肺MAC症における新規空洞形成のリスク因子
2021年 03月 20日
MACのうち、intracellulare率は西日本のほうが高いです(Morimoto K, et al. Ann Am Thorac Soc . 2017;14(1):49-56. /Suzuki K, et al. Respir Investig. 2018;56(1):87-93.)。Mycobacterium aviumとM. intracellulareのどちらがより悪いかという切り口もあって、MACのうち、M. intracellulareのほうがM. aviumよりも広範囲に陰影がみられやすいと報告されています(AJR Am J Roentgenol . 2013 Oct;201(4):764-72.)。しかし、これ以前で、逆の報告もあります(Int J Tuberc Lung Dis . 1998 Jul;2(7):597-602.)。
M. aviumの菌株のうち播種性MACで多いのは、Mav-B>Mav-A>Mav-Eで、リンパ節のMACでもこの頻度とされています。Mav-A/Bが播種性に陥りやすい理由は、①マクロファージ誘導性mig遺伝子(M. aviumにはあるがM. intracellulareにはみられない)の発現が多い、②hemolysin発現が多い、という説があります。mig遺伝子があると、マクロファージ内で菌が生存しやすいことが分かっています。hemolysinは、細胞壁関連タンパクであるため、細胞内でMACが生きていくために重要とされています。
概要:
■非空洞性・結節気管支拡張型(NC-NB)の肺Mycobacterium avium complex症(MAC-PD)患者における、空洞形成の時間的ダイナミクスはまだ十分に解明されていない。われわれは、MAC-PDのNC-NBにおいて新規空洞発生の予測因子を同定するべくデータを収集した。
■2002年から2013年の間にNC-NB型MAC-PDと診断され、韓国の三次医療センターで2018年7月まで追跡された患者のうち、少なくとも1回の胸部CT撮影を受けた589人の患者を登録した。診断後、診療録を後ろ向きに分析した。
■患者の平均年齢は62.0歳で、64.7%が女性だった。追跡期間中央値は3.8年(IQR 1.7-5.9年)だった。51人(8.7%)の患者で新規空洞性病変が観察された。NC-NB型のMAC-PDの診断と空洞形成の間隔の中央値は3.7年(IQR 1.8-5.4年)で、時間経過とともに一定の発生が観察された。Cox回帰分析により、肺結核の病歴(補正ハザード比1.85; 95%信頼区間1.06-3.23; P = 0.030)および原因菌としてのM. intracellulare(補正ハザード比2.03; 95%信頼区間1.15-3.59; P = 0.014)は、独立した新規空洞形成のリスク因子だった。
■NC-NB型MAC-PDと診断されて約4年後に患者の8.7%で空洞形成が観察された。特にM. intracellulareに感染した患者と結核の既往歴のある患者でリスクが高かった。
新規空洞は、間違いなく肺MAC症における予後不良因子です。いかにハイリスク例に早期治療を導入するかが重要で、近年肺MAC症の患者数が増えてきたのは、プライマリ・ケアの意識が芽生えてきたからではないか・・・と期待しています。基礎疾患のある肺にM. intracllulareが感染すると空洞形成を起こして重症化しやすいという結論になっていますが、呼吸器臨床ではそこまでM. aviumとの差を感じることはありません。病原性を決める因子として、菌種よりもたとえばコロニー形態など別の観点のほうが重要かもしれません。
by otowelt
| 2021-03-20 00:01
| 抗酸菌感染症