肺Mycobacterium abscessus症に対するクロファジミン
2021年 10月 15日
2021年9月末の第25次審査情報提供事例(医科)において、Mycobacterium abscessusに対するクロファジミン(ランプレン®)について通達がありました。詳細は本記事の最下記に添付しています。使用条件に関して、「結核・抗酸菌症指導医にコンサルトする」という注意書きがありますが、私も含め結核・抗酸菌症指導医のクロファジミンの処方経験は、専門家中の専門家に偏っているのが現状です。いつもコメントくださる東京病院の佐々木結花先生、複十字病院の森本耕三先生、ありがとうございます。
同日イミペネム水和物・シラスタチンナトリウム【注射薬】に関しても同菌に対して使用事例を審査上認めるとの通達がありましたが、こちらは入院例で現在もアミカシンとともに使用されていることが多いです。プラクティスに大きく変化はありません。
2021年10月時点でM. abscessus症に対するクロファジミンについて記載がある論文は50あまりで、MACなどほかの抗酸菌感染症も合算解析されているものが多いです。そのため、ハンセン病のガイドライン(ハンセン病治療指針第3版)を参照するか、M. lepraeの論文を引っ張り出してくるか、M. abscessus診療をリードしている信頼できるエキスパートに聞くしかない状況です。subspecies abscessusとmassilienseはクラリスロマイシンの感受性に基づいて判断しているのが現状ですが、亜種におけるクロファジミンの差は検討されていないと思われます。
使用経験がないため、自身のためにメモしたものを掲載しました。なにぶん雑な検索と理解なので、間違っているところや、こんな論文読んだほうがよいよ、というアドバイスがあれば、よろしくお願いします。
【M. abscessus症に対するクロファジミン】
■作用
クロファジミンは、リミノフェナジン系の抗菌薬である。作用機序はあまりよくわかっていないが、静菌作用+弱い殺菌作用があり、M. lepraeに対しては強い殺菌作用も見受けられる。細菌DNAグアニン塩基に結合し増殖を抑制するとされている。M. smegmatisの単離膜にクロファジミンを添加したところ、呼吸鎖阻害に関与するシアン化カリウムとNADHの存在下で、NADH酸化・クロファジミン還元、スーパーオキシドと過酸化水素の生成がみられた(図)。研究グループによって見解差はあるが、現在では、RNAポリメラーゼへの干渉はマイノリティではないかと考えられている。遅発育菌(SGM)と比べて迅速発育菌(RGM)ではin vitroでの効果は低いと考えられている1)。血中半減期は10.6~25日ととにかく長い(ゆえに副作用で中止した後、再開するにしても数十日後にしたほうがよいというご意見も)。
200mgの錠剤を食事とともに摂取した場合、血漿中のピーク濃度は0.41mg/L、Cmax到達時間は8時間だったが、空腹時摂取の場合、血漿中のピーク濃度は30%低下し、Cmax到達時間は12時間に延長した3)。
なお、マクロライドとは似て非なるものであるが、「抗炎症作用」がある。in vitroにおいてマイトジェンによるTリンパ球増殖を著しく抑制することがわかっている2)。
図. クロファジミンの抗炎症作用2)(文献より引用)
■皮膚着色とその機序
多剤耐性結核では、クロファジミン使用例の94.3%に皮膚着色がみられ、その約半数が魚鱗癬だった4)。ハンセン病でも全例に皮膚着色がみられ、半数以上が魚鱗癬とされている5)。M. abscessus症では21.4~66.4%6),7)と報告データは限られている。ただ、エキスパートに経験を伺っている限りでは、「皮膚着色はほぼ必発」との見解だった。
ハンセン病で用いられる通常量50mg/日であれば、4-5ヶ月ほどかけて皮膚着色が出現することが多いが、用量が多いほどすみやかに出現し、100mg/日であれば2ヶ月以内、200mg/日であれば4週間以内に出現する。200mg/日を超えてくると皮膚だけでなく消化管の副作用が増す。
皮膚着色の機序は、マクロファージ内部に脂質とクロファジミンが含まれている、いわゆるセロイドリポフスチン症である。組織内の薬剤濃度が高い場合に皮膚の色素沈着は増すが、主原因は可逆的なセロイドリポフスチン症である8)。皮膚着色は、顔面を含む日光に曝される部分に顕著であり、肌の色が白い人ほど目立つ結果となる。そのため、人種によっては頻度が低めに報告されるかもしれない9)。
WHOの「The Final Push Strategy to Eliminate Leprosy as a Public Health Problem(第2版)」によると、クロファジミンによる皮膚着色は約3ヶ月目に出現しはじめ、中止すると6ヶ月で消えていく可逆的なものである。なお、皮膚だけでなく、尿も着色する。
・参考:クロファジミンによる皮膚セロイドリポフスチン症の病理画像10)(URL):https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/bjd.18171
複十字病院で「非結核性抗酸菌症患者における血中薬物濃度モニタリング」(UMIN000041053)の臨床試験が進行中。主要評価項目は、被検者の皮膚の色素過剰沈着の有無とされている。
実地的にどういう対応をしているかというと、たとえば「毎日スマホで顔を撮影してもらって、客観的に自分の顔を見て、もう飲めないと思ったらやめる」というスタンスのエキスパートもいらっしゃる。
■その他副作用
上述したように、消化器症状や肝障害も起こることがある。クロファジミン自体が腸間膜に沈着するため、ひどい場合イレウスに陥ることがある。用量依存的に起こるもので、200mg/日以上では有意に増えてくる。
