M. massilienseとM. marseillense
2021年 11月 07日
Mycobacterium abscessus complexの中に、M. abscessus subspecies abscessus、M. abscessus subspecies bolletii、M. abscessus subspecies massilienseの代表的亜種があります。
さて、massilienseは本菌が分離されたフランスのマルセイユ(Marseille)をラテン語読みした「Massilia」に由来します。これは抗酸菌症に携わる人の間では有名な話です。
しかし、同じマルセイユを語源とした、M. marseillenseというMACが存在します。16S-23S rRNA ITS1領域のシークエンス解析により、MACの中からM. chimaera,M. colombiense,M. arosiense,M. marseillense,M. vulneris といったsequevar独立した新種として報告されています。
ああ、M. massilienseとM. marseillense。間違い探しみたいです。ちなみに英語圏での読み方は、それぞれ「マシリエンス」、「マァセイエンス」です。
突然こんな話をするのは、東京大学のMACによる腱鞘炎の報告を見たからです。AccuProbeとCOBAS TaqManでMACと診断されたものの、MALDI-TOF MSによってM. marseillenseと判明したものです。最初M. abscessus subspecies massilienseの話かと思っていたら、MACと書いてあったのでちょっとここらへんを勉強しなおしました。
表. MAC
マルセイユは抗酸菌の世界ではよく登場します。たとえばM. icosiumassiliensisも、アルジェのラテン語表記「Icosium」とマルセイユのラテン語表記「Massilia」が合体したものです。M. numidiamassilienseにいたっては、ヌミディアとマルセイユをつなげたものです。ヌミディアといえば、第2次ポエニ戦争で有名なカルタゴの将軍ハンニバルを食い止めるべくローマ元老院スキピオを派遣したのがマルセイユです。これを2つに分けたNumidum massilienseという菌種も存在します。その他、M. rhizamassiliense、M. terramassilienseもマルセイユが入っていますね。M. timonenseも見た目はマルセイユ感はないですが、フランス・マルセイユの病院名「La Timone」にちなんだものです。おそるべし、マルセイユ。
抗酸菌以外だと、マルセイユはもう星の数ほど出てきます。
by otowelt
| 2021-11-07 00:47
| 抗酸菌感染症