既感染者に対するSARS-CoV-2ワクチン接種
2021年 02月 26日
・厚労省
新型コロナウイルスワクチンに関するQ&Aがウェブサイトで公開されています(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00222.html#020)。これによると、「既にコロナウイルスに感染した人も、新型コロナワクチンを受けることができます。 ただし、受けた治療の内容によっては、治療後から接種まで一定の期間をおく必要がある場合がありますので、いつから接種できるか不明な場合は、主治医にご確認ください。 また、事前に感染したことかどうかを検査して確認する必要はありません。」とのことです。
・CDC
CDCもウェブサイト(URL:https://www.cdc.gov/vaccines/covid-19/info-by-product/clinical-considerations.html)で既感染者に対するワクチン接種について明記しています。COVID-19経験者に対するワクチンがアナフィラキシーリスクを高めないのか、データの注視が必要としています。イスラエルで、既感染者に対してワクチンを接種したところ重篤化したという男性に関する報道がありましたが、因果関係は不明です。
「Note: Vaccination is recommended for persons with a history of COVID-19; however, because reinfection is uncommon in the months following infection, persons with a precaution to vaccination and recent COVID-19 may choose to defer vaccination until further information is known about the risk of anaphylaxis following vaccination.(COVID-19の既往がある人へのワクチンは推奨されるが、感染後何ヶ月か経過した時点で再感染する事象はまれであり、ワクチンに懸念がある人や最近COVID-19に罹患した人はアナフィラキシーに対する情報が得られるまで、接種を延期してもよい)」
・フランス
フランス公衆衛生当局は、過去にCOVID-19に罹患した人は、ワクチン1回分と同等の免疫反応が得られていることから、1回のみの接種で十分な可能性が高いとしています。ただし、回復した人がワクチン接種を受ける場合は、感染後3~6ヶ月程度間隔を空けるよう勧告しています(URL:https://www.has-sante.fr/jcms/p_3237456/en/une-seule-dose-de-vaccin-pour-les-personnes-ayant-deja-ete-infectees-par-le-sars-cov-2)。
・SARS-CoV-2既感染者には1回接種でよい?
既感染者にmRNAワクチンを1回接種すると、SARS-CoV-2抗体価は著明に上昇し、2回目投与によるブースター効果はなかったという報告があります(プレプリント)。全身性の副反応は、既感染群のほうで頻度が高いことも示されています。
上記とは別のメリーランド大学からの報告によると(これもプレプリント)、mRNAワクチン(被験者の約半数がファイザー・約半数がモデルナ)を1回接種すると、過去COVID-19を罹患した医療従事者は、ワクチン接種によって14日目までに明確な抗体価上昇を示しました(p<.0001)。
記事を公開した直後にLancetに短報が掲載されました。
72人の医療従事者における、BNT162b2ワクチンの初回接種時と接種後21〜25日の血液検査データをみたものです。参加者のうち、21人(29%)は、過去にSARS-CoV-2に感染していました。非感染者よりも既感染者のほうが、有意にワクチンによる抗体価上昇が大きく(中央値16353 AU/ mL [IQR 4741–28581] vs 615.1 AU/mL[286.4–1491]、p <0.0001)。以前に自然感染したもののベースラインで血清学的に陰性だった5人については、これらの間くらいの抗体価でした。非感染者に限っては、50歳超の人と50歳未満の人に抗体価上昇の差がみられ、高齢ほど不利という結果でした。
(抗体価:文献より引用)
また、非感染者では、ワクチン接種により16血清中15血清で検出可能な中和抗体が誘導されたものの、力価そのものは既感染者よりも低いという結果でした。
ワクチン接種後、既感染者はスパイクペプチドに対する極めて強いT細胞応答を示しましたが、非感染者ではこれは低いという結果でした。先ほどの体液性の応答とは異なり、T細胞応答の程度に年齢による相関性は観察されませんでした。
さて、上記のようなデータがあるとはいえ、日本では、フランスのように機動的に制度上「1回接種にとどめる」ことは難しいと思われます。感染既往がない人に対しても、ロジスティクスの観点から政府は1回でもやむを得ないという雰囲気を出していますが、どうでしょうか。
2月24日にFDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンが開発中の1回接種型の新型コロナウイルスワクチンについて、「安全かつ有効」とコメントを発表しています(ENSEMBLE試験において接種後28日以降の中等症および重症COVID-19の予防効果が示された)。ウイルスベクターワクチンで、少なくとも3ヶ月間は2~8℃で保存ができるという点が優れています。
by otowelt
| 2021-02-26 03:01
| 感染症全般