COVID-19:PPEとしてのマスク装着

COVID-19:PPEとしてのマスク装着_e0156318_2201476.pngはじめに:
当院のCOVID-19病棟では、現状N95マスクを装着して診療にあたっています。しかし、他施設の話を聞いていると、病棟内はサージカルマスクで対応しているところも多いようです。飛沫感染が主体であり、基本的にはN95マスクほどの高価なものを使わなくても大丈夫というのがその理由ですが、エアロゾル発生が議論されて以来、特に酸素療法を適用している患者さんに接する場合、N95マスクを装着している施設が増えています。

そもそも、院内におけるウイルス感染を予防するためにN95マスクがよいのかサージカルマスクがよいのかは、まだ議論の余地があります(CMAJ 2016;188:567-74.)。SARSパンデミックの際、同マスクが効果的であったという研究もありますが(BMJ 2008;336:77-80.)、新型インフルエンザ流行時に検討されたメタアナリシスでは有意な感染予防効果はないと報告されています(Epidemics 2017;20:1-20.)。

安価で大量にN95マスクが手に入るのならそのようにしたらよいと思いますが、現状、N95マスクは日本への輸入が滞っており、何枚かを使い回さざるを得ない施設もあるでしょう。厚労省から「N95マスクの例外的取扱いについて」(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000621007.pdf)という通達があり、滅菌器活用等による再利用を当院でも検討しています。


研究の概要:
今回紹介するのは、マスクとウイルス感染症の予防についての過去の研究を抽出し、マスクが感染予防効果があるかどうかを検討したシステマティックレビューおよびメタナリシスです。

Liang M, et al.
Efficacy of face mask in preventing respiratory virus transmission: A systematic review and meta-analysis
Travel Med Infect Dis . Jul-Aug 2020;36:101751.


このシステマティックレビューの適格基準は、①フェイスマスクと呼吸器系ウイルス感染症の予防について調べた研究、②呼吸器系ウイルスは検査室で診断されたか、各診断基準を用いて妥当に診断されたもの、③オッズ比算出が可能となる症例データが追跡可能、④適切な試験デザイン、⑤言語は英語に規定しない、とされ、除外基準は①症例報告や学会発表などの不完全データ、②複製出版あるいは重複研究、③フルテキストが入手できない、とされました。

合計21研究が適格とされ、そのうち13が症例対照研究、6がクラスターランダム化比較試験、2がコホート研究でした。このうち12の研究が医療従事者を対象としたものです。11研究は中国で実施されていた。7研究がSARS-CoV、12研究が季節性インフルエンザウイルス、5研究がH1N1インフルエンザウイルス、1研究がSARS-CoV-2を対象としていました。

21研究には8,686人の被験者が含まれました。解析の結果、マスクの使用は、呼吸器系のウイルス感染拡大を予防する効果が認められました(プールオッズ比0.35, 95%信頼区間0.24-0.51, I2=60%)。
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図. 呼吸器系ウイルス感染症に対するマスクの効果(文献より引用)

医療従事者に対する研究限ると、この感染拡大予防効果はさらに顕著になりました(プールオッズ比0.20、95%信頼区間0.11-0.37, I2=59%)。

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図. 医療従事者における呼吸器系ウイルス感染症に対するマスクの効果(文献より引用)

国ごとに違いはなかったのかを調べたところ、アジアでは極めて保護的な効果があったそうです(オッズ比0.31、95%信頼区間0.19-0.50, I2=65%)。これは医療従事者でも同様の現象でした(オッズ比0.21, 95%信頼区間0.11-0.41、I2=64%)。ウイルスごとにみると、インフルエンザではオッズ比率0.55(95%信頼区間0.37-0.76, I2=27%)、SARS-CoVではオッズ比0.26(0.18-0.37, I2=47%)、SARS-CoV-2は残念ながら1研究しかありませんが、オッズ比0.04(95%信頼区間0.00-0.60,I2=0%)という結果でした。

試験デザイン別の検討では、観察研究においてもクラスターランダム化比較試験においても、いずれも有意な予防効果が得られました。


考察:
N95マスクとそれ以外のマスクで感染予防効果に差があるのかを調べた別のメタアナリシス(Influenza Other Respir Viruses. 2020;14(4):365、Clin Infect Dis. 2017;65(11):1934.)では、ウイルス感染症やインフルエンザ様症状について、マスクの種類で差はなかったと報告されています。もちろん結核などの空気感染が確実な細菌感染症においては重要な違いがあるでしょうが、少なくともSARS-CoV-2を含む呼吸器系のウイルスに対しては「マスクを装着していること」が至上課題で、目の粗さはそこまで大きな意義を持たないのかもしれません。

LancetからSARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoV、βコロナウイルスの研究を対象とした別のメタアナリシスが報告されていますが(Lancet . 2020 Jun 27;395(10242):1973-1987.)、これによればマスク着用で大きく感染リスクが減少し(補正オッズ比0.15, 95%信頼区間0.07-0.34、リスク差-14·3%)、N95相当マスクのほうが数値的には良好に思われます(図)。

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図. マスク別のウイルス感染リスク(文献より改変引用)

エアロゾルが大量に発生するようなCOVID-19、たとえばネーザルハイフローを装着している患者の看護や、吸痰を要する場合などはN95マスクのほうが望ましいですね(CDCの推奨:https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-nCoV/hcp/infection-control.html)。

ルーチンのCOVID-19患者あるいは疑い患者の診療においてN95マスクかサージカルマスクか、という命題はまだ結論がついていませんが、少なくとも布製のマスクについては現在どのガイドラインでも推奨されていません。N95マスクがたやすく入手できるのであればそのほうがよいかもしれませんが、日常診療で一日中N95マスクを装着するというのはわれわれ医療従事者においてかなりのストレスでもあります。

要は、目の前の患者からSARS-CoV-2をどのように防ぐかというケースバイケースの観点を持つことが重要で、そのPPEの1つがサージカルマスクであろうとN95マスクであろうと、手洗いを励行し目・鼻・口を触らないという普段からの予防策のほうが重要であることは言うまでもありません。

マスクについては忽那先生が分かりやすい記事を書かれています。
マスクが新型コロナの重症化を防ぐ、という仮説(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200920-00197964/



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by otowelt | 2020-09-27 06:43 | 感染症全般

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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