■投与量・MIC・治療効果
ATS/ERS/ESCMID/IDSAガイドラインではM. abscessus症に対して100-200mg/日が推奨記載であるが、最下記にあるように日本では100mg/日が上限である(ハンセン病は50mg/日)。MDRTBに対しては基本的に100mg/日であるが、200mg/日を推奨する専門家もいる。
NTMは同じ菌種であってもMIC分布はヘテロであり、1濃度のブレイクポイントのみで耐性と感受性の弁別が難しいことが前提にある。NTMでは、MAC-クラリスロマイシン、MAC-アミカシン、M. kansasii-リファンピシンに明確な感受性関連があるくらいで、とりわけ二次治療以降に用いられるような薬剤の感受性が一体どこまで有用なのかは未知であり、MICに関してはさもありなん(推奨薬であるアジスロマイシンですらMIC測定の推奨をしていない)。現在CLSIに準ずる感受性検査は、ブロスミックRGMで可能。
M. abscessusのクロファジミンMIC≦0.25 μg/mL(CAMHB)の培養陰性化は、MIC>0.5の症例よりも高い(N=40、オッズ比39.3、P=0.021)11)。サムスン医療センターから同様の報告がある(subspecies abscessusでは34%、massilienseでは85%がクロファジミンのMIC≦0.25)12)。クロファジミンのMICについてはこれらと相反する研究結果もあり12)、SGMと比べてRGMでMICのCOポイントは相当上ではないかという見解もある1),14)
※ちなみにブロスミックRGMのクロファジミンマイクロプレートはMIC2まで。
なお、クロファジミン曝露を受けていない株で極端にMICが高いという現象をみると、そもそも信頼性が高い感受性評価とは言えないのでは、とGriffith先生は指摘されている15)。
70株の検討で、ベダキリン+クロファジミン+アミカシンの41%、ベダキリン+クロファジミン+シタフロキサシンの16%がFIFC≦0.75以下の相乗効果ありと判定されている16)。なお、ベダキリン耐性はクロファジミン耐性とMmpL5という共通の耐性化因子を持つが、交叉というより単方向性の可能性がある1)。
NTMに対するクロファジミンの臨床的効果を検討した文献は少ない。36%が初期治療、64%が治療抵抗性の肺M. abscessus症に対する、症状に基づく治療反応率は81%、胸部X線画像所見に基づく治療反応率は31%、喀痰培養陰性化達成率は24%(初期治療にクロファジミンを用いたほうが良好な成績)という42例の後ろ向き研究がある6)。
(参考文献)
1) Luo J, et al. In Vitro Activity of Clofazimine against Nontuberculous Mycobacteria Isolated in Beijing, China. Antimicrob Agents Chemother. 2018 Jun 26;62(7):e00072-18.
2) Cholo M, et al. Clofazimine: current status and future prospects. J Antimicrob Chemother . 2012 Feb;67(2):290-8.
3) Schaad-Lanyi Z, et al. Pharmacokinetics of clofazimine in healthy volunteers.Int J Lepr Other Mycobact Dis. 1987 Mar;55(1):9-15.
4) Tang S, et al. Clofazimine for the treatment of multidrug-resistant tuberculosis: prospective, multicenter, randomized controlled study in China. Clin Infect Dis. 2015 May 1;60(9):1361-7.
5) Ram G, et al. Side effects of clofazimine therapy. Lepr India. 1976 Oct;48(4 Suppl):722-31.
6) Yang B, et al. Clofazimine-Containing Regimen for the Treatment of Mycobacterium abscessus Lung Disease. Antimicrob Agents Chemother. 2017 May 24;61(6):e02052-16.
7) Yang J, et al. 1350. Clofazimine as an Oral Companion Drug for Treatment of Mycobacterium abscessus complex Infections. Open Forum Infect Dis. 2019 Oct; 6(Suppl 2): S488–S489.
8) Pai V. Role of clofazimine in management of reactions in leprosy: A brief overview. Indian J Drugs Dermatol. 2015;1:12–5.
9) Dalcolmo M, et al. Effectiveness and safety of clofazimine in multidrug-resistant tuberculosis: a nationwide report from Brazil. Eur Respir J. 2017 Mar 22;49(3):1602445.
