肺MAC症に対するアリケイスの処方について
2021年 08月 20日
★2022年6月2日に記事を改訂しています → 「肺MAC症に対するアリケイスの処方について(2022年6月改訂版)」(URL:https://pulmonary.exblog.jp/29936791/)
■アリケイスについて
2021年7月に難治性肺MAC症に対して「アリケイス吸入液590mg」が発売されました。アリケイスに関する具体的な情報が少なく、どこに聞いてよいか分からないという全国の肺MAC症患者さんや医師からの問い合わせが増えてきました。悩む人が少しでも減ることを願って、私のブログに概要を掲載しようと思いました。この記事はインスメッド合同会社に協力いただき記載しております。 まず、基本的には、標準治療を6ヶ月おこなっても菌が陰性化しない肺MAC症を対象としています。そのため、初期治療でこのアリケイスを用いることはできません。また、MAC以外の非結核性抗酸菌症に対して有効性が示されているものの、現状保険適応がありませんので処方できません。
治療予定期間は12ヶ月程度ですが、菌が陰性化しなければ継続すべきか再検討する必要があります。今のところ、維持療法については20ヶ月程度まではデータがあります。確実に治る夢のような薬剤というわけではなく、既存の治療薬の効果が不十分であるため、「では次の一手に使いましょう」という位置づけであることを理解する必要があります。
■注意点1:専用機器
アリケイスを吸入するために、専用ネブライザー「ラミラ」とそのハンドセット、メンテナンス用品として蒸気式消毒器、超音波洗浄器が必要になります。普段私たちが喘息・COPD増悪患者さんに対して病棟や外来で使用しているネブライザーシステムで効果的に吸入できるかデータがありませんので、必ずラミラを使う必要があります。ハンドセットは毎日分解洗浄・消毒が必要で、通常の洗浄に加えて週に1度超音波洗浄器での洗浄も必要になります。

ハンドセットは月1回交換が必要です。この交換は薬局ではなく、保険償還の観点から処方医のところで行う必要があります。蒸気式消毒器、超音波洗浄器はアリケイスの販売元ではなく、提携会社(アーストレック社)から合計約1万円で購入する必要があります(導入が決まればハガキ・電話で発注)。
当院の場合、後述する吸入指導・洗浄指導の入院時に、あらかじめ入手した蒸気式消毒器、超音波洗浄器を自宅から持ってくる必要があります。ラミラとハンドセットは病院が購入して、入院時に手渡しております。
■注意点2:薬価
1日あたり4万2408.40円の薬価になりますので、当然ながら高額療養費の適応になります。この1剤導入で一気に高額療養費適応となることから、二の足を踏まれる患者さんは多いかと思います。いずれにしても、患者さん自身の高額療養費上限の自己負担額ラインを把握する必要があります。アリケイスの導入が決まれば、限度額適用認定書を事前に取得するようおすすめします。
■注意点3:吸入指導・洗浄指導
外来で簡単にアリケイスの初回導入ができるかと問われると、現状はハードルが高いと思われます(やっている施設もあるは聞いています)。最終的には外来になるので物理的には可能ですが、吸入や洗浄などの学習期間を含め、初回導入は入院で行うことが望ましいと思われます。そのため、病院の薬剤師にも協力してもらう必要があります。
■注意点4:薬局
新薬であり、14日ごとの処方箋が必要になります。滅多に納入することがない薬剤なので、処方してもらえる薬局を探して、14日ごとに14本のアリケイスを受け取るフローを作る必要があります(ちなみに7本/1箱)。
インスメッド社のアリケアサポートプログラム(URL:https://arikayce.jp/aricaresupport/)と薬局の指導が連動することから、インスメッド社が薬局とコンタクトをとる流れになります。そのため、インスメッド社や薬局への事前連絡なしにアリケイスの処方箋を持って来るという事態は避けたいところです。
by otowelt
| 2021-08-20 06:13
| 抗酸菌感染症