⼤阪のコロナ病床で起きている歴史的事態


日経メディカルオンラインの寄稿です。⾸都圏にもこの嵐が吹き荒れるリスクがあるため、早急に⼤阪府の情報をお届けせねば なりません。⽇経メディカルOnlineの編集部の皆さんのご協⼒に、⼀執筆者として⼼より感謝申し上げます。

「⼤阪のコロナ病床で起きている歴史的事態」(URL:https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/kurahara/202104/569998.html

■はじめに
この新型コロナウイルス感染症(COVID-19)第4波のピークが早めに過ぎ去ってくれれば、後に「ほんの数週間程度の医療崩壊で済んだ」と振り返ることができるのかもしれませんが、⻑い呼吸器内科医⼈⽣、恐らく「歴史に残る事態」を⾒ていることだけは確信しています。


■重症医療維持の限界近づく
N501Y変異株の影響だと思われますが、とにかく重症度の底上げが⽬⽴つ今回の第4波。重症病床を持っている施設はキツイと思いますが、実はCOVID-19を「広く」診ていた軽症・中等症病床がかなり逼迫した状況です。というのも、⼤阪では重症化率が⾼い第4波を受け、「増悪しても重症病床に送れない」という機能不全に既に陥っているからです。そのため、軽症・中等症向け5床くらいであれば重症患者が1⼈出ても対処できるかもしれませんが、軽症・中等症を50床診ている病院では重症患者が何⼈も発⽣しているのに転院させられず診療し続けないといけないため、完全に想定を超えた事態に直⾯しているのです。

⼤阪府内には、ICU⽔準の集中治療が可能なベッドが630床あまり存在しますが、COVID-19で使⽤しているのが、4⽉21⽇現在で261床です。交通外傷や内科・外科ICUなどの最低限の必要分を残さないと重症医療が維持できなくなりますので、300床、400床と、簡単に増やせるものではありません。

そのため、軽症・中等症病床、すなわち⼈⼯呼吸管理などの集中治療を⾏う想定をしていない病床で重症患者を診ざるを得ない状況に陥っています。重症病床への転院依頼は、⼤阪府の⼊院フォローアップセンターというところに集約されていますが、4⽉21⽇現在、61⼈待ちの状態です(図)。これは、重症患者全体の約5⼈に1⼈に上ります。

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. 大阪府重症患者数(筆者作成)

■COVID-19患者の救急コールが増加
COVID-19患者さんが119番にコールする数が増えています。これはどういうことでしょうか。⾃宅療養あるいはホテル療養が妥当とされた症例が増えれば、配布されたパルスオキシメーターで酸素飽和度が次第に低くなってきたなどの状況で保健所への相談が増えます。しかし、受け⼊れ病床そのものが逼迫しているため、やや⼊院のハードルを上げた対応にならざるを得ない状況です。となると、⾃宅療養の患者さんが⾃分の⾝を守るために 救急⾞を呼ぶのは⾄極当然の流れです。

⼤阪府によると、4⽉16〜18⽇で119番要請したCOVID-19療養例は38件で、そのうち 26件が⼊院先を決定するまで1時間以上救急⾞内で待機せざるを得ない状態でした。なお、救急⾞内の最⼤滞在時間は7時間23分だったとのこと(第46回⼤阪府新型コロナウイ ルス対策本部会議の資料より)。

軽症・中等症病床使⽤率は、数値上は重症ほど逼迫していません。実稼働ベースで⾒ると、4⽉21⽇時点で重症病床使⽤率96.7%(270床中261床)に対して、軽症・中等症病床使⽤率は80.5%(1767床中1422床)です。300床以上空いているのに、救急搬送できないとはどういうことでしょうか。

これは、先ほど述べたように、軽症・中等症病床で⼈⼯呼吸器を装着した患者さんを診療しているためです。医師数はそこまで逼迫していませんが、とりわけ看護師の配置に関しては、集中治療レベルでのケアを想定していません。夜勤の看護師が2〜3⼈しかいない病院で、⼈⼯呼吸器を装着した患者さんを2⼈診るというのは実質不可能なのです。

