COVID-19:学校におけるソーシャル・ディスタンスの効果

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フィジカル・ディスタンシングというのがたぶん正しい用語なのですが、浸透している「ソーシャル・ディスタンス」という言葉にさせていただきます。ちなみにWikipediaでは「社会距離拡大戦略」という訳語になっていますが、誰も使っていませんね・・・。

学校におけるソーシャル・ディスタンスは、おそらく感染症学的には効果がないだろうと思いますが、どちらかといえば意識させる啓蒙的意味合いのほうが大きいのかかもしれません。

というわけで、CDCは現在2mではなく1mのディスタンスを推奨しています。



  • 概要:
■国内・国際的なガイドラインは、SARS-CoV-2感染の予防における最適なソーシャル・ディスタンスについての推奨が異なる。

■学校環境における3フィート(約0.9m)以上と6フィート(約1.8m)以上のソーシャル・ディスタンスを直接比較したデータは不足している。この研究の目的は、マサチューセッツ州の公立学校生徒と教職員におけるSARS-CoV-2感染の発生事例を、ソーシャル・ディスタンスの要件が異なる地区間で比較することである。州のガイダンスでは、全学校職員と小学校2年生以上の生徒にユニバーサルマスキングを義務づけている。

■K-12年限にある生徒と対面学習に従事する教職員の間のSARS-CoV-2陽性者・COVID-19の地域発生率および地区感染管理計画がリンクされた。ソーシャル・ディスタンスが3フィート(約0.9m)以上および6フィート(約1.8m)の地区の生徒と教職員の罹患率比(IRR)が対数二項回帰を用いて推定された。

■251学区において、16週間の間に53万7336人の生徒と9万9390人の教職員が登録された。学習機会曝露は、生徒が640万175 learning weeks、教職員が1,34万2574 learning weeksに相当した。生徒における242地区のSARS-CoV-2感染の発生率は、ソーシャル・ディスタンスが3フィートと6フィートのいずれの場合においても同等だった(IRR0.891、95%信頼区間0.594-1.335)。地域での発生率によって補正をしても、同様の結果だった(補正IRR0.904、95%信頼区間0.616-1.325)。教職員におけるSARS-CoV-2感染の発生率も、同等だった(IRR1.015、95%信頼区間0.754-1.365)。
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. SARS-CoV-2陽性率(文献より引用)


意識づくりという点ではソーシャル・ディスタンスは意味があると思います。ただ、手指衛生やユニバーサルマスキングを上回る効果はなさそうで、特に小学生のように友達同士で遊ぶことが当たり前の世代にとって、精神的なデメリットのほうが大きいという見解すら出ています。limitationとしては、公式ガイダンスと実装ポリシーにおそらく差があること、学校の種類を層別化していないこと、ユニバーサルマスキングが遵守されていたためこの低減効果がどのくらいあったのか考察できなかったこと、が挙げられます。



by otowelt | 2021-03-21 00:44 | 感染症全般

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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