイルス量が多くなる相関性がありました(P=0.020)。 (図3:文献より引用)
■鼻咽頭ぬぐい液 vs 唾液
重要なのは、これまでゴールドスタンダードとされてきた鼻咽頭ぬぐい液や唾液などとの比較です。
プレプリントの報告5)では、唾液のSARS-CoV-2 PCRは、鼻咽頭ぬぐい液のPCRよりウイルス量が多く、感度が高いかもしれないとされています(図4)。 (図4:文献より引用)
また、鼻咽頭スワブのPCR陽性例39人中33人(84.6%; 95%信頼区間70.0%-93.1%)で、唾液PCRが陽性になったというというオーストリアの報告もあります(図5)6)。また、ウイルス量は鼻咽頭のほうが多いという結果でした。 (図5:文献より引用)
唾液が鼻咽頭ぬぐい液を凌駕するという確証はないものの、"おおむね"拾い上げられる水準であることは確かのようです。
喀痰と唾液の違いは、呼吸器内科的には何とも言えないところで、"喀痰という名の唾液"がほとんどを占めている可能性があるため、議論すべきは鼻咽頭ぬぐい液 vs 唾液という構図でよいでしょう。
(参考文献)
1) To KK, et al. Consistent detection of 2019 novel coronavirus in saliva. Clin Infect Dis. 2020 Feb 12. pii: ciaa149. doi: 10.1093/cid/ciaa149.
2) Azzi L, et al. Saliva is a reliable tool to detect SARS-CoV-2. J Infect. 2020 Apr 14. pii: S0163-4453(20)30213-9. doi: 10.1016/j.jinf.2020.04.005.
3) Xu H, et al. High expression of ACE2 receptor of 2019-nCoV on the epithelial cells of oral mucosa. Int J Oral Sci. 2020 Feb 24;12(1):8. doi: 10.1038/s41368-020-0074-x.
4) To KK, et al. Temporal profiles of viral load in posterior oropharyngeal saliva samples and serum antibody responses during infection by SARS-CoV-2: an observational cohort study. Lancet Infect Dis. 2020 Mar 23.
5) Wyllie AL, et al. Saliva is more sensitive for SARS-CoV-2 detection in COVID-19 patients than nasopharyngeal swabs. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.16.20067835v1
6) Williams E, et al. Saliva as a non-invasive specimen for detection of SARS-CoV-2. J Clin Microbiol. 2020 Apr 21. pii: JCM.00776-20. doi: 10.1128/JCM.00776-20.
鼻咽頭スワブの枯渇を受けて、自治体によっては、鼻咽頭と喀痰の両方を提出するのではなく、可能なら喀痰を第一にというお達しが出ています。
ある衛生研究所からの通達:「検体の優先順位を考え、検体は1人1検体にしていただけるよう、ご協力をお願いしたく思っております。検体の優先順位は、陽性率の高いものから順に、①喀痰 ②鼻咽頭ぬぐい液 とさせていただきます。①が採取できた場合は、可能であれば、極力、①のみのご提出をお願いできますでしょうか。」
ここで気になるのが、"喀痰という名の唾液"でも大丈夫か?ということです。アメリカではすでに唾液を使ったPCR検査が開始されています。
鼻咽頭スワブは、鼻が痛いので、できれば受けたくないと思っている人が多いでしょう。私もイヤです。唾液なら、自分で採取できる上、医療従事者への曝露リスクが減らせるため、検査精度が保証されるなら唾液を使いたいところです。
■当初から報告されていた唾液PCR
唾液におけるSARS-CoV-2のPCRが陽性になるという話は、前からありました。たとえば、香港では12人のCOVID-19患者のうち、11人の唾液PCRが陽性だったと報告されています(図1)1)。これは、自分で喀痰を採取できた集団なので、それなりに軽症をみています。また、イタリアの重症例における検討2)においても、COVID-19患者25人全員で唾液PCRが陽性だったと記載されています。
ところで、忽那賢志先生のニュース(新型コロナの唾液を介した感染は起こり得るのか?)で目にした情報ですが、SARS-CoV-2が侵入するACE2受容体は、口腔内粘膜、特に舌に多く発現しているというデータがあるそうです(図2)3)。受容体総数としては消化器系に発現が多いですが、口腔近辺に限定すると舌に多いことが分かります。
唾液PCRが陽性になる期間はそこそこ長く、先ほどの香港のTo先生の別論文で参考になるデータがあります4)。COVID-19確定患者23人の検体を検討したところ、唾液ウイルス量は発症後初週が最も多く、その後は経時的に減少するものの、4週間近く経過しても検出可能だったそうです(図3)。また、高齢だとウイルス量が多くなる相関性がありました(P=0.020)。
■鼻咽頭ぬぐい液 vs 唾液
重要なのは、これまでゴールドスタンダードとされてきた鼻咽頭ぬぐい液や唾液などとの比較です。
プレプリントの報告5)では、唾液のSARS-CoV-2 PCRは、鼻咽頭ぬぐい液のPCRよりウイルス量が多く、感度が高いかもしれないとされています(図4)。
また、鼻咽頭スワブのPCR陽性例39人中33人(84.6%; 95%信頼区間70.0%-93.1%)で、唾液PCRが陽性になったというというオーストリアの報告もあります(図5)6)。また、ウイルス量は鼻咽頭のほうが多いという結果でした。
唾液が鼻咽頭ぬぐい液を凌駕するという確証はないものの、"おおむね"拾い上げられる水準であることは確かのようです。
喀痰と唾液の違いは、呼吸器内科的には何とも言えないところで、"喀痰という名の唾液"がほとんどを占めている可能性があるため、議論すべきは鼻咽頭ぬぐい液 vs 唾液という構図でよいでしょう。
(参考文献)
1) To KK, et al. Consistent detection of 2019 novel coronavirus in saliva. Clin Infect Dis. 2020 Feb 12. pii: ciaa149. doi: 10.1093/cid/ciaa149.
2) Azzi L, et al. Saliva is a reliable tool to detect SARS-CoV-2. J Infect. 2020 Apr 14. pii: S0163-4453(20)30213-9. doi: 10.1016/j.jinf.2020.04.005.
3) Xu H, et al. High expression of ACE2 receptor of 2019-nCoV on the epithelial cells of oral mucosa. Int J Oral Sci. 2020 Feb 24;12(1):8. doi: 10.1038/s41368-020-0074-x.
4) To KK, et al. Temporal profiles of viral load in posterior oropharyngeal saliva samples and serum antibody responses during infection by SARS-CoV-2: an observational cohort study. Lancet Infect Dis. 2020 Mar 23.
5) Wyllie AL, et al. Saliva is more sensitive for SARS-CoV-2 detection in COVID-19 patients than nasopharyngeal swabs. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.16.20067835v1
6) Williams E, et al. Saliva as a non-invasive specimen for detection of SARS-CoV-2. J Clin Microbiol. 2020 Apr 21. pii: JCM.00776-20. doi: 10.1128/JCM.00776-20.
by otowelt
| 2020-05-02 10:47
| 感染症全般