EXAFIP研究:IPF急性増悪のメチルプレドニゾロンにシクロホスファミドパルスを追加すると死亡率が増加?

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IPF急性増悪は、呼吸器内科医が遭遇する最重症の呼吸器疾患であり、致死率は極めて高いです。ひとたび発症すると、その生存期間中央値は3~4ヶ月以内とされています(Am J Respir Crit Care Med 2016;194:265-275)。ステロイドパルス療法などを用いて集中治療を行わなければまず救命できませんが、その治療エビデンスは限られているのが現状です。トリガーの背景に免疫の暴走という見解もあり、ステロイドパルス療法にシクロホスファミド静注が併用されることもあります。

ウェブセミナーなどでは、浜松医科大学による傾向スコアマッチで比較されたIPF急性増悪78例の報告(Respirology. 2019 Aug;24(8):792-798.)がよく引用されます。ステロイド群とステロイド+シクロホスファミド群(多くのシクロホスファミド投与はday4に実施)を比較すると、IPF急性増悪発症後の累積生存率に有意差は見られず、90日生存率はステロイド群84.6% vs. ステロイド+シクロホスファミド群76.9%(P=0.70)、180日生存率は69.2% vs. 69.2%(P=1.00)、360日生存率は53.9% vs. 61.5%(P=0.78)という結果でした(傾向スコアマッチング前の生存率についても有意差は見られていません、P=0.86)。

EXAFIP研究では人工呼吸器を要する超重症例は除外されていますが、実臨床にきわめて重要な知見となります。「もはや次の手がない」に陥ったIPF急性増悪の超重症例に、エンドキサンパルスを追加することはよくない転帰を増加させるだけかもしれません。シクロホスファミドの用量がやや多めですが、有害事象に差がみられておらず、また続発性と考えられる感染症の死亡がほとんどないためシクロホスファミドの用量設定がダメだったというわけではなさそうに感じました。




  • 概要
■IPF急性増悪におけるシクロホスファミドの使用法は不明である。本研究では、当該患者を対象に、高用量メチルプレドニゾロンに加えて4回のシクロホスファミドパルスを行うことの有効性と安全性を評価することを目的とした。

■この二重盲検プラセボ対照試験は、フランスの31病院の35診療科で実施され、18歳以上のIPF急性増悪を有する成人患者とIPF急性増悪疑いの患者が、ウェブベースのシステムを用いて1:1の割合でランダムに割り当てられた。IPF急性増悪に対するメチルプレドニゾロン(10mg/kg×3日間、その後漸減)に、シクロホスファミド(600mg/m2)と出血性膀胱炎予防のためのウロミテキサン(200mg/m2)をシクロホスファミド投与時・4時間後に静脈内投与する群と、プラセボを投与する群に1:1の割合でランダムに割り付けた(投与は0日目、15日目、30日目、60日目)。ランダム化割り付けは、IPFの重症度によって層別化された。人工呼吸器を要する患者、活動性の感染症患者、悪性腫瘍患者、肺移植待機患者は除外された。治験責任医師、患者は治療割り当てが盲検化された。主要評価項目は3ヶ月間の全死亡率で、ITT解析をおこなった。

■2016年1月22日から2018年7月19日の間に、183人の患者が適格性を評価され、そのうち120人の患者がランダム化された。119人の患者(ベースラインの重症度が重症だった患者は62人[52%])がシクロホスファミド(60人)またはプラセボ(59人)を少なくとも1回の投与されたITT解析に含まれた。3ヶ月間の全死亡率は、シクロホスファミド投与群で45%(27人/60人)であったのに対し、プラセボ投与群では31%(18人/59人)だった(差14.5%[95%信頼区間 -3.1~31.6]、p=0.10)。IPFの重症度で調整しても同様の結果が得られた(オッズ比1.89[95%信頼区間 0.89-4.04])。3ヶ月後の死亡リスクは、受けた治療法とは関係なく、重症IPFの方が非重症IPFよりも高かった(オッズ比2.62 [95%信頼区間1.12-6.12])。抗線維化薬を用いてる場合、オッズ比は低くなった(0.33 [95%信頼区間0.13-0.82])。シクロホスファミド群のほうでややニンテダニブ使用が多かった(13人[22%] vs 8人[14%])。

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. Kaplan-Meier曲線(文献より引用)

■有害事象は、6ヶ月後まで両群同等で(シクロホスファミド群25人[42%]、プラセボ群30人[51%])、感染症を含むその割合にも差は観察されなかった。ただ、感染症は主要な有害事象で、シクロホスファミド投与群では60人中20人(33%)、プラセボ投与群で59人中21人(36%)に発生した。



厳密には主要評価項目に統計学的有意差はついていません。「死亡率を減少させない」という解釈が妥当なのかもしれませんが、少し論文の記述は恣意的でしょうか?

抗線維化薬の使用がもっと広まればいいですね。




by otowelt | 2021-09-16 00:15 | びまん性肺疾患

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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