発熱・呼吸困難を訴える患者さんが、外来でCOVID-19と診断される「⼤阪府⼊院フォローアップセンター外」の症例も増えてきました。となると、⾃院の外来からもCOVID19症例が⼊院してくることになるため、コロナ病床を持つ病院であっても初診の救急搬送例は後回しになってしまいます。COVID-19を診療していない病院では、なおさら救急⾞の受け⼊れを拒否する傾向にあります(COVID-19かどうか確定していない場合も、もしCOVID-19だったら再搬送の依頼をせねばならないためです)。

救急隊員は24時間気が休まらない状態が続いています。


■⼈的資源の限界で⼈⼯呼吸器を始められない
医療は、物的資源だけではなく⼈的資源があってこそ成⽴します。⼈⼯呼吸器が何台あっても、それをケアできる医療従事者が不⾜していては意味がありません。

通常の酸素療法でも吸⼊酸素濃度を100%近くまで到達させることができますが、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に陥ってしまった肺は陽圧をかけないと換気が維持できず、また呼吸努⼒が強くなるため患者さんに苦痛を強いることになります。症状緩和の観点からも、本来は⼈⼯呼吸管理が望ましいのです。しかし、これにはどうしても⼈⼿がかかります。2020年のCOVID-19パンデミック当初、酸素化が急速に悪化するため、とにかく早期に挿管・⼈⼯呼吸管理をしていた施設が多かったと思いますが、わずか数⽇で抜管できるケースが多かったのも事実です。

呼吸努⼒がひどくない若年層のARDS症例は、通常酸素療法や⾼流量⿐カニュラ酸素療法(ネーザルハイフロー)・⾮侵襲性換気(NIV)で乗り切ることも可能かもしれません。ただ、その成否が予測できるかと問われると難しく、結局このままだと、「誰に⼈⼯呼吸器を装着するか」という選別が発⽣してきます。実際、そういう問題が既に勃発している医療機関を知っています。


■倫理的苦悩を現場任せにするのか
⼈的資源から、どう考えてもあと1⼈しか⼈⼯呼吸器を装着できない場合、AさんとBさんのどちらに⼈⼯呼吸器を装着するかという事態が発⽣する可能性があります。これは過去に欧⽶で起こっていた事態であり、⽇本でもそれが起こり得ることは専⾨家の間で想定されていました。

しかし、⽇本の死⽣観は極めてデリケートで、なかなか⾏政が踏み込めない領域でもあります。それでもCOVID-19は待ってくれません。

明確な指針が⽰されていない現状、医療訴訟について机上で論じている余裕などはなく、最終的には現場の医療従事者に決定が委ねられます。そのとき、たとえ複数の医療従事者で討議したとしても、彼らには倫理的な苦悩を強いられます。

勤務⽇でない医療従事者を時間外に勤務させてどうにか乗り切るという案もありますが、疲弊した医療現場にさらにむち打つ施策に、どこまで実効性があるのか分かりません。

アメリカでは昔からこういう話は結構進んでいて、どういった患者さんに対して医療資源を投下するかという指針も存在します()。

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withdrawal and reallocation、すなわち「治る見込みがない患者さん」から「治る見込みがある患者さん」へ医療資源をスイッチすることは、日本で許されるとは思えません。そのため、80歳に人工呼吸器を装着した後、それを取り外して40歳に付け替えるということは現実的に不可能で、独自の指針を病院ごとにつくるしかないのが現状です。法整備はそれよりもまだ先にある話です。


(参考文献)
1) White DB, et al. Who should receive life support during a public health emergency? Using ethical principles to improve allocation decisions. Ann Intern Med . 2009 Jan 20;150(2):132-8.





by otowelt | 2021-04-23 09:12 | 感染症全般

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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