肺Mycobacterium kansasii症は自然軽快するか?

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複十字病院呼吸器センターの森本耕三先生からコメントをいただきました。

M. kansasiiは診断時の年齢が高齢化しており、かつ女性例の結節気管支拡張型が増えているようです。逆に若年では、非喫煙でも空洞形成する症例もあり2峰性のような分布になってきていると感じています。結節気管支拡張型で排菌なければ経過観察すると自然陰性化例がいます。」


  • Mycobacterium kansasii症は自然軽快するか?
 基本的に喀痰からM. kansasiiが検出されれば治療対象になります。これは、同菌の治療転帰が一般的に良好で、また治療失敗や再発がまれだからです。肺M. kansasii症のほとんどにおいて、治療するベネフィットのほうが治療しないリスクを上回っています。

 しかし、薬剤副作用で継続できない患者さんや、高齢のため無治療経過観察を選んだ患者さんの中には、自然軽快する例を時折経験します。

 M. kansasiiは1951年と1953年に発見され、ローザンヌ大学のHauduroy教授が1955年に登録した抗酸菌ですが、文献上自然軽快例が最初に報告されたのはおそらく1975年です1)。4人のうち1人の肺M. kansasii症患者さんが無治療で自然軽快しています。

 41人の肺M. kansasii症の患者さんの検討において、治療を受けなかった10人のうち1人(10.0%)が自然軽快しています2)

 大規模なものでは302人の肺M. kansasii症の患者さんの検討があります3)。この研究は結構有名な、302人全員が男性というコホートです。論文の本文を読むと、平均追跡期間約10年において、4人(1.3%)が自然軽快にいたっています。

 巨大腫瘤影があったのに、無治療でほぼ消失した症例も最近報告されており4)、宿主免疫によってはこういう現象もありうるのだろうと理解しています。このボルチモアからの論文のDiscussionに「自然軽快例は過去6例しか報告されていない」と書かれているのですが、1975年のケースシリーズのうちの1人、上記41人の研究のうちの1人、302人の大規模コホートにおける4人の合計6人のことを指しているのでしょうか?これらを何も考えずに合算しちゃうと、肺M. kansasii症の自然軽快は347人のうち6人(1.7%)ということになりますね。でも、母数を感染者数全体にするか、無治療患者全体にするかで変わってきますね。

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  • M. kansasii症進行のリスク因子
 さて、自然軽快とは真逆を考えてみましょう。肺M. kansasii症のうち進行してしまうケースはどういう集団でしょうか。

 台湾の研究では、M. kansasii症と診断された130人(塗抹陽性69人)のうち、結果的に無治療で進行がなかったのは39人(30%)と報告されています5)。この研究では、進行例は白血球数が有意に多く(p=0.019)、線維空洞型の比率が高かったそうです(p=0.013)。多変量解析では高齢、線維空洞型、白血球数増多が独立リスク因子でした。糖尿病と他のNTM症合併は保護的にはたらくようです。マトリックスメタロプロテアーゼの差により、糖尿病患者さんではM. kansasiiによる組織破壊が少ない可能性があるそうですが、ちょっと謎ですね。免疫不全は明確なリスク因子ですし。

 この研究では喀痰塗抹が明確に陽性でない(low-grade positivity or negative sputum AFS)肺M. kansasii症において、fibroCavitary、Leucocyte count > 9000/μL, Old age (age > 65 years), pUre MK (no coexistence with another NTM in the initial sputum)、no Diabetes mellitus、を合わせてCLOUD基準と命名してROC解析をしており、AUC0.732という結果が報告されています。しかし、実臨床では使われていません。
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 他のNTM症の共存が保護的に作用するいう知見は、それより以前の研究でも同じ台湾のグループが報告しています6)。ここでは抗酸菌塗抹のグレードが高い(3以上)、一次産業の従事者、初回胸部画像スコアが高いことがリスク因子として挙げられています。

 韓国の肺M. kansasii症86人と172人のマッチ症例を比較した研究では、重工業の就業(調整オッズ比6.41、95%信頼区間2.19-18.74、p=0.001)、BMI低値(調整オッズ比0.73、95%信頼区間0.63-0.85、p<0.001)が独立リスク因子として挙げられています7)。粉塵曝露歴などの産業曝露は、1970年代からすでにM. kansasii症のリスク因子として挙げられていました8)。岡山県の水島工業地帯でも多数のM. kansasii患者さんが発生したことがよく知られています9)

 そのほか、男性の喫煙者にも多い感染症でもあるため、これらも疾患進行のリスク因子として知られていますが、明確な解析は過去になされていない気がします。また、GATA2欠損も播種性M. kansasii症のリスク因子として重要ですね10)

 冒頭でコメントいただいた森本先生の論文では、「中高年女性に認められた結節気管支拡張型を呈したM. kansasii菌株は、I型より弱毒である可能性を予想していたが、すべてⅠ型であることが分かった」と記載されています11)


(参考文献)
1) Francis PB, et al. The course of untreated Mycobacterium kansasii disease. Am Rev Respir Dis. 1975 Apr;111(4):477-87.
2) Park HK, et al. Clinical characteristics and treatment outcomes of Mycobacterium kansasii lung disease in Korea. Yonsei Med J. 2010 Jul;51(4):552-6.
3) Maliwan N, et al. Clinical features and follow up of 302 patients with Mycobacterium kansasii pulmonary infection: a 50 year experience. Postgrad Med J. 2005 Aug;81(958):530-3.
4) Oudah M, et al. Spontaneous resolution of Mycobacterium kansasii presenting as a spiculated lung mass. Respir Med Case Rep. 2021 Sep 6;34:101512.
5) Liu CJ, et al. Outcome of patients with and poor prognostic factors for Mycobacterium kansasii-pulmonary disease. Respir Med. 2019 May;151:19-26.
6) Huang HL, et al. Predictors of developing Mycobacterium kansasii pulmonary disease within 1 year among patients with single isolation in multiple sputum samples: A retrospective, longitudinal, multicentre study. Sci Rep. 2018 Dec 13;8(1):17826.
7) Kim JH, et al. Risk factors for developing Mycobacterium kansasii lung disease: A case-control study in Korea. Medicine (Baltimore). 2019 Feb;98(5):e14281.
8) Research Committee of the British Thoracic and Tuberculosis Association and the British Medical Research Council's Pneumoconiosis Unit. Opportunist mycobacterial pulmonary infection and occupational dust exposure: an investigation in England and Wales. Tubercle. 1975 Dec;56(4):295-313.
9) Matsushima T. Pulmonary Mycobacterium kansasii infection in Okayama, Japan. Kekkaku. 2003 Sep;78(9):591-5.
10) Lovell JP, et al. Mediastinal and Disseminated Mycobacterium kansasii Disease in GATA2 Deficiency. Ann Am Thorac Soc. 2016 Dec;13(12):2169-73.
11) 森本耕三ら. 肺Mycobacterium kansasii症の臨床・分子生物学的検討. Kekkaku. 2015; 90(4): 453-6.


by otowelt | 2021-09-25 23:23 | 抗酸菌感染症

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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