何かが違う、⼤阪コロナ第4波
2021年 04月 09日
日経メディカルオンラインに寄稿した原稿です。
表. 第3波、第4波、変異株の比較(第44回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議の公開資料より[URL:http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/38215/00391753/1-5_daiyonpa.pdf)
■何かが違う、⼤阪コロナ第4波 (URL:https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/kurahara/202104/569838.html)
・第4波の症例の特徴は…
当院は大阪府の軽症中等症病床55床を担当しています(第3波収束時病床数を絞りつつあったが緊急増床)。軽症例はまれで、ほぼ全員が中等症です。
4月に入ってから、入院要請されるCOVID-19患者さんの多くが、高齢者層よりやや下の40~60歳台の中高年層で、両側肺炎と低酸素血症を有していることに気づきました。特に、2型糖尿病や肥満がある患者さんは、かなり肺炎が重症化している印象です。
第3波までは「このCOVID-19患者さんはおそらく大丈夫だろう」と思っていたようなケース、たとえば「45歳女性、糖尿病、HbA1c7.2%、夫から感染、安静時SpO2 94%」のような症例でも、第4波では、胸部画像検査を行うと両肺に濃厚な肺炎像があり、そのまま数日以内に気管挿管を要するARDSに陥ることがあります。第3波では「背筋がゾっとする」症例が時にあったのですが、第4波は半数くらいがそれです。
変異株かどうかはスクリーニング対象のCOVID-19でないと分かりませんが、もしかするとこの40~60歳台のCOVID-19の多くは、N501Y変異株をみているのかもしれません。第1~3波とは、明らかに臨床像が異なります。
特に異なると感じるのは、重症化までの速度です。第44回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議の公開資料によると、第4波は第3波と比べて、発症から重症化までの日数が7日と1日短く、大阪府のN501Y変異株例については6日とさらに1日短いとされています。
・重症患者⽤の病床が逼迫
2021年4月8日、大阪府の新規感染者数は過去最多の905人となりました。重症患者さんも167人まで増加しています。第3波が収束しつつあった頃、大阪府は重症病床数をかなり減らしていました。緊急事態宣言の緩和が東京よりも3週間早かったことと、卒業・入学・異動シーズンを迎えたことが重複し、想定を上回る角度で患者数が増加してしまいました。さらに、ベースラインの重症患者さんが大阪府内にすでに約60人いた状態で第4波に突入したため、発射台が高い状態であったことが、今回の病床逼迫に直結したものと考えられます。
大阪府は、緊急的に大学病院などに増床を依頼していますが、患者の増加スピードに増床が追い付いておらず、重症病床の転院引き受けが難しくなっている現状です。同時に軽症中等症病床も早急に増床していますが、現在それらの病床でも人工呼吸管理をおこなわざるを得ない状況となっています。
・ハードルとなる退院基準
変異株の退院基準は、「37.5 度以上の発熱が24時間なく、呼吸器症状が改善傾向であることに加え、24時間後に核酸増幅法の検査を行い、陰性が確認され、その検査の検体を採取した24時間以後に再度検体採取を行い、陰性が確認された場合」というものです。要は、PCRを連続2回陰性確認するという、1年前のCOVID-19の退院基準と同じようなものです。
ただ、連続2回はなかなか達成が厳しく、変異株のCt値が低めになるとはいえ、その頃には感染リスクがなくなっているのではないかという意見もあります。 N501Y変異は感染力が高く、E484K変異は免疫逃避に関連しているとされていますが、現場で変異株がすでにマジョリティになっているなら、個室隔離や退院基準を厳格化するよりも、病床確保のほうを優先する必要があるのかもしれません。
実際に和歌山県では県独自の変異株退院基準を定め、「変異株の有症状者は発症日からの期間を5日長い15日間とし、ほかは従来株と同様」としています。これが妥当かどうかはわかりませんが、もし第4波が東京都にも波及して大きくなってくるようなら、厚労省による変異株の退院基準も緩和される可能性が高いです。
■追記:
新型コロナウイルスの変異株感染者について、厚生労働省は8日付で事務連絡を改定し、退院基準を緩和した。PCR検査で2度の陰性確認が必要としていたが、従来株と同様に「発症日から10日経過し、症状回復から72時間後であれば退院が可能」にした。
by otowelt
| 2021-04-09 07:11
| 感染症全般