10) Bishnoi A, et al. Image Gallery: Clofazimine-induced hyperpigmentation of leprosy plaques. British Journal of Dermatology. 2019;181:88.
11) Kwak N, et al. Minimal Inhibitory Concentration of Clofazimine Among Clinical Isolates of Nontuberculous Mycobacteria and Its Impact on Treatment Outcome. Chest. 2021 Feb;159(2):517-523.
12) Kim DH, et al. In Vitro Activity and Clinical Outcomes of Clofazimine for Nontuberculous Mycobacteria Pulmonary Disease. J Clin Med. 2021;10:4581.
13) Shen GH, et al. High efficacy of clofazimine and its synergistic effect with amikacin against rapidly growing mycobacteria. Int J Antimicrob Agents. 2010 Apr;35(4):400-4.
14) van Ingen J, et al. In vitro drug susceptibility of 2275 clinical non-tuberculous Mycobacterium isolates of 49 species in The Netherlands. Int J Antimicrob Agents. 2010 Feb;35(2):169-73.
15) Griffith DE, et al. You Gotta Make Me See, What Does It Mean to Have an MIC? Chest. 2021 Feb;159(2):462-464.
16) Asami T, et al. Efficacy estimation of a combination of triple antimicrobial agents against clinical isolates of Mycobacterium abscessus subsp. abscessus in vitro. AC Antimicrob Resist. 2021 Feb 19;3(1):dlab004.
【社会保険診療報酬支払基金 :第25次審査情報提供事例(医科)(URL:https://www.ssk.or.jp/shinryohoshu/teikyojirei/yakuzai/no600/jirei_349.html)】
<クロファジミン(ランプレン®カプセル50mg)>
原則として、「クロファジミン【内服薬】」を「Mycobacterium abscessus症」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
(1)当該使用例の用法・用量 通常成人には、クロファジミンとして100mgを1日1回、食直後に経口投与する。小児には、クロファジミンとして2~3mgkg、上限100mgを1日1回、食直後に経口投与する。
(2)本剤投与に当たっては、日本結核・非結核性抗酸菌症学会の結核・抗酸菌症指導医にコンサルトを行うこと。 (3)本薬剤を投与する場合は、Mycobacterium abscessus症に十分な治療経験がある医師による投薬が必要である。
(4)皮膚着色について患者に説明し、十分な理解を得ること。
(5)本剤の使用に当たっては、耐性菌の発現等を防ぐため、次の点に注意すること。
ア 感染症の治療に十分な知識と経験を持つ医師又はその指導のもとで行うこと。
イ 原則として他の抗菌薬及び本剤に対する感受性(耐性)を確認すること。
ウ 本薬剤の投与歴から耐性が強く疑われる場合は、有効薬剤と判断し安易に使用しないこと。
エ 投与期間は、感染部位、重症度、患者の状態等を考慮し、適切な時期に、本剤の継続投与が必要か 判断し、疾病の治療上必要な最小限の期間の投与にとどめること。
オ 単剤投与は行わないこと。
(6)次の患者には慎重に投与すること。
ア 胃腸障害(頻回の下痢・腹痛等)のある患者:症状を悪化させるおそれがある。
イ 抑うつ状態などの精神疾患のある患者:本剤服用による皮膚の着色で、抑うつ症状/自殺企図を生じる可能性があるので、患者の精神状態に十分注意すること。
ウ 肝機能障害のある患者:薬剤は一部肝代謝されるため注意して使用し、高度肝機能障害例では減量の 検討が必要であること。
エ 重篤な心疾患(不整脈、虚血性心疾患)のある患者:QT延長を起こすことがある。
(7)QT延長を起こすことが知られている抗結核薬(ベダキリン・デラマニド・レボフロキサシン等)との併用 においては、QT延長作用が相加的に増加するおそれがあるため、定期的に心電図検査を実施すること。
(8)小児へ投与する際は、次の点に注意すること。
ア 本剤に過去にアレルギー症状を生じた患者には、投与を行わないこと。
イ 成人に対する副作用が小児でどのように発現するか、本邦での報告はないため、慎重に投与を行うこと。
ウ 本邦での投与例は小児では報告がないため、本剤の投与が患者にとって真に利益がある時のみ投与を 行うこと。
エ 本剤を投与する前には、患者及び保護者に副作用について説明を行い、十分な理解を得ておくこと。 特に皮膚着色については中止してから改善までの期間に個人差があるため、学齢期という心身成長期で あることに鑑み、繰り返し説明を行うこと。
オ 投与前に心電図検査を行いQTc500msec以上の患者には投与を行わないこと。
カ 本剤投与中は月に1回心電図検査を行うこと。
by otowelt
| 2021-10-15 08:37
| 抗酸菌感染症