ANZACS-QIレジストリ:ACSにおける酸素投与の是非
2021年 03月 05日
私が医者になったときは、アメリカの医学書に倣って「ACSをみたらM:塩酸モルヒネ,O:酸素,N:ニトログリセリン,A:アスピリン」という教育がなされていました。保険適応の観点からモルヒネを使うことはまずありませんでしたが、右室梗塞では静脈還流不全を惹起するため、ニトログリセリンをエイヤっと投与したらエライことになります。
今回の論文は、酸素投与についてです。正常を大きく超える酸素飽和度は、冠動脈の収縮を引き起こしたり、酸化ストレスを増加させたりするため有害とされています。そのため、現行のガイドラインは低酸素血症がないSTEMI患者さんには酸素投与を推奨していません(Circulation 2014;130:2354-94., Eur Heart J 2018;39:119-77., Thorax 2017;72(Suppl 1):ii1-90., Circulation 2013;127:e362-425., Eur Heart J 2016;37:267-315.)。日本のガイドラインでも「酸素飽和度90%以上の患者に対してルーチンの酸素投与は推奨されない(推奨クラスIII、エビデンスレベルA)」となっています。
目的:
急性冠症候群(ACS)が疑われる患者への高流量酸素投与と30日死亡率との関連を明らかにすること。
デザイン:
クラスターランダム化クロスオーバー試験。
場所:
ニュージーランドの4地域。
参加者:
研究期間中にANZACS-QIコホートまたは救急車によるACS診断で登録された40872人の患者が対象となった。20304人の患者が高酸素プロトコルを用いて管理され、20568人が低酸素プロトコルを使用して管理された。
■高酸素プロトコル:
胸痛または呼吸困難および虚血性心電図変化のある患者は、酸素飽和度に関係なく、フェイスマスクで6〜8 L / min、または鼻カニューレで4L/minの酸素投与を受ける。酸素飽和度95%を超えるために流量アップが必要な場合は、増量可能とした。心筋虚血が解消されたと判断されるまで酸素投与は継続された。
■低酸素プロトコル:
酸素飽和度を90%~94%に維持するように流量を調整し、心電図の変化を伴う胸痛または呼吸困難の患者にのみ酸素を推奨した。
主要評価項目:
30日時点での総死亡率。
結果:
両酸素プロトコル下で管理された患者の個人的・臨床的特徴はよく一致していた。ACSが疑われる患者の場合、高酸素プロトコル群と低酸素プロトコル群の30日死亡はそれぞれ613人(3.0%)と642人(3.1%)だった(オッズ比0.97、95%信頼区間0.86〜1.08)。STEMIの4159人(10%)の患者では、高酸素プロトコル群と低酸素プロトコル群の30日死亡率はそれぞれ8.8%(n = 178)と10.6%(n = 225)だった(オッズ比0.81、95%信頼区間0.66~1.00)、非STEMI10218人(25%)では、それぞれ3.6%(n = 187)と3.5%(n = 176)だった(オッズ比1.05、95%信頼区間0.85~1.29)。
結論:
ACSが疑われる大規模患者コホートでは、高酸素プロトコルは30日死亡率の増加/減少とは関連していなかった。
by otowelt
| 2021-03-05 00:30
| 集中治療