薬剤性肺障害の診断は極めて難しいですが、因果関係がはっきりしていそうなときは「ああそうだろうな」ということは分かります。なので、どこまで突き詰めても「疑いどまり」なのが現状です。
急性のものほど、すりガラス陰影がシビアで、急性心不全や過敏性肺炎のようなパターンが多くなります。反面、慢性のものほど、線維化が目立ちます。ただ、慢性経過のILDを起こす薬剤というのは、それが本当に原因なのか疫学的な証明が極めて難しく、エビデンスがほとんどありません。
代表的なところをみてみると、たとえばブレオマイシンは、マウスの肺線維症のモデルにもなっているくらい肺毒性が強いものです。特に何度も投与を繰り返しているケースでは、線維化だけでなく途中で呼吸不全に陥るほどのdiffuse alveolar damageを起こします。メトトレキサートは、急性の過敏性肺炎パターンの場合は薬剤性を疑う必要がありますが、関節リウマチ患者に線維症がじわじわ進行するパターンではあまり関与を考える必要はないと思われます。また、mTOR阻害剤は、高率に薬剤性肺障害を起こします。肺胞上皮傷害に加えて、肺胞マクロファージが枯渇することで肺に脂質が蓄積するのではと考えられています。mTOR阻害剤の中では、テムシロリムスよりもエベロリムスのほうが頻度が高く、8-14%とされています1)-4)。
■薬剤性間質性肺疾患(DILD)に関する情報は、そもそも発生率が低いゆえ限られている。
■この研究では、入院中にDILDを発症した患者のリスクのある薬剤カテゴリーの頻度を調べ、各薬剤に関連するDILDを発症するリスクを分析した。
■日本の全国入院患者データベースを使用して、2010年7月から2016年3月までの入院中にDILDを発症し、全身性ステロイド治療を必要とした入院時ILDがない患者を同定した。216の一般名を持つ42カテゴリーの薬剤を、DILDの潜在的リスクがある薬剤として定義し、各患者の入院中の当該薬剤の使用を調査した。
■条件付きロジスティック回帰分析を使用し、各薬剤カテゴリーとDILD発症との関連を分析した。
■DILDを発症した2342人の患者を後ろ向きに特定した。 1:4の症例対照マッチングの後、1541人のDILD患者が5677人の対照患者が解析対象となった。
■6つの薬剤カテゴリーがDILDの発生の増加と有意に関連していた。これらには、EGFR-TKI(オッズ比16.84、95%信頼区間9.32〜30.41)およびクラスIII抗不整脈薬(オッズ比7.01、95%信頼区間3.86〜12.73)が含まれていた。スタチンは、DILDのリスク低下と関連していた(オッズ比0.68、95%信頼区間0.50〜0.92)。
ちなみにガイドラインでは、薬剤性肺障害の定義は以下の通りとなっています5)。
診断基準の「1」と「2」は、ぶっちゃけると、なんでもアリなんです。広く使用されている抗菌薬や解熱鎮痛薬だけでなく、サプリメント・漢方薬、そして限られた集団に対する抗癌剤もだいたい肺障害の報告例があります。
(参考文献)
1) Iacovelli R, et al.Incidence and risk of pulmonary toxicity in patients treated with mTORinhibitors for malignancy. A meta-analysis of published trials. Acta Oncol .2012 Sep;51(7):873-9
2) Willemsen A, et al.mTOR inhibitor-related pulmonary toxicity; incidence even higher. Acta Oncol .2013 Aug;52(6):1234..
3) Dabydeen DA, et al.Pneumonitis associated with mTOR inhibitors therapy in patients with metastaticrenal cell carcinoma: incidence, radiographic findings and correlation withclinical outcome. Eur J Cancer. 2012;48(10):1519.
4) White DA, et al.Characterization of pneumonitis in patients with advanced non-small cell lungcancer treated with everolimus (RAD001). J Thorac Oncol. 2009;4(11):1357.
5) 日本呼吸器学会 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き 第2版 作成委員会. 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き 第2版 